遊んでいればよかった幼児期から、与えられた課題をこなすことが要される小学生へ。ここの段差を超えることが、今や「小1プロブレム」という言葉とともに、大きく不安視されています。
確かに環境は劇的に変わりますが、子ども目線にたった対策をきちんと取ることで、環境の変化は子どもの成長の後押しとなるはずです。
親の不安を手放し、小学生になることへのポジティブなイメージを持つ。ちょっとだけ高いゴールを見せる。集中力等の見えない力を育む等、家庭でできることは沢山あります。
子どもの気持ちを受け止めながら、子どもの有する力を信じて、日常生活に工夫を取り入れていってみてください。
忙しい日常とは思いますが、後と比較すれば、今はまだまとまった時間、親子時間がとれる時期です。
小1プロブレムって何?
保育園や幼稚園では、子ども達は毎日遊びます。好きな遊びを自分で選ぶことが認められ、遊んでいることで褒められたりもします。ところが、子どもを取り巻く環境は、小学校に入学したその日を境に、劇的に変わります。「遊び」は「学習」となり、「自分の好きなように」が「皆一緒に」となります。
好きな玩具で自由に遊び、外遊び時間には自由に園庭を走り回るといった日常が、じっと机に座って授業を受けるというスタイルに変化します。お母さんと手をつないでおしゃべりを楽しんだ登園降園の時間は、自分1人での「移動」時間となり、下校後の宿題も課されるようになります。時間割通りに進んでいく授業では、自分の気分はよそに、各教科の勉強を強いられます。
そして、子どもの学習への取組に対する評価も始まるわけです。
子どもの気持ちになってみれば、ある日突然始まるこのような変化に、違和感を持つのも当然でしょう。小学校という環境の変化を受け入れられず、子どもの側に拒否や抵抗が表れる現象が、いわゆる「小1プロブレム」です。個人の問題を超え、今や社会的な課題となりつつあります。
幼児期の教育と小学校教育の違い
先に述べた通り、幼児期の学びとは、遊ぶことです。子ども達は、遊びを通していろいろなことに興味を持ち、面白さを感じていきます。様々な経験をする中で見つけた「不思議や「ワクワク感」を、周囲に共有していきます。
また幼児期とは、見えない力が育まれる時期。集中したり、根気強く取り組んだり、自分なりに見通しをもって進んでいくことも、この時期の大切な教育です。幼児期の教育は、個性が尊重された上で、自由な空気の中で行われます。
小学校になるとどうでしょう。小学校になれば遊びが教科学習に置き換わります。
「自分のペースで自由に」が「与えられた課題」となり、子ども達には、「与えられた課題を自分自身の課題と捉える」姿勢が求められます。
学年ごとに習得すべき知識や技術が決まっており、全ての子どもが同じことを行い、成果も問われます。
両者には、こんなにも大きな違いがあるということを、まずは周囲の大人が理解しておく必要があるでしょう。
小1プロブレムへの5つの対策
このような大きな段差についていけず、小学校を上手くスタートできない子どもたちが増加の傾向にあることから、近年は「幼児教育との接続」や「幼保小連携」に対して、様々な取り組みがなされるようになりました。
一方で、やはり家庭教育が重要だという説も多くあります。ここでは家庭では、どのような取り組みができるのか、5つの視点をご紹介しましょう。
1、環境の変化を自立へのチャンスとする
子育てが孤立化している現在、小1プロブレムの背景には、親の不安もあるようです。
我が子が小学校に上がる前に、他の小学生との触れ合いがなければ、「うちの子はついていけるかしら」「小学校ではうまくやっているかしら」と不安が膨らんでしまいます。その不安を子どもにぶつけてしまえば、子どもにとって、小学校が面白くない存在となってしまいます。
まずは、親側がこの不安を手放しましょう。
節目とは、子どもに成長にとっての大きなチャンスです。もちろん大きな環境の変化はありますが、子どもには超える力があると信じ、子どもに任せる比率を増やしていきます。子どもは自分より大きい年齢の子どもに憧れをもっていますので、「小学生になる」という子どもの期待を上手く利用し、適度な距離感を保ち、任せてみる。任せられれば、子どもの自立は一気に加速するでしょう。
学校での様子も気になりますが、「大丈夫だった?」「ちゃんとできたの?」と聞くのではなく、「おかえり!たのしかったね」と伝えられるといいですね。
2、学びの基盤を作る
遊びが学びに置き換わる時期には、学びの面白さを実感させましょう。
そのためには、これから始まる勉強に対して楽しいイメージを持たせるべく、親の言葉かけを意識することがおすすめです。気持ちは言葉で作られます。
「小学校になったら勉強が大変だね」ではなく「お勉強ってワクワクするね」
