子どもにかかる教育費は、年齢と共に高くなっていくのが一般的。しかし、アメリカでは「青年期以降よりも未就学児期の教育にお金をかけた方が効率的」という研究結果が発表されました。その詳細がわかる『幼児教育の経済学』の感想と、それを踏まえて「非認知スキル」を鍛えることに注力しているわが家での取り組みを紹介します。
経済学の視点で教育を論じる「幼児教育の経済学」
著者:ジェームズ・J・ヘックマン(著)、大竹文雄(解説)、古草秀子(訳)
出版社:東洋経済新報社
経済学の視点から「効率性と公平性を同時に達成できる教育を行うにはどうするべきか」が議論されている本で、日本でも翻訳され、『幼児教育の経済学』というタイトルで2015年に発刊されました。
ジェームズ・J・ヘックマンはこの本で、「教育投資として最も効率的なのは幼少期」ということを主張しています。
幼少期の教育が効率的といわれる理由は?
これは、経済的に恵まれない家庭の就学前の幼児に、幼児教育の専門家らによる質の高い教育を提供して、その後子どもたちが40歳になるまでを追跡調査したものです。
就学前教育は30週間行われただけでしたが、彼らが40歳になった時の追跡調査によると、就学前教育を受けた子どもたちは、受けなかった子どもたちと比べて、
・学歴が高い
・月給が高い
・持ち家率が高い
・生活保護の非自給率が高い
といった点で顕著な差が見られたそうです。
ジェームズ・J・ヘックマンは、これは幼少期の教育によって、自信や社会性といった「強い土台」を得たことで、その後の学習も継続しやすくなり、成人後の成功につながったのではないかと結論づけています。
また脳科学の知見も用いて、人間の能力には大きく発達する時期があり、「強い土台」を築くには就学前の時期が最適で、青年期以降に教育するよりも効率的だともしています。
幼少期にどのような教育を行うべき?
賢さの指標として思いつくのがIQ(知能指数)ですが、この研究で対象となった子どもは、教育を受けた当初こそIQが高くなったものの、その後は効果が薄れ、教育が終了して4年たつと、その優位性はすっかり消えてしまったというのです。
IQの優位性はなくなってしまったのに、40歳時点の人生で差がついているのはなぜなのでしょうか。ジェームズ・J・ヘックマンは、人の能力には「認知的スキル」と「非認知的スキル」があり、幼少期の教育は特に「非認知的スキル」を鍛えることがポイントだと説きます。
「認知的スキル」とは、記憶力やIQなど、いわゆる学力テストで測定されるようなスキルのことです。一方で「非認知的スキル」とは、根気強さや注意深さ、意欲や自信といった、社会的・情動的スキルを指します。
幼少期にこの「非認知的スキル」を鍛えることによって、その後の人生に長くプラスの効果をもたらすことが期待できるのです。
「非認知的スキル」を鍛えるわが家の取り組み
といっても、特別なことをしているわけではありません。小学1年生の長女の生活は、近所の公立小学校に通い、習い事も水泳と空手と公文という、ごくありふれたものです。
ただわが家の場合は、習い事で技術を磨くことよりも、「課題に粘り強く取り組む姿勢」や「自分はできるという自信」を身に着けることが重要だと考えています。
そのため、
・もともと子どもが好きで得意なことを習わせる
・昇級試験やテストなどの結果は気にしない
ということを心がけています。技術の成果にこだわるのは、本人が自ら「大きな課題に挑戦したい」と望むほど成長してからでも十分と思っているからです。
また、地域のイベントやワークショップに参加したり、長期休暇中はキャンプへ参加させたり、1人で祖父母の家に帰省させてみたりと、「さまざまな経験をすること」に時間とお金を使うようにしています。
「やってみたらできた」「やってみたらおもしろかった」という経験が、子どもの好奇心や挑戦心を育んでくれると期待しているからです。
2歳の次女は、公立の保育園に通わせているだけですが、3歳ごろになって本人の好みが出てきたら、ピアノやスポーツなど興味のありそうなことに挑戦させてみたいと思っています。
今後も新しい教育研究に期待大!
「良い教育」と思われているものは、長らく教師の感覚や一個人の経験に基づくものが大半で、数値的に検証しにくいものでした。しかし現在は、経済学や脳科学といった観点から、客観的な根拠(エビデンス)で教育の効果測定をしようという動きが進んでいます。
子どもたちにとって本当に役立つ教育とは何なのか、今後も教育に関するさまざまな研究結果に注目していきたいですね。