幼いうちから自信をなくし、絵を描かなくなる子どもが増えているそうです。その原因は?そして、もし描かなくなったとき、どうすれば再び絵を描くようになるのでしょう?イラストレーター・金斗鉉さんに、子どもが絵を描くのを嫌いにならないために大人が心得ておくべきこと、また、絵を描くことをやめてしまった子どもとの向き合い方を伺いました。連載最終回です。
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子どもが絵を描かなくなる理由は?
「上手だね」と褒められると子どもはうれしくなります。そして、そのときは楽しくお絵かきするかもしれません。
でもそれは、知らず知らずに絵は上手に描くべきものであるという認識を植え付けることにもなりかねません。
そして、うまく描けないと自分で感じたときに絵を描くのがいやになったり、つらくなったりしてしまうのです。
絵を描けなくなる年齢が下がってきている
しかし最近は、年齢が下がってきている傾向にあります。幼稚園ですでに絵を描けなくなる子もいるのです。
となりの子と自分の絵を比較するようになったり、上手に描けないと自分で気にするようになるのが原因です。そうなると、絵を描く時間が本来の楽しい表現の時間ではなくなってしまいます。
友だちから「下手な絵!」と言われて、描けなくなってしまう子もいます。
上手に描くものから、楽しい遊びに戻してあげる
それは、上手に描くことから1歳児のような落描きの段階に戻してあげることです。
色で遊ぶ、形を描いて遊ぶ、その世界にいったん戻してあげること。絵が楽しい遊びであったことを思い出せるのです。
そのための試みを次に紹介しましょう。
描くのをやめた子どもを元に戻す試み
つまり、上手に描けないというコンプレックをとりのぞいてあげることです。
子どもが絵を描く目的は、本来上手に描くことではなかったはず。色を使った遊びとして、再び興味を持ってもらえるように、トライしてみましょう。
【試みその1】たくさんの色で遊ぶ
「わ〜っ」と叫びながら、みんなでたくさんの色で遊ぶ感覚です。グルグルの円を描くなど、色の線で遊びます。
【試みその2】クレヨンで落書き
「トントントンッ!」
画用紙にクレヨンで点々を打ち付けるところからはじめましょう。次はグルグルグルッと、つながった円を描きます。そして、最後に閉じた円をたくさん描きましょう。
絵を描くのをやめてしまった子もだんだんとのってきます。
絵は上手でなくていい
絵を描くことを本来のお遊びの世界へ戻してあげるのです。
幼児が絵を描くのは、楽しいからです。自分で感じて、考えて、工夫して表現を楽しむ中で想像力や創造力、自発性、美しいものや空間感覚が磨かれます。
【絵は上手でなくていい】のです。
これは、私が一貫して伝えたいことです。
絵は楽しんで描くもの。子どもたちが描きたいように、自由に描かせてあげること。まわりの大人が一番心がけるべきは、ただ、この一点につきるのではないでしょうか。
金 斗鉉(きむ とうげん)プロフィール
著書に『絵本イラストレーション入門』(新星出版社)、『最新イラスト・カットの辞典』(主婦の友社)、『水墨・墨彩画で風景を描く』(誠分堂新光社)、絵本に『ヌリマースペンキ店』(日本キリスト教団出版局)、『よるのおさんぽ』(講談社)、『かぐやひめ』(小学館)、『サンガイ ジウナコ ラギ』(ディヨの本)など多数。
個展は1983年から「渋谷パルコGALLERY VIEW」「銀座 ギャラリー21+葉」「吉祥寺 伊勢丹」「西武 銀糸町」「西武 三軒茶屋」「京都市国際交流会館」「ギャラリー・エフ」「オキュルス」など多数。日本各地の博物館、展示館など約70カ所のイラストレーションを制作。ライフワークとして「絵が描けない人のためのワークショップ」「幼稚園の先生とお母さんのための絵の教室」を開き、また、2008年から毎年ネパールの子どもたちへの絵の指導をしている。
日本図書設計家協会会員。浦安市在住。