都心など一部の地域では、小学校受験者数が増加の傾向にあります。しかし、幼児期の子どものチャレンジとなる小学校受験は、思いつきで舵を切ってしまうと、親子双方にとって辛い経験となってしまう可能性も…。
まずは「なぜ受験をさせたいのか」、自分の気持ちを書き出すことがスタートです。そして、受験を機に、我が家の子育ての軸も言語化してみましょう。幼少期には幼少期だからこそできる、大切な経験があることも忘れずに。
合格から逆算した「すべきこと」のみに振り回され、子どもの経験を限定的にすることなく、「今」を充実させることを意識してください。親の心に余裕があれば、きっと幸せな受験に向かうことができるでしょう。
一部で増え始めた「小学校受験」
コロナ禍で、私達の生活は大きく変わりました。テレワークが主流となり、出歩くことには抵抗がある今、家族が同じ空間で過ごす時間が圧倒的に増えました。
幼児期の学びも選択肢が増えました。オルタナティブ教育や里山保育等にも人気があり、親のライフスタイルが変わったことで、より自由に子どもの未来を考えることができるようになったのかもしれません。
そのような中、一部の地域では小学校受験を目指す家庭が増加の傾向にあるといいます。しかも、母親がフルタイムの仕事をしながらのチャレンジが増えているとか。「豊かな専業主婦層の特別ないとなみ」といったイメージが強かった小学校受験には、今、新しい風が吹きはじめている様子です。
見通しが立たない社会だからこそ、「子どもの育ちの環境は自分で選びたい」という、主体的な気持ちが後押しとなっているように感じます。
今どきの子育ての難しさ
ここ3年で一番変わったことと言えば、恐らく「家族で過ごす時間が増えた」ということではないでしょうか。もちろん、プラスの側面は沢山あるでしょうが、「今まで見なくてすんだことが見えてしまう」、「今までやらなくてよかったことを、やらなければならない」等、負担やストレスも相当なもの…。今の社会は、全てが家庭の中に放り込まれた状況で、親御さんの多忙感、疲弊感は深刻な状況です。更には、幼児期の教育の重要性や、親の関わりの重要性も言われ、今どきの子育ては、親への期待が大きすぎるようにも感じます。
本来、子育ては社会全体で行うもの。子育てに難しさを感じても当然です。周囲を頼る勇気を持つことは、親の力量の一つとも言えるでしょう。ましてや、受験にチャレンジをするなら、まずは頼れる人を見つけることが必要です。これから始まる長い道のりには、様々な試練があるものです。頑張りすぎて子どもを追い詰めないように、一人で抱え込んで笑顔を失わないように、こんなに難しい時代なのだから、「あなたのサポーター」を傍らにおいておくことが、幸せな受験への第一歩と感じます。
小学校受験をすると決めたらまず行う3つのこと
小学校受験は家族で取り組む大きなドラマです。考えること、決めることが沢山出てきます。
まずは1冊のノートを準備しましょう。一生手放さない、「大切な思い出」となるノートですので、ご自身が気に入ったノートを選ぶといいでしょう。ノートを購入したら、スタートです。以下に、親として行うべき3つのポイントをまとめます。
受験にチャレンジする理由を明確にする
受験を意識する背景には、「近くの誰か」の影響があるように思います。周囲がソワソワしだしたから、なんだかうちも気になってきて…という具合です。正解がない子育てだからこそ、周囲の影響を受けてしまうのかもしれませんが、我が子の未来は誰かに合わせて作るものではありません。子どもの個性を考え、「我が家の方針」で決めていくことが重要です。
特に、幼少期という人間の基盤ができる大切な時期に、決して短くはない時間を投資する小学校受験です。その目的やチャレンジする理由を明確にしてから、覚悟を決めて進んで行きましょう。
この時期には子ども本人の希望などありません。「私が決めた小学校受験」であることを認識し、
・なぜ小学校受験をさせたいのか
・なぜこの学校がいいのか
この問いを何度も自分に対して繰り返してみてください。そして、その答えを言語化し、ノートに書き出しましょう。長い道のり、途中で迷いが生じることも多々あります。しかし、そんな時にこのノートを見返せば、後悔しない道を選択することができそうです。いよいよ試験が近づいてきても、理由が明確にあれば、ブレることなく、オロオロせずに踏ん張ることができるはずです。
