集中力・論理的思考力を育てるとして注目を浴びている教育メソッド「モンテッソーリ教育」。幼少期にモンテッソーリ教育を受けていた著名人・研究者・政治家は多く、効果的な教育法として知られています。こちらではモンテッソーリ教育の概要と、家庭での取り入れ方を紹介します。
モンテッソーリ教育とは
生まれたばかりの赤ちゃんは教えなくても歩こうとしますし、幼児期の子どもは強い好奇心を持って、いろいろなものに近づき触れようとします。このように子どもが自ら環境と関わり、自発的に五感に刺激を受ける姿勢は、まさに「生まれながらの自分を育てる力」と言えるでしょう。
モンテッソーリ教育の目的は「自立していて有能で、責任感と他人への思いやりがあり、生涯学び続ける姿勢を持った人間を育てる」ことです。自由が保障された環境のなかで、自分で考えて作業(遊び)を行うことで子どもの能力を多角的に伸ばします。
特徴的なカリキュラムは、独自の教具を使った「お仕事」とよばれるものです。子どもを観察したデータをもとに、脳が活性化するよう作られた教具は、集中力・論理的思考力・空間認識力・数的概念などを楽しみながら伸ばすことができます。
これに加えて、食器洗い・窓ふきなど日常生活のお仕事にも挑戦。適切な環境と教師・周囲の大人の働きかけで子どもの自発的活動を促し、自立できる能力を育みます。
マリア・モンテッソーリの略歴
マリア・モンテッソーリは、1870年8月31日イタリア・マルケ州キアラヴァッレで誕生。19世紀当時は女性差別が根強く残り、女性の大学進学・社会進出が難しい時代でした。
マリアは医師を目指すべく、差別を受けながらも勉学に励みローマ大学医学部に入学します。1896年にはイタリア初の女性の医学博士号を習得しますが、女性が医師になることに否定的だった当時の医学界から受け入れられません。その後ようやく見つけた就職先「ローマ大学付属の精神病院」で知的障害児の治療教育に携わります。
マリアは知能の向上が見られないと見放されていた知的障害児たちと触れ合い、観察するなかで「指先を使う玩具を与えることで、知能の向上が見られる」ことに気づきました。貧困家庭・教育の機会に恵まれない子どもたちにも同様に指先に使うトレーニングを施すと、著しい知能の向上が見られたのです。
1901年より再びローマ大学に入学し、心理学・生理学・精神医学の研究を行い「モンテッソーリ教育法」を確立します。その後も1952年にオランダで死去するまで、子どもの教育環境の向上に尽力し続けました。
モンテッソーリ教育が大切にしていること
自分の意思で考え、行動できる能力を育てるために、モンテッソーリ教育では0歳~3歳の幼児に7つの教育環境を用意します。
2.微細運動の活動(手先の訓練)
3.日常生活の練習
4.言語教育
5.感覚教育(五感を刺激する教具を使う)
6.音楽(音感を養う)
7.美術
目先にとらわれた先取り学習・知育は行わず、子どもの発達・個性に応じた遊び・作業・情操教育を行うことが特徴でしょう。
モンテッソーリ教育の五分野とは?
1.日常生活の練習
はさみで紙を切る、包丁で野菜を切る、窓を雑巾で拭く、靴紐を結ぶなど、日常生活の作業の仕方を教師・大人が正確に教えます。その仕方を模倣し自ら行うことで、自発性の育成が可能です。
2.感覚教育
3歳前後になると感覚器官が成熟します。その頃には脳の成長も8割完成していると言われ、3歳以降は五感への刺激を細分化・秩序化するように。五感が敏感になるこの時期に、意識的に感覚器官を使う遊び・作業を行いましょう。
「対にする」「段階づける」「分類する」という3つの操作が組み込まれた感覚教具も使います。大小の立体を積み上げる、色の濃淡を見分けるなど「五感に刺激を与えながら、子ども自身の考えで動く」ことで言語・算数・文化教育を学ぶ土台を作ります。
3.言語教育
モンテッソーリの言語教育は、子どもの発達に合わせて段階的に行います。語彙を増やし、正しい文法を覚えることで文字の読み書きに興味を持つようになるでしょう。言語発達の敏感期に適した「書く・読む・文法・文章構成」の順で学習は進行。絵とそれを表す単語が書かれた絵カード・運筆練習ボード・指先で文字の形を確かめる教具などで楽しく学びます。
4.算数教育
数字やものの大きさ・量を具体的に見ることからはじめ、段階を追って抽象的な考え方ができるように導きます。数の概念から四則計算までの学習を「数量を目で見て、触って確かめる教具」を使って学習。そのひとつが1,000個の金属ビーズでできた立方体を使って、数・重さ・量・形について体感するというカリキュラムです。教具は一人ひとりがじっくり触れるよう十分な数が用意されます。
5.文化教育
言語・算数教育以外の幅広い分野の教育を指します。扱う科目は多岐にわたり、理科・社会・音楽・地理・音楽など。子どもの好奇心を育て、潜在する能力・才能を伸ばす指導が行われます。
モンテッソーリ教育の教具
モンテッソーリ教育の教具とは?
