2022年01月25日 公開
新・家庭教育論叱り方

最高の叱り方を身につけて、上手に叱れる親になろう

『新・家庭教育論 忙しい毎日の子育てコーチング』連載第7回は、ほめるより難しい、上手な叱り方をお届けします。「叱る」と「怒る」の違いと、子どもを育てる叱り方の具体的なポイントやプロセスを解説します。

新・家庭教育論叱り方

ほめる以上にエネルギーを要する「叱る」こと。しかし、育ちの過程においては「叱られる経験」が重要です。「叱る」で伝えたいメッセージを明確に、「この子なら大丈夫」と期待をもって伝えましょう。

「叱る」際には、子どもの気持ちを聞くこと、子どものとった行為に焦点を当てること、そして、叱る際の基準を作っておくことが大切です。叱られることで、次はどうしたらよいのかというアイディアが生まれてきます。

また、「叱る」を子どもの成長につなげるためには、叱りっぱなしではなく、改善したらほめることも忘れずに。
子どもが叱られた理由を理解し、次は自分でやってみようと思えていたら、それは最高の叱り方。「叱る」を通して、親力も上げていきましょう。

子育てに必要な「叱る」

みなさんは「ほめる」と「叱る」どちらに難しさを感じますか?保護者を対象に伺っても、学校の先生方を対象に伺っても、「叱る方が難しい」という声が多く聞かれます。確かに、「怖い親」の存在は激減しているように感じます。叱らない先生も増えています。

先日お話を伺った先生は、「叱ることの方がずっとエネルギーがかかるんですよ。叱ってないですね、最近…。サボっていますね、叱ることを…。」と仰っておられました。

相手をほめれば、相手は気分が良くなります。両者の間には心地よい空気が流れ、互いに笑顔になることができます。
一方、相手を叱れば、相手は気分を損ねるかもしれません。両者間の空気は滞り、気持ちの対立が起きることもあるはずです。

愛してやまない我が子には、いつも笑顔でいてもらいたい…。こんな気持ちも、「叱る」から遠ざかる要因になっているのかもしれません。
しかし、叱られる経験は、子どもにとって必要です。まだ経験の浅い子どもは、教えてもらわなければ、「いいこと」「悪いこと」の区別もつかない状態です。
子どもが自立するためにも、他者と共に生きていけるようになるためにも、「叱られる」は大切な経験と言えるでしょう。

絶対に叱らなければならない場面

新・家庭教育論叱り方

エネルギーを要する「叱る」行為ですが、以下の場面では、絶対に叱らなければならないことを、意識しておきましょう。

1. 命の安全を守る時(危ないことをしたとき)
2. 他人を傷つける行為をした時(心身ともに)
3. 社会のルールに対して子どもが間違ったことをした時

叱られた後、一時子どもが反発するかもしれません。悲しい顔を見せるかもしれません。
しかし、たとえ幼少期の子どもであっても、社会に生きる一人の市民であることは間違いありません。「他者と共に生きる自分」という意識をもたせていくことは、とても重要です。

何かとハラスメントと捉えられてしまう今の時代においては、親にしか叱ってあげることができないのも現実です。もしも我が子が知らずに他人を傷つけていたなら…、その責任は本人以上に親にあるとも言えるでしょう。

子どもが間違ったことをした時には、愛をもって叱ることを意識しましょう。親子の関係は友達関係ではありません。

何のために叱るの?

