2017年08月02日 公開

人気子育てメディアの編集長に聞く!【おもちゃ選びの本質】

「子どもの成長や発達のためには、どういうおもちゃを与えるべきか」と玩具選びに悩む方がいる一方で「せっかく高いおもちゃを買っても、結局ゴミでよく遊んでいる」という複雑な思いを抱えるパパママも多いのでは?人気子育てメディア「コノビー」の編集長で、長年、玩具論と遊び論を研究している渡辺龍彦さんにお話を伺いました。

「子どもの成長や発達のためには、どういうおもちゃを与えるべきか」と玩具選びに悩む方がいる一方で「せっかく高いおもちゃを買っても、結局ゴミでよく遊んでいる」という複雑な思いを抱えるパパママも多いのでは?人気子育てメディア「コノビー」の編集長で、長年、玩具論と遊び論を研究している渡辺龍彦さんにお話を伺いました。

おもちゃ選びと与え方に悩む方へ:人気子育てメディアの編集長に聞きました!

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渡辺龍彦さん:子育てメディア、コノビー[Conobie]編集長。LITALICOにて障害者・障害児支援と施設マネジメントに5年間携わった後、ネット事業へ。
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大人気の子育てメディア、コノビー[Conobie]。編集長の渡辺龍彦さんは、高校生の時からおもちゃの魅力に惹かれ、玩具論と遊び論を独自に研究しているそう。

知育玩具に興味があり、「知育に良いおもちゃとは何か」を考え、少しでも子どもに良いおもちゃの情報を知りたいChiik!読者のために、おもちゃの意味から、選び方、またヨーロッパと日本のおもちゃの違いまで、さまざまなお話を伺いました。

ネフ社玩具に感動!おもちゃデザイナーになりたかった。

EDU‐TOY ネフとヨーロッパの木製知育玩具たち (Edutainment toy series (Vol.1 wood)) | 小柳 帝, プチグラパブリッシング |本 | 通販 | Amazon (57618)

商品名:ネフ キュービックス・赤
——Chiik!読者は、おもちゃに関心がある方がとても多いのですが、渡辺さんがおもちゃに興味を持ったきっかけや経緯を教えてください。

渡辺(以下敬称略):おもちゃというテーマに関わりはじめて、14年間ほど経ちます。とはいえ、最近はちょっと減速気味。遊び場での活動の方に重心を置いていて、玩具そのものの研究からはここ数年間は離れていますが。

そもそもは、高校1年生の時、家にたまたまあった、ネフ社の積み木を紹介するビジュアルブックに出会ったことがきっかけです。

一流メーカーが、 “たかが子どものおもちゃ”に、ものすごい熱量でデザインをし、美しいものを作っていることに感動しちゃったのです。

その本はヨーロッパの木製玩具の素晴らしさを伝えている本でしたが、一方で日本では、玩具は取るに足らないもの、ガラクタというニュアンスで扱われていて地位が低く、熱を注いでいる人が少ない。日本の現状に対する、そんな批判も同時に込められていたように感じました。その考え方に、当時の僕はかなり影響を受けたのです。

「日本人が、胸を張って“良い”と思えるおもちゃを自給自足できていない現状は情けないんじゃないか」というよくわからない正義感のようなものが湧いてきて。日本人のために本当に良いおもちゃを作るためにおもちゃデザイナーになろうと考えるようになりました。

「良いおもちゃ」を作るだけではだめだと気づいた。

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渡辺:おもちゃを研究するため、高校1、2年生で、都内にある主要なおもちゃ屋さんは、ほぼ全て巡りました。そんなある日、当時原宿にあったボーネルンド専門店で、ふと手に取った本で、ある1枚の写真に衝撃を受けたのです。

フォトジャーナリストの中西あゆみさんが、世界30カ国の子どもが遊んでいる様子をおさめた『地球はこどものあそび場だ…。』という写真集です。カンボジアのゴミ山で生計を立てている子どもたちが、拾ったゴム紐を集めてつなぎ、ゴム跳びをして遊んでいる写真が、むちゃくちゃ衝撃で。とても楽しそうなのですが、使っているのはゴミ!