・感覚教育の教具
ピンクタワー:ピンク色に塗られた10個の立方体のセット。立方体の大きさは1cm~10cmまで1cmごとに変わります。3次元の立体を使って数・大小・高低を学べる教具です。
・言語教育の教具
絵カード:物の絵と名称が書かれたカードで語彙力をつける教具。色・種類で分類することで色彩感覚・具体化と抽象化を学べます。
・算数教育の教具
つむ棒箱:0~9の数字が書かれた箱に、数字に該当する本数の棒を入れていくもの。視覚・触覚で数を体感します。0の概念もすんなり理解できるでしょう。
・文化教育の教具
はめこみ世界地図:世界地図のパズル。地形とその場所を全体像から覚えることができます。
おすすめモンテッソーリ教具
円柱さし
販売元:MONTE Kids
寸法の違う円柱と穴の開いたシリンダーのセットです。ひとつの穴に合う円柱はひとつだけ。円柱の長さ・集計の違いを遊びながら学べます。円柱をつまむ動作で巧緻性を高め、正しい鉛筆の持ち方も習得できるでしょう。
【MONTE Kids】 幾何学パズル
販売元:MONTE Kids
10種類の幾何図形を相当する型に当てはめるパズル。図形の種類・大きさの識別ができるようになります。つまみがついているので2歳くらいの子から使えて、図形認識力・巧緻性のトレーニングに最適です。
ピンクタワー
販売元:モンテパパ
前章で、感覚教育の代表的な教具としてご紹介したピンクタワーです。1cmから10cmまで、1cmきざみの木製立方体を10個積み上げて、タワーを作ることができます。カラフルにせず、あえてピンク一色で統一しているのは、色に興味が集中するのを防ぐため。大きさの変化をとらえる教具なので、カラフルな色や模様があっては、そちらに意識が集中してしまうのです。このように、ひとつの教具につき目的がひとつ、と絞っているのも、モンテッソーリ教具の特徴です。
教具はどこで購入できる?
オンラインで購入する場合、気をつけたいのが「ニセモノ・粗悪品」。モンテッソーリ教具には正規のものと、正規のものに似せて作った、あるいは同じに見えるが素材などが安価なものがあります。リーズナブルなもののなかには素材・塗料の安全性が不確かなものもあるので、注意が必要です。
【正規品のブランド例】
国際モンテッソーリ協会(AMI)公式教具 Nienhuis(ニーホイス)
国際モンテッソーリ純正規格品 Natural MONTESSORI (ナチュラルモンテッソーリ)
安全素材・モンテッソーリ教具規格順守 MONTE Kids(モンテキッズ)
手作りしてみるのもおすすめ
たとえば算数教育の教具「つむ棒箱」なら、牛乳パック10本と100均のストロー1袋で作れます。
【準備するもの】
牛乳パック 10本
ストロー 45本
カッター
油性マーカー
両面テープ
【作り方】
1.牛乳パックの注ぎ口と1側面をカッターで切り落とします。
2.切り落とした側面を上に向けた状態で、底面に油性マーカーで0~9の数字を書きましょう。
3.切り落とした側面を上に向けた状態で、0~9の順番で両面テープを使って牛乳パックを貼り合わせていきます。
4.側面の数字に合わせた本数のストローを入れて完成です。
モンテッソーリ教育を学びたいときは?
・習い事として外部の教室に通う
・モンテッソーリ教育を行っている教育機関へ通う
・自宅でパパママがモンテッソーリ教育を行う
モンテッソーリ教育を取り入れた幼児教室
0歳から親子で通える教室も多く、家庭での指導法も教えてもらえるでしょう。モンテッソーリ教員資格の種類は3つあります。
1.国際モンテッソーリ協会(AMI)国際資格
2.日本モンテッソーリ協会(JAM)国内のみ有効
3.日本モンテッソーリ教育綜合研究所 研究所独自の資格
モンテッソーリ教育が受けられる学校
・ザ・モンテソーリ・スクール・オブ・トウキョウ
東京都港区にあるザ・モンテソーリ・スクール・オブ・トウキョウ。アジア初のモンテッソーリ教育を受けられる幼少中一貫校です。男女共学のインターナショナルスクールで、30カ国、約160名の生徒が学んでいます。バイリンガル教育とモンテッソーリ教育を一度に受けられるのが魅力です。
・マリア・モンテッソーリ・エレメンタリースクール
神奈川県横浜市にある日本初の「小学生にモンテッソーリ教育を指導する」教育機関です。子どもがひとりで考えられるように、教師たちは自立のお手伝いをします。モンテッソーリ教育指導に基づき、異学年同室授業や専門家授業も実施。書道や華道、農業の講義と実践、医師による医療機器の説明など実社会で活躍する専門家による指導も受けられます。
モンテッソーリ教育を教育方針としている園、または一部にモンテッソーリ教育・教具を取り入れている園は、小学校に比べると格段に多いです。幼児の「育脳」効果が高い教育法としてモンテッソーリ教育が支持されている現れかもしれません。
家庭で取り入れる
・100均の色・形の違うカラーシールを分類しながら貼っていくお仕事
・厚紙にいくつか開けて紐を通したり、結ぶお仕事
・さまざまな色のポンポンをトング・箸を使って色分けするお仕事
たとえばこのようなものに挑戦してみてはいかがでしょうか。玄関の掃除・食器洗い・本の整理などを「一通りひとりで行う」練習も、お仕事としておすすめです。
モンテッソーリをもっと知りたい人におすすめの本
子どもが教具に興味を持たない、お仕事のやり方を教えてもその通りやらないなどモンテッソーリ教育につまずいたら、モンテッソーリ教育のベテラン教員・指導者たちの著書・資料を読むのも良いででしょう。より専門的な知識を身につけ、指導者を目指したい方は「モンテッソーリ教師資格」に挑戦してみるのも手です。
モンテッソーリ教育について知りたい!おすすめ書籍 4選
好きなこと・楽しいことをたくさん見つけよう
好きなもの・楽しいものを多く見つけ、それらに集中する時間を持つことは、能力・才能の発達につながります。