「叱る」とは、伝えること。伝えたいことが相手に伝わっている状態が、「叱る」のゴールです。

「何を言ったか」ではなく、「何が伝わったか」が全てです。伝えたいことがあるから、人は叱るのです。

まずは、いつもの叱り方で相手に伝えたいことが伝わっているかを振り返ってみましょう。
「何度言ったらわかるの!」、ここから伝わるのは「お母さんは怒っている」ということ。もしかすると、「自分はだめな人間なんだ」という気持ちにさせてしまうかもしれません。
「どうしてやらなかったの!」、ここからは「お母さんは自分のことを分かってくれない」が伝わりそうです。「お母さんには、もう話すのをやめよう」となってしまったら大変です。

親側は伝えた「つもり」でも、相手には異なるメッセージが伝わっている…。これでは、上手に叱れていないということになってしまいます。

叱る際には、伝えたいメッセージを明確に。目的をもって叱るということです。

「叱る」と「怒る」の区別

新・家庭教育論叱り方

「叱る」と「怒る」の違いをみてみましょう。実は辞書の上では、「叱る」と「怒る」の違いはほとんどないのですが、実際のやり取りにおいては、両者には大きな違いがあると感じます。

「叱る」とは相手のことを思い、間違えを正すために指導すること。相手の気持を聞きながら、対話を通して「伝えていく」行為が叱ることです。叱る側と叱られる側には、「双方向の関係」が生まれます。

「怒る」とは、感情をあらわにして、いらだちをぶつけること。相手の言い分を聞くことなく、相手の気持ちを慮ることもなく、自分の感情をぶつける行為です。怒る側からの「一方向」の関係です。

「怒るのではなく叱る」、当然これが正しい考え方ということになります。ただ、幼少期の子どもを叱らなければならない場面には、待ったなし!も多々あり、言葉で言って聞かせる余裕がないこともあるはずです。感情をコントロールすることもできず、声を荒立ててしまうこともあるでしょう。

そんな時には、怒ってしまった自分を受け入れてもいいのではないかと感じます。ただ、怒ってしまった後には、その理由をきちんと伝えましょう。そして、「あなたのことを大切に思っている」という気持ちも改めて伝えましょう。

伝えたかったメッセージを愛をもって伝えることができれば、子どもとの信頼関係は崩れないはずです。

子どもを育てる叱り方

叱られることで子どもは成長します。新しい考え方を手にし、新しい世界を見ることができるようになります。相手の気持を汲み取ることができるようになり、伝えたいメッセージを相手に届けることもできるようになります。
共生の社会を生きるための知識、技術を手にするということです。

しかし、叱り方を間違えてしまうと、子どもを育てるどころか、子どもの成長を止めてしまうことになりかねません。ここでは、上手な叱り方について考えていきましょう。

上手な叱り手になる3つのポイント

「ほめる」より、ずっと難しいと捉えられる「叱る」ですが、以下の3つのポイントをおさえることで、ぐんと叱り方(伝わり方)が上がります。

1. 子どもの気持ちを聞く
子どもには、子どもなりの考えがあります。たとえ間違った行為であっても、子どもは自分なりに考えていたはず…。まずは、子どもの気持を聞いてあげることが大切です。自分のことを理解してくれる相手に、人は心を開きます。自分の話を聞いてくれるからこそ、相手の話も聞けるようになるのです。

間違っている部分を指摘する前に、まずは子どもの気持ちを聞きましょう。子どもの理解がスタートです。

2. 子どものとった「行為」に焦点を当てる
叱る際には、「人」と「コト(行為)」を区別する視点が求められます。「なんであなたはこんなことをしたの!」と相手(人)を責めるのではなく、行ったコト(行為)を指摘しましょう。
「なんでこんなことになってしまったかな」と、相手のとった行為に視点を移すということです。「次はどうすればよいのか」というアイディアが湧いてきます。

3. 叱る際の基準をつくる
同じことをしても、親の気分で叱られたり、叱られなかったり…。これでは、子どもはどうしていいのか分からなくなってしまいます。
叱る際には、「これをやったら叱られる」、「ここまではOKだが、この先はだめ」等、基準を作る必要があります。
できれば家庭内でその基準を徹底できるといいですね。お父さんはOKなのに、お母さんからは叱られる、これでは子どもが惑ってしまいます。

5つのステップで伝わり方が変わる

更に、伝えたい内容を相手に届けやすくするためには、言葉の並べ方に意識を向けてみましょう。5つのステップで、相手への伝わり方がアップします。
もちろん、命に関わるようなとっさの場面は、この限りではありません。

