2017年10月10日 公開

その絵は本当に下手?『「お絵かき」の想像力』でわかる子どもの絵

子どもの絵を見て「もっと色をたくさん使ってみたら?」「ちゃんとよく見て描いてね」と注意したこと、または他の親や先生がそう指導するのを聞いたことがありませんか?でもちょっと待ってください。子どもがなぜそう描いたのか、理由があるのです。それがよくわかる『「お絵かき」の想像力: 子どもの心と豊かな世界』の本を紹介します。

目からウロコ!子どもの絵の可能性や理由をもっと知ろう

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タイトル:「お絵かき」の想像力 子どもの心と豊かな世界
著者  : 皆本二三江
出版社 : 春秋社
この本は、子どもの絵を美術教育の立場から長年研究してきた皆本二三江さんが、豊富な資料や作例と共に、子どもの絵の読み解き方に関する驚きの事実をたくさん教えてくれる貴重な本です。

専門的な部分も多くあり、すべて読み通すのはちょっと大変かもしれませんが、発見と驚きで、その価値は充分にあります。そして、この事実を知らないで子どもの絵を見て、的外れな指導や助言をするのは、とてももったいないことだ!と感じました。これだけは多くの人に伝えたい、という内容を6点に絞って紹介します。

子どもの絵にしっかり向き合うことは、その子の考えていることを理解することにもつながります。幼い子が描く絵には、論理的に言葉で表現できない思いをくみとれる鍵があり、子どもたちの内面をもっと知るために、とても良いヒントがたくさんあるのです。

1:子どもたちは教えられなくても描き方を知っている!

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子どもの絵が、国や民族の垣根を越えて、全世界的に似たような経過をたどるのをご存知でしたか?

子どもが最初に描くのは点で、それが円に到達するまでは「殴りがき期」と呼ばれています。アメリカのローダ・ケロッグは世界各地から100万枚以上の子どもの絵を集めて分析し、この過程にある殴り書きの基本形を、基本的な20パターンに分類しています。

主に1〜2歳頃、ぐしゃぐしゃと線を描いているように見えるものにも、細かく基本形と発展があるのです。今、うちの子は渦巻線を描けるようになったんだ、など細かく観察するのも面白いですね。

また、描きはじめと描き終わりが繋がった、完全な円を描くことの意義が大変大きいということにも触れられています。円は子どもがはじめて描く閉じた形。円が誕生することで、中身のある形と、空間の関係が生まれるのです。

2:子どもはなぜ「頭足人(とうそくじん)」を描くの?

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円が描けるようになり、殴りがき期が終わる頃、子どもは「頭足人(とうそくじん)」と呼ばれる人間をよく描きます。胴体がなく、手も足も顔から直接出ているように見える絵です。

これも不思議なことに、世界中の子どもたちが同じ順序で同じように描いて発展させていくそうです。徐々に胴体が現れて、人間に近づいた表現をしていくようです。

では、なぜ頭足人を描くのでしょうか?皆本さんは、本の中でさまざまな事例をあげながら、人間を見て描いた絵ではなく、生まれながらに持っている、過去の自分の形態記憶を描いているのではないかとしています。

確かに、子どもが描く様子をよく観察すると、ものすごく確信を持って、自分は正しく描いていると信じて描いているように見えます。教えられて描いているわけでも、誰かの真似をしているようでもないのです。

3:子どもは知っていることを描き、見た通りに描くのではない!

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渦巻線が描けるようになると、字らしきものも書きはじめます。
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具象画に対して、色や形自体の感覚的な造形言語で表現する絵を抽象画といいますが、子どもたちは、実にさまざまな抽象画も描きます。

伝えたい気持ちや気分を絵で表すことも、大人よりよっぽど容易にできるようです。

三角形や四角形などで構成する、幾何学的抽象画も描く時期があるとのこと。その後、5〜6歳頃ともなれば、聴いた音楽を色と形、線だけで表現するようなこともできるそうです。これは、大人になると逆になかなか難しいこと。子どもたちは既成概念に囚われずに自由な表現ができるのです。

ちなみに、「図式画」を描く時代もあるそうです。これも世界共通で、家や花、太陽(赤を選ぶ子が多い国と黄色で描く子が多い国の違いはありますが)などを図式化して描きます。そして、なぜ必ず太陽を描くのか、子どもたち自身にもよくわからないけれど、描かないと落ち着かないそうなのです。

そしていつも太陽を描くのがおかしいかな?と思う頃、この「図式期」を卒業し、実物を観察して描くようになるのです。

基本的に、子どもは知っていることを描くもので、見た通りに描くのではない、ということ。これは是非、覚えておきたいですね。

4:男女の絵は大切にしているものが違う!

