子どもの気持ちの尊重はしたくとも、これってワガママ?イヤイヤ期がスタートするころから、「どこまでワガママを聞いてよいのか」という悩みが膨らんできてしまいます。
そもそも、ワガママと甘えの線引きは難しいため、自分なりの判断基準を作るのは、とても難しいこと。認められないワガママに対しては、「この子はワガママだ」とレッテルを貼るのではなく、ワガママな行為への対応策を考えてみましょう。
十分に甘える機会を確保しながら、ダメなことはダメと伝える。一緒に考えてみる。また、ワガママを正そうとするよりも、気持ちが変わる仕掛けを作ってみる。
大人のような他者意識や協調性がまだ身についていない幼児だからこそ、子ども目線になった工夫が必要です。
「自分を大切にできる人生を歩んで欲しい」という子育ての価値観から、子どもの気持ちの尊重を意識していらっしゃる方も多いことでしょう。しかし、イヤイヤ期のあたりから爆発的に増えてくる、親の意見への拒否や拒絶。全力で自分を通そうとする姿を前に、「これってワガママなのでは?」と思ってしまいます。子どもの気持ちは大切にしつつも、「このままワガママを通していてよいのだろうか」と、対応にも頭を悩ませてしまいます。子どものワガママについて考えていきましょう。
自立の背景に必要な「甘え」
子どもが「もっと公園で遊びたい」と駄々をこねる。お風呂に入ろうと誘っても「嫌だ」と聞き入れない。これらの子どもの行為は、ワガママにも見えますし、親に対する甘えにも見受けられます。おそらく自分が急いでいる時やイライラしている時には、ワガママに選別され、心に余裕がある時には「甘え」と受けとることもできるでしょう。このように、ワガママと甘えには明確な線引きがなく、故に「どこまで聞くの?」という悩みがつきまとってしまいます。
大前提として、子どもには「親に甘える行為」が必要です。甘えるとは、愛情の要求のこと。たくさんの愛情に包まれながら、子どもは大きく育っていくのです。そして、愛情を確認しながら、少しずつ自分でできることを増やしていき、そして子どもは自立をしていきます。
自立を急ぐ必要はありません。子どものワガママを「必要な愛情の要求」と捉え、十分に甘えさせてあげることが大切です。子どもが親に甘えられるのは、しっかりとした親子関係が構築できているからです。
「ワガママ」と「自己主張」の違い
それでも、日常の子どもの行為を見ていて、どこで“No”のサインを出すか、判断に悩まれることも多いでしょう。様々な要因が絡んでいるため、明確な線引きはできないことを前提にしつつ、判断基準の一つの材料として、ワガママと自己主張の違いを考えてみましょう。
ワガママとは、周囲のことは考えず、自分の欲求を満たそうとする行為のこと。自分の気持ちだけを考え、それが受け入れられない時には怒りや悲しみを露わにします。一方、自己主張とは、自分の主張を相手に伝える行為のこと。たとえその主張が受け入れられなくとも、伝えたことで納得感が得られます。自分の主張のみを相手に押し付けるのではなく、相手の意見も聞き入れつつ行われるのが自己主張です。
こう考えると、ワガママと自己主張の違いは、「他者をどれだけ意識できるか」のように見受けられます。しかし小さな子どもは、まだまだ心も発達途中です。大人のように他者のことを考えることは到底出来ません。個人差はありますが、子どもに協調性が芽生え、子ども同士が遊べるようになるのは、一般的には4歳、5歳あたりから。幼児の行為に対して「人の気持ちを考えないワガママ」とレッテルを張ってしまうのは、少し行き過ぎた対応になってしまうかもしれません。
認められないワガママへの5つの対応策
それでも、認められないワガママだって当然あります。そんな時には、ワガママを指摘するより、その行為に対してどう対応するかを考えましょう。ここでは5つの対応策をご紹介します。
1.どうすればいいか話し合う
ワガママへの対応でもっとも重要なことは、「あなたは悪い子だ」とするのではなく、「その願いを受け入れることはできない」と伝えることです。ワガママを言う子が悪いのではないのです。この場面では、受け入れることができないのです。
その上で、「どうすればよいかを一緒に考えてみよう」と誘ってみます。もちろん、「あなたの気持ちはわかる」と、愛情をもって対応します。子どもからアイディアが出てくることもあるかもしれません。親側から、代替案を出すのもよいでしょう。考える力や、気持ちを切り替える力が育っていくことでしょう。
