親子関係に大きく関係しているのが、両者をつなぐ言葉です。言葉を変えれば伝わり方が変わり、関係性も変わります。そして、言葉を変えれば自分自身の気持ちも変わります。しかし言葉とは時に感情に任せて出てきてしまいます。特に相手が子どもとなると、イライラした感情がそのまま言葉になってしまったり。
意志の力で「飲み込む」ことが難しいのが、子どもへの言葉かけ。それなら、その時の気持ちを「別な言葉」に言い換えてみませんか。イライラ感情が出やすい場面ごとに、言葉の言い換えをご紹介します。
言葉のゴールは「どう伝わったか」
「そういうつもりじゃなかったんだけど」。他者とのやりとりで、誤解をされた経験はありませんか?「そんなこと言ってないよ」「いや、言った」、言葉は時として、意図しない内容で伝わってしまいます。
言葉のゴールは「どう伝わったか」。例えば「あなたならできるから」という思いを込めて発した「ちゃんとやりなさい!」が、「私はどうせダメなんだ」と伝わってしまうのなら、それは伝え手側に工夫の必要あり。より、思いが伝わりやすくなる言葉が必要です。しかし、子どもへの言葉かけはマンネリ化していて、レパートリーは乏しいかもしれません。そこで役立つのが「言い換え」です。例えば先ほどの「ちゃんとやりなさい!」を「何から始めようか」に言い換えてみれば、伝わり方は変わるでしょう。
感情のコントロールより「言い換え」がいい理由
こんな言葉は絶対に言わないようにしようと思っていたのに、感情任せに出てしまった「NG言葉」。一言出してしまえば制御不能に、溢れ出てきてしまいます。「後悔先に立たず」はわかっていても、感情のコントロールはとても難しいのです。「親は役者」と、優しい親を演じてみても、持続が難しいのはもちろん、根本的な解決にもなりません。
ではどうしたら良いのでしょう。「イライラ感情をなくして言葉を変える」を「言葉を変えてイライラ感情をなくす」に、順序を逆にしてみませんか。イライラしてしまう自分を認めつつ、まずはネガティブに伝わってしまう自分の口癖を言い換えてみる。伝えたいことが伝わりやすくなるのと共に、発した言葉は自分の耳にも入ってくるため、自分の気持ちにも変化があるかもしれません。さらに、「言い換え」をすれば、言葉のレパートリーが圧倒的に膨らみます。語彙が増えれば、伝える力も高まりそうです。
言葉は習慣。「言い換え」力を高めるためには、言い換え言葉にたくさん触れてみることがおすすめです。以下、言葉の言い換え例をご紹介していきます。
これだけは知っておきたい!イライラ場面の「魔法の言い換え」10選
よくある「伝わりにくい言葉」の言い換えを、まずはご紹介します。「面白そうだから使ってみよう」と思うものがあれば、一度言い換え言葉に置き換えてみてください。相手の変化がなくても気にしないでください。「言葉のレパートリーを増やす」程度の気持ちから始めてみることが大切です。
「静かにしなさい」→「ちょっと聞いてくれる?」
「全くもう!なにやってんの!」→「丁寧にやろうね」
「何度言ったらわかるの」→「3回言ったよ。次はできるかな?」
「つべこべ言わない」→「あなたはそう思うのね」
「ちゃんと聞きなさい」→「お母さん、今から大事なことを2つ話すね」
「みんなできてるでしょう」→「〇〇ちゃんは□□をやっているんだね」
「勝手にしなさい」→「それは賛成できないなぁ」
「早くしなさい」→「時計の針が○になったら始めよう」
「反省しなさい」→「静かに考えてみようか」
「やる気を出して!」→「今のやる気度は何%かな?」
言葉の言い換え 具体的場面編 シーン別「魔法の言い換え」7選
言葉を言い換えるためには、次のような工夫が役立ちます。ネガティブをポジティブに。決めつけずに、できるだけ事実に。指示命令をお願いや提案、そして質問に。全て子どもを信じ、尊重している言葉です。「まだできない」「どうせわかっていない」という発想を捨て、「この子はどんな気持ちでどんな世界を見ているのだろう」と考えていくと、きっと素敵な言い換えができるようになるでしょう。3つの場面ごとに、言い換え例をご紹介します。
①しつけ・叱る場面
しつけや叱ることは、は子育てにおいてとても重要なこと。親が放棄すれば、社会に出てから子どもが苦労してしまいます。ただし、「怒る」という行為で伝えてしまうと、子どもは「怒られないように」だけに、意識を向けてしまいかねません。子ども自身に「何がいけないのか」を考えさせる言葉かけに、変換してみましょう。ものの良し悪しを自分で判断できる子どもに育ちます。しつけ・叱る場面に使える「魔法の言い換え言葉」7選をご紹介します。
