1本の紐からさまざまな形を生み出す「あやとり」。誰もが一度は遊んだことがあるのではないでしょうか。
手軽にはじめられるあやとりですが、さまざまな知育効果が期待できる遊びです。その効果と意外な歴史も解説します。
あやとりをはじめるのに適した年齢、紐の種類や長さ、技なども紹介しますので、ぜひ親子でチャレンジしてみてください。
世界で楽しまれているあやとり
あやとりは日本の伝統的な遊びだと思っていませんか?実はそうではありません。あやとりは世界中で楽しまれている遊びです。
その起源ははっきりしていませんが、どこかひとつの国からではなく、世界各地で自然に生まれたと言われています。
国際あやとり協会によると、世界には3000種類以上のあやとりがあり、そのうち2000種類がオセアニア地域にあるそうです。その土地の歴史や神話などを表現したあやとりもあり、文字のない時代にそれらを後世に伝える手段として使われていたとも考えられています。
その土地独自のものを表していたり、日本と同じ形のあやとりでも表現するものが違ったり、世界のあやとりを調べてみるのも楽しいですよ。
日本のあやとりの歴史
日本でいつからあやとりが行われていたのかも明らかになっていません。江戸時代の俳句や絵にあやとりの描写が見られることから、その頃にはすでに一般的な遊びであったと考えられています。
ふたりで交互に取り合って、吊り橋→田んぼ→川・・・と技をつなげていくお馴染みの「ふたりあやとり」は、江戸時代初期に外国から紹介されました。これをすべてひとりでやれるようにアレンジした「ひとりあやとり」は日本独自のものです。
日本であやとりが根付いたのは、和服を着るため日常的に紐を結んでいたことや、日本人の器用さが適していたからとも言われています。
1978年には数学者である野口廣氏を中心に「日本あやとり協会」が立ち上げられました。その後協会は「国際あやとり協会(ISFA)」に名を改め、カリフォルニアに本部を移し、現在も活動を続けています。協会の会員数は、世界39ヵ国、約260人(2020年10月時点)。
日本のあやとりは、ほかの国のものより取り方が簡単で、左右対称のものが多いのが特徴です。
あやとりで得られる6つの知育効果
あやとりでは
・指先をたくさん動かす
・手順を覚える
・技を完成させる
・新しい技に挑戦する
・ふたりで取り合う
・自分でオリジナルの形を作る
という動作が伴います。ここから得られるあやとりの嬉しい効果について解説します。
脳の活性化
「第二の脳」とも言われる手。手指を動かすあやとりは、脳に多くの刺激を与え活性化させます。
カナダの脳神経外科医であるワイルダー・ペンフィールドの「ホムンクルスの図」によると、脳には「運動野」と「感覚野」があり、それぞれが体の部位に密接につながっているとされます。中でも手指は、運動野の約1/3、感覚野の1/4をも占め、脳の働きに大きな関りがあるのです。
あやとりをして脳を活性化させることで、思考力や運動能力などを高め、子どもの脳の発達によい影響を与えることが期待できます。
記憶力アップ
あやとりで技を再現するには、その手順を記憶する必要があります。どの指でどの糸をどのように取るのか、ひとつでも違うと正しい形にはならず、技によっては多くの過程を覚えなければなりません。そうしているうちに記憶力が育まれます。
娘とあやとりをしている私も、昔の記憶を辿ったり、本を見て新しい技に挑戦してみたり、記憶力が試されているようです。
集中力アップ
あやとりは集中力も高めてくれます。手順をひとつずつ確認しながら集中して取り組まなければ技は完成しません。新しい技に挑戦する際には特に集中して取り組むはずです。
一度覚えた技の繰り返しでも、紐の形を保つための集中力が求められます。
達成感を味わえる
あやとりの技を完成させたときの達成感は、子どもの大きな自信となります。この時の達成感は、数学の難問を解いた時の感覚と同じだそう。
わが家の4歳の娘も、失敗と挑戦を繰り返した末にはじめて「ほうき」ができたとき、とても満足そうで自慢げでした。
想像力アップ
あやとりでできあがるのは、1本の紐で構成される抽象的な形です。それを意味ある何かに見立てる遊びでもあります。
これは何かな、ここがこれに見える、とイメージすることで想像力が鍛えられるでしょう。
完成された技だけでなく、自分で新しい形を作り出すこともできます。娘も”これは川に見えるね” ”これはすべり台だよ” とその時々でできた形を私に見せてきます。
コミュニケーション力アップ
あやとりは手軽に相手とコミュニケーションをとれる遊びです。ふたりあやとりはもちろんのこと、世代や国を超えても通用するコミュニケーションツールでもあります。
子どもに教える際には、親子のコミュニケーションが生まれますね。
あやとりは何歳から?どんな紐で?どんな技で?
