2020年04月23日 公開

「学力の経済学」中室牧子教授に聞く幼児期の【かずの学びの重要性】

幼少期の「かず」との関わりが、子どもたちの未来に大きく影響していることが、徐々にわかってきました。家庭で「かずの学び」はどうすればいいのか。累計30万部突破のベストセラー『学力の経済学』著者で、教育経済学専門の慶應義塾大学教授・中室牧子先生に、幼児期のかずの学びの重要性を伺いました。

幼少期の「かず」との関わりが、子どもたちの未来に大きく影響していることが、徐々にわかってきました。家庭で「かずの学び」はどうすればいいのか。累計30万部突破のベストセラー『学力の経済学』著者で、教育経済学専門の慶應義塾大学教授・中室牧子先生に、幼児期のかずの学びの重要性を伺いました。

幼児期の「かずの学びの重要性」を中室牧子教授に伺いました

幼少期の「かず(数)の学び」は、子どもの将来に大きく影響するため、幼児教育にも欠かせない要素のひとつ。かずの学びは、数量や図形などへの関心・感覚を育てるもので、小学校以降の「算数」「数学」につながる概念です。

でも、「算数・数学」の専門家ではなく、仕事に家事に忙しいパパ・ママたちはどうすればいいのでしょうか? 今回は、教育を経済学的な手法で分析する「教育経済学」が専門の、慶應義塾大学総合政策学部教授・中室牧子先生に、幼児期の数の学びの重要性と、保護者へのアドバイスを伺いました。

連載「小学校入学以降の学びを支える土台を幼児期に育むために、知りたいこと」1回目です。

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中室 牧子(なかむろ まきこ)教授
慶應義塾大学卒業後、米国NY市のコロンビア大学にてPh.D.取得(専門は教育経済学)。日本銀行、世界銀行を経て、現在は慶應義塾大学総合政策学部教授。著書にビジネス書大賞準大賞を受賞し、30万部を突破した「『学力』の経済学」(ディスカヴァー・トゥエンティワン、2015年)や経済学者・経営学者が選ぶベスト経済書第1位を受賞した「原因と結果の経済学」(津川友介氏との共著、ダイヤモンド社、2017年)がある。

「5歳までの教育が、人生の土台になる」か

--幼児期の教育の質の大切さについて最初にお伺いさせてください。

中室教授:では、前提として幼児教育の質のレベルが、どう将来に影響するかについてお話しします。

ノーベル経済学賞の受賞者でもあり、1960年代にアメリカで行われた『ペリー幼稚園プログラム』の効果を検証した米シカゴ大のジェームズ・J・ヘックマン教授は、ペリー幼稚園で質の高い幼児教育を受けた子どもらは、受けなかった子どもらと比較して、成人後により経済的に恵まれ、社会的に安定した生活を送ったことを示した研究を発表しました。

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では、質の低い幼児教育を受けたらどうなるのか。興味のあるところですね。

その点については、2019年に経済学の権威ある学術誌に掲載された最新の知見が参考になります。カナダのケベック州では、1997年に幼稚園や保育所の利用料を1日あたり5ドル(=500円程度)にまで引き下げました。利用料引き下げによる幼稚園や保育所利用者の増加は、子どもらが10~20代になった後の非認知能力・健康・生活満足度・犯罪関与にマイナスの影響を与えたことがわかっています。

問題は、このケベック州のケースで、なぜ幼児教育の効果がマイナスになったのかという点です。ここはまだ明らかになっていない部分も多いのですが、この論文の著者らは、1つの有力な説は、幼稚園や保育所が急に増加したことによって、幼児教育の「質」が低下した可能性に言及しています。

つまり、幼児教育の効果は、それがプラスの場合もマイナスの場合も、長期にわたって持続するということなのです。子どもたちに早期に教育を受けさせれば何でもいいということではなく、質の高い幼児教育を提供できるかが重要、といえます。

今、保育園や幼稚園で「かずの学び」は足りていない!?

