筆者の娘が中学受験勉強を始めたのは小6秋。かなり遅いスタートだったからこそ、痛感したのが読解力の重要性でした。
時間がない中で、6年生の単元を終わらせ、各教科の受験テクニック(=小学校の履修範囲を超える内容の知識や能力の取得)を身につけ、志望校の過去問数年間分をすべて解く・・・ことをしなければなりませんでした。つまり、テキストや問題集の内容を「速く、正確に読み取る力」が必要とされます。
国語はもちろん、算数・理科・社会の過去問においても、惑わせるような情報や言い回しのある問題文があり、大人でもミスなく読み取ることが難しいと感じました。
文章を速く、正確に読む力=確かな読解力は、読書によって身につきます。集中力と読解力を高める効果が高いのは、ある程度な長さのある本です。小学校高学年であれば200ページ以上のボリュームのあるものがおすすめ。
文芸作品、時代小説、ホラー、ファンタジー、科学読み物・・・ジャンルは問いません。お子さまの好きなジャンルの長編作品で「本の世界に入り込み、集中する面白さ」を実感させてあげましょう。
娘は特別本好きではありませんでしたが、幼児期は読み聞かせ→絵本1人読み、小学生からは好きな本を自由に(小説・図鑑・短編集・実用書)読ませていました。
300ページ超の小説文庫本を集中して読めるようになったのは、小学校4年生の時。
それまでは長編を読むのが苦手でした。1冊読むのに10日間かかることもありました。語彙力が足りないために、「これってどういう意味?」と親に聞くことも多く、読むことに時間がかかり、集中力が途切れてしまっているようでした。
「出口汪の新日本語トレーニング」を使って論理的思考力、文章力を鍛えよう
読書力をつける=学力アップ
文章を速く、正確に読む力
は読書をすることで養われます。集中して長文を読み続けられる読書力がある子は、集中力・語彙力・読解力・文章力・論理的思考力などの「学力」の土台となる能力も高いです。
こういった全教科に必要とされる能力は、中学受験「国語」の成績にも直結します。
中学受験専門塾 伸学会代表 菊池洋匡『小学生の子の成績に最短で直結する勉強法』では、受験国語の成績を伸ばすためには、以下の能力と知識が必要としています。
【能力】 | 【知識】 |
---|---|
・正確に読む力 ・速く読む力 ・覚えながら読む力 | ・語彙・背景知識 ・言い換える技術 ・理由をたどる技術 ・比べる技術 |
これら(特に能力)は塾だけでは、十分な指導は難しいとして、以下のように述べています。
これらの「3つの能力」および「語彙・背景知識」を身につけさせるのに、私が最も効果的だと考えるのが読書です。子どもは読む経験を積み重ねることで、速く・正確に・覚えながら読む能力を体得し、あわせて語彙・背景知識を吸収していきます。
引用:菊池 洋匡『小学生の子の成績に最短で直結する勉強法』実務教育出版,2020
幼児期から少しずつ”1冊のボリューム”を増やしていこう
菊池氏の定義する3つの能力(正確に読む力・速く読む力・覚えながら読む力)は、ある程度のボリュームのある本で鍛えられます。
小学校低学年までに、100ページ以上の「絵本ではないもの」を読むことに抵抗がないようにしておくと良いでしょう。
幼児期から少しずつ以下の4ステップを踏んで、読書力を伸ばします。
2.絵本の1人読み(自分で選ばせるのがおすすめ)
3.100ページ前後の絵本ではない本の1人読み(ジャンル・形態は自由)
4.200ページ以上の長編を読む。
読書が苦手なお子さまでしたら、3と4の間に、これからご紹介する「長編へのステップアップになる本」を入れると、無理なく読書量が増えるはず。
地頭の良い子を育てる読書習慣
令和4年12月に文部科学省が発表した「子供の読書活動推進に関する有識者会議 論点まとめ」では、子どもの教育にとって読書活動は欠かせないものであるとして、以下のように述べています。
