子育てをすることで、夫婦の価値観の違いに気づき、それがストレスの要因になってしまうことはよくあります。しかし、自分の価値観を相手に合わせようとしたり、相手の価値観を無理やり変えさせようとしても、うまくいきません。
価値観が違うからこそできる子育てに向かうために、まずは対話がおすすめです。大切にしている考え方を言語化しあうことで、歩み寄れる部分が見つかるはずです。
また、価値観が違うからこそ、子どもは多様な考え方に触れることができます。価値観の違いを肯定的に捉えてみましょう。価値観の違いから、被害者意識等を感じてしまう場合には、見方を変えると良いでしょう。現状に対する見方を意識的に変えると、きっと前向きなエネルギーが出てくることと思います。
価値観って何?
価値観とは、その人が価値を見出し、大切にする考え方のことを言います。同じ価値観を持っている人とは共感しあえますし、異なる価値観を持っている人との交流からは、新しい視点を得る等、視野の広がりが期待できます。
そもそも、価値観は個人によって異なるもの。自分の価値観を相手に押し付けなければ、価値観の違いが関係性の悪化につながることはありません。「そういう考え方もあるよね」「私はこう考えるけど」、このようなやりとりは、日常的とも言えるでしょう。
ところが、パートナーと共に行う子育てとなると、価値観の違いが看過できない問題となり、互いに衝突してしまうこともよくあります。
価値観の違いを感じる時/子どもへの対応
ここでは、子どもと過ごす日常で、価値観の違いを感じやすい場面をご紹介しましょう。
大切なパートナーと言えども、これまで異なる環境で生きてきた他人です。「何かうまくいかない」という悩みがあるなら、それはもしかすると、価値観の違いからくるものかもしれません。
「価値観が違っていたのだ」と理解できれば、自分のことを否定的に考えたり、相手に攻撃的になったりする頻度が減りそうです。子育てに余裕を持つためにも、価値観の違いを認識しておくことは大切です。
叱るポイントの違い
「なんでそんなことで叱るのか」「なぜ、ここで叱らないのか」。子どもに正しい考え方を伝える場面でもある「叱る場面」には、その人なりの価値観が大きく表れます。お父さんは良いというのに、お母さんはだめと言う 。これでは子どもは混乱してしまいますので、価値観の違いを相互に理解した上で、子どもに伝えるポイントについては、意識共有をしておいた方がよいでしょう。
ほめるポイントの違い
ほめるポイントも人によって異なります。良い成果を出したらほめる、人と違うことを行ったらほめるなど、ここにも個人の価値観が色濃く出ます。パートナーのほめ方にイラっとすることもあるかもしれませんが、子どもにとっては、決して悪いことではありません。パパはここでほめてくれる、ママはこんな時に喜んでくれる。子どもにとっては、多様な価値観に触れる経験にもなるはずです。
しかし、「ここまでできたらほめよう!」と子どもの頑張りを期待している時に、途中で「よくできた」と言われてしまう こういうことは避けたいですね。パートナーに理由とともに、事前に伝えておくとよいでしょう。
基本的なしつけ・教育方針の違い
しつけにこそ、価値観の違いがよく表れます。基本的な生活習慣は、生まれ育った環境で培ったもの。ここは子どもに惑いが生じないよう、パートナーと話し合い、家族としての新しい価値観を構築していくことが大切です。
さらに、子どもの習い事や幼稚園を決めるころになると、価値観の違いが顕著に表れます。子育ての節目には、どのような子どもに育ってほしいか、そのためにどのような環境を選ぶのか、子育て方針を夫婦で話し合っておくことは重要です。
価値観の違いがストレスになる時
価値観は違って当然です。しかし、その違いをどうしても受け入れられず、相手理解ができない場合には、価値観の違いが大きなストレスとなってしまいます。
特に大きなストレスとなりがちなのが、受験にまつわる場面。そして、子育てへの協力が得られない場合です。
受験に反対される
小学校受験とは、夫婦にとってはとても大きな選択です。相当な覚悟がなければ進めません。日常生活も受験によって一変するため、一方が受験に反対の場合、互いに過度なストレスを抱えてしまいます。小学校受験の志願倍率が非常に高いことも焦りにつながります。また、受験は合意のもとにあっても、パートナー間で受験への熱量に違いが出てくると、両者の関係性が不安定になってしまいます。
受験のための準備は、子どもも巻き込んで行う営みです。パートナーとの価値観のズレを曖昧に隠して、とりあえずスタートをしてしまうと、子どもが被害者になってしまいます。