【幸せそうな笑顔とゴミ】という対比を見て、おもちゃはなんでもいい、大事なのはこの笑顔の方だ、と感じたんです。

それまでは、こだわりのおもちゃを作るための道をまっすぐに目指していたけど、それでは、「どう作ってどう売るか」の方に固執してしまいそうなので、やめました。そして、多角的なアプローチの仕方を探る方向を目指し、今に至ります。

とはいえ、「おもちゃの価値とは」という問いも掘り下げたかったので、高校3年生の時に、年に1回開かれる、ドイツのニュルンベルク国際玩具見本市に潜入しています(本当は高校生なんて入れないのですが、バイヤーの名刺を偽造して。笑)。そこでネフ社をはじめ、尊敬するメーカーの人たちと話をすることができました。

そして、大学生の2年間、遊び場づくりの活動にも関わりながら、ヨーロッパ玩具を主に扱う「ニキティキ」で販売員を勤めました。

おもちゃの販売員を通じて感じた「おもちゃ売り場」の重要性

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–そういう経験を経た上で、どういうおもちゃ選びをしたら良いかのアドバイスはありますか?

渡辺:玩具専門店で、いろんなお客さんの接客をしながら気づいたことがあります。積み木売り場で3時間くらい悩んで選ぶ親御さんがいる一方で、何でもいいとパッと買ってく人もいて、買う人のおもちゃに対する捉え方がすごく出ます。

僕としては、商品として売られているおもちゃそれ自体よりも、おもちゃを買う行為そのものに、意味があると考えています。

実は、ある特定のおもちゃが子どもの遊びにどう影響するかは、実験して検証してもあまり意味がない。実験の結果が出たとしても、全く同じ状況で子どもが遊ぶことはないからです。遊びは子どもと響き合いながら発展していきますが、その世界においては、ただの石ころでも、ネフの積み木でも、価値は同じです。

ですが、おもちゃ売り場でおもちゃを買うということについては、遊びの現場から離れたところで、子どものことを真剣に考え、何が良いかな、と選択する大人の想いが問われる。一方通行な想いであっても、そこに込められたメッセージこそが、ギフトとしてのおもちゃの価値だと思います。

おもちゃに過剰な「効果」を期待してしまう親……

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Mikhail Rulkov / Shutterstock.com
—おもちゃを買う際には、親として、収納や利便性、耐久性、さらには費用対効果を気にしてしまう方も多いようです。

渡辺: 店頭では、知育的な効果を訪ねられることも多々ありました。特にかなり高価なおもちゃには「本当に子どもにいいんですよね?」という確認をする方も。

でも、それはわかりません。例えば、高級メーカーと廉価版の木製の電車おもちゃを比べて、子どもに及ぼす知育効果の明確な差が出るかどうかなんて、誰が指摘できるでしょうか。

しかし、おもちゃ専門店の販売員として、買うまでのプロセスをより豊かにすることはできます。メーカー側の思いを伝え、その中で、気づきや発見の機会を提供することはできます。

子どもに、どういう方針でものを与えたいのか考えることに価値があるのではないでしょうか。そこで育まれる思いや、教育的なスタンスを明確にし、遊びに対する捉え方を認識することに意味があると思います。

積み木選びは、親のスタンスが問われる!?

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–それぞれのおもちゃに、どんな特徴や意図、思いがあるのかの知識も重要でしょうか。

渡辺:積み木を選ぶ際が、一番わかりやすいかもしれません。

フレーベルの積み木の基尺は3.3cm、和久洋三さんの積み木は5cm。この考え方は発達段階に合わせて適切な大きさが変わるといわれたり、造形遊びの展開しやすさなどが変わってくるといわれたり。メーカーによって考え方がよく現れるポイントです。それから材質も、ナラ材かパイン材かでも、手触りや持った時の重さの印象全然違います。

それから、角の面取りにも哲学が現れます。シュタイナー教育で使われる積み木は、木の皮が付いていて、かなり自然に近いいびつさを残した形です。

メーカーによっては、四角も三角もかなり丸っぽく仕上げるところもありますね。子ども向けのものだから、やさしく、丸く、痛くないようにと。

一方で日本を代表する童具デザイナーの和久洋三さんの積み木は角が尖っていて、触ると痛いくらい。それは「角は痛いもの、足の上に落としたら痛い」と知って欲しい、という理念のもとに作られているからです。

