2022年05月27日 公開
新・家庭教育論幼少期の学び

お受験してもしなくても、子どもの学びを豊かにするための工夫

『新・家庭教育論 忙しい毎日の子育てコーチング』連載第11回は、幼少期の遊びと学びについて紐解きます。お受験するしないに関わらず、本質的な子どもの学びを豊かにするために家庭でできる工夫をお届けします。

新・家庭教育論幼少期の学び

幼少期の子どもにとっては、遊びが学びです。勉強と遊びに境界線を引くことなく、多様な経験の機会を与えましょう。

子どもの経験を豊かな学びとするためには、親の関わり方が重要です。失敗経験も大切な経験と捉え、子どもを信じてチャレンジさせ、「どれだけのことができるか」ではなく「どのような背景でできるようになったか」を重視します。

また、子どもに質問をすることで、学びの世界はぐんと深まります。時間が短い中でも、少しだけ日常の親子時間に工夫をしてみてください。きっと質の高い学びに向かっていくことができるようになるはずです。

変化の時代にある学びに対する葛藤

新・家庭教育論幼少期の学び

ここ数年で、子どもたちの日常は一変しました。公園にいっても子どもはいませんし、ママ友同志がお喋りをしている姿も見かけません。小さな子どもが一番多く街にあふれるのは、夕方の時間帯。自宅に急ぐ親子連れさんで、マンションのエレベーターは、夕方ちょっとしたラッシュになっています。もちろん皆マスク姿です。

子どもたちが遊ぶのは、保育園・幼稚園、そして家の中。子どもは遊びの天才ですので、いかなる環境でも元気に遊んではいますが、限られた空間、大人のルールありきの環境には「やってはいけない」が多くあるのも事実です。

特に子どもの学びに関しては、複雑な難しさがあるようです。ズラッと並ぶ習い事のラインアップから何を選べばよいのかが分からず、不安を感じる親御さんも多いことでしょう。非認知能力の重要性はわかっても、具体的に何をすればいいのかがつかめませんし、暗記型の学習はもう必要ないと言われても、代わりに何をすればよいのかがわかりません。

それでなくても、窮屈な環境下での子育てを強いられているのに、加えて経験則で物事を語ることが出来ず、見通しを立てることもできないという状況。このような中で、「幼少期の学びは重要である」という事実を突きつけられているのが、今どきの保護者です。焦りと不安のスパイラルから脱出するためにも、今回は学びについて考えていきたいと思います。

小学校受験する?しない?判断に悩む「お受験」

新・家庭教育論幼少期の学び

首都圏の小学校受験は加熱しています。2022年度の応募者数は過去5年で最多とのこと。ここ2年では15%も増加しているとのデータも出ています。(参考:ダイヤモンド・オンライン https://diamond.jp/articles/-/298823)

小学校受験を目指す理由は、我が子のより良い教育環境を整えるため。私学の方が新しい教育への対応がスピーディに見えることが、応募者増加の背景にあるようです。とは言え、この大きな決断には相当な迷いがあることも事実でしょう。お受験はさせたいが、お受験準備のプロセスを考えると、本当に大丈夫だろうか…と。

「お受験はさせたい。でも、まだ幼少期の子どもに勉強ばかりさせたくない」
相反する2つ気持ちの中での葛藤が起き、「お受験する?しない?」で行ったりきたりとなってしまいます。

出口の見つからない悩みの渦から脱出するには、「納得して決定する」以外に方法はありません。「合格のための勉強」を「幼少期の子どもにとっての経験」に置き換え、「お受験準備のための経験」が子どもにとって価値あるものとできるか否かで、決定されると良いでしょう。

正解があるとするなら、「信じる道を進むこと」。決められない不安定さからイライラした感情が出てきてしまうのであれば、少し捉え方を変えてみることがおすすめです。

幼少期の子どもにとっての学びとは

学びというと、勉強をイメージされる方も多いかもしれませんが、幼少期の子どもにとっては、「遊び」が最大の学びです。子どもは遊びながら、不思議を発見します。その不思議を解決しようと、行動が始まります。遊びの中には様々な驚き、発見があり、遊びを通して子どもは学びを深めていきます。頑張る力も育成されます。

誰かと一緒に遊ぶ経験からは、相手の気持ちを理解し、自分の気持ちを伝える方法を学びます。ルールを知るのも遊びからです。遊びの中には、我慢する経験も沢山ふくまれていて、遊びを通して子どもは「気持ちを切り替えること」を学んでいきます。

子どもにとっての学びとは遊ぶこと。見方を変えれば、ペーパー学習であっても、運動であっても、そして習いことであっても…、更にはお受験のための準備であっても、子どもにとっては遊びであり、勉強と遊びに境界線を引く必要はないということです。

「よく遊び、よく学ぶ」を実現するためにも、全ての経験は子どもにとってプラスに働いていると捉えるのが良いでしょう。遊び・学びのプロセスで、子どもたちは将来の財産となる経験と知識を身につけていきます。葛藤を感じたら、とりあえず動いてみる。このような心持ちで、子育てはより充実していくと感じます。

子どもの学びを豊かにする家庭教育の工夫

新・家庭教育論幼少期の学び

子どもにとって、知ることは楽しいこと。知識が増えれば、遊びはもっと楽しくなりますし、コミュニケーションも取りやすくなります。何より自分の気持ちをより相手に届けやすくなるはずです。