2.ダメな理由は共有する
「ダメなものはダメ」こんな言葉を使ってしまうこともあるでしょうが、「ダメな理由」は、是非とも子どもと共有してください。良いこと、悪いことをまだ知らない子どもには、なぜダメなのかを教えてあげる必要があります。理由を共有するには時間もかかりますし、伝えたところで状況が変わることはあまりないかもしれません。
しかし、頭ごなしに「ダメ」というだけでは、何度も同じことを言わなくてはなりませんし、そのうち親に隠れて行うような事態になってしまうことも。子どもを信じて、理由を共有していきましょう。
子どもは親の真似をしたがります。子どもが自分と似たような口調で、「ダメな理由」を誰かに教える日がくるかもしれません。
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3.毅然とした態度で伝える
「受け入れられない」と伝える際には、毅然とした態度で伝えます。コミュニケーションには言語・非言語があり、伝える際には非言語情報が大きな役割を果たしています。
「ダメと言っているのにニコニコしている」では、子どもは混乱してしまいます。できないことはできないと、シンプルに伝えましょう。
何を伝えるかより、どう伝えるかが重要だったりするものです。
4.我慢の先に得られることを伝える
「後からの利益」を目的に、自制心を働かせることができるのが人間です。後からいいことがあるから、今頑張る、今我慢するということです。
「今我慢して気持ちの切り替えができたら、後でいいことがあるよ」と、我慢の先の利益を伝えることも、ワガママへの対応となるでしょう。
ただ、その時に注意すべきは、我慢できたらご褒美をあげるというようなインセンティブで子どもを動かすのは、できるだけ避けるということ。ご褒美より、「自分が気持ちいい状況になる」と伝えるのがいいでしょう。「お風呂にはいってから飲む牛乳はとても美味しいだろうね」という具合です。
5.思わず〇〇したくなる環境を作る
ワガママへの対応は、言葉で伝えていくこともとても重要でありつつ、相手はまだ言語の発達途中である幼児です。子どものこだわりが、気分次第で急に変わることもよくあります。
子どもが思わず動きたくなるような環境作りを工夫してみましょう。ワガママにどう対応するか…と思い悩むよりずっと効果が大きく、そして場の空気も明るくなりそうです。
例えば、思わずお風呂に入りたくなるような、楽しいおもちゃを準備する。後から着るパジャマや飲み物を自分で選ばせるなど、皆さんの豊かな発想で、楽しい仕掛けを作ってみてください。
3年後の子どもをイメージしよう
忙しい日常、どの対応策を使ってもうまくいかない…と、子どものワガママに疲弊してしまうこともあるでしょう。そんな時には3年後をイメージしてみましょう。3年後の子どもは、道に転がって駄々をこねているでしょうか。お風呂に入るのを嫌だと泣きわめいているでしょうか。今の困りごとは3年後には、きっとなくなっているはずです。
自分の心がいっぱいいっぱいになってきたら、3年後はどうしているのかな、と未来に視点をむけてみてください。「今だけだ」と思うことができれば、子どもの甘えに、もう少しだけ寛容になれるかもしれません。
■ライタープロフィール
江藤真規
東京大学大学院教育学研究科博士課程修了 博士(教育学)
株式会社サイタコーディネーション代表
クロワール幼児教室主宰
アカデミックコーチング学会理事
公益財団法人 民際センター評議員
自身の子どもたちの中学受験を通じ、コミュニケーションの大切さを実感し、コーチングの認定資格を習得。現在、講演、執筆活動などを通して、教育の転換期における家庭での親子コミュニケーションの重要性、母親の視野拡大の必要性、学びの重要性を訴えている。著書は『勉強ができる子の育て方』『合格力コーチング』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『心の折れない子どもの育て方』(祥伝社)、『ママのイライラ言葉言い換え辞典』(扶桑社)など多数。
クロワール幼児教室
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