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--質の高い幼児教育とはどのようなものでしょうか?それは日本の幼稚園や保育所でも受けられますか?

アメリカで開発された「保育環境評価スケール」でわかること

中室教授:幼児教育の質をはかる方法の1つとして、「保育環境評価スケール」があります。これは、1980年代にアメリカで開発され、改定を重ねながら、「総合的な幼児教育の質を計る方法」として30カ国以上で用いられてきた方法です。私は、慶應義塾大学の藤澤啓子准教授や内閣府の深井太洋研究員とともに、過去数年にわたり、複数の自治体で、認可幼稚園や認可保育所の質を計測する調査・研究をしています。この結果をみると、日本の幼児教育は海外と比較して決して低くはありません。しかし、園や施設によってばらつきが大きいという特徴があります。

少しだけ、「保育環境評価スケール」についてお話しすると、トレーニングを積んだ専門の調査員が2人1組で幼稚園や保育所を訪れ、約4時間程度の観察調査で、500近い項目の評点を付けます。そしてその500近い項目から、安全面や、室内空間の構成、保育者の子どもへの働きかけなど7つの評価ポイントに集計します。要するに、保育園や幼稚園の「通信簿」のようなものです。

日本の園で「保育環境評価スケール」を使って見えてきた調査結果は……

先ほども述べたように、日本の保育所や幼稚園の質は、全体としてみれば決して海外に引けを取るものではありません。しかし、この「保育環境評価スケール」の中の非常に重要な評価ポイントである「活動」――微細運動、造形、音楽、積み木、ごっこ遊び、自然科学、遊びの中の算数、日常生活の中の算数、数字の経験――の点数がとても低いという問題があります。

これは特定の幼稚園や保育所の問題ではなく、ほとんどの幼稚園や保育所で低いのです。しかし、中でも、音楽やごっこ遊びについては積極的に取り入れている幼稚園や保育所は多く、決して問題があるとはいえません。評価が低くなるのは、自然科学、遊びの中の算数、日常生活の中の算数、数字の経験というところなのです。残念ながら、日本の幼稚園や保育所では、自然科学、遊びの中の算数、日常生活の中の算数、数字の経験が十分とはいえません

--かずや算数、理科の項目ばかりですね……。やはり、かずの学びは足りていないんですね。でも、なぜなのでしょうか?

中室教授:「遊びの中でかず・算数をどう教えていいかわからない……」「植物や動物の世話は大変だし、虫を触るのは……」といった声もあります。保育士や幼稚園教諭には女性が多いこともあり、理数系科目に苦手意識がある人も多いのかもしれません。

かずの学びの重要性と方法

えほん×アプリで、親子で考える力を育てる【できるーと】 (155585)

数学の基礎は将来につながる教育投資になる

--幼稚園や保育所だけでは、幼児期に数字に触れる経験は十分ではない可能性があるということですね。小学生になってからでは、ちょっと遅いように思えます。この遅れが、子どもの将来に影響してしまうのでしょうか?

中室教授:先ほど「保育環境スケール」は、幼稚園や保育所の「通信簿」のようなものだとお話しましたが、この「通信簿」で成績のよい幼稚園や保育所で教育を受けた子どもたちは、小学校入学後に学力が高いことが示されています。特に、自然科学、遊びの中の算数、日常生活の中の算数、数字の経験が充実していると、就学後の算数のテストスコアが高いことが示されているのです。

また、デンマークのデータを使った研究では、高校時代に数学を重点的に勉強した生徒たちは将来の賃金が高くなったことを示す研究があります。小学校でプログラミング教育が必修化されることも決まっていますし、これからの社会では、AI、データサイエンス、プログラミングなどの知識がますます重要になってくることは疑いの余地がありません。これらにはすべて数学の知識が必要です。

かずの学びは何歳からはじめる?