「走っちゃだめ」→「歩こう」
「お父さんに言いつけるよ」→「どうすればよかったのかな?」
「そんなに騒ぐならもう連れてこないよ」→「騒いでいると周りの人に迷惑になるよ」
「お友達と喧嘩をしたらダメ」→「お友達に何を伝えたかった?」
「ルールは守りなさい!」→「このルールがあると、皆でもっと楽しく遊べるんだ」
「ちゃんと片付けなさい」→「どっちがきれいにできるか競争しよう」
「いつまでテレビ見ているの」→「テレビ時間はあと何分にする?」
②前向きな気持ちを引き出したい場面
子どもに前向きになってもらいたくてはなった言葉。それが返って子どもの不安にさせてしまうこともあったりします。言葉は相手の気持ちを察した上で届けます。心が弱っている時には、まず心が元気になる言葉を。その上で、子どもの見方が変わるよう、できるだけ根拠をもって伝えるのがおすすめです。失敗した時、自信を失っているとき、ダメだと思っているときに使える「魔法の言い換え言葉」7選をご紹介します。
「大丈夫だよ」→「前回よりここが良くなっているね。しっかり前に進んでいるよ」
「絶対できるから」→「何があったら前に一歩だけ踏み出せそう?」
「もっと頑張らないと」→「自分でできることが増えてきたね!ゆっくりやってみよう」
「間に合わないよ」→「あと、どれくらいで終わりそう?」
「また間違えたの?」→「今回はここが良かったね。次はここをさらに良くしよう」
「○○ちゃんはできているのに…」→「あなたの強みを見つけて活かそう」
「落ち込んでいないで」→「残念だったよね。でも〇〇は大きな成長だったよ」
③子どもに考えさせたい場面
子どもにもっと考えて欲しくても「考えなさい」では伝わりません。まずは子どもが自分と向き合うことがスタートです。そして、大きな塊を小さくするイメージで、考えやすいテーマにしてみてはどうでしょう。子どもが考えるための「魔法の言い換え言葉」7選をご紹介します。
「はっきり言いなさい」→「一番伝えたいことは何だった?」
「集中しなさい」→「今何%進んでいる?」
「よくやったね!」→「何がうまくできた理由だと思う?」
「早くしなさい!」→「効率よく進める方法を考えよう」
「なんでできなかったの?」→「次はどうすればできるかな?」
「無理だった」→「どうやったら次は上手くいきそう?」
「それじゃうまくいかないよ」→「一歩前に進むためには、どんな方法があるかな?」
言葉は習慣 自分への言葉も言い換えよう

子育ては自己犠牲の上には成り立ちません。自分の心を守り、ご機嫌な気持ちでいることが大切です。そして、自分の機嫌は自分にしかとれません。たまのご褒美も大切ですし、愚痴をこぼすことも大切です。しかし、それ以上にいつでもどこでもできる、簡単な方法があります。「自分への言葉かけ」の工夫です。「私は頑張っている」「私は成長している」と、自分にポジティブな言葉をかけてあげましょう。
夜寝る前に、「今日頑張ったこと」を3つ言葉にしてみませんか。「子どもの可愛かったところ」を思い出してみるのもいいでしょう。自分への言葉を変えることで、不思議なほど気持ちも楽になるものです。言葉の習慣は今日から変えられます。
■ライタープロフィール
江藤真規
東京大学大学院教育学研究科博士課程修了 博士(教育学)
株式会社サイタコーディネーション代表
クロワール幼児教室主宰
アカデミックコーチング学会理事
公益財団法人 民際センター評議員
一般社団法人 小学校受験協会理事
自身の子どもたちの中学受験を通じ、コミュニケーションの大切さを実感し、コーチングの認定資格を習得。現在、講演、執筆活動などを通して、教育の転換期における家庭での親子コミュニケーションの重要性、母親の視野拡大の必要性、学びの重要性を訴えている。著書は『勉強ができる子の育て方』『合格力コーチング』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『心の折れない子どもの育て方』(祥伝社)、『ママのイライラ言葉言い換え辞典』(扶桑社)など多数。
クロワール幼児教室
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