〇社会の変化が加速度を増し、複雑で予測困難となっている時代 において、子供たちは、自分のよさや可能性を認識するとともに、 あらゆる他者を価値のある存在として尊重し、多様な人々と協働し ながら様々な社会的変化を乗り越え、豊かな人生を切りひらき、持続可能な社会の創り手となることが求められる。
〇こうした子供たちの資質・能力を育む上で、読解力や想像力、 思考力、表現力等を養う読書活動の推進は不可欠である。子供たち は、読書を通じて、多くの知識を得たり、多様な文化への理解を深めたりすることができる。また、文学作品、自然科学・社会科学関係の書籍や新聞、図鑑等の資料を読み深めることを通じて、自ら学ぶ楽しさや知る喜びを体得し、更なる探究心や真理を求める態度が培われる。
引用:文部科学省「論点まとめ本文(令和4年度子供の読書活動推進に関する有識者会議)」令和4年
子どもが興味を持つ分野の書籍の読書体験を多く持つことで、知的好奇心を育て、学ぶ喜びが感じられるようになります。「文学作品、自然科学・社会科学関係の書籍」等のハードルが高く感じるようであれば、字数が少なく、図や絵の多い書籍から読んでみましょう。
まずは無理なく楽しく読める本からスタートします。
読書力は生活力
独立行政法人 国立青少年教育振興機構の「子どもの生活力に関する実態調査」(平成27年)によると、”読書をすることが多い子供ほど、コミュニケーションスキルや礼儀・マナースキルが高い傾向にある。 ”という結果が出ました。
読書で筆者の経験、知識を自分の中に取り入れることで、語彙力・表現力・想像力・推理力等が育っていきます。
「物語に入り込み、登場人物に感情移入して号泣。」
「図鑑で見たトリケラトプスの骨格模型を博物館に観に行く。」
「アニメ原作の歴史小説の舞台となった寺院を親子で回る。」
読書によって、感情が揺さぶられたり、知的経験を重ねたりすることで、社会とのつながりも増えていきます。
【低学年向け】長編へのステップアップ本「読書の楽しさが実感できる4作品」
幼児期~小学校低学年の子どもの集中力持続時間は「年齢+1分」程度。小学2年生でも、10分集中するのは難しいかもしれません。
長編の読み物でしたら、日数をかけて少しずつ読むのが良いでしょう。
この章では「読書が苦手」、「読み聞かせは良いけれど、1人読みができない」、「字が多い本が嫌い」など、読書に苦痛を感じる低学年のお子さまの、「読書量」を増やす本をご紹介いたします。
大どろぼうホッツェンプロッツ
タイトル:大どろぼうホッツェンプロッツ
著者:オトフリート=プロイスラー (著), トリップ (イラスト), 中村 浩三 (翻訳)
出版社:偕成社
仲良しの少年2人組「カスパール&ゼッペル」が、大どろぼうホッツェンプロッツから、おばあさんのコーヒーひきを取り返すまでの冒険と知恵比べのお話です。
180頁以上の作品ですが、21章に分かれていて、気持ちが切り換えられるので飽きずに読み進めることができます。
ホッツェンプロッツの豪快さ、カスパールとゼッペルの深い友情、ジャガイモ好きな大魔法使いツワッケルマンの失態・・・子どもの興味を引きながら、感情を揺さぶるストーリー展開は大人も楽しめます。
カスパールが魔法使いのツワッケルマンをだますために、わざと失敗ばかりする章、「できるだけ、ばかのように」は、お子さまが笑い出すかもしれません。
にんきもののひけつ
タイトル:にんきもののひけつ
著者:森 絵都 (著), 武田 美穂 (イラスト)
出版社:童心社
バレンタインデーに27個もチョコをもらう「にんきもののこまつくん」を、尾行して「にんきもののひけつ」を探る、けいた。
こまつくんを観察してわかった「にんきのひけつ」とは?