--何歳から、そしてどうやって家庭でかずとのふれあいをはじめればいいのでしょう?

中室教授:先ほどからご紹介している「保育環境評価スケール」は乳児版(0~2歳児向け)と幼児版(3~5歳児向け)に分かれています。幼児版では、遊びの中の算数、日常生活の中の算数、数字の経験について評価しますが、乳児版ではその評価を行いません。つまり、このスケールの背景にある子どもの発達に関する発達心理学の理論的知見をもとにすれば、幼児期からこうした活動に触れられる環境があればよい​のではないかと思います。

考える力を育むために

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--4・5・6歳の幼児向け新教材「できるーと」について期待できることを教えてください。

中室教授:「できるーと」は、答えを出す前に、工夫し、考え、発見できるのがよいですね。

心理学の研究者が行った面白い実験があります。それは小学生を対象にした語彙の定着を図る実験です。実験では、生徒に語彙と定義を同時に示すパターンと、生徒にまず定義だけを示し、その言葉が何かを少し時間を与えて考えさせてから答えを明かすというパターンの2つが試されました。その後にテストを行うと、後者の先に自分で答えを考えた問題のほうの正答率が高いという結果になっているのです。先に答えを与えられると、練習中の正答率は高くなるのですが、後でテストをしたときに定着していないというわけです。

だから、答えを出す前に、自分の頭で考えさせるような仕組みが重要だと思います。答えにたどり着くまでのスピードは、あまり気にせず、子どもに考えさせる多くの機会を提供できるように使っていただきたい​と思います

また、日本だけではなく世界的に女性のほうが算数・数学の学力テストのスコアが低かったり、大学で理数系学部を選択する確率が低かったりすることが知られています。この理由について、心理学分野では、「女子は算数が苦手」というステレオタイプな見方が影響しているという研究もあります。「できるーと」は、キャラクターがとてもかわいらしく、女の子のお子さんにも喜んで手に取っていただけそうなところがよいですね。

幼少期のアプリ・タブレット学習のメリットとは

--できるーとは、えほんと子ども向けのアプリを使い、学習を進めていく教材です。2020年度から小学校でプログラミング授業が必修化したこともあり、アプリやオンライン学習は注目される一方で、タブレットを小さな子に使わせて大丈夫なのか懸念する保護者も多いようですが。

中室教授タブレットには、個々の子どもの習熟度に合わせられるという大きなメリットがあります

例えば、小学校や中学校で行われるような、先生1人に40人の生徒というクラスでの一斉指導では、100点満点のテストで30点しか取れない子どもと80点も取れる子どもが一緒に授業を受けることになります。先生が平均点である50点の子どもたちをターゲットにして授業をしたとすると、30点の子はついていけずに落ちこぼれとなり、80点の子は内容が簡単すぎてつまらないということが生じるでしょう。

このような問題を解決するために、タブレットを用いて個々の習熟度に合わせた学習を提供すると、30点の子どもも、50点の子どもも、80点の子どもも伸ばすことができ、効果が高いということを示した研究が発表されています。

幼少期は個人差が大きい時期です。例えば、4月生まれと3月生まれでは心身の発達に大きな差があることは多くの保育者や保護者の方も感じておられるところでしょう。タブレット学習なら、子どもの発達段階や習熟に合わせ、個別最適化された教育を提供できます

--ありがとうございました!

(取材・文/小栗素子)

「できるーと」とは?

