
幼児期の子どもが「すぐ怒る・泣く」といった姿を見せるのは、わがままではなく、感情を調整する力がまだ発達の途中にあるためです。脳は「感情を司る一階」と「思考やコントロールを担う二階」の構造で捉えられますが、幼児はこの二階部分が未熟なため、自分の気持ちにブレーキをかけることが難しい状態にあるそうです。そのため、否定や叱責等で、子どもを変えようとしすぎてしまうと、「自分はダメな子だ」とセルフイメージを下げてしまう、いわゆる二次的な影響を及ぼす可能性も。
「困った子ども」と捉える眼差しを「この子が困っている」と変えてみませんか。気持ちの調整ができずに困っている子どもに共感し、気持ちを言葉にし、落ち着ける環境を整えてあげましょう。そのような経験を積みながら、子どもは少しずつ自分の気持ちを整える力を身につけていきます。
「少しくらい我慢できないの?」
「なんでそんなことでそこまで怒るの?」
子どもと向き合う日々の中で、思わずこう感じてしまう瞬間はありませんか。何を言っても伝わらない。なだめても、叱っても、子どもの「心の荒れ」は止まらない。
周囲の目が気になり始めると、親の心にも焦りが生まれます。その場をなんとかやり過ごし、逃げるように家に帰ってから、改めて怒りがこみ上げてくる…。そんな経験をされた方は、きっと少なくないと思います。
しかし、こういった状況で一番困っているのは、子ども自身なのかもしれません。まだ、「自分の気持ちをどう扱えばいいのか」を学んでいる過程にいるからです。子どもの気持ちの調整を支えるために、大人にできることを考えていきましょう。
「すぐ怒る・泣く」はわがままではない
・お菓子が食べたいと言い出したら、「ご飯の後」と伝えても我慢できない。
・帰りたくないと言い出せば、テコでも動かずその場に座り込んでしまう。
・一度泣き出したら、なかなか泣き止まない。
こうした姿を、大人は「わがまま」と捉えてしまいます。しかし、幼少期の子どもは、気持ちを上手に調整する力が、まだ「育ちつつある」段階。我慢する、気持ちを切り替える、落ち着く…、こうした力はこれから身につけていく力なのです。
この段階で、「わがまま」「困った子」といったレッテルを貼ってしまうのは危険です。子どもは自分の気持ちを表現しにくくなり、「自分はダメな子だ」と、セルフイメージを下げてしまう恐れがあります。このような弊害を生み出さないためにも、「すぐ怒る・泣くのは自然なこと」と理解することが大切です。
脳の構造で理解する感情調整が難しい理由
子どもの姿を理解するうえでヒントになるのが、脳の発達です。大きく構造で見ると、以下の「二階建て構造」で捉えることができると言います(ダニエル・J・シーゲル)。
・1階の脳:感情を司る
・2階の脳:考え、感情をコントロールする
幼児の場合は、2階部分がまだ未発達で、大人のように、自分の感情にブレーキかけることが難しいそう。そのため、嫌なことがあればすぐに泣き、思い通りにいかなければ怒る。このように、気持ちがそのまま行動に表れてしまいます。
気持ちの調整が難しいのは、発達上の「遅れ」でもなければ、「育て方の問題」でもない。まだ、感情をコントロールする脳が「発達の途中」であるから…。そう理解できると、親の心にも少し余裕が生まれます。
NG対応を知って二次被害を生み出さない
「いつまで泣いているの!」「いい加減にしなさい!」
これらはついつい言ってしまいがちな言葉ですが、言い続けることで、子どもの気持ちをさらに混乱させてしまうことがあります。「自分はダメな子だ」「どうせやっても無駄だ」と、著しくセルフイメージを下げてしまう。「愛されていない」「親から大切にされていない」と、愛着形成にまで影響を与えてしまう。このような「二次被害」まで起こしてしまうと、その後の成長への大きな弊害となってしまいます。
気持ちの調整ができない子どもにやってしまいがちなNG対応を、具体的に見てみましょう。
・「そんなことで泣かないの!」と感情を否定する
・「貸してあげなさい」とすぐに正そうとする
・「なんで投げるの!」と行動だけを叱る
・「みんなできてるよ」と他児と比較する
