「時間がない」はイマドキの子育てにある共通課題。それでも子どもの将来を思って、非日常の体験をさせようと、週末に様々な活動を取り入れているご家庭も多くあるようです。しかし、これがまた子育てを忙しくする要因になったりと、子育ての日常には忙しさがつきものです。
まとまった時間は取れずとも、スキマ時間の活用をすれば、子どもに豊かな体験をさせることはできるはず。日常生活を見直し、スキマ時間の活用を目指しましょう。子どもの登降園時間、お買い物時間、家事の時間等には、子どもが楽しく体験できるチャンスがいっぱい。「特別な時間に特別なことをする」ばかりでなく、いつもの生活に工夫をしてみると、意外な体験ができそうです。
ますます忙しくなるイマドキの子育て
夕方のスーパーマーケットは、保育園・幼稚園帰りの親子で賑わっています。急いで帰って食事の支度をして、急いで食べさせて、急いでお風呂にいれて…。急いで歯磨きをして、急いで寝かせて…。「本を読むから早くして!」と、読み聞かせさえ、忙しさの渦に巻き込まれてしまいます。
保育所の量の拡充に伴い、働く母親は圧倒的に増えました。保育時間の長時間化に伴い、働く母親の就労時間も増加の傾向にあるようです。仕事がある日は、親子でゆったり過ごすなど無縁の世界、慌ただしく時間が流れていきます。イマドキの子育ては、常に時間に追われ、忙しさの上に成り立っているといっても過言ではないでしょう。
物理的な時間が足りないだけではありません。精神的な忙しさも、子育て中の親御さんを悩ませます。「従来の仕事の半分がなくなる」と言われるほどの社会変容が、親の不安を掻き立てます。「幼少期こそ大事な時期」「様々な体験をさせることが重要」等、様々な情報が飛び交い、「このままではいけない」と、精神的な忙しさを感じてしまいます。
こんなにも便利になった生活と裏腹に、子育ての日常は今まで以上に忙しくなってきている様子です。
「非日常」は本当に必要?
「幼少期にはいろんな体験をさせなきゃ!」と、子どもを思う気持ちは、家族のアクティビティを増やします。週末には非日常体験をさせようと、家族揃って出かける家庭も多い様子です。もちろん子どもは大喜び。いつもと違う体験で、子どもの視野は広がり、ぐんと成長することでしょう。
しかし、詰め込み過ぎは、子どもを疲れさせてしまうかもしれません。
「月曜日は疲れている子どもが多い」というのは、最近の保育所事情と感じます。
また、せっかくの素敵な体験も、「しなければならない」という義務感の上に乗ってしまえば、あまり意味がありません。
「早くしなさい」を言い続けながらの移動では、楽しさが半減してしまうでしょうし、「早く遊びなさい」と言われてしまえば、遊び自体が楽しいいとなみではなくなってしまいます。
スキマ時間を活用しよう
時間がない中、やりたいことがたくさんあるのがイマドキの子育てです。「ゆとりをもって子育てをする」など、理想であっても現実からは程遠く、それならスキマ時間を活用してはどうでしょう。子どもが体験できるスキマ時間です。特別な時間の確保は難しくとも、スキマ時間なら日常のどこかに転がっていそうです。場面ごとに見ていきましょう。
登園降園時のスキマ時間
登園時も降園時も親子で走っていませんか?忙しい気持ちはわかるのですが、登降園時は、体験のチャンスです。1週間に1度でもいい、スキマ時間を活用してみてはいかがでしょう。
例えば、少しだけ早くお迎えにいって、ゆっくり子どものペースで歩いてみます。その日は「早く」を言わないと決め、子どもの目線を楽しんでみます。道端にある雑草や水たまり、葉っぱの下の虫や商店街のお店の看板。どれも、子どもにとっては楽しい発見であり、大切な体験です。この間読んだ絵本につながる何かに遭遇することもあるでしょうし、自由に遊んでいる子どもの話を聴いてみれば、想像力の豊かさに驚かされるかもしれません。
思いきって朝早く家を出るのも良いでしょう。登園時間を変えるだけで、同じ道でも、きっと新しい発見があるはずです。
お買い物で見つけるスキマ時間
ネットでの買い物が多くなった今、実際に足を運んでの買い物は貴重な体験です。買い物にかける時間はないし、何かを買ってと言われると厄介なので、必要な売り場だけを走りすぎる店内かもしれません。しかし、ここにも豊かな体験ができるスキマ時間が隠れています。