受験を始める前に、何のために受験をするのか、受験というプロセスが子どもにとってどのような意味をもたらすのか等、しっかりと話し合っておくことが必要です。
協力的でない
今や夫婦共に働くのが当たり前の時代。しかし、日本においては、未だ母親の負担が大きいのが現実です。また、子育てのために時短勤務をしている場合、職場での気遣いなどから、ストレスを抱えてしまうことも多々あります。仕事と子育てに、それでなくても多忙な日々。パートナーの態度が非協力的に見えてしまえば、「私はこんなに頑張っているのに」と不公平感を感じてしまいます。
しかし、この「非協力的に見える」のは、もしかすると価値観の違いかもしれません。協力しないのではなく、「子どもにはそんなに手をかけなくていい」と考えているのかもしれません。まずは話し合ってみるとよいでしょう。
また、自分の思いを相手に具体的に伝えることも大切です。「私はこういうことをして欲しい」と具体的にお願いすれば、きっとサポートを得られるようになるでしょう。
「価値観が合わない」への対処法
対話する
個人の価値観が合わないのは当然のこと。自分の価値観を相手に合わせたり、相手の価値観を変えさせようとするのではなく、対話をしながら共通部分を見つけることがおすすめです。
「私はこういうことを大切にしている」と、自分の考えを言語化して相手に伝えましょう。更に「あなたがそう考える理由を教えてくれる?」と相手の価値観も言語化してもらいましょう。互いに向き合ってじっくり対話する機会は、忙しい日常には意外とないものです。「価値観が違うかも?」をきっかけに、対話を深めていけば、相手の本当の気持ちを知ることもできるでしょう。行動のアプローチは異なれど、価値観には共通部分があった等の発見があるかもしれません。互いに壁を作ってしまう前に、ぜひ対話をしてみましょう。
役割分担をする
家族というのは一つのチームです。各チームメンバーが、自分の能力を発揮できる役割を担えれば、パワフルなチームになるはずです。丁寧に小さなことを積み上げていくことを大切にしているなら、学習習慣を始めとした習慣づくりを担当に。発想力豊かに、自ら考え行動することを大切にしているなら、とっさの判断が要される戸外での遊び担当に…。
自分が大切にしていることだからこそ、子どもにも真なるメッセージが伝わるはずです。自分と同じことをやらせようと相手をコントロールするのではなく、相手を信じて役割を分担してみてはいかがでしょう。
見方を変える
価値観の違う相手といれば、我慢をせねばならない場面も多く、「なぜ、私だけこんな苦労をしなければならないの」と、被害者意識を持つこともよくあります。そんな時におすすめしたいのが「見方を変える」こと。
例えば「なぜ、私だけが子どもの勉強担当なの?あの人は子どもの喜ぶことばかりしていてずるい」となるなら、現状に対する見方を変えてみませんか。「私は信用されて任されているんだ」「私だからできるんだ」と。気分が大きく変わるとともに、「子どもと全力で遊んでくれてありがたいな」と、相手に対する見方も変わるかもしれません。
世の中はすべて、自分の見方(解釈)で成り立っています。苦しさを感じる時には、「見方を変える」を意識してみてください。異なる世界が見えてくるはずです。
価値観が全く一緒の人などいるはずもなく、多かれ少なかれ、価値観が異なることは当たり前。大切なのは、その違いにお互いがどう対処していくかということです。価値観の違いから夫婦のバトルが起きてしまえば、子どもは自分の責任と感じてしまうかもしれません。
価値観の違いを、子どもの可能性の広がりに繋げられるよう、自分の気持ちを相手に伝えてみる。対話をしてみる。価値観の違いから、きっと更に強固なパートナーシップが築かれることと思います。
■ライタープロフィール
江藤真規
東京大学大学院教育学研究科博士課程修了 博士(教育学)
株式会社サイタコーディネーション代表
クロワール幼児教室主宰
アカデミックコーチング学会理事
公益財団法人 民際センター評議員
自身の子どもたちの中学受験を通じ、コミュニケーションの大切さを実感し、コーチングの認定資格を習得。現在、講演、執筆活動などを通して、教育の転換期における家庭での親子コミュニケーションの重要性、母親の視野拡大の必要性、学びの重要性を訴えている。著書は『勉強ができる子の育て方』『合格力コーチング』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『心の折れない子どもの育て方』(祥伝社)、『ママのイライラ言葉言い換え辞典』(扶桑社)など多数。
クロワール幼児教室
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