2017年5月1日 公開

その教育法が効果的といえる科学的根拠は?『「学力」の経済学』

なんとなく正しいと信じて実践している教育法。もし「その教育法が効果的といえる科学的根拠は?」と聞かれたら、明確に答えられますか?今回は「どういう教育が成功する子どもを育てるのか」という問いに対して、経済学的な分析で迫った書籍『「学力」の経済学』から気になる内容をピックアップして紹介します。

「科学的根拠」に基づく教育を求めて

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タイトル:「学力」の経済学
著者  :中室 牧子
出版社 :ディスカヴァー・トゥエンティワン
「子どもが立派に育ってほしい」「子どもには幸せな人生を送ってほしい」という親の切実な願いに応えるため、さまざまな教育法が流布しています。

「子どもはほめて育てるべきです」「幼児期から文字や算数を教えましょう」......どれもそれらしい内容ですが、そのほとんどは個人的な経験や主観に基づいており、「研究や実験によって得られた科学的根拠」に基づくものは多くはありません。

今、世界中で「その教育法は本当に効果があるのか」ということを検証する試みが、行われています。

社会学・脳科学・心理学など、さまざまな分野からアプローチが行われていますが、今回は教育経済学者の中室牧子さんが書かれた『「学力」の経済学』から、「現在、経済学的な分析により有効(もしくは有効でない)と考えられている教育」をご紹介したいと思います。

ほめ育ては「してはいけない」

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ESB Professional / Shutterstock.com
「子どもをほめて育てると自尊心が育つ。自尊心が高い子どもは学習意欲も高く、反社会的行為をする可能性が低い」。よくいわれていることではありますが、これは本当なのでしょうか。

バージニア連邦大学のフォーサイズ教授らは、「自尊心を高めることは、学生の成績を上げる因果効果を持つ」という仮説に基づき、大学生に対して実験を行っています。

最初の試験で成績が悪かった学生たちをランダムにグループ分けし、片方のグループに「やればできる」といったような、自尊心を高めるメッセージを毎週メールで送るというものです。

この実験を分析したところ……。
自尊心を高めるメッセージを受け取ったグループの学生は、受け取らなかったグループの学生よりも、期末試験の成績が統計的に有意に低かった
via 「学力」の経済学
という、仮説とは真逆の結果が出てしまいました。

この研究は、「悪い成績を取っている生徒に対し、自尊心を高めるような介入を行うと、むしろ成績を押し下げてしまう場合がある」ことを示唆しています。

むやみやたらにほめて育ててしまうと、実力の伴わない自信過剰な人間になってしまい、必要な努力を放棄してしまう可能性があるといえそうです。

正しく「ほめる」にはどうすればいい?

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mielag / Shutterstock.com
では、子どもを絶対にほめてはいけないのでしょうか。著者の中室さんは、コロンビア大学で行われた実験結果を元に、「ほめ方が重要」と説きます。

この実験では、小学校の子どもたちを2つのグループに分け、片方のグループには「あなたは頭が良い」といった「もともとの能力」をほめるメッセージを伝え、もう片方のグループには「あなたはよくがんばった」と、「努力した内容」をほめるメッセージを伝えました。

すると、
もともとの能力をほめられた子どもたちは、成績を落としてしまったのに対し、努力をほめられた子どもたちは成績を伸ばした
via 「学力」の経済学
という結果になったのだそうです。

子どもをほめるときは、「今日は起こされる前に1人でちゃんと起きてきたね」「テストのために毎日勉強していたね」と、子どもが実際に努力したことに注目して、具体的な内容をほめるのが大切なようです。

幼児教育は「効果的」

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Sergey Novikov / Shutterstock.com
今は小学校に入る前からひらがなの読み・書きができる子も多く、英語や算数といった教科を幼児期から始めている子も少なくありません。IQや学力テストの成績を上げる幼児教育は、子どもの人生を成功に導くのに有益なのでしょうか。

シカゴ大学のヘックマン教授らが1960年代に開始した「ペリー幼稚園プログラム」は、低所得世帯の3~4歳の子どもたちに「質の高い就学前教育」を提供。その後、子どもたちがどのような人生を送っているのか、長きに渡って追跡調査を行っているものです。

その結果、このプログラムを受けることのできた子どもたちは、受けられなかった似たような家庭環境の子どもたちに比べて……。
・6歳時点でのIQ→高い
・19歳時点での高校卒業率→高い
・27歳時点での持ち家率→高い
・40歳時点での所得→高い
・40歳時点での逮捕率→低い
via 「学力」の経済学
という結果が出たのです。

ペリー幼稚園プログラムは2年間実施されただけでしたが、その後40年もの間、プログラムを受けた子どもたちに影響を与え続けたことを明らかにしたことで、世界中の研究者から注目を浴びました。

どのような幼児教育を行うべきか

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takasu / Shutterstock.com
では、読み書き能力や計算力などを早いうちから鍛えるべきなのでしょうか。

このプログラムで非常に興味深いのは、「学力やIQへの効果は短期的で、8歳前後になると、プログラムを受けられなかった子との差はほとんどなくなってしまった」という点です。

学力やIQの差はなくなってしまったのに、学歴や所得に影響が出たのはなぜだったのでしょうか。これは、ペリー幼稚園プログラムによって、「忍耐力」や「社会性」など、いわゆる「生きる力」が鍛えられたからだと分析されています。

ペリー幼稚園プログラムでは、児童心理学等の専門家を幼稚園の先生とし、少人数で読み書きや歌などのレッスンを行い、1週間につき1.5時間の家庭訪問を行うなど、手厚い教育を施しました。

特に家庭訪問では、貧困家庭の親に対して、どのように子どもと遊び、声かけを行っていくべきかといった学びの機会を提供しました。

その結果、子どもたちの意欲や忍耐力、自制心といった力が鍛えられ、就学前に鍛えられたこれらの能力が長きに渡って影響したと考えられています。

ペリー幼稚園プログラムの研究成果からいえることは、幼児期にはテストの成績を上げるための能力を鍛えるよりも、社会性や創造性、ねばり強さといった「姿勢」や「ライフスタイル」を養った方が、その後の人生に与える影響力が大きいということです。

文字や算数を学ぶことも大事なことではありますが、経済学的な観点からは、「文字や算数を学ぶことを通じて、計画性を養ったり学ぶ喜びを知ったりすること」の方が、より大切だといえるのかもしれません。

「科学的根拠(エビデンス)」を探そう

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Ionut Catalin Parvu / Shutterstock.com
この他にも、書籍の中では「教育の常識」と思われているようなことが、経済学的な研究や実験から「効果的とはいえない」と結論づけられた話が掲載されています。

「個人の先生の経験談」や「教育専門家の意見」に基づいた「教育の常識」は、実は科学的根拠(エビデンス)が乏しく、一般化できないものかもしれません。データや検証によって明らかになってきた「根拠のある教育法」に、ぜひ今後も注目してみてくださいね。
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YuryImaging / Shutterstock.com
この記事は執筆時点のものですので、最新情報は公式サイト等でご確認ください。

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青海 光 青海 光  都内在住、二児の母。大学卒業後、子育てをしながらIT企業でフ ルタイム勤務をしていましたが、夫の海外赴任に伴い退職。カオスなインドで3年ほど暮らしました。帰国後はライターとして 、育児やライフスタイルに関する記事を中心に執筆しています。楽しく・読みやすく・有益な情報をお届けします!