「赤ちゃんが夢中になる絵本」として大人気の『お?かお!』の著者・ひらぎみつえさんインタビュー後編。5歳のお子さまを育てながら活動するひらぎみつえさんに、子育ての日常や絵本との関わりについてお伺いしました。連載『絵本はお友だち』Vol.04です。
絵本作家・ひらぎみつえさんインタビュー【後編】
インタビュー前編では絵本の創作にまつわるお話を伺いましたが、今回の後編では、ひらぎさんの日常や子育てについてお届けします。
子育てが楽しくなる!大人気しかけ絵本『お?かお!』著者インタビュー
幼稚園から帰ったら、一緒に思い切り遊ぶ毎日
ひらぎ 娘は今、幼稚園に通っています。バスで15時には帰ってくるので、そのあと一緒に遊んで過ごすことが多いですね。
ほん どんな遊びをされますか?
ひらぎ リビングに、夫と私、娘それぞれの専用デスクがあるので、そこで工作をしたり絵本を描いたりします。
最近はポストを一緒に作りました。ひらがなを書けるようになってきたので「お手紙ごっこ」に興味を持ちはじめたんです。ポストを作りたいと言い出したので、一緒にダンボールで作って、ビニールシートを敷いてその上で絵の具で思いっきり赤に塗りました。
幼稚園のスモッグを着たまま作業したら、血を浴びたみたいに真っ赤になっちゃって、アクリル絵の具だから洗濯しても落ちなくて。
ほん 血のりみたいですね(笑)
ひらぎ 幼稚園に行ったら、他の子のスモッグは綺麗なのに娘のだけ真っ赤に汚れてて……。
ほん でもそれ、お母さんと思いっきり制作したっていう勲章のようなものですよね!
ひらぎ そうなのかな。
ほん そうですよ、お友だちに「なんでそんなに赤いの?」って聞かれて、「お母さんとポスト作ったんだ~」って答えるとき、きっとすごく誇らしかったと思います。
ひらぎ やりたいと思ったらとことんやる!が、親子のモットーなんです(笑)
子どもとの遊びが、絵本のアイデアに
人形遊びは、人形やぬいぐるみにそれぞれキャラクター設定が決まっていて、たとえばしまじろうのぬいぐるみは「しまじろうやまの大統領」、リカちゃん人形は「有名なパティシエのリカボンジョレーさん」なんだそうです。
ほん 大統領とか、ボンジョレーとか!おもしろいですね。
ひらぎ テレビか何かで見た「トランプ大統領」から影響を受けているのだと思います(笑)
娘は大統領のお母さんという設定で、私はおばあちゃんなのだそうです。
ほん 早くもおばあちゃんなんですね(笑)
ひらぎ 「有名なリカボンジョレーさんが作ってくれたケーキがあるんだよ」などと設定して遊んでいるのですが、そんな会話をしながら「こういう人がいたら面白いな」なんて絵本のアイデアをもらったりするんです。
ほん 子どもとの遊びが、絵本の創作活動につながるのですね!
ひらぎ 子どものひと言から私の妄想のスイッチが入ってしまって、半分上の空で遊びに付き合っていることもあります(笑)
一緒に遊んで一緒に育つ
「やらないと」「きちんと育てないと」と思いすぎると、プレッシャーを感じてお互いにストレスになってしまいがち。でも一緒に思い切り遊んで「楽しさ」を共有すれば、親も子も楽しい経験の中で自然に育っていけるような……。
ひらぎ 楽しいのは良いのですが、「ちゃんとしてないといけないこと」がおろそかになってるなぁと感じることはあります。
ほん たとえばどんなことですか?
ひらぎ さっきも話した自分の「妄想のスイッチ」が入ってお話を考えたり何かをやりはじめたら、途中でやめられないんです。それで寝る時間も遅くなってしまったり……。
ほん 生活リズムが乱れてしまうのですね。
ひらぎ 最近はちょっと反省して、気分がノリはじめたときに「ちょっと待てよ」と立ち止まるように心がけています。これから歯みがき、パジャマ、トイレ……とすることを考えたら、もう間に合わない!と思ったら、妄想は止めるように、と。
ほん 逆算するようになったのですね(笑)
ひらぎ 幼稚園に通いはじめた当初はけっこうきつかったですね。それまで完全に自由な生活だったので……。娘はもう年長ですが、娘がというより私がやっと年長さんになったような感じです(笑)
ほん まさに「一緒に成長」ですね!
イライラしたときこそ、絵本を!
ひらぎ いつもすべての絵本に助けられています。
たとえば、子どもと2人だけで過ごしているときに、2人ともイライラしていたら救いがないですよね? 大人同士だったら、そういうときはちょっと距離を置いて落ち着こうとするけど、うちの子はイライラするほど距離を詰めてきます。 だから「じゃあ絵本でも読むか~」って2人で一緒に絵本を読むんです。
そうすると、絵本の世界に逃げ込めて、読んでいるうちに2人ともイライラがすーっとなくなってくるんです。
ほん なるほど、絵本に親子の間に立ってもらうんですね!