子育ての軸を言語化する
小学校受験では、親の面接や願書が重視されます。それは、学校側と家庭の子育て方針が合っているかどうか、つまり、この先連携をとって、真に子どもの成長を促すことができるかどうかを確認したいからです。
よって、子育て方針、子育ての軸の言語化は、親に課されたとても重要なタスクとなるわけです。しかし、これを作り上げるには、かなりの時間と労力が要されます。学校側の理念に合わせて付け焼き刃で作られたものは、すぐに見抜かれてしまいます。子育ての軸とは、家庭の文化です。子どもが生まれた時から家庭の中で大切にしてきた文化を振り返り、わかりやすくシンプルな言葉で言語化しましょう。言語化には、自分への問いかけが効果的です。
・どんな人間に育ってもらいたいか
・子どもに一番伝えたいメッセージは何か
・家庭とは、子どもにとってどのような場であるべきか
これらの問いの答えを、先程のノートに書き出してみてください。そして、家族と共有しましょう。子どもの成長に伴い、内容は変わるかもしれません。もちろん修正可能です。自由に、夢や理想を書き出してみてください。
準備の過程が子どもに与える影響を意識する
言うまでもありませんが、受験の価値とは、決して合格のみで判断されるものではありません。ご縁をいただければ成功、いただかなければ失敗。これでは、可能性を狭めるための受験となってしまいます。
受験をさせたい理由の中に、「受験の準備という経験」の価値も、ぜひ加えて頂きたいと思います。学習習慣が身につく、自分に打ち勝つ力が育つ、気持ちの切り替えができるようになる、「やればできる!」という成功体験を積む、知識が増える、季節感や日本の伝統について知る、丁寧に行うことができるようになる…と、書き出せばきりがないほど、受験準備から得られる価値は多くあります。
こういった経験が子どものこの先にどれだけポジティブな影響を与えるかを意識しておけば、おおらかな気持ちで受験のサポートができるのではないでしょうか。成績や順位に一喜一憂せずに、子どもを見守ることができれば、子どもを追い詰めることなく、幸せな受験に向かえそそうです。
逆算ではなく今を積み重ねる
効率的な受験勉強と言えば、一般的には「ゴールから逆算して行う」かもしれません。ゴールから逆算し、「今はこれをすべき」という考え方です。
しかし、幼児が向き合う小学校受験では、この考え方はそぐいません。幼児期とは人間の基盤ができる時期。自由に遊ぶことによって、基盤となる見えない力が育まれていくのです。幼少期は、大人になるための準備期間でもありません。2歳なら2歳、3歳なら3歳、その子の「今」という時期にこそできることが沢山あるのです。
学校によっては、「絶対にこれができなければ受からない」という世界もあるのでしょうが、その考えのみに走り、子どもの経験を限定的にすることは避けたいものです。「今という時間を充実させる」ことも、是非意識して頂きたいと思います。
親の心持ちは言葉を超えて子どもに伝わります。今日を楽しく過ごすことができるかどうかは、親が子どもの「今」をどれだけ見ているか次第と感じます。たとえ行うことは一緒であっても、受験といういとなみが「好奇心が満たされる楽しい経験」とることも、反対に「我慢を強いられる辛くて悲しい経験」になることもあるでしょう。
ゆっくり着実に進むためには、一人で頑張りすぎず、思考の整理をしながらが大切ということですね。
■ライタープロフィール
江藤真規
東京大学大学院教育学研究科博士課程修了 博士(教育学)
株式会社サイタコーディネーション代表
クロワール幼児教室主宰
アカデミックコーチング学会理事
公益財団法人 民際センター評議員
自身の子どもたちの中学受験を通じ、コミュニケーションの大切さを実感し、コーチングの認定資格を習得。現在、講演、執筆活動などを通して、教育の転換期における家庭での親子コミュニケーションの重要性、母親の視野拡大の必要性、学びの重要性を訴えている。著書は『勉強ができる子の育て方』『合格力コーチング』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『心の折れない子どもの育て方』(祥伝社)、『ママのイライラ言葉言い換え辞典』(扶桑社)など多数。
クロワール幼児教室
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