
「たくさん持っているのだから、一つくらい譲ってあげればいいのに…」。あそびの場面で「譲らない」子どもの様子を見て、モヤモヤしてしまうことはありませんか。友だちに「貸して」と言われて固まるわが子を見て、「一つくらい譲りなさい」と口にしたことはありませんか?
大人は「譲ることはいいこと」、「譲らないのはわがまま」と思ってしまいがちですが、発達途中の子どもにこの考え方を当てはめるのは危険です。とはいえ、「全部自分のもの」という主張を、そのまま受け入れるわけにもいきません。譲れない子どもへの適切な関わり方を考えてみましょう。そのためには、気持ちを代弁し共感すること、状況を客観視し他者の気持ちを考えさせること、さらに代替案を一緒に考えることが有効です。譲る経験も譲らない経験も、どちらも子どもの成長につながります。焦らず、今ここで育つ力を見守っていくことが大切です。
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「わがまま」で片付けないで!
あれも欲しい。こっちも欲しい」は、大人にとって困る状況かもしれません。しかし、「欲しい」という気持ちは、単なるわがままではなく、感受性や好奇心の表れです。たとえば「このキャラクターが大好き」「キラキラしたものを手にしてみたい」など、「欲しい」と願う気持ちは、子どもなりの自己表現でもあるからです。一方的に、「欲しがる子=わがまま」と決めつけることは避けましょう。
その上で、欲しがり方や欲求の出し方には、コントロールも必要です。つまり、「欲しがること自体は悪いことではない」けれども、「欲しがる気持ちのコントロールは必要」ということ。これは、実際に経験しながら培っていく力であり、周囲の大人の適切な関わりが求められます。
発達段階から「譲れない」を考える
3歳頃までの子どもは、自分と相手の気持ちのぶつかり合いによる「いざこざ」を起こしがち。お互いの気持ちが相容れない場面で、どう対処したらよいかが、まだわかっていないからです。これは、実際に「折り合いがつかない」経験を積みながら、育まれていく力です。
また、子どもにとって「自分の物」は安心の象徴です。特に幼児期から小学校低学年頃までは、独占欲や所有欲が強く表れる時期。「自己の確立」の大切な一歩でもあり、大切にしたい欲求です。「譲りたいくない」は自然な気持ちであり、自分の物にこだわる経験も、大切な経験です。
ただ、他者との関わりにおいては、自分の気持ちだけを優先させるわけにはいきません。「どうしたらよいか」を、子どもは経験を積みながら学んでいくことになります。貸してもらえない相手が悲しそうにしている姿を見て、「こうしたら、相手は悲しくなるんだ」と気づく。やがて少しずつ「貸してあげる」「順番に使う」ができるように。その後押しになるのが、周囲の大人の関わりです。子どもが今どのような発達段階にいるのかを知った上で、適切に関わって行く姿勢が必要です。
自然な発達を歪めてしまう親の関わり

親は「人にどう見られるか」が気になるため、つい「譲ってあげなさい」と言ってしまいがち。もちろん、相手への思いやりなど、「譲る経験」からの心の成長もあるはずです。しかし「いつも自分が我慢する」状態が続くと、自己肯定感を損なったり、「嫌だけど譲らなきゃ」という歪んだ気持ちが育ってしまうことも。大切なのは「譲ること」と「自分を大切にすること」、両方を経験できることなのでしょう。「小さい子には譲りなさい」と、子どもの気持ちを聞くことなく我慢を強制してしまうと、子どもの気持ちは置き去りにされ、行き場を失ってしまいます。
子どもへの関わりで大切なことは、子どもの「今ここ」に合わせること。そして、子どもの気持ちをしっかり聴くことです。子どものいざこざ場面では大人は冷静になり、双方の意見をしっかり聞いていきましょう。大人目線で対応して発達を歪めてしまわないよう、配慮が必要です。
「欲しい」を否定せずに、気持ちの調整ができるように育てる工夫
子どもの「欲しい」を否定することなく、子どもの言いなりになることもなく、子どもの社会性を育てるための工夫を考えてみましょう。
共感的に寄り添う
子どもの「欲しい」気持ちには、まずは共感的に寄り添います。子どもの気持ちに寄り添うためには、「気持ちの代弁」が役立ちます。
・「そうか、欲しかったんだね」(気持ちの代弁)
気持ちの代弁をするだけで、その後の子どもの様子はぐんと変わったりするほど、とても重要な一言です。
また、共感的に寄り添うのは、「相手の気持ち」以外に、「背景や状況への共感」、「価値観(相手が大切にしていること)への共感」もあります。
・「やっと使えたおもちゃだから、もう少し使いたかったんだね」(背景や状況への共感)
・「このおもちゃが大好きだから、もっと遊びたいんだね」(価値観への共感)
いきなり、「譲ってあげなさい」と言われるのとは、全く違う気持ちが生まれます。
状況を客観視し、どうしたらいいかを考えさせる
自分の気持ちを理解することから始まり、徐々に他者の気持ちを理解できるようになる。これが子どもの社会性の発達です。他者の気持ちを知るために質問を投げかけ、状況の客観視を手伝ってあげましょう。
・「あなたはとても欲しいんだよね。それはわかった。でも、あなたがずっと使っていると、Aちゃんはどんな気持ちになるかな?」
また、考えさせることも大切です。
・「あなたはさっきから、これで遊んでいるよね。Bちゃんは、まだ使っていないみたいだよ。どうしたらいいかな?」
相手の気持ちが自分とは異なることを知ることが、譲るための前提です。異なる気持ちがあるのが社会であることを知った上で、どうしたらうまくやっていけるかを考えていく。それが人間関係の成長につながります。
代替案を一緒に考える
質問をしても、子どもから答えが返ってこないこともあるでしょう。あるいは、どうしても譲りたくなく、自分に都合のいい答えを返してくることもありそうです。そんな時には、代替案を一緒に考えてあげませんか。
十分な経験を積んできた大人には、「譲る」以外にも、「順番にする」「少しだけ貸してあげる」「別なものと交換する」「二人とも一度は手放してみる」等、代替案があるのではないでしょうか。
・「そうか、難しいよね。一緒に考えてみようか?」
・「あっ、いいこと思いついた!例えば〇〇ってどうかな?」
あくまで提案にとどめておけば、最終的な判断は子どもが行うことができ、「自分で決めた感」が残ります。
・「今日は買わないけど、欲しいものリストに入れようか?」と
欲しい気持ちを先送りして、さらに楽しみにしていくのもいいかもしれません。

子どもが譲れないのは自然なこと。そして、譲る経験も、譲らない経験も、どちらも大切にしたい経験です。焦らなくても大丈夫。「今、この子は成長しているんだな」とゆっくり成長を見守っていってください。
■ライタープロフィール

江藤真規
東京大学大学院教育学研究科博士課程修了 博士(教育学)
株式会社サイタコーディネーション代表
クロワール幼児教室主宰
アカデミックコーチング学会理事
公益財団法人 民際センター評議員
一般社団法人 小学校受験協会理事
自身の子どもたちの中学受験を通じ、コミュニケーションの大切さを実感し、コーチングの認定資格を習得。現在、講演、執筆活動などを通して、教育の転換期における家庭での親子コミュニケーションの重要性、母親の視野拡大の必要性、学びの重要性を訴えている。著書は『勉強ができる子の育て方』『合格力コーチング』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『心の折れない子どもの育て方』(祥伝社)、『ママのイライラ言葉言い換え辞典』(扶桑社)など多数。
クロワール幼児教室
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