子育てに対する周囲からの意見は、有り難くもあり、時として受け取り方に悩んでしまうこともあります。親である自分への否定・批判と感じてしまうような意見でも、相手の見方を変え、捉え方を変えれば、自分の心が落ち着きます。また、コミュニケーションのとり方に意識を向ければ、意見の違いからくる「対立」を避けることができます。
いずれの意見も、子どもを思っての深い愛情の表れです。ちょっとしたスキルの活用で、お互いを尊重した関係構築に向かいましょう。周囲の意見を受け取るも、受け取らないも、最終的には自分に選択権があるわけです。安心して、柔軟に周囲の声に耳を傾けてみれば、きっと納得行く子育てに向かうことができるでしょう。
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子育てに対する意見への複雑な気持ち
親としての経験年数は、子どもの年齢と一緒です。誰もが子どもを産んで初めて親となり、そこから親としての人生がスタートします。慣れない子育てでは周囲からのサポートが不可欠、ただそばにいてくれるだけでもいいから一人にしないで・・・こんな気持ちでいた自分を思い出します。
しかし、子どもがだんだん大きくなってくると、「私の子育て」に対する他者からの目が気になってきます。公共交通機関での移動の際、スーパーマーケットで買い物の際など、「子どもの行動」の裏側で「私の子育て」が評価されている… 、このような感覚を持った方も少なくないのではないでしょうか。
更に子どもが成長し、社会性が出てくるころになると、子どもの発達に関する身内からの意見が増えてきます。「わがまますぎるのではない?」「ちゃんとご飯たべさせないと…」「もっと外で遊ばせた方がいいわよ」、という具合です。
「男の子なんだから」「女の子なんだから」「もう、3歳なんだから」等、子どものあるべき姿を示されてしまうこともあり、とても複雑な気持ちになります。全て、子どもを思っての意見でありつつ、これらの言葉の宛先は、親である自分。自分の子育てが評価、否定されているように感じてしまうからです。
特に義父母との関係には、頭を悩ませます。子どもにとっては祖父母という家族であり、親としての先輩でもあります。「嫁ぐ」という言葉も未だ一部で使われている日本社会においては、とてもデリケートな関係であり、子育てへの意見をどう捉えるか、頭を悩ませてしまいます。
周囲からの意見の上手な捉え方
支えてもらう場面も多くあり、また教えてもらうことも多くある相手からの意見です。良い関係性を保った上で、子どもも自分も傷つかないようにするためには、自分の「捉え方」がキーワードです。ここでは周囲からの意見の上手な捉え方、3つの方法をご紹介します。
相手の不安を理解する
そもそも、なぜ子育てに関する意見が飛んでくるのか、その裏側にはどんな気持ちがあるのかを考えてみましょう。そこには、子どもに対する深い愛情と、それ故に先を心配してしまう不安があるはずです。
子育てをすでに経験してきている人にとっては、沢山の子育て成功事例や失敗事例が、経験則として備わっています。経験してきたからこそ、転ばぬ先の杖を差し出したくなってしまうのでしょう。「きっと不安なんだろうな」、つまり悪気があるわけではないことを理解すると、気持ちが落ち着きます。
価値観の違いとして理解する
価値観とは、生きながらにして作りあげられてきた、その人にとっての大切な考え方。人には個々に応じた個性があるように、価値観も人によって様々です。もちろん、価値観に優劣はありません。「この人は、こういう世界を大切にしているんだな」「そういう考え方もあるんだな」と、考え方や価値観の違いを楽しんでしまえば、自分の心を穏やかに保つことができそうです。
世代の違いを理解する
子育てには、時代を超えても変わらぬ普遍的な考え方と、時代に応じた新しい考え方があると感じます。例えば昭和〜平成初期の子育てでは、高い学歴を持つこと、人と一緒であること等が、一般的には重んじられていました。
今は、子どもの主体性や個性が重視されるようになりましたが、親世代にとっては経験のないこと、あまり理解できないことなのでしょう。子どもの意見を尊重する行為は「甘やかし」、遊びを重視した子育ては「勉強不足」と誤解されてしまうかもしれませんが、これらは世代の違いからくるものと捉えましょう。その時代によって異なる子育て観があることを理解すれば、自分の心を穏やかに保つことができそうです。
対立を作らないコミュニケーションスキル
