子どもの失敗は、決して残念な経験ではなく、その後の成長につながる大切な経験です。しかし、失敗をした際の親の対応次第で、その経験の価値は変わってしまいます。
次は失敗をしないようにと親が肩代わりをしたり、失敗を誰かのせいにすることなく、もちろん非難・否定するのでもなく、子どもが安心して再度挑戦できる環境を整えることが大切です。
失敗から立ち直る力は、子どもの人生の基盤ともなる大切な力です。上手に失敗経験を積ませ、失敗から立ち直る力を鍛えましょう。うまくいかない経験を積むことで、子どもの人生はきっと豊かになるはずです。
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成長につながる失敗経験
予測不能な社会を生きるには、正解ありきではなく、自らが考え創造する姿勢が求められます。数値化できるIQやテストのような「認知能力」とは異なる「非認知能力」への関心も高まってきています。感情や心の動きといった数値化しにくい力のことを意味します。非認知能力は学びの基盤であり、この分野の力を伸ばすことで、認知能力も高くなると言われています。
子どものうまくいかない経験、つまり失敗経験をした時に立ち直る力も非認知能力の一つであり、回復力(レジリエンス)と呼ばれています。もともと、人には落ち込みから回復する力が備わっており、失敗から回復する時にこそ、人は大きく成長するということが分かっています。
幼少期にある失敗経験に上手に関わり、「よい失敗」とすることができる環境を整えていきましょう。子どもの人生の基盤が強固になります。
周囲の対応で変わる経験の質
子どもは愛してやまない大切な存在です。そんな子どもが「失敗」をしたとしましょう。その際の親の対応の仕方で、子どもの「経験の質」は変わります。
例えば、「もう二度と失敗しないように」と、親が失敗しない環境を整えたり、肩代わりをしたとしましょう。子どもの経験は、「うまくいかなかった」というだけの不毛な経験になってしまいます。子どもから挑戦する機会を奪い、リスク回避の人生を強いることになってしまうかもしれません。
「ひどい目にあったわね…」「あなたのせいではない」と対応したらどうでしょう。子どもの心の中に、都合のよい他責の気持ちが育ってしまいます。壁にぶつかった時に、自分で原因を見つける人生と、犯人探しをする人生では、大きな違いがあることは明らかです。わが子だけを過度に守る行為には要注意です。
失敗したことを非難・否定するのも避けたいものです。子どもは落ち込み、自分はダメな人間だと、自尊心さえ下げてしまいます。怒られるくらいなら、やらない方がましだとなってしまいます。
では、どう対応すれば、その失敗は豊かな経験となるのでしょう。例えば、失敗で落ち込んでいる子どもの気持ちに共感的に寄り添い、「残念だったね」と気持ちの代弁をしてあげます。自分のことを分かってくれたという気持ちが、子どもの前向きな気持ちを引き出します。そのうえで、「結果は残念だったけど頑張ったね」と子どもの取り組みを認め、そして「次はきっとうまくいくと思うよ」と、励ましてあげましょう。
一連の関わりを通して、一つのうまくいかなかった経験が、全く異なるポジティブな経験となりそうです。子どもは安心して、きっと再度挑戦をしてみることでしょう。周囲の大人の対応によって、経験の質が大きく変わることがわかります。
失敗から立ち直る力を鍛える5つのコツ
子どもの「失敗から立ち直る力」を鍛えるためには、どのような方法があるのでしょう。ここでは5つのコツについて見ていきます。
1.安心できる環境を作る
人が行動するためには、安心・安全な環境が必要です。周囲の人間が、「あなたは頑張った」と子ども受け入れ明るく接することが、子どもにとっての安心・安全な環境を作ります。「失敗したけど、やってみたことは良かった」と、子どもは自分の失敗を受け入れ、行動したことをポジティブに捉えることができるようになるでしょう。
2.自尊感情を育む
自分を大切に思う気持ち、自分は大丈夫と思う気持ちが自尊感情です。子どもが失敗をした時こそ、「頑張っている姿を見ていたよ」と大きな愛情で包み、ありのままの子どもを受け入れてあげましょう。自尊感情が育ちます。自尊感情が高ければ、子どもは自ら失敗から立ち直り、再び行動していくようになるでしょう。
3.柔軟な思考で接する
親の柔軟な思考は、子どもの失敗から立ち直る力を高めます。親が「なんとかなるさ」マインドでいれば、子どもも失敗を深刻視せず、回復することができるようになるでしょう。根拠がなくてもいいのです。「今回はうまくいかなかったけど次はうまくいく」と思えるからこそ、人は挑戦することができるのです。
4.結果ではなくプロセスを見る
そうは言っても、「そんなにあっけらかんと子どもの失敗を見ていられない」という方もおいでになることでしょう。そんな時には、プロセスに目を向けることが役立ちます。
視点を結果ではなく、結果に行き着くまでのプロセスに向けてみましょう。子どもの頑張っている様子、集中していた様子、やり遂げるために我慢をしていたことなどが、きっと思い出されることでしょう。それを言葉にして伝えてあげれば、子どもの経験は、失敗ならぬ頑張った経験に変化します。
5.子どもを信じて見守る
子どもには、力があります。失敗をしたとして、自分の力で立ち直ることができます。失敗経験をしたときに、すぐに親が出ていくのではなく、少し離れて見守りましょう。子どもは自分で折り合いをつけ、自分の力でなんとかしていくはずです。子どもの力を信じて見守ること、子どもが自分の力で対応する余裕を与えることが、子どもの立ち直る力を育てます。
質問で失敗を成長につなげる
子どもの失敗経験を、その後の行動につなげるために、質問をしてみることもオススメです。「どうすればうまくいくかな」「何があったらうまくいきそう」と、子どもが考えるきっかけを作ります。子どもは成功するイメージを膨らませ、どうすればうまくいくか考えることでしょう。「失敗から学ぶ」ということです。
失敗をした時に、自分で考え、次の一手を打っていくことができれば、それは上手な失敗といえるでしょう。いいえ、それは失敗ならぬ、楽しい経験となっているようにも感じます。安心して、子どもがトライアンドエラーを繰り返せる環境を作ってあげられるといいですね。成功であっても失敗であっても、経験すること自体が子どもの成長を促します。
■ライタープロフィール
江藤真規
東京大学大学院教育学研究科博士課程修了 博士(教育学)
株式会社サイタコーディネーション代表
クロワール幼児教室主宰
アカデミックコーチング学会理事
公益財団法人 民際センター評議員
自身の子どもたちの中学受験を通じ、コミュニケーションの大切さを実感し、コーチングの認定資格を習得。現在、講演、執筆活動などを通して、教育の転換期における家庭での親子コミュニケーションの重要性、母親の視野拡大の必要性、学びの重要性を訴えている。著書は『勉強ができる子の育て方』『合格力コーチング』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『心の折れない子どもの育て方』(祥伝社)、『ママのイライラ言葉言い換え辞典』(扶桑社)など多数。
クロワール幼児教室
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