2022年08月20日 公開
新・家庭教育論追い詰める親

子どもを追い詰めてしまう親からの脱却 ー 5つの処方箋

『新・家庭教育論 忙しい毎日の子育てコーチング』連載第14回は、忙しい今の時代だからこそ我が子を追い詰めてしまう。そんな親からの脱却を目指す、5つの処方箋をお伝えします。

新・家庭教育論追い詰める親

こんなに可愛い子どもなのに、なかなか子どもを待つことができずに、追い詰めてしまう…。背景には、急速に変化する社会が抱える特有の課題があるようです。

子どもを追い詰めてしまう自分を変えるためには、現状を知るとともに、自ら行動を起こすことが重要です。閉ざされた家庭を開き、周囲とつながっていきましょう。そして、自分の状態を整えていきましょう。我が子を知ることも怠らずに…。

どれだけ追い詰めても、子どもは変わりませんが、自らの行動を変えることで、子どもは大きく変わっていきます。エネルギーは変えられるものに注げるといいですね。

子育て環境の変化

子育てを取り巻く環境は大きく変わりました。テレワークに男性の育休取得と、ここ最近は「皆で子育て」の考え方が広がりつつあるように感じます。それでも、子育ての孤立化は引き続き深刻な社会的課題であり、「子育てをしやすい社会」というには未だ程遠い状況です。

社会の急激な変化、ライフスタイルの変化、教育の変化等、急速な「変化」は子育てのストレス要因となります。また、「幼児期の教育の重要性」が広く知られるようになったことは、教育への意識を高めるとともに、焦りまでをも生み出しているようです。オンラインの進展に伴い、幼児向け教材も凄まじい勢いで広がっています。

閉じられた家庭の中で、幼少期の子どもたちが「やらなければならないこと」は、圧倒的に増えているように感じます。

スマホ頼りの子育て

 「うちの子、ボールをまっすぐ投げられないんです…」
 「塗り絵の色が枠からはみ出してしまいます…」

2歳のお子さんを持つ親御さんからのご相談です。子育てをすでに終えられた方なら、「そんなの2歳だったら当たり」と思われるでしょうが、当事者である親御さんにとっては、とても気になる問題です。

子育てとは、かつては地縁、血縁関係の中で学ぶものでした。「子どもなんてそんなもんだ」「今できなくても、3歳になればできるようになっている」「そういう時には、こうすればいい」等、かつての親は、体験談や経験則を聞くことで、子育ての悩みを解決していました。

しかし、今はどうでしょう。子育ての難しさは、たいていスマホからの情報で解決していく時代。顔も名前も知らない誰かの意見を頼りに、子育てをしていると言っても過言ではありません。また、ついつい見てしまうSNSでは、上手に歌を歌う子どもの姿、魅力的な絵を書いている子どもの姿等、素晴らしすぎる子どもの成果が繰り返し流れてきます。無意識に我が子との比較が始まってしまいます。

一方的に情報を与え続けられれば、人は「現在地」を見失ってしまいます。今の子どもの姿を見ずして期待ばかりが膨らんでしまえば、我が子を追い詰めるという結果を招いてしまうかもしれません。

子どもを追い詰めてしまう理由

新・家庭教育論追い詰める親

子どもを追い詰めてしまうには、それなりの理由があるはずです。理由がわかれば、対処の仕方が見えてくるもの。ありがちな2つの理由をご紹介します。

「子ども」を知らない

子どもの世界と大人の世界は異なります。知識も経験も少ない子どもの世界は、毎日が発見の連続です。子どもの時間は、ゆったりと流れています。無理やり大人の世界につれて来てしまっては、双方にとって良い結果にはなりません。子どもは子どもの世界に生きているということを、まずは意識する必要があるでしょう。

自分が親になるまで、小さな子どもと接する機会がなかったことは、子どもの世界の不理解の一つの要因です。特に、子どもができないことに対して、なぜできないのかが理解できません。職場において、部下育成がとても上手な方も要注意かもしれません。目標ありきで組織人を育成するのと、子どもを育む行為は別物です。子どもは「子ども」です。