・「お菓子食べる?」と気をそらしてごまかす
確かに、荒れている子どもは、親から見れば、「困った子ども」かもしれません。すぐにでも、「子どもを変えたい」と思ってしまうでしょう。しかし、子どもは大人を困らせようとしているわけではありません。「困った子」と見る眼差しを、「子どもが困っている」と変えてみませんか。大人の心に余裕がうまれ、子どもの真の気持ちに目が向けられるようになるかもしれません。
親ができる3つの「気持ちの調整」のためのサポート
では、気持ちの調整が難しい子どもに対して、大人はどのように関わればよいのでしょうか。ここでは、家庭ですぐに実践できる3つのサポートを紹介します。

① 共感する
まずは「安心」をつくることが最優先です。抱きしめる、そばに座る、静かな声で名前を呼ぶ…。その上で、「あなたの気持ちはわかるよ」と共感的に寄り添いましょう。「悔しかったんだね」「欲しかったんだよね」等、気持ちの代弁が役立ちます。
ここで大切なのは、行動の良し悪しではなく「気持ち」に焦点を当てること。共感されることで、子どもは安心し、落ち着く準備が整います。
感情が荒れている最中は、説得も罰も効果的ではありません。まずは子どもの気持ちを「わかってあげる」こと。伝えたいことは、気持ちが落ち着いてからで大丈夫です。
② 言葉にする
子どもは、自分の気持ちをうまく言葉にできません。親が通訳となり、子どもの気持ちに名前をつけてあげましょう。
たとえば、うまくできずに怒っているときには、
「できなくてイライラするよね」
「さっきはうまくいったから、悔しいよね」
と声をかけます。
自分の気持ちが言語化されることで、子どもは少しずつ「自分はいま怒っている」「悔しい気持ちなんだ」と理解できるようになります。心の中の混乱が整理されると、少し冷静さを取り戻せるかもしれません。
③ 落ち着く手助けをする
感情が高ぶっているときは、他者の言葉は届きません。まずは「落ち着ける状態」をつくります。「少しお水飲もうか」と行動を変えてみたり、「一緒に深呼吸してみよう」と、一旦リラックスさせることが役立ちます。触れられることすら拒否することもあるでしょう。そんな時には、見える範囲で少し距離をとりながら、「ここで待っているね」と安心を伝えます。
大切なのは、「落ち着かせること」ではなく、「落ち着ける環境を整えること」。子どもは、こうした経験を積み重ねながら、少しずつ自分で気持ちを整えられるようになっていきます。
子どもはまだ、自分の気持ちをうまく扱うことができません。周囲との関わりの中で、少しずつ学習し、自分の感情のコントロールができるようになっていきます。子どものもっとも身近にいる大人との日々の関わりは、気持ちの調整のトレーニングの場とも言えるでしょう。
うまくいかない日があっても大丈夫。大切なのは、完璧な対応ではなく、毎日まいにち子どもと関わり続けること。
気持ちを受け止めてもらった経験、言葉にしてもらった経験、落ち着くまで待ってもらえた経験。こういった一つひとつの経験が子どもの中に積み重なり、やがて「自分で整える力」へと変わっていくことでしょう。
■ライタープロフィール

江藤真規
東京大学大学院教育学研究科博士課程修了 博士(教育学)
株式会社サイタコーディネーション代表
クロワール幼児教室主宰
アカデミックコーチング学会理事
公益財団法人 民際センター評議員
一般社団法人 小学校受験協会理事
自身の子どもたちの中学受験を通じ、コミュニケーションの大切さを実感し、コーチングの認定資格を習得。現在、講演、執筆活動などを通して、教育の転換期における家庭での親子コミュニケーションの重要性、母親の視野拡大の必要性、学びの重要性を訴えている。著書は『勉強ができる子の育て方』『合格力コーチング』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『心の折れない子どもの育て方』(祥伝社)、『ママのイライラ言葉言い換え辞典』(扶桑社)など多数。
クロワール幼児教室
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