いわゆるモテ男子のこまつくんを、ひがまず、まっすぐに理解しようとする、けいたくんの素直さにほっこりします。
小学校に入ると、自分を他者と比べて、客観的に見るようになってきます。自分と友達、友達同士を比べて「劣っているか、勝っているか?」が気になるのは、成長の証。しかし、それにとらわれ過ぎると視野が狭くなります。
人を表面的にカテゴライズせず、向き合ってみる大切さが伝わる作品。友達の話を聴いている感覚で読める1冊です。
1話5分! 小学生のうちに読んでおきたい名作101
タイトル:1話5分! 小学生のうちに読んでおきたい名作101
著者:齋藤孝 (監修)
出版社:日本図書センター
赤毛のアン、西遊記、ごんぎつね、星の王子様、走れメロス・・・世界と日本の名作を5分で読める解説にまとめています。小学校の教科書で取り上げられている作品も含まれているので、自分が読んだ感想と本書の解説を比べるのも面白いですよ。
あらすじ、作者の略歴、語句の意味、齋藤孝先生の物語の要点をまとめた解説を短時間で読むことができます。実際の作品に興味を持つきっかけにもなるでしょう。
低学年向け、中学年向け、高学年向けに分けられていますが、すべての作品にイラストと解説がついているので、学年が上の作品でも楽しめます。
ポケモン空想科学読本1
タイトル:ポケモン空想科学読本1
著者:柳田理科雄 (著), 株式会社ポケモン (監修)
出版社:オーバーラップ
・ピカチュウが放つ「10まんボルト」の電撃の威力を知る。
・何でも溶かすリザードンの炎から、物質の状態変化を学ぶ。
・カメックスのロケット砲から、作用・反作用の法則を理解する。
など、ポケットモンスターのキャラクターの技の威力や、世界観を現実世界と照らし合わせて科学的に解説した、「おもしろ科学読本」。
ポケモンへの興味を、理科の用語、科学の知識に結びつけることで、無理なく覚えられます。
字がびっしりで、一見低学年には敬遠されそうですが、いつのまにか夢中になっている子が続出しているベストセラーの科学入門書です。
【中学年向け】長編へのステップアップ本「先が気になる、やめられない4作品」
低学年よりも友人関係に重きをおくようになる中学年。自立心が強まり、親からの注意や意見に反発することも増えてきます。親から本を読みなさいと言われると、余計に読まなくなる子もいるでしょう。
本選びや読むペースはお子さまに任せて、いつでも読書ができる環境を整えてあげればOK。
グレッグのダメ日記(シリーズ)
タイトル:グレッグのダメ日記
著者:ジェフ キニー (著), 中井 はるの (翻訳)
出版社:ポプラ社
グレッグ少年の冴えない、リアルな日常が共感と笑いを誘います。親や兄弟への不満、友達への優しさと嫉妬、異性へのときめき・・・素直な気持ちを飾らずつづった日記は、小学生人気書籍の定番となりシリーズ化されています。
子どもが読みたくなるような秀逸な副題が特徴的。どれも読んでみたくなります。
・ボクの日記があぶない! (グレッグのダメ日記 2)
・なんとか、やっていくよ(グレッグのダメ日記 5)
・さすがに、へとへとだよ (グレッグのダメ日記 13)
現在第16巻まで出版されています。
途中の巻から読んでも楽しめますよ。
失敗図鑑 すごい人ほどダメだった!
タイトル:失敗図鑑 すごい人ほどダメだった!
著者:大野 正人 (著)
出版社:文響社
「偉人の伝記は読む気がしないけれど、偉人の失敗伝なら興味ある!」というお子さま(親御さんも?)は多いのでは?
夏目漱石、与謝野晶子、ベートーヴェン、ピカソ・・・国内外の英雄、成功者たちの失敗や挫折を集めた「勇気の書」です。
偉人たちの成功に隠れた残念エピソードを読めば、「失敗することは悪いことではない、恥ずかしいことでもない!」と心から思えるでしょう。
ユニークで表現力豊かなイラストが多いので、偉人を身近に感じられます。
5分後に意外な結末(シリーズ)
タイトル:5分後に意外な結末(シリーズ全5巻)
著者:学研教育出版 (編集)
出版社:学研プラス
想像力、論理的思考力、推理力を使って読む「脳トレ短編集」。
予想を超える意外な結末は、次の作品への期待に繋がり、集中力を持続させます。
怖い話、感動する話、SF、ミステリーなどさまざまなジャンルの短編を集めました。1冊が200ページ弱のボリュームですが、1話が数ページ、長くても20ページなので、読書が嫌いなお子さまでも読み切りやすいはず。
「字の多い本は敬遠してしまう」お子さまにもおすすめです。
夜の小学校で
タイトル:夜の小学校で
著者:岡田 淳
出版社:偕成社
小学校の図工専任教師経験38年の岡田先生の描く「夜の小学校を舞台にしたファンタジー短編集」。
桜若葉小学校の夜警員の仕事をすることになった「ぼく」が体験した、不思議で心温まる18の出会いが書かれています。