こんな言葉で、小学校になる日をむかえられるといいですね。
また、実際に教科学習が始まった以降、子どもが自覚的に学んでいけるようにするためには、ある程度の援助も必要です。学習の援助では、「今より少しだけ高いところを見せる」が鉄則です。子どもを観察して、「今より少しだけ高いところ」を見せ「やってみようか」と促します。
子どもには、「もっとよくなりたい」という気持ちが強くありますので、「やってみたい」という気持ちに刺激を与えましょう。毎日一緒にいる親だからこそわかること、見えることかもしれません。
3、ゆっくり進む
我が子にはできるだけ早く、効率的に進んでもらいたい…多くの親御さんが抱く感情かもしれません。よくできる他児も気になります。
「最初が肝心!」と、肩に力が入りすぎてしまうこともあるでしょう。しかし今は、「前に進むこと」以上に、「一歩一歩を丁寧に進むこと」が大切な時期。一つひとつ理解して、納得して進んでいく姿勢が必要です。
集中力や根気強く取り組む力、時には我慢したりする力も、この時期に是非とも育てたい力です。この先の学習の土台となる力です。
子どもが没頭している時には、見守ってあげましょう。子どもには、子どもの時間が流れています。たとえ効率的に見えずとも、そこで集中することに意味があります。
失敗経験をした際こそ、親の力量が問われます。「可愛そうに」や「何やっているの」ではなく、「悔しかったね」と気持ちの代弁をしてあげましょう。自分が受け止め、受け入れられることで、「どうすれば次はうまくいくか」と、子どもの中からアイディアが湧いてきます。
スタートの時期には、ゆっくり進む意識を持つことが大切です。
4、日常生活に「工夫」を取り入れる
今どきの便利すぎる日常は、人間から「工夫する」という機会を奪ってしまっているようです。全て受け身でも生活が成り立つ現在、知恵を使う経験も減ってきていると感じます。そんな背景もあるのか、教育においては、子ども達の思考力や工夫する力を育てることが重視されるようになりました。家庭でも、「工夫する」経験を取り入れていきたいものです。
例えば土曜日の夕食は子どもに任せてみる、日曜日の予定は子どもにたててもらう等はいかがでしょう。
正解がない世界で、子どもは一生懸命工夫するはずです。思い切って旅行の計画を子どもに任せるのもおすすめです。下調べは子どもにとって大きく重要な学びとなるでしょう。
今どきの子どもは幼少期であっても忙しい日々を過ごしているようですが、小学校中学年、高学年と比較すれば、まとまった時間、親子時間もあるのが、幼少期の今という時期です。
5、子どもの気持ちを察する
小1プロブレムと呼ばれる時期、親にとっても大変な時期でしょうが、最も混乱しているのは子どもです。子どもが安心できる環境を作りましょう。家庭とは、子どもにとっての安心、安全な居場所でなければなりません。
子どもが「自分は認められている」という安心感を抱けるよう、周囲の大人が関わっていけるといいですね。具体的には子どもの話を共感的に聴くことがおすすめです。
とはいえ、子どもの意見に賛成できない時もあるでしょう、そんな時には、「そのとおりだね」と賛成する必要はありません。それでも、「そうか、そんな風に感じているんだね」と、共感はしてあげましょう。受け入れてもらったという経験が、次の行動を起こすエネルギーとなるはずです。
もう小学生ですが、まだ小学生。「しっかりしなさい!」と鼓舞するより、「話を聴くよ」と寄り添う場面が必要です。
小1とは子どもの人生の分岐点です。多くの不安や焦りもあるでしょうが、対策をきちんと講じれば、良い方向に進むことができるはず。他児との比較ではなく、「この子」をしっかり見ることで、子どもは安心して成長できるはずです。
■ライタープロフィール
江藤真規
東京大学大学院教育学研究科博士課程修了 博士(教育学)
株式会社サイタコーディネーション代表
クロワール幼児教室主宰
アカデミックコーチング学会理事
公益財団法人 民際センター評議員
自身の子どもたちの中学受験を通じ、コミュニケーションの大切さを実感し、コーチングの認定資格を習得。現在、講演、執筆活動などを通して、教育の転換期における家庭での親子コミュニケーションの重要性、母親の視野拡大の必要性、学びの重要性を訴えている。著書は『勉強ができる子の育て方』『合格力コーチング』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『心の折れない子どもの育て方』(祥伝社)、『ママのイライラ言葉言い換え辞典』(扶桑社)など多数。
クロワール幼児教室
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