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Pikul Noorod / Shutterstock.com
今の時代、男女の違いを親が意識しすぎる方がナンセンスに聞こえるかもしれません。でも、明らかに男女の絵には違いがあり、異なる価値観と美意識があるとのこと(もちろん例外もあります)。特に、母親や保育士など、女性の方が子育てに触れる機会が、まだまだ多いものですが、その際、男の子の絵について、好みや尊重しているものを理解せず、特徴を知らないで指導するのはすごくもったいないのではないでしょうか。

著者の皆本さんは、造形表現における男女の性差も研究し、他の著書に『絵が語る男女の性差』(東京書籍)などもあります。豊富な作例から明らかな傾向がたくさんあるのです。

男の子は、リアルな表現を好み、流行も取り入れて、乗り物など人工物を多く描きます。特に、「強いことが良し」とするのが男の子の価値観。限られた色を使って力強く描き、色を重視しないことも大きな特徴です。

親や保育園や幼稚園の先生が、つい「もっとたくさんの色を使いましょう」などと言うのはあまり意味がないということですね。

女の子は、自分や家族が笑顔で立ち、青い空の下に草花があるような「楽園」を描くのが特徴です。平和な理想郷が原点で、世界中の女の子が、共通して明るく華やかな世界を好みます。色を重要視し、どの色も公平に使いたい、色と色が調和した世界を好みます。
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Svitlana-ua / Shutterstock.com

5:濁った色は嫌い!子どもの色使いは生理色から概念色へ

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Vira Mylyan-Monastyrska / Shutterstock.com
3〜4歳頃までの子どもの絵は、描く対象の色とは全く無関係の色を使うことが多いとか。これは「生理色」と呼ばれ、その時子どもが使いたい色を選んでいるのでは、とのこと。

その時期を経てから、髪の毛は黒、空は青、など決まった「概念色」で表現するようになるのです。また、濁った色を嫌う期間が長く、とにかく不快なので混色を避ける子どもが多いようです。

こういう時期に「ママの髪の毛はもっと茶色じゃない?色を混ぜてもっと正確な色を作ってみたら?」などというのは、子どもに苦痛を与えるだけかもしれないですね。

6:うちの子は絵が下手?なぜそんな風に描くの?

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Giulio_Fornasar / Shutterstock.com
デタラメな、殴りがきだけに見える時も、子どもによく聞いてみると、意図を持って描いていることが多いようです。

また、その時の体の不調や苦しさ、辛さを色や形で表現することも。苦痛を絵で訴えられるなんてすごいことだと思いませんか?

また、多くの人が下手だと誤解する絵に「触覚型」があるそうです。多くの子どもは視覚型の絵を描きます。たくさんのものを細かく、本物に見えるような絵を描くと褒められるのです。ですが、触覚型の絵は、見たものを描くのではなく、描きながらその対象になりきってその感覚を絵で表しているのです。描き手の身体感覚が現れる、主体的な絵、というわけです。

知らずに否定して、子どもが自信を失い、絵を描かなくなるほどもったいないことはないような気がします。

最後に

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幼少時に、何かを見てそれを描く絵はむしろ少ない方なのですが、動物などは観察して描くことも多いそうです。
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子どもの絵の発達は行きつ戻りつしながら螺旋状に進むもので、年齢の目安は当てはまらないことも多く、また個人差も大きいので、型にはめて心配することにも意味はありません。例外要素が多いほど「個性」も際立つのです。

この本を読んでから、子どもの絵を見るのがより楽しみになりました。読み解けることも、聞けることもたくさんあり、非常に楽しいです。

さらに「子どもには絶対色感がある」など驚きの要素が盛りだくさんの本です。なぜこの子はこういう絵を描くのか、という理由がわかるはず。ぜひ手にとってみてください。
この記事は執筆時点のものですので、最新情報は公式サイト等でご確認ください。

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WRITER

志田実恵 志田実恵  エディター/ライター。札幌出身。北海道教育大学卒業(美術工芸)。中高の美術教員免許所持。出版社でモバイル雑誌の編集を経て、様々な媒体で執筆活動後、2007年スペイン留学、2008〜2012年メキシコで旅行情報と日本文化を紹介する雑誌で編集長。帰国後はガイドブック等。2014年6月に娘を出産。現在は東京で子育てしながらバスクなど世界の料理本の編集のほか、webを中心に活動中です。