背広を着た大男が校庭に現れたり、子どもの笑い声の妖精に出会ったり、理科の先生が実はショウリョウバッタだったり・・・奇想天外なエピソードばかりですが、実際にあったかもしれないと感じさせられる、リアルで繊細な描写です。
「こんなことあるわけないよー。」と読み始めた子も、1章進むごとに”岡田 淳ワールド”にはまっていくことでしょう。
【高学年向け】長編へのステップアップ本「作品世界に没頭する喜びを実感できる4作品」
感受性が豊かになり、語彙力も増える高学年からは、中高生向けの長編小説や、ノンフィクション作品、自己啓発本に挑戦してみるのも良いでしょう。
児童文学作品よりも言葉や言い回しが難しかったり、風景の描写が長かったりして、物語の世界に入り込むまでに時間がかかる作品も、根気よく読み進めることで、作品の世界に入り込めるようになります。
数日かかっても良いので1冊を読み切ることが、「集中して長文を読み続け、読解する力=読書力」を養います。
おーいでてこーい ショートショート傑作選
タイトル:おーいでてこーい ショートショート傑作選
著者:星 新一 (著), 加藤 まさし (選), 秋山 匡 (絵)
出版社:講談社
生涯で1000編以上の作品を執筆した「ショートショートの神様」星新一の子ども向けの傑作選。
簡潔で余分な言葉が少なく、ストーリー展開が速いので1作品を数分で読めてしまいます。結末で大どんでん返しがあるので、途中でやめることができない中毒性があります。風刺がきいていて、毒のある、ちょっぴり大人な作風は小学校高学年~中学生にささりそう。
読みやすい、人に伝わりやすい文章の書き方も学べます。
クラスメイツ(前期・後期)
タイトル:クラスメイツ
著者:森 絵都
出版社:KADOKAWA
北見第二中学校1年A組のクラスメイツ24人、1人1人の視点から描く1年間。アイデンティティに悩む子、異性に対して素直になれずに苦しむ子、親友と恋敵になる不安に怯える子・・・リレー形式で、それぞれクラスメイツの心の動きを丁寧に描写した青春連作短編集です。前期224ページ、後期256ページ。
どの子にも共感できる部分があるので、物語に入り込みやすいです。
人間関係の悩みが増えてくる高学年。他者から見た自分と理想の自分との落差に傷つくこともあります。この作品を読むことで、どんな人にも悩みや弱点があり、コンプレックスを持っていることに気づけるでしょう。
君と出会えたから
タイトル:君と出会えたから
著者:喜多川 泰
出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン
17歳の夏休み。ヨウスケは将来に不安を感じながらも、漫然と毎日を過ごしていました。ある日、美しく、謎めいた少女ハルカに出会い、「素晴らしい人生をおくる方法」を教えてもらったことで、夢・人生・命について真剣に向き合うようになります。
生きていることの素晴らしさ、自分の求めている本質を知る方法、先入観を捨て挑戦する気持ち、お金を稼ぐことの意味・・・子どもに伝えたい「将来を切り拓くヒント」が書かれた青春小説×自己啓発本です。
あと少し もう少し
タイトル:あと少し もう少し
著者:瀬尾 まいこ
出版社:新潮社
陸上部の名物顧問が転勤となり、新たに顧問となったのは頼りない美術教師でした。部長の桝井は駅伝大会のメンバーを募りますが、集まったのは、いじめられていた設楽、不良少年・太田、プライドの高い渡部、バスケ部部長であり生徒会書記でもある仲田・・・あまり駅伝向きとは言えない生徒4人。そして桝井の走りに憧れて入部した後輩・俊介は、桝井を支えて部を盛り立てていきます。
桝井にとって中学最後の大会に向けて、寄せ集め6人の練習が始まります。
目標は県大会出場。お互いの気持ちをぶつけ合い、協力して練習を重ねる中で、顧問と部員は信頼し合い「駅伝チーム」になっていきます。
顧問の先生が部員や他校の先生に助けられて、成長していく姿にも心打たれます。
時間がかかっても良し!とりあえず1冊読み切ろう
想像力を働かせながら読めるようになると、「文章を読む」から「本の世界に入り込む」ようになります。そうなると、たくさんの文字を読む面倒くささよりも、ストーリーや書いてある情報を追う高揚感や知的好奇心が勝り、読書を楽しめるようになります。
読書が苦手な子は、最初の数ページで
「この本はつまらなそう。」
「自分の興味ないジャンルの話だな。」
と感じると、途中で投げ出しがち。
筆者の娘もそうだったのですが、長編小説や科学や生物の図鑑なら10ページ以上、短編集であれば1作品読むことで、興味が出て、その世界に集中しやすくなります。
まずは30分、(難しければ15分)集中して読んでみましょう。読み進むスピードは遅くても、問題ありません。数日かけても良いので、1冊の本を読み切ることが読書への苦手意識を減らし、読書力を育てます。