えほん×アプリで、親子で考える力を育てる【できるーと】 (155588)

『できるーと』 は絵本(アナログ教材)とアプリ(デジタル教材)のそれぞれの特長を活かしつつ、思考力・発想力を育てられる家庭学習教材です。

ワークえほん×ワークアプリ×おうえんアプリの3つの教材からなり、デジタル教育コンテンツに力を入れる凸版印刷と、絵本や保育教材の出版社のフレーベル館がタッグを組んだサービスです。

「ワークえほん」はストーリーを楽しみながら、鉛筆で書いたり貼ったり切ったりする体験を通して、数や量、図形について学んでいきます。

「ワークアプリ」では、ワークえほんで身につけた基礎を活用して、自分なりの考え方や解き方で工夫しながら問題に取り組みます。理解度に合わせて徐々に難易度を上げながら、繰り返しチャレンジできる問題をたくさん収録しています。自分でオリジナルの問題を作ることもでき、理解がぐんと深まります。

「おうえんアプリ」は保護者用のアプリです。子どもの学習状況がリアルタイムにスマホに届き、教え方やほめ方など適切な指導の仕方がわかります。一日の学習の振り返りとして、子どもができたことを具体的に褒めることができ、自尊心と自己効力感を高めることに役立ちます。

詳しくは下記の記事をご覧ください。

【体験談】「できるーと」使用レポート

実際に取り組んでいる親子の感想をお伝えします。

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6歳(小1)と3歳(年少)の姉妹で利用しています。ワークえほんはまず「かず1」を1冊購入。ストーリー性があって、子どもがすっと問題に入りやすいと感じました。

6歳だと、ワークえほんで問題を読む・考える・書く練習が1人でもできるので姉がメインで使用しています。

ワークアプリには姉妹2人分のアカウントを登録。楽しみながらサクッと短時間でも取り組めるので、親が疲れている日やあまり時間がないときでも、使用しやすいです。ワークアプリは全問正解したときに正解マークが出るのが嬉しいみたいで、姉妹のやる気につながっています。

姉妹それぞれの学び具合や教え方を保護者アプリでチェックできるのはとても便利だと思いました

■出版社:フレーベル館■監修:無藤隆/白川佳子...

できるーと「かず1」 <集合/順序>

1500 ※税別、アプリ利用料を含む
■出版社:フレーベル館
■監修:無藤隆/白川佳子
■指導:和田美香/吉永安里
■企画/編集:凸版印刷 教育事業推進本部
■対象年齢:4・5・6歳
■66ページ/全面カラー
■算数力の基礎となる、物の特徴を正しく捉える力、物の数や順序を数字で表す力を育めます。

■出版社:フレーベル館■監修:無藤隆/白川佳子...

できるーと「かず2」 <たし算・ひき算/いろいろな数>

1500 ※税別、アプリ利用料を含む
■出版社:フレーベル館
■監修:無藤隆/白川佳子
■指導:和田美香/吉永安里
■企画/編集:凸版印刷 教育事業推進本部
■対象年齢:4・5・6歳
■66ページ/全面カラー
■身近な物や生活体験をもとに、たし算・ひき算の基礎力や、お金や時計などの概念を理解する力を育めます。

■出版社:フレーベル館■監修:無藤隆/白川佳子...

できるーと「かず3」 <比較/図形>

1500 ※税別、アプリ利用料を含む
■出版社:フレーベル館
■監修:無藤隆/白川佳子
■指導:和田美香/吉永安里
■企画/編集:凸版印刷 教育事業推進本部
■対象年齢:4・5・6歳
■70ページ/全面カラー
■比較や図形の学びを通じて、多様な視点から物事を捉える力や論理的思考力を育みます。
アプリのダウンロードはこちらからどうぞ。一部、おためしコンテンツを無料で利用可能です。
※ワークアプリのおためしコンテンツ以外の問題やおうえんアプリは、ワークえほんをご購入いただいた方のみ、利用できます。
※ワークアプリはタブレットでの利用、おうえんアプリはスマートフォンの利用をお勧めします。タブレット・スマートフォンはご家庭でご用意ください。
『できるーと』公式サイト https://dekiroute.com/
詳しいイベントや使い方のご紹介はこちらでご案内しています。
できるーと公式Instagram  https://www.instagram.com/dekiroute_official/
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