赤ちゃんが繰り返し読みたくなる絵本『とりがいるよ』シリーズの作者、風木一人さんのインタビュー。後編では、絵本との付き合い方、育児に絵本を取り入れるときのポイントなどについてお伺いしました。連載『絵本はお友だち』Vol.8です。
絵本作家・風木一人さんインタビュー【後編】
インタビュー前編では、シリーズ3部作のうち、1作目の『とりがいるよ』と2作目の『たまごがあるよ』を作るにあたってこだわった点を伺いました。
https://chiik.jp/articles/86fqy
『いっしょにするよ』には、いったいどんなこだわりが詰まっているのでしょうか!?
擬音語で構成した、赤ちゃんの情緒に届く絵本
著者:風木 一人(作)、たかしま てつを(絵)
出版社:株式会社KADOKAWA
この絵本の特徴はなんでしょうか?
風木 「擬音語」で構成しているところですね。
ほん 「飛び込むよ」ではなくて「じゃっぼんするよ」、「食べるよ」ではなくて「ごっくんするよ」となっていますものね。
絵を見ながら「ぱしゃぱしゃぱしゃ」って擬音を読んだときの伝わり方は、言葉で説明するよりもずっと直観的に響くものがありますから。
ほん ビジュアルと音から、言葉で説明しなくても意味が理解できますよね。
風木 赤ちゃんはまだ言葉の意味を知らないことも多いですが、音の楽しさはわかります。
ほん 『いっしょにするよ』をこうやって見ていると、日本語って本当にいろんな擬音語があるんだということがわかります!
発達心理学の見地からも考えられている!?
風木 なんでしょう?ぜひ聞きたいです。
ほん 今、発達心理学の先生と一緒に本を作っているので、発達心理学についていろいろと勉強をしているのですが、子どもの遊びって、成長と共に徐々に発達していくそうです。
一般的に、2、3歳くらいまでは、お友だちが隣にいても一緒に遊ぶわけではない、それぞれが自分の遊びを楽しむ「平行遊び」の状態だそうです。
ほん そこから徐々に一緒に遊べるようになってきて、同じおもちゃで一緒に遊ぶ「連合遊び」になっていくそうです。これがだいたい3~4歳くらい。
さらに発達して5~6歳になると、「協同遊び」といってそれぞれ役割分担をしたり協力し合いながら遊ぶようになるんだそうです。
風木 子どもの発達に応じて一緒に遊べるようになり、「いっしょにする」にも変化が起きていくのですね。
ほん そうなんです!私はこの3作目を読んで、「とりたちが成長している!」と感じたのです。それぞれのページで「何をしているか」に注目してみると、最初の方は「平行遊び」の状態なのですが、読み進めると徐々に「一緒に遊ぶこと」の楽しさに気づいたのか「連合遊び」っぽくなっていきますよね。
だから、成長している!と(笑)
1、2、3歳くらいまでを対象にした絵本ですから、これは発達心理学的な観点から見ても、とても理にかなっているのです!
ほん 意識されたわけではなく、自然にこの流れになったのでしょうか?
風木 ここに出ていないものもたくさん考えました。たとえば「組体操」とか……。でもちょっと違う気がして外したんです。
意図してやったわけではないけれど、「こういうのが落ち着くな」とやったことが結果的にぴたっと収まる、ということは結構あります。
ほん しっくりくるものが一番自然な姿、ということかもしれせんね。
どんな人の中にも子どもがいる
アイデアの種は、どんな風に思いつくのでしょうか? 絞り出す感じなのか、それとも降りてくるのか…… 。
風木 「絞り出す」というよりは「待つ」ですね。 いつもどこかで「おもしろいものないかな」と考えていて、あるときふっと出会う。
ほん なんとなく、風木さんの「おもしろいもの」を見つける目線が、「大人目線」というよりは子ども目線に近いように感じました。
風木 どちらかというとそうかもしれません。自分に子どもがいないから、いつまでも子ども気分が抜けないというのもあるのですが(笑) 。ただ、子どもがいるいないに関わらず、どんな人の中にも子どもがいるのでは、とも思っています。
風木 はい。
子どもはもちろん子どもだし、大人に見える人も実は子どもが大人の服を着ているだけなんじゃないか、って。 だから、その服を脱げばみんな子どもになるんじゃないかと思っています。
ほん なるほど!
子どもが生まれて親になると、「親だからちゃんとしないと」と気負ってしまう部分があります。でも、親だって大人の服を脱いでもいい。そう思うと気持ちが軽くなります!
風木 人によって、脱ぎやすい服、脱ぎにくい服があるかもしれませんけど(笑)。
絵本は読みたいように読んでいい!
