2021年09月15日 公開
新・家庭教育論聴く力

親の「聴く力」が家庭教育をパワフルにする

『新・家庭教育論 忙しい毎日の子育てコーチング』連載第3回は、子育てにおける『聴く力』の重要性と家庭での実践方法をお届けします。

新・家庭教育論聴く力

特に学ぶ機会がないにも関わらず、重要な「聴く」こと。家庭教育で「聴く」に意識を向け、子どもの言語環境を整えていきましょう。
聴いているつもりを脱却するには、本質の理解とともに、スキルの活用も一助となります。「聴く」を意識すれば、本の読みきかせの質を高めたり、子どもに気づきを与えることもできるように…。
沢山聴いてもらった子どもは、他者の心も聴ける子に育つでしょう。

学校教育に不足する「話すこと・聴くこと」

学校教育

教育で重視される「生きる力」、この力を育むためには、コミュニケーションスキルは欠かせません。実際「他者と共に生きる」社会においてコミュニケーションは最重要であり、いかなる業界の方々と話をしても、「コミュニケーションが全てだ」という意見をよく聞きます。

特に重視されるコミュニケーションスキルは、「話すこと」と「聴くこと」。AI化する社会においては、人間ができることとして、ますますその重要性は高まってきています。しかし、私たちはこれらのスキルをどこで学ぶことができるのでしょう。

学校で学ぶのはどちらかというと「読むこと」「書くこと」中心であり、「話すこと」や「聴くこと」に関しては、特段トレーニングをされていないのが現状です。「話すこと」に関しては、プレゼン等で近年取り上げられるようにもなりましたが、「聴くこと」に関しては未だ手つかずかもしれません。

しかし、社会の変化とともに他者との共生、協働が求められる中、聴くスキルを備えることは最重要といっても過言ではありません。

視点を家庭に向けてみます。家庭の中には、「聴く機会」「話す機会」が溢れています。ここは家庭教育の出番です。
社会で学んできたこと(インプット)を家庭で表現する(アウトプット)。学校と家庭が相互に補完しあう関係になれば、子どもの興味は大きく広がり、学びは間違いなく加速します。
これを実現するためには、「聴く人」の存在が必要です。親が聴き上手になることで、家庭教育は圧倒的にパワフルになるのです。

子どもの言語環境を整える

では、どのようにして「聴く」力を高めることができるのでしょうか。具体的なスキルはこの次のパートで紹介いたしますが、スキルに先立ち、子どもの言語環境に目を向けてみたいと思います。

子どもが生まれたその日から、親としての日々が始まります。子育ては誰に教えられるわけでもなく、私達は無意識に自分が育ってきた環境を真似、子育てをしていきます。自分が育ってきた環境が、自分の子育てにて再現されるということです。とても素敵なことであり、意識をせねばならないことがあると感じます。

それは、以前は存在していた地域社会の存在がなくなりつつあるということです。

過去の時代、子どもは親以外の大勢の人々に囲まれ生きていました。地域のおじいちゃん、おばあちゃんと言葉を交わすことも多かったでしょう。放課後は、地域の子どもたちと群れて遊びました。学校では「読み書きそろばん」、学校が終わってからは「話すこと」「聴くこと」の時間だったのです。豊かな言語環境が保障されていたとも言えるでしょう。

今はこのような環境がありません。放課後も一人で過ごす、塾に行って更に「読むこと、書くこと」を追求する。今どきの子どもには、意識をしなければ豊かな言語環境が整わないということです。だからこそ、意識を傾ける必要があります。

特に「聴くこと」を充実させ、子どもに沢山話をさせてあげることが大切です。

「聴く」のスキル

親の聴く力

ここでは、「聴く」スキルを紹介致しましょう。「聴くなんて簡単」と感じる方もおいでになるかもしれません。しかし、「聴くこと」は実はとても難しく、私もコーチングの学習を通して「聴く」を本格的に学んだ際に、その難しさに初めて気づきました。「聴く」のゴールは、子どもが「聴いてもらっている」と感じること。あなたが聴いているか否かではなく、相手がどう感じているかが成果なのです。
「聴いているつもり」を脱却するためには、基本に立ち返り、スキルを使ってみることがお勧めです。以下に、いくつかのスキルを紹介します。