1. 起こっている事実を伝える(自分の解釈を入れない)
2. 自分の気持ちを伝える(一般論や“べき論”ではない)
3. 望ましい行動の提示(具体的行動を示す)
4. エンパワメント(あなたならできる!を伝える)
5. 改善したらほめる

例えば、でかける直前に牛乳をこぼしてしまったとしましょう。

1.牛乳がこぼれちゃったね(事実)。
2.もう、でかける時間なのに困っちゃったな(自分の気持ち)。
3.こっちに牛乳をおいたらよかったね(望ましい行動の提示)。
4.◯◯ちゃんなら、次は絶対にできるね(エンパワメント)。
5.(牛乳を置く場所に意識を向けていたら)上手にできるようになったね(ほめる)。

本人が納得し、次は自分でできるように伝える、これが「叱る」の目指すところです。
「牛乳をこぼすあなたはだめな子だ」と、一つの行為から子どもを否定してしまってはいけません。「みんなはできているのにどうしてできないの」と、他の子どもと比較するのはやめましょう。

叱られた後に、子どもが失敗した理由を理解し、次はやってみようと思えていたら、それは最高の叱り方と言えるでしょう。

「叱る」で親力をあげよう

新・家庭教育論叱り方

子育てにおいて、叱ることの大切さ、必要性について述べてまいりました。ただ、それは「ほめずに叱る」ということではありませんし、「叱ることに重点を置く」ということでも、もちろんありません。

ほめる時には全力でほめる、叱る場面では丁寧に叱るということです。いいことは共に喜び、悪いことは教えてあげるという姿勢が重要です。

大切なのは、子どもをよく見ること、子どもの気持ちを聴き取ること。そして、「この子なら大丈夫」と、子どもを心から信頼することです。
叱る際には、言葉以上にこちら側の感情が伝わるものです。相手への期待をもって叱っているのか、そうでないかは、子どもは見抜いてしまいます。

「ほめて叱る」を通して、更に強固な親子の信頼関係を作っていってください。そのプロセスこそが、親としての成長につながります。上手な叱り手となり、親力を上げていきましょう。

■ライタープロフィール
江藤プロフィール写真
江藤真規
東京大学大学院教育学研究科博士課程修了 博士(教育学)
株式会社サイタコーディネーション代表
クロワール幼児教室主宰
アカデミックコーチング学会理事
公益財団法人 民際センター評議員

自身の子どもたちの中学受験を通じ、コミュニケーションの大切さを実感し、コーチングの認定資格を習得。現在、講演、執筆活動などを通して、教育の転換期における家庭での親子コミュニケーションの重要性、母親の視野拡大の必要性、学びの重要性を訴えている。著書は『勉強ができる子の育て方』『合格力コーチング』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『心の折れない子どもの育て方』(祥伝社)、『ママのイライラ言葉言い換え辞典』(扶桑社)など多数。
クロワール幼児教室

■江藤さんへのインタビュー記事はこちら↓
イヤイヤ期の言葉がけはタイプ別に!江藤コーチの子育てアドバイス①
子どもをやる気にさせるほめ術は?江藤コーチの子育てアドバイス②
学力向上ために6歳までにやるべき6つのこと。江藤コーチの子育てアドバイス③

■江藤さんの著書紹介

\ 手軽な親子のふれあい時間を提案中 /

この記事のライター

江藤真規
江藤真規

サイタコーディネーション代表。サイタコーチングスクール、クロワール幼児教室主宰。東京大学大学院教育学研究科博士課程修了 博士(教育学)。皆が「子育ち」を楽しめる社会を目指して、保護者さまのエンパワメントを行っています。社会が大きく変化する中、幼児期の子育てにも新しい視点が求められます。子育ての軸をしっかりと築き、主体的な子育てに向かうためにお役立ちとなる情報を、コーチングの考え方を基軸に配信いたします。HP:https://croire-youjikyousitu.com/