僕は、どんな風でも好きなように読んでもらえればと思っているんです。
ほん 絵本の読み方に、決まりはないと。
風木 大人数の前で読み聞かせをする場合などテクニックが必要なこともありますが、親がわが子に絵本を読んであげるのに、上手も下手も関係ありません。 ただ、読んであげるだけでいいんです。
風木 僕は、書いてあるものをそのまま読んでもらえれば楽しくなるように作っています。作家として、「上手に読めば面白いんです」とは言えません。どんな読み方をしてもおもしろいように作っていますから、そのまま読んでもらえればと思います。
ほん その言葉はとても心強いです!特に赤ちゃん絵本では、どのタイミングでページをめくればいいのか悩むこともあるようです。
風木 赤ちゃん絵本はどこから読んでもいいんですよ! 好きなところだけ読んでもいいし、赤ちゃんが戻りたがるなら戻ってもいい、めくりたがるなら進んでもいい。 順番通りに読まなくても構いません。 「どう読んでもおもしろいように作っている」という作者を信じて、ぜひ赤ちゃんの望むように読んでください。
ほん 確かに、はじめて読むときは読み手も赤ちゃんも「次は何が出てくるんだろう」と探り探りの状態ですが、何回か読むうちに好きな部分やお気に入りのページがわかってきますし、そこを繰り返し読んでもいいということなんですね。
風木 はい、そこばかりずっと見てもらっても構いません。
絵本は特別なものじゃない!
風木 絵本って特別なものじゃないということですね。
絵本に限らず、本は特別という考え方を持っていらっしゃる方もいます。おもちゃとは違う、きちんとていねいに扱いなさい、というように。
でも僕は絵本に対してあまり神経質にならなくていいんじゃないかなと思っています。
ほん そういわれたら、絵本は他のおもちゃと違ってきちんと本棚に入れておかなければという固定観念があります!
風木 全然そんなことないと思いますよ。おもちゃと一緒に箱に放り込んでいてもいいんです(笑) 。ビシっとそろえなきゃという気持ちがあると思うんですが、特別扱いするとハードルが高くなってしまう。 それよりも、いつでもすぐそばにあってほしいと僕は思います。 特に赤ちゃん絵本はそうですね。
ほん 絵本もおもちゃも一緒。絵本だけ特別扱いしなくてもいいってことですね。
風木 はい。この連載タイトルの通り、絵本は友だちで、友だちなら身近な方がいいでしょう。
風木 友だちとの間には敷居がなければないほどいいですよね? だから、「こう読まなければいけない」「こう扱わなければいけない」という「いけない」はなるべくなしにして、赤ちゃんならかじっても投げてもいいです。
ほん やぶってもテープで貼ればOK!
風木 そう、やぶったらまた買えばいいんです(笑)
ほん なかなか商売上手ですね(笑)
どうか絵本を捨てないでほしい!
特に子どもが気に入っていた本、いっぱい読んだ本は、ボロボロになっていてもぜひ取っておいてください。
ほん それはなぜでしょう?
風木 子どもが大きくなってくると絵本なんて見向きもしなくなるかもしれませんが、もっと大きくなると「あ~これ好きだったんだよな~」と思うときがやってきます。でも捨てちゃっているとそれがなくなってしまう。
ほん 小さい頃によく読んだ絵本は、ずっと心の中にありますし、衝動的にその絵本をまた読みたいと思うことが確かにあります。
風木 全部取っておくのはスペース的に難しいと思うので、本当にお気に入りだった本だけでもいいです。子どもが成長して親の気持ちがわかるようになったときや、自分が親になったときにその絵本を見ると、「あぁ……」ときっと思うでしょう。同じものを新しく買ってきても、それは思い出の絵本とは別物なのです。
ほん ビリビリに破けているところも汚れているところも、全部含めて僕の・私の絵本ですものね。
風木 そうです、チョコレートの染みとか、ケチャップがついてたり(笑)。
風木 そうなんです。今、たくさん絵本を読んであげていても、もしかしたら子どもは忘れてしまうかもしれません。でも、何かのきっかけで絵本のこと、絵本を読んでもらったときのことをふと思い出したりします。心の深いところに残っているのが絵本なんです。それを思い出すためにも、本当に好きだった絵本だけは大事に取っておくといいと思います。
ほん 私も、ぜひそうしたいと思います。
今日は本当にありがとうございました!
最後に…作家のこだわりと子どもの感性が化学反応を起こす!
絵本作家としての活動と並行して、webマガジン「ホテル暴風雨」の企画・運営もされている風木一人さん。
絵本は普遍性がある一方で、形になるまで何年もかかるため、今感じたことをすぐに発信できる場所を作りたいという思いから、2016年4月に創刊したそうです。
風木一人さんによる自作絵本の紹介をはじめ、イラストレーター、作家、漫画家などさまざまな執筆陣が連載されています。
ホテル暴風雨 | 心しか泊まれないホテルへようこそ
そして、「絵本はどんな風に読んでもいい」「書いてあるものをそのまま読んでもらえれば、楽しいように作っている」という言葉に、勇気をもらいました。
上手に読めないからあまり絵本を読まない……というのは、とてももったいない!ということですね。
風木さんの絵本はもちろん、どの絵本も作家さんのこだわりがぎゅっと詰まったものばかり。そのこだわりと子どもの感性とが出会ったとき、きっと大人が想像している以上の化学反応を起こすことでしょう。
親がわが子に読み聞かせをするときというのは、その化学反応をリアルタイムで目撃できる特等席にいるようなもの。 ぜひ、「絵本作家のこだわり」と「子どもの感性」の化学反応を、最前列でお楽しみください。