自立心へとつながる自己決定力。自分を大切に生きていくために不可欠な力であり、自分で決めるが故の責任感にもつながる力です。家庭で子どもに「決める」経験をたくさんさせてあげましょう。
そのためには、その子らしさを伝える、質問をすることがおすすめです。
また、子どもの自己決定と親の願いの線引きには、「それは子どものためになっているか?」という自分への問いが役立ちます。自己決定するのは子どもだけではありません。
親としての日常にも自己決定を意識し、納得感ある人生を過ごしていきましょう。
「自分で!」は子どもの自立心への第一歩
子どもの「自分で!」に皆さんはどう対応していますか?子どもの成長はとても早く、1歳半にもなると、急に自己主張が増えてきます。親がやってあげようとしても、「自分で!」と拒否してきます。これは「何でも自分でやってみたい!」という気持ちの表れです。
ところが、何でも自分でやりたいのにうまくできなかったり、伝えたいことがあるのにうまく伝わらなかったりと、この時期の子どもは気持ちの混乱を起こします。いわゆるイヤイヤ期の始まりです。
親にとっては厄介な時期ではありますが、「自分で!」が活発になるのは、自分のやりたいことが見えてきた証拠。子どもの「自分で!」を尊重し、日常生活の中で沢山の「できた!」の体験をさせることが、子どもの自立心へとつながります。
何よりも、自分を主張できるのは、自分が愛されていると思えるから。「自分で!」と言えるのは、とても素敵なことと捉えましょう。
子どもは一人で育っていくわけではありません。私達もそうであったように、周囲の人との関係性の中で、沢山大人を困らせながら育っていくということです。
自己決定力ってどんな力?
自分のこだわりが出てきて、自己主張が始まったころから、意識を向けて頂きたい力があります。自己決定力です。
自己決定力とは、「自分で決定する力」のこと。自分で判断し、自分で決めるということです。
人生は、判断と決断の連続です。特に情報過多の時代、圧倒的に増えた情報に振り回されずに生きるためには、自分なりに決める力が求められます。その時の気分で決めてしまっては、納得感が伴いません。うまくいっている時はいいのですが、うまくいかなくなった時に、後悔が始まってしまいます。
日常の小さな判断、決断から始まり、人生には大きな判断、決断も課されます。自分で考え判断し、自分で選び納得する。自立した人生を自分らしく生きるために不可欠であるのが、自己決定力です。
また、自己決定するとは、自分と向き合い自分を尊重する行為でありつつ、見方を変えれば、自分の考えから始まる行為に責任を持つというとでもあります。誰かのせいにする「他責のマインド」ではなく、自分の責任で生きる「自責のマインド」を持つためにも必要な力と言えるでしょう。
なぜ自己決定力が大切なの?
社会の変化とともに、教育にも大きな変化が表れてきています。正解を暗記する力ではなく、自ら考え自ら表現する力、自分なりに最適の解に向かっていく力が重視されるようになりました。自分で道筋を決め、状況に合わせて軌道修正していくためには、自己決定力が必要です。
また、子どもたちの進路も多様化してきています。勉強の定義さえ変わりつつある今、子どもたちの進路は従来のように、「成績がこうだからこの辺りの学校を受けましょう」と、成績のみを基準にしたものではなくなりました。
自分らしい未来を、自分の興味関心に合わせて決めていく、そのためにも自己決定力が求められます。
アメリカでの子育ての思い出
筆者はかつてアメリカで子育てをしていました。子どもたちの幼少期からスタートし、7年程アメリカで暮らしてきました。
振り返れば、アメリカの子どもたちの日常には、「自分で決める経験」が埋め込まれていたように思い出します。今でも強く心に残っている言葉が、”What do you think?“。とにかく、大人はこの問いを子どもたちによく投げかけるのです。
喧嘩になってしまった時、大人は仲裁にも入りませんし、解決策も示しません。「あなたはどう思う?」と静かに両者に問いかけます。子どもの「わからない」にも、すぐに答えは示しません。「あなたはどうしたらいいと思う?」と、まるで質問に質問を返すようなやり取りです。
たとえ、幼少期の子どもであっても、自分で決めさせる経験を重視していたアメリカの子育てでは、食べるものも、着るものも、もちろん習い事も自分で決めさせます。「私はパスタが好きだから」と、毎日バターをかけたパスタを食べ続けていた娘の友達の食生活には少々の疑問も感じながら、堂々と自分の考えを述べる子どもたちの姿は自信に満ち溢れ、誇らしく見えました。
自己決定力を育むために家庭ですべきこと
ここでは、家庭で自己決定力を育む具体的方法について、3つの観点から見ていきましょう。
その子らしさを大切にする
自己決定とは、個人を尊重する行為です。自分が決めたことを受け入れてもらうことから、自分自身を尊重することができるようになります。自分らしさを見つけ、大切にしていくことが、自己決定力を育む前提となります。
• 〇〇ちゃんは頑張ることができるね
• 身体を動かすのが好きなんだね
• 優しい色使いで絵を描くね
「〇〇ちゃんらしさ」を見つけて伝えることで、子どもは自分が大切にされていることを知り、自分の個性を尊重することができるようになります。不安なく、自分で決めることができるようになるでしょう。
また、一つの「好き」は次なる「好き」につながっていきます。「好きなんだね」と、その子の個性を言語化すれば、子どもはそれを発展させ、興味関心を広げていくことでしょう。「自分の好き」が膨らみます。「自分で決める」が更に楽しくなりそうです。
日常生活に「決める」を埋め込む
「決める」には時間がかかります。見て、触って、考えては迷い、迷ってからまた考える。忙しい現代社会においては、私達は「決める」ための時間を十分に確保できていないように感じます。また、多様な情報がある中で「決める」のは、なかなか難しい行為です。素人の自分が決めるより、その道のプロに決めてもらったほうが安心という考え方も広がり、今では、「選ぶ」サービスが仕事になったりしています。
子どもの日常も同様です。家庭で過ごす短い時間の中には、沢山の「やらねばならないこと」が待っています。「決める」行為に時間をかけるだけの余裕もなく、淡々とタスクをこなさせたい気持ちもわかります。
だからこそ、日常生活に小さな「決める」を埋め込んでいきましょう。「決める」ためには、質問が役立ちます。
• 朝ごはんは何にしようか?