時間がない

今どきの子育ては、とにかく時間に追われています。それなのに、子どもにやらせたいことは増えるばかり。短い時間にありったけのアクティビティを入れてしまえば、「早くしなさい!」の連発により、子どもを追い詰めてしまいます。

親であるご自身も、きっと常に時間に追われていることでしょう。時短勤務になったところで、仕事量はさほど減らず、急いで最高のパフォーマンスをあげねばなりません。仕事でクタクタになり、自宅に戻ってからは急いで家事。子どもを寝かしつけたらもう22時を過ぎている…。全く余裕がない日常は、大きなストレスを生み出し、結果子どもを追い詰めてしまいます。

子どもを追い詰めてしまう自分からの脱却 5つの処方箋

新・家庭教育論追い詰める親

ここからは、子どもを追い詰めてしまう自分から脱却するための、具体的方法をご紹介しましょう。取り入れられるものがあれば、是非実践してみてください。

① 共感しあえる仲間を作る

子育ては、決して親だけが行ういとなみではありません。子育てが開かれ、共感しあえる仲間ができれば、子育てのストレスは一気に軽減されるはず。「あなたもそうだったんだ」「私だけではなかったんだ」、こんなやり取りが、最強のエネルギーとなるのです。

しかし、今の時代、自分から行動を起こさない限り、共感しあえる仲間と出会うことはありません。子どものことばかり見ている眼差しを、ぜひ自分にも向け、子育て仲間を作ってみてはいかがでしょう?どの先生の話を聞くより、どの本を読むより、仲間との体験談の共有は子育てを豊かなものとするはずです。

② 子育てのことを話す機会を作る

職場では、子育ての話しはしない、できないという声をよく聞きます。しかし、ご自分の置かれた現状を、少しでも職場に理解してもらえれば、心が楽になるのではないでしょうか。決して言い訳をするということではありません。
テレワークも進み、ライフとワークが近づいた今、子育ての話しもできる職場があれば、帰属意識が高まりそうです。子どもにも、ポジティブに働いているご自身の背中を堂々と見せてあげられます。

また、職場には子育てをしながら仕事を頑張ってきた先輩がいるかもしれません。どのようにして仕事と子育ての両立を図ってきたか、先輩の経験談は貴重なアドバイスとなるでしょう。

③ 自己基盤を整える

自己基盤とは、木で言うなら根っこのこと。しっかりと根をはらせた木は、雨が降っても風が吹いても傾くことなくたくましく育ちますが、根がしっかりしない木は、見栄えは良くとも、強い雨風に倒れてしまいます。

子育てをするには、親の自己基盤が整っていなければなりません。うまくいっている時は良いとしても、子育ての課題にぶつかった時に、折れてしまいます。まずは、自分自身の基盤を整えましょう。

自分自身の時間を持つこと、自分と向き合うことは、自己基盤を整えるために役立ちます。例えば、どんなに忙しくても、週末にはリラックスする時間を確保する。些細な仕事も含め、やらねばならないことをTo Doリストにまとめ、1つずつ潰してスッキリする。子育て一段落後のキャリアを考えるのも、おすすめです。自分の未来を考える行為は、自己基盤を整えます。

④ 我が子を観察する

もちろん親なら子どものことをよく知っているでしょう。しかし、そんなご自分を一度疑ってみてください。「知っているつもり」ではないかな…と。

実は、親といってもなかなか我が子の事は知らないものなのです。しかし、子育てを安定させるためには、子どもの現状を知ることがとても重要です。今の子どもの気持ちを知る。今の子どもの興味を知る。今の子どものできることを知る。今の子どもにはまだできないことを知る。これらが子育ての不安や焦りを取り除くことにつながります。