では、どうすれば子どもの知識は増えるのでしょう。知識とは、すでにある知識に新しい知識がひも付き、どんどん広がっていくものです。この時期には躊躇せずに、まだ子どもだからと思わずに、沢山学ばせてあげるのが良いでしょう。

以下に、学びを加速させるための3つの工夫を紹介しましょう。

「経験」の質を高める

質の高い教育とは、質の高い経験をするということです。これは、子どもが多様な経験をするということを意味します。

もちろん危険なことは避けねばなりませんが、子どもにとって失敗経験は重要です。できそうなことの中だけで完結させるのではなく、やってみようと思うことを行ってみる、失敗するかもしれないけどチャレンジしてみるという経験は、質の高い経験と言えるでしょう。

子どもには力があります。親が思っている以上の力を発揮することも多々ありますし、一度経験したことは、子どもの大きな自信にもなります。

今の時代、オンラインも含めると、自宅にいながらにして多様な経験を積ませることが可能となりました。子どもには自分からアクセスして選ぶことはできませんので、周囲の大人がアンテナを立て、子どもにあったものを選んであげましょう。

プロセスへの着目

質の高い教育とは、プロセスの質が高いこととも言われています。どれだけできるかということが重要なのではなく、どのような背景でできるようになったか、できるようになるまでのプロセスに豊かな学びがあるということです。
プロセスを見るコツは、子どもの表情を見ること、子どもの発する言葉に耳を傾けることです。どうしても成果(作品)ばかりに向いてしまうまなざしは、意識しなければプロセスには向かいません。

また、子どもとの関わり方にも、その時に応じた工夫が求められます。集中している時には声をかけずに見守ります。「このままでは上手くいなかい」という時でも、手出しをしない方がいいでしょう。そのプロセスこそに学びの意味があるからです。
他方、飽きてしまった、一人ではその先に進めず滞ってしまった等の場面では、一段足場をかけてあげるような気持ちで関わっていくことがおすすめです。ちょっとしたサポートで、その後の流れが大きく変わることもよくあります。

子どもへの関わり方はなかなか難しいものですが、「子どもの様子を観察する」と思うだけでも、プロセスへの意識は高まりますので、是非楽しく、子どもの「今―ここ」を観察してみてください。

子どもに質問してみる

ある程度、お喋りができるようになれば、子どもに質問をしてみましょう。子どもの学びを深めるためには、質問が非常に効果的です。もちろん、子どもを評価するための質問ではありませんし、できているかどうかの確認をするための質問でもありまません。

例えば、子どもが蝶をみつけたら、蝶に関して質問をしてみてください。

「蝶はなぜ飛ぶんだろうね」
「蝶って何を食べているのかな」
「青虫のときには葉っぱを食べるのに、どうして蝶になったら花の蜜を吸うのかな」
「触覚って何をするところなんだろうね」
「もしも〇〇ちゃんが蝶だったら、どこに行きたい」
「そこにいったらどんな景色が見えるかな」

質問はどんどん広がり、そこから学びは深まっていきます。子どもの世界には覚える必要のあること、ないことの区別はありません。どんな些細ことでも、豊かな学びにつなげていくことが可能です。

「質問力」を鍛え、子どもの「思考力・判断力・表現力」を育てよう

親も一緒に学ぼう

親が全てを知っているという誤った解釈は捨てましょう。特にこれからは、親にも未経験のことばかりの時代となります。親が教えてあげることは沢山ありますが、一緒に学ぶ、一緒に遊ぶ方が、双方にとって楽しい経験になるはずです。誰かと一緒に発見する経験、誰かに教えてあげる経験は、誰かから教えてもらう経験より、ずっと心に残る経験となるでしょう。

時間がない中での子育てですが、すき間時間を利用して、幼少期だからこそできる「親子で一緒に」の素敵な経験をしていただきたいと思います。

■ライタープロフィール
江藤プロフィール写真
江藤真規
東京大学大学院教育学研究科博士課程修了 博士(教育学)
株式会社サイタコーディネーション代表
クロワール幼児教室主宰
アカデミックコーチング学会理事
公益財団法人 民際センター評議員

自身の子どもたちの中学受験を通じ、コミュニケーションの大切さを実感し、コーチングの認定資格を習得。現在、講演、執筆活動などを通して、教育の転換期における家庭での親子コミュニケーションの重要性、母親の視野拡大の必要性、学びの重要性を訴えている。著書は『勉強ができる子の育て方』『合格力コーチング』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『心の折れない子どもの育て方』(祥伝社)、『ママのイライラ言葉言い換え辞典』(扶桑社)など多数。
クロワール幼児教室

■江藤さんへのインタビュー記事はこちら↓
イヤイヤ期の言葉がけはタイプ別に!江藤コーチの子育てアドバイス①
子どもをやる気にさせるほめ術は?江藤コーチの子育てアドバイス②
学力向上ために6歳までにやるべき6つのこと。江藤コーチの子育てアドバイス③

■江藤さんの著書紹介

\ 手軽な親子のふれあい時間を提案中 /

この記事のライター

江藤真規
江藤真規

サイタコーディネーション代表。サイタコーチングスクール、クロワール幼児教室主宰。東京大学大学院教育学研究科博士課程修了 博士(教育学)。皆が「子育ち」を楽しめる社会を目指して、保護者さまのエンパワメントを行っています。社会が大きく変化する中、幼児期の子育てにも新しい視点が求められます。子育ての軸をしっかりと築き、主体的な子育てに向かうためにお役立ちとなる情報を、コーチングの考え方を基軸に配信いたします。HP:https://croire-youjikyousitu.com/