アイコンタクト

基本的な姿勢です。聴く際には相手の目を見て聴くことが大切です。

あいづち、うなづき

「私はあなたの言葉を聴いています」というメッセージが相手に伝わります。子どもは話しやすくなるはずです。あいづちは音楽で言うところの手拍子のようなもの。手拍子があった方がノリよく歌えますよね。

おうむ返し

「今日はどんなことして遊んだのかな?」
「今日は公園にいったよ」
「公園にいったのね!」
このように、全く同じ言葉を繰り返すのがオウム返しです。自分を理解してくれている、受け止めてくれているという気持ちが、子どもの「もっと話したい」という気持ちを引き出します。

沈黙を受け止める

投げかけたことに子どもが応答しない時、即座に大人側から答えを提示していませんか?問われたことを吟味し、自分の経験を振り返り、言葉のポケットから的確な言葉を探し出すには時間がかかります。そして、そのプロセスこそが、表現力や思考力の基盤となります。「沈黙=わからない」と決めつけずに、子どもが応えるまで待ってあげる姿勢が大切です。

ペーシング

聴くためには、相手にペースを合わせることが大切です。相手の息づかいを感じながら呼吸を合わせる。声の高低、スピード、強弱、明るさと暗さなど声を合わせる。相手にペースを合わせることで、スムーズに会話が流れます。

最初から最後まで聴く

話が長い子の場合、ずっと聴いているわけにもいきませんよね。しかし、「いつまで喋っているの」とこちら側から遮ることは避けましょう。子どもは自分の話したいことを話し切ると自分が大切にされたと感じ、次に進めるような気持ちになるからです。

いつもとはいかなくとも、時間があるときには、「全部話した」と子どもが感じるまで付き合ってあげましょう。忙しい時には、「時計の針が◯になるまで聴くね、続きは夜聞かせてね」など、工夫をしてみてください。

日常生活で取り入れられる工夫

新・家庭教育論読み聞かせ

実際の日常生活では、どのように「聴く」を活用することができるのか、もう少し詳しく見ていきましょう。

本を子どもと一緒に読む

絵本を一緒に読むことの大切さは言うまでもありません。

生後最初の数年間にどのくらい子どもに本を読むかは、学校入学時の準備度に影響を与え、最終的にはその子の人生の道筋にも大きな影響を及ぼす。
* 生まれたその日から子どもと一緒に本を読むことは、子どもが読む能力を身につけるずっと前からリテラシー・スキルを育て、本に対する愛情を育てることに繋がる。

ダナ・サスキンド著『3000万語の格差』(明石書店、2018年)

エビデンスに基づき、このような知見も示されており、乳幼児期の子どもと本との関わりが、発達に与える影響の大きさがわかります。

とは言え、大人が読み聞かせをしてあげていても、

子どもがどんどんページをめくってしまう、
じっと座っていない、
自分で本を持ちたがり邪魔をするなど、

うちの子は本が嫌いだと感じてしまう場面も日常的にあるはずです。

こんな時には、大人の中にある「正しい読み方」を外すことがお勧めです。大人の目からしてみれば、到底本を読んでいるとは思えぬ光景でも、子どもは子どもなりに本の時間を楽しんでいる可能性があります。「本が嫌いな子」と決め付けるのではなく、本に親しみをもたせる機会を作ることが大切です。

そして、子どもが本の世界にはいってきたら、大人が聴き、子どもに話させる時間を工夫すると良いでしょう。本を読みながら子どもを観察していると、子供が興味を持つ瞬間がつかめます。物語を読んでいるのに、色に反応してみたり、動物のお話なのに、数を数え始めたり…、
1冊の本から受け取る世界は、大人と子どもでは異なるのです。大人側の世界に子どもを引っ張ってくるのではなく、大人が子どもの世界に入っていきましょう。子どもの世界に焦点を当てて話を聴いていくと、子どもは空想しながら沢山のことを話してくれます。とても楽しい時間です。