他人を変えることはできません。変えられるのは自分だけ。ここでは、相手との間に対立関係や上下関係を作らないコミュニケーションスキルについてご紹介します。人間関係はコミュニケーションによって成り立っていると言っても過言ではありません。自分も相手も大切にするために、コミュニケーションに意識を向けてみましょう。
まずは聴く(同感と共感を区別する)
関係構築の一丁目一番地は「聴く」でしょう。しかし、この「聴く」は意外と難しいのです。聴く際には「この人は本当は何を言いたいのだろう」と、相手の気持ちを推測しながら、言外の部分も聴くことが大切です。
聴く際には共感的に聴く姿勢が必要です。「それは違います」と相手の話を拒絶してしまうと、関係性はそこで途切れてしまいます。「なるほど、そう感じていらっしゃるのですね」と、共感をしながら聴きましょう。あいづち、頷き、言葉の繰り返しを活用すると、共感的に聴くことができるようになります。
また、共感と同感は異なります。「その通りです、私もそう思います」と、自分の心を曲げて同感する必要はありません。
自分の意見は相手を一旦受け止めてから
相手と自分の意見が異なる場合には、自分の意見を堂々と伝えましょう。
しかし、ここで大切にしたいのが伝え方の順番です。自分の意見は、相手の意見を一旦受け止めてから伝えましょう。相手に聴く準備が整えば、伝わり方がぐんと上がります。
「なるほど、そう云う考え方もあるんですね」と、相手の意見を受け止めてから、「しかし、私はこう思うのです」と伝えましょう。できればそう思う理由も伝えられるといいですね。なぜ、そう考えるのかの理由があれば、より伝えたいメッセージが届くようになるはずです。
Iメッセージで伝える
コミュニケーションにおいては、どのような言葉を使うかによって、伝わり方が変わります。自分の意見を伝える際には、「私はこう思います」とIメッセージで伝えましょう。
「普通はこう考えるんです」「今は違うんです」など、一般論として自分の意見を伝えてしまうと、伝わりづらくなってしまうばかりでなく、相手は自分が否定されたと感じてしまいます。
Iメッセージを使うには、勇気がいるかもしれませんが、自分がIメッセージで伝えれば、相手もIメッセージできっと返してくれることでしょう。対立ではなく、意見の交換ができ、新しいアイディアが生まれそうです。
見通しを伝える
冒頭にも示したとおり、そもそも子育てに関する意見は、相手の不安な気持ちからくるものです。このまま進んで先は大丈夫なのだろうかという、将来への不安です。
ならば、見通しを伝えて相手を安心させてあげてはどうでしょうか。「子どもの意見を受け入れているのは、自分の意見が大切にされる経験を子どもに積ませたいから。それは、自己肯定感につながるから」「今、沢山遊ばせているのは、遊びの経験が学びの土台となるから。自由に遊ぶ経験が、好奇心や想像力育み、自ら学べる力につながるから」。こういった将来の子どもの姿を伝えることで、何を目的として今があるのか、周囲の理解も進むことと思います。
全ての選択は自分にあり
子どもが育っていく過程には、沢山の登場人物がいた方がいいと感じます。周囲からの意見は視野の広がりに繋がりますし、異なる見方をする人との接点は、多様な社会を生きる力にも繋がります。
とはいえ、自分の心は守らなければなりません。周囲からの意見に振り回されることなく、頂きたいものだけ有り難く頂きましょう。子育ての第一義的責任は保護者にあり。最終的に子育て方針を決めるのは保護者です。周囲の意見をとりいれるもいれないも、最終的な判断は自分にあり。全ての選択は自分にあり、ということです。
根底にある深い愛情を理解した上で、柔軟な姿勢で周囲の意見を聴いてみれば、きっと納得の行く解に向かえることと思います。
■ライタープロフィール
江藤真規
東京大学大学院教育学研究科博士課程修了 博士(教育学)
株式会社サイタコーディネーション代表
クロワール幼児教室主宰
アカデミックコーチング学会理事
公益財団法人 民際センター評議員
自身の子どもたちの中学受験を通じ、コミュニケーションの大切さを実感し、コーチングの認定資格を習得。現在、講演、執筆活動などを通して、教育の転換期における家庭での親子コミュニケーションの重要性、母親の視野拡大の必要性、学びの重要性を訴えている。著書は『勉強ができる子の育て方』『合格力コーチング』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『心の折れない子どもの育て方』(祥伝社)、『ママのイライラ言葉言い換え辞典』(扶桑社)など多数。
クロワール幼児教室
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