あやとりは何歳からはじめられるのか、紐はどんなものがいいか、どんな技から挑戦すればいいのかなど、あやとりをはじめるにあたって気になることを解説します。
あやとりは何歳からできる?
子どもによい影響を与えるあやとりですが、一体何歳からはじめられるのでしょうか。
市販のあやとり本では、対象年齢が3歳からというものが見られます。実際には4~6歳頃にはじめる子が多いようです。
紐を首などに巻き付けないように注意して、3歳以降の興味を持ったタイミングではじめるのがひとつの目安となります。
あやとりに適した紐は?
挑戦したい技に合った長さや素材、太さがありますが、国際あやとり協会会員野口とも氏によると、子どもなら長さ140㎝か160㎝のアクリル素材のひもが1本あるとよいそうです。長さは特に手の大きさにもよるので、両手を左右いっぱいに広げたくらいの長さを目安にしてみてください。
輪にする際には、なるべく結び目が出っ張らないよう注意しましょう。紐によっては両端を接着剤でくっつけて輪にする方法もあります。
あやとりによく使われる毛糸は、すべりが悪くてひっかかりやすく、毛羽立ちやすいという難点があります。毛糸を使う際には、強度や伸縮性がアップするくさり編みにするのも一案です。かぎ針で編んでもよいですが、指編みなら子どもでも自分で編むこともできます。
指編みであやとり紐を作る方法はこちら→ https://chiik.jp/articles/l2jx0/
簡単な技からはじめよう!興味付けにはマジックも!
子どもに「できた!」を味わってもらうためにも、簡単なものから挑戦してみましょう。
簡単で、出来上がりの形がわかりやすい「ほうき」からはじめてみるのはいかがでしょうか。親指と小指の紐をはずす最後の工程を、パンっと両手を合わせながらやると盛り上がります。この動きから「パンパンほうき」とも呼ばれている技です。
ほうき https://chiik.jp/articles/m4f2u/
子どもにまず興味を持ってもらいたいなら、マジックのようなあやとりを見せてみるのもよいかもしれません。
「指ぬき」や「手首ぬき」をやって見せれば、きっと驚いたり喜んだりしてくれるはず。工程はどちらも簡単なので、こっそりマスターしておきましょう。
指ぬき https://chiik.jp/articles/zlsls/
手首抜き https://chiik.jp/articles/hdkhp/
ふたりでできるあやとりの中でも簡単な「もちつき」は、動きも楽しくておすすめです。
わが家の娘もとても気に入った技で、何度も一緒に遊びました。
もちつき https://chiik.jp/articles/fszds/
あやとりをはじめてみよう!
昔の遊びというイメージが強いあやとりですが、実はさまざまな力を身につけられる嬉しい遊びです。
紐一本さえあればすぐにでもはじめられるのもよいところ。
ぜひ紐を準備をして、子どもと一緒に挑戦してみてください。
<参考文献>
野田さとみ・佐久間春夫、手指の運動を伴う遊びにおける脳波および覚醒度・快感度の変化について、2009
野口廣、あやとり学 起源から世界のあやとり・とり方まで、2016
野口とも、改訂版 あやとり大全集、2020
<参考サイト>
国際あやとり学会
asahi.com(朝日新聞社)|あやとり 数学の難問解いた感覚 http://www.asahi.com/edu/student/atama/TKY200807080191.html