さらに、本の中にでてきた言葉を日常生活に使えば、子どもはどんどん言葉を覚えていきます。いつも読んでもらう本に出てくる言葉が日常生活につながれば、子どもの表現力は大いに高まることでしょう。

子どもの心の棚卸し

今の時代、小さな子どもも忙しい日々を送っているようです。オンライン学習の伸展とともに習い事の数は増加、楽しくも疲れているというのが、今どきの子どもの実態かもしれません。確かに充実した日常なのだと思いますが、子どもの心の中はどうなっているのかと考えると、少し交通整理が必要な気もします。

いろんなものが沢山入りすぎていると、欲しい時に欲しいものが見つかりません。誰かが手伝って棚卸しをし整理ができれば、どこに何があるかがわかるようになります。「聴く」ことで子どもに話をしてもらう、これが棚卸しです。

皆さんにも、誰かと話をすることで、「そうだった」と自分なりに気づいた経験がありませんか?自分で話しながら自分で気づいていくことをオートクラインといいますが、聴く人がいて、話すことができれば、人は抱えているものの整理をし、自分なりに気づいていくことができるのです。
子どもも一緒です。棚卸しができ、すっきりすれば、次は何をすればいいのかも見えてくるのではないでしょうか。

相互尊重の大切さ

「聴く」の価値を高めるためには、親子お互いが一人の人間として尊重しあう姿勢が大切です。「所詮子どもの言うことだから」と、子どもの発言を軽んじていると、聴くは形骸化し、どれだけスキルを使おうが、聴いているつもりからの脱却はできません。

相手がどれだけ小さな子どもであっても、一人の人間として尊重する。今この子はこう感じているのだと受け止める。もちろん、人としてのあり方、ものごとの善悪は教えていかねばなりませんが、これらは子どもを尊重しないことは同義ではありません。
自分の当たり前を強要することなく、子どもの世界を大切にすることは「聴く」前提としてとても重要なことです。

親子の関係は相互に尊重しあう関係です。親が子どもを尊重することで、子どもは親を、そして他者を尊重できる人間に育っていきます。「聴く」は、相手を尊重するための最初の一歩。
沢山聴いてもらって育った子どもは、必ず「聴き上手」となっていくことでしょう。

一生続く親子関係の基礎を、「聴く」で是非とも豊かにしてみてください。

■ライタープロフィール
江藤プロフィール写真
江藤真規
東京大学大学院教育学研究科博士課程修了 博士(教育学)
株式会社サイタコーディネーション代表
クロワール幼児教室主宰
アカデミックコーチング学会理事
公益財団法人 民際センター評議員

自身の子どもたちの中学受験を通じ、コミュニケーションの大切さを実感し、コーチングの認定資格を習得。現在、講演、執筆活動などを通して、教育の転換期における家庭での親子コミュニケーションの重要性、母親の視野拡大の必要性、学びの重要性を訴えている。著書は『勉強ができる子の育て方』『合格力コーチング』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『心の折れない子どもの育て方』(祥伝社)、『ママのイライラ言葉言い換え辞典』(扶桑社)など多数。
クロワール幼児教室

■江藤さんへのインタビュー記事はこちら↓
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子どもをやる気にさせるほめ術は?江藤コーチの子育てアドバイス②
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■江藤さんの著書紹介

■この記事で紹介した書籍

\ 手軽な親子のふれあい時間を提案中 /

この記事のライター

江藤真規
江藤真規

サイタコーディネーション代表。サイタコーチングスクール、クロワール幼児教室主宰。東京大学大学院教育学研究科博士課程修了 博士(教育学)。皆が「子育ち」を楽しめる社会を目指して、保護者さまのエンパワメントを行っています。社会が大きく変化する中、幼児期の子育てにも新しい視点が求められます。子育ての軸をしっかりと築き、主体的な子育てに向かうためにお役立ちとなる情報を、コーチングの考え方を基軸に配信いたします。HP:https://croire-youjikyousitu.com/