ひらぎ 2人で絵本の世界に現実逃避する感じですね(笑)
ほん イライラしているときって「こんなんじゃダメだ、子どもと向き合わなくちゃ」って思って、向き合おうとしたらもっとイライラしてしまうんですよね……。
ひらぎ そうなんです。負のスパイラルに入ってしまう。そんなときほど、「絵本に逃げる」のがいいんです。
ほん 同じ絵本を一緒に読んでいたとしてもそれぞれ感じ方が違うから、絵本を読むことでお互いにいい距離感が生まれるのかもしれませんね!
そんなときは、どんな絵本を読むのがいいですか?
ひらぎ その時の年齢に合わせて楽しめるものがいいですね。
何でもいいと思いますが、親子2人とも好きな絵本がいいのではないでしょうか。
ほん 子どもに「絵本読むから選んできて!」と言うのもいいかもしれませんね!
それで、一瞬、距離と時間ができますし……。
ひらぎ それもいいですね!
ほん その間に呼吸を整えて(笑)
絵本で、親子の心が近くなる
ほん 言葉を覚えてお話できるようになる時期ですものね。
ひらぎ そんなとき、子どもが話している言葉の中で「そのセリフ、出典はあの絵本だな」っていうのがあると、すごく楽しいんです。
たとえば、風船で遊んでいたとき「ふうせんが、とんでいっちゃう!とんでいっちゃう!」って娘が言ってて、「あ、それノンタン」だ、って(笑)。
ほん ノンタンのふうせんガムの絵本『ノンタン ほわほわほわわ』ですね!
ひらぎ 子どもの頭の中を覗くことはできないけれど、一緒にいろんな絵本を読んでいるとそれが共通認識となり、子どもの思っていることや考えていることがわかりやすくなると思うんです。なので、お母さんはもちろんですがお父さんも一緒に絵本を読んだらいいのでは、と思っています。
ほん お父さんも?
ひらぎ どうしても、母子の方がツーカーになりやすいですよね。一緒にいる時間も長いし。
お父さんってそこに入れなくて、子どもが今好きなものをわかってないからデリカシーないこと言っちゃったりして……。「それNGだったよ、私はわかるけど……」みたいなことって、よくあるんじゃないかなって。
ほん 確かに、「これ好きでしょー!」って言うのが3週間くらい前のブームで、それもうとっくに去ってるよ、とか(笑)。お父さんあるあるかも。
ほん 子どものことを一層知ることができる、ということですね。
ひらぎ なかなか忙しくて普段の会話も少ない場合、直球で「今何が好きなの?」って聞いても答えにくいかもしれないし、それがなぜ、どう好きなのかを理解するのは難しいかもしれません。でも、絵本の物語を通してなら、お父さんもわかりやすく、子どもも伝えやすいのでは?ということなんです。
ほん お父さんが読むのにおすすめの絵本はありますか?
ひらぎ うちではよく『きのしたまさるパン』(ひさかたチャイルド)を読んでますね。おばあさんの声を「だみ声」で読むのが上手で、娘も気に入っています(笑)
ほん 男性の声色って、女性とまた全然違いますもんね。
ひらぎ 巨人や大きいおばけが出てくるお話なんかは、むしろお父さんの方がはまりやすいと思います。
ほん 想像力が膨らみそうですね!
ひらぎ そういう十八番みたいなのがあるといいですね。
あと、どんな絵本でも「最初に読んだ人」の声が、子どもにとってなじみがよい声になるんじゃないか、って思っているんです。
なので、絵本を選ぶときに「この絵本はお父さんがいいかな」と思う絵本をさりげなく混ぜ込んでおいて、「あ、これパパに読んでもらう?」みたいに促すといいのではないでしょうか。
ほん いいですね!
ひらぎ 絵本っていうと「本」という形をしているので、後々の「勉強」や「読書」につながっているとイメージする人が多いのですが、「こうしなきゃ」とか「たくさん読まなきゃ」「学ばなきゃ」と思わないで、ただただ楽しんでもらえたらって思います。
「読んであげる」という状況が、それだけで親にも子どもにもいいと思うので……。
ほん やっぱり、「絵本はお友だち」ですね!
今日は本当に、ありがとうございました。
最後に
パパに絵本の読み聞かせを促す方法もナイスアイデアだと思いました。
今後も、気になる絵本作家さんに創作秘話や子育てと絵本の関わりなどをインタビューしていきたいと思っています。
次回もお楽しみに!
ひらぎみつえさんの話題の絵本
著者:ひらぎみつえ
出版社:ほるぷ出版
ひらぎみつえさんがおすすめする絵本
自分と同じ名前のパンが売られているのを発見した男の子。新しいパンを作って売りはじめることにしたけれど……。
不思議な世界観がクセになる、読めば読むほど味がある絵本です。
著者:飯森ミホ(作・絵)
出版社:ひさかたチャイルド