改めて子どものことを知ってみましょう。そのためには、子どもを観察することが大切です。表情を見る。子どもの動きを見る。子どもの話をじっくり聞く。このような取り組みで、子どものことを真に知ることができるようになります。

⑤ 長期的な視点を持つ見通しを持つ

どうしても子育ては近視眼的になってしまいます。しかし安定した気持ちで子育てをするには、長期的な視点を持つこと、見通しを持つことが大切です。

2年後の子どもはどうなっているでしょうか。小学校に入る頃には、どんなことに興味を持っているのでしょう。楽しみながら未来を想像してみると、「今はできなくても大丈夫」と思え、子育ての不安が軽減されるはずです。書き出してみれば、効果は更に高まります。

変えられるものと変えられないもの

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ものごとには、変えられるものと変えられないものがあります。例えば、過去の事実を変えることはできませんよね。しかし今、気持ちを切り替え、行動を変えることならできますし、今を変えれば、過去の捉え方は変わります。

また、感情を変える事はできません。悲しいと思っている時に、悲しむのをやめようと思っても、悲しさは減りません。しかし、「今は悲しいけれどもこの経験は私の人生にどんな意味があるんだろう」と捉え方を変えてみれば、気持ちが穏やかになるのではないでしょうか。

もちろん、他人を変えることは出来ません。しかし、自分は変えることならできるはず。そして、自分が変われば、他人も変わっていくのです。相手に変わってもらうためには、自分を変えることが唯一の方法ということです。

子育ても一緒です。子どもの現状にどうしても不満があり、なんとかしたいと思った時には、変えられるものに視点を向けていきましょう。他人である子どもはどんなに頑張っても変えることはできません。怒っても、追い詰めても、子どもは変わりません。

しかし、自分の行動を変える、自分の言葉を変える、子どもへの関わり方を変えることで、きっと子どもは変わるはずです。未来はここから、ポジティブな気持ちでぜひ自分自身を変えてみましょう。
 

子どもとの関係には工夫が必要です。ついつい感情的になりがちな子育てですが、急がば回れ。子どもを追い詰め、親子関係を壊してしまわないよう、ご自分を整え、お子さんの力を信じて、忙しい社会だからこそ、深呼吸しながら進んでくださいね。

■ライタープロフィール
江藤プロフィール写真
江藤真規
東京大学大学院教育学研究科博士課程修了 博士(教育学)
株式会社サイタコーディネーション代表
クロワール幼児教室主宰
アカデミックコーチング学会理事
公益財団法人 民際センター評議員

自身の子どもたちの中学受験を通じ、コミュニケーションの大切さを実感し、コーチングの認定資格を習得。現在、講演、執筆活動などを通して、教育の転換期における家庭での親子コミュニケーションの重要性、母親の視野拡大の必要性、学びの重要性を訴えている。著書は『勉強ができる子の育て方』『合格力コーチング』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『心の折れない子どもの育て方』(祥伝社)、『ママのイライラ言葉言い換え辞典』(扶桑社)など多数。
クロワール幼児教室

■江藤さんへのインタビュー記事はこちら↓
イヤイヤ期の言葉がけはタイプ別に!江藤コーチの子育てアドバイス①
子どもをやる気にさせるほめ術は?江藤コーチの子育てアドバイス②
学力向上ために6歳までにやるべき6つのこと。江藤コーチの子育てアドバイス③

■江藤さんの著書紹介

\ 手軽な親子のふれあい時間を提案中 /

この記事のライター

江藤真規
江藤真規

サイタコーディネーション代表。サイタコーチングスクール、クロワール幼児教室主宰。東京大学大学院教育学研究科博士課程修了 博士(教育学)。皆が「子育ち」を楽しめる社会を目指して、保護者さまのエンパワメントを行っています。社会が大きく変化する中、幼児期の子育てにも新しい視点が求められます。子育ての軸をしっかりと築き、主体的な子育てに向かうためにお役立ちとなる情報を、コーチングの考え方を基軸に配信いたします。HP:https://croire-youjikyousitu.com/