それぞれの思いや意味を知った上で、どれを選ぶか。そこには、親としてどうしたいか子育て方針を確かめる作用があると思いますよ。

おもちゃ1個あたりの価値を問わないこと

–子どもにとっての良いこととは何か?の回答や意味を常に探している親にとっては、良いメッセージですね。

渡辺:親の思いが一方通行になっているように聞こえる話ですよね。でもそれでも良いと思っています。必ず、子どもに一定の効果を及ぼさなくてはいけないと思いすぎてしまうと、せっかくの遊びの場が楽しくなくなります。例え、親の一方的な願いで、効果が現れなかったとしても「まあいっか」と思っておけば、少なくとも買う段階で色々と考えたことで、親としてのスタンスが明確になったという、大きなメリットが残ります。

「このおもちゃでこの子の想像力が豊かになった」と立証できるのか。指先の感覚がどうこう、と説明する知育玩具が多いですが、子どもはしょっちゅう、お母さんのボタンとか机の角とかいろいろ触っているので、それと何がどう違うのかは、誰も説明できないと思うんです。

だから、おもちゃ1個あたりの価値を問うよりも、そこに親がどういう思いをはせて買ったのか、その中身が詰まっていることが重要だと思いますよ。

「ものに固執しない」日本のおもちゃの捉え方

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–冒頭でおっしゃっていたように、日本にはあまり良いおもちゃがないのでしょうか?

渡辺:一概に比較できないですね。それは日本のおもちゃに対する眼差しが異なるからです。

ヨーロッパと日本では、おもちゃの捉え方が違います。積み木はフレーベルの「恩物(おんぶつ)」が出発点ですが、遊びではなく教育が目的です。恩物は、万物の真理をいかに教育として伝えていくかという思想が根底にあります。

一方で、日本のおもちゃは祭りの手土産のようなものとして発展しました。祈りや魔除けなどの目的で、素材もワラなどで作られたものが多く、保存する感覚があまりありません。むしろ翌年には燃やしてしまったり、朽ちていったりするもの、という捉え方があるように思います。加えて、日本語の「おもちゃ」には、ガラクタというニュアンスもあり、「そんなおもちゃみたいなもの買ってきて」など否定的表現があるくらいです。

西洋的な玩具感では、「日本はおもちゃをないがしろにしている」と批判されます。本気度が違う、プロダクトとしての作り込みが違うからです。僕も最初は日本のおもちゃはダメだと思っていました。

その後、民俗学などをあたってみて、「ものに固執しない」という日本のおもちゃの捉え方はむしろいいなと思っています。遊び方はいろいろあるのです。遊ぶ人間の側に主導権がある。日本には妖怪もいるし、いろんなファンタジーの中に生きる力がある。それをモノに残してこなかっただけです。折り紙など、その場その場で、あるもので作ればいい、という考え方です。

与えてはいけないおもちゃはある?親がしていけないことは?

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–では、双方に当てはまらない、量産型、商業的なおもちゃはどうでしょうか?あまりすすめられないものでしょうか?

渡辺:僕は玩具論と遊戯論を学びましたが、遊戯論の立場からすると、何を使おうと、そしてそれが戦争ごっこだろうと、そこに遊びがあれば良いと思います。

異なる人形を使いながら「ドラえもんとミッフィーが出会って結婚して、ウルトラマンが生まれました」というようなシュールな遊びを生み出す子もいます。そこで「ドラえもんはそんなことはしない」とやめさせ、限定するなら、遊びを阻害しているのは、キャラクターではなく、周囲の大人の方です。

何で遊ぶかよりも、どう遊ぶのかの方がずっと重要だと思いますよ。

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最後に

子どもの発達や教育のためによく考慮されたおもちゃは、その思いをよく知り、どれを選んで与えるかということ自体に、子育てに関する学びがある。

また、「身の回りにある廃材を使って遊ぶ」ことに価値を見出す日本のおもちゃの遊び方にも、伝統や歴史があるということを知っておくと、矛盾や相反するのだと思い悩む必要はないかもしれません。

ありがとうございました!

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この記事のライター

志田実恵
志田実恵

エディター/ライター。札幌出身。北海道教育大学卒業(美術工芸)。中高の美術教員免許所持。出版社でモバイル雑誌の編集を経て、様々な媒体で執筆活動後、2007年スペイン留学、2008〜2012年メキシコで旅行情報と日本文化を紹介する雑誌で編集長。帰国後は旅行ガイドブック等。2014年6月に娘を出産。現在は東京で子育てしながらメキシコ・バスクの料理本の編集のほか、食、世界の子育てなどをテーマにwebを中心に活動中です。