1週間に1度でもいい、少しだけゆっくり買い物時間を作ってみませんか。店内は学びの宝庫、買い物時間は、子どもにとっての格好の体験時間です。
野菜コーナーには、季節の野菜や果物が並び、魚屋さんには滅多に食べない丸ものの魚だって並んでいます。たくさんの人が働いている光景も、場所によって異なる臭いも、聞こえてくるアナウンスも、子どもにとってはワクワクの発見です。「急いで!」をちょっとだけ我慢すれば、買い物時間は豊かな体験時間となることでしょう。
数字や文字を覚える場としても、買い物時間は役立ちます。店内には数字や文字がたくさん、数字見つけゲームをすれば、子どもは喜々として覚えていくことでしょう。また、店内にある商品には、SDGsのマークがついたものもたくさんあります。「マークがついている石鹸とついていない石鹸があるね、何のマークだろう」と、そこからSDGsや社会について話を広げていくこともできます。何より、親御さんと一緒に買い物をする時間は、子どもにとって最高に楽しい時間です。買い物の目的を少し変えることで、スキマ時間を体験時間にしてみましょう。
家の中にあるスキマ時間
家の中にも、スキマ時間はたくさんあります。平日は子どもと過ごす時間がたった3時間だったとしても、意識を変えることで、子どもが楽しく体験できる場面がうまれます。
例えばお手伝い。「〇〇ちゃん、お願い」と、子どもに役割をもたせると、子どもは喜んでお手伝いをするでしょう。洗濯物をたたむ、床の掃除をする、食事の配膳を手伝う、一緒に料理するなど、子どもにとっては、とても楽しい体験になります。「子どもにやらせると時間がかかる」という声も聞こえてきそうですが、子どもの力を信じて任せてみると、意外とすぐにできるようになったりするものです。
安全な家の中なら、親が何かの作業をしながらの対応も可能でしょう。子どものための時間を確保しようと思えば、自分の作業が後回しになってしまいますが、子どもにやらせることを決め、子どもが自分でできる環境を作っておけば、ご飯をつくりながら、掃除をしながら、持ち帰り仕事をしながら、子どもの体験に付き合うことができるでしょう。親子で別々のことを行う際には、「あの時計の針が◯になるまで、2人とも自分のお仕事をしよう」と持ちかけていくのがおすすめです。終わった後には、子どもの体験の成果をしっかり聴いてあげましょう。楽しさがぐんと高まります。
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日常の中に埋め込まれた大切な経験
予測不能の社会を生きるには、様々な体験をさせてあげることは大切です。しかし、それ以上に「生活をする」経験が大切とも感じます。生きる力とは、生活の中で育っていくもの。「大人が子どもに何かをやってあげる」という発想ではなく、大人も子どもも共に生活をするという考え方で、日常生活に埋め込まれた体験を楽しんでいけるといいですね。
忙しいからこそ、毎日の生活を豊かにする。そのために、是非スキマ時間を見直してみてください。
■ライタープロフィール
江藤真規
東京大学大学院教育学研究科博士課程修了 博士(教育学)
株式会社サイタコーディネーション代表
クロワール幼児教室主宰
アカデミックコーチング学会理事
公益財団法人 民際センター評議員
自身の子どもたちの中学受験を通じ、コミュニケーションの大切さを実感し、コーチングの認定資格を習得。現在、講演、執筆活動などを通して、教育の転換期における家庭での親子コミュニケーションの重要性、母親の視野拡大の必要性、学びの重要性を訴えている。著書は『勉強ができる子の育て方』『合格力コーチング』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『心の折れない子どもの育て方』(祥伝社)、『ママのイライラ言葉言い換え辞典』(扶桑社)など多数。
クロワール幼児教室
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