• 今日は何を着て保育園に行く?
• どの本を読もうか?
「わからない」が返ってきたら、選択肢を与えるのが良いでしょう。子どもにとって「選ぶ」ことは「自分で決める」と同義です。
• 朝ごはんはパンとご飯とどっちにする?
• 洋服は自分で選ぶ?ママが選ぼうか?
• どっちの本を今日は読む?
まだ言葉をあまり話さない子どもには、YesかNoで答えられる質問がおすすめです。
• 抱っこする?
• 今日はお友達と遊ぶ?
• そろそろお風呂にはいろうか?
自分の意思で選び、選んだことを尊重される経験を重ねながら、子どもの自己決定力は育まれていきます。自分を大切にすることができるようになるでしょう。
そして、他者意識が芽生えてくるころには、相手の気持ちを探りながら、相手のことも大切にすることができるようになるはずです。これからの社会は共生の社会。自分で決めることが、よりよい未来社会を創る起点となりそうです。
決めた後のフォローを大切にする
もう一点大切にしたいことが、子どもが決めた後のフォローです。「◯◯ちゃんが決めてくれたのは美味しいね」「決めてくれてありがとう」と、子ども自身が「決めてよかった」と思えるよう、フォローをしてあげましょう。
「自分が決めてみんなが喜んでくれた」と思えることが、「自分にはできる」という気持ちを育てます。更に楽しく意欲的に、自分で決めることができるようになるはずです。
どこまで子どもが決めたことを受け入れるか
自己決定には、頭を悩ませることもあります。「どこまで子どもが決めたことを受け入れるか」ということです。例えば、子どもが「自分で決めた食べ物」が、いわゆるジャンクフードばかりだったら、毎日その「自己決定」を受け入れるわけにはいかないでしょう。
子どもが「まだ遊びたい」と自己主張したとしても、もう遊ぶには遅い時間なら、子どもの主張をそのまま受け入れることはできません。
どう、線引きをすればいいのでしょう。「これは子どものためになっているか?」という視点を備えておくことが、その時々に応じた最適な判断をするために役立ちます。親の役割は子どもを守ること、子どもの最善の利益を保障することです。
判断を迷うことがあれば、「これは子どものためになっているか?」という視点で考えてみる。たとえ、子どもが決めたことであっても、子どもが危険に晒されたり、悪い習慣につながることなら、その意見を尊重することはできないという判断になります。
しかし、その場合にも、「子どもが決めた」という行為だけは尊重することが大切です。「◯◯ちゃんが決めてくれたのはとても美味しそうだね、でも〇〇ちゃんが大きくなるために、今日はこっちを食べようね」と説得していきます。
あるいは、全てを子どもに決めさせるのではなく、子どもに自己決定をさせる場面とそうでない場面を分けて考えていくことも必要でしょう。
親も自己決定しよう
最後に、親の自己決定について触れたいと思います。子どもは親を見ながら育ちます。学ぶは真似ぶ。子どもは自分に一番近い存在の親を真似ながら育っていきます。
みなさんの子育ては、自己決定の上に成り立っていますか?親としての人生は、自分らしく、自分の納得する形で進んでいますか?過度な「子どものため」は、時として自己犠牲へとつながってしまいます。
子どものためだけではなく、自分のためにも時間を使う。親としての人生を謳歌する。
そのためには、日常の小さなことから自分で決め、納得感ある時間を過ごすことがとても大切と感じます。
■ライタープロフィール
江藤真規
東京大学大学院教育学研究科博士課程修了 博士(教育学)
株式会社サイタコーディネーション代表
クロワール幼児教室主宰
アカデミックコーチング学会理事
公益財団法人 民際センター評議員
自身の子どもたちの中学受験を通じ、コミュニケーションの大切さを実感し、コーチングの認定資格を習得。現在、講演、執筆活動などを通して、教育の転換期における家庭での親子コミュニケーションの重要性、母親の視野拡大の必要性、学びの重要性を訴えている。著書は『勉強ができる子の育て方』『合格力コーチング』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『心の折れない子どもの育て方』(祥伝社)、『ママのイライラ言葉言い換え辞典』(扶桑社)など多数。
クロワール幼児教室
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