赤ちゃんが何回も読みたがる絵本として話題の『とりがいるよ』シリーズ。作者の風木一人さんにお話を聞いてみたら、たくさんのこだわりが詰まっていることがわかりました。これを読めば、赤ちゃんと絵本を読むのがもっと楽しくなるはず!連載『絵本はお友だち』Vol.7です。
『とりがいるよ』作者・風木一人さんインタビュー【前編】
読んだことがある方、本屋さんで並んでいるのを見たことがあるという方も多いのではないでしょうか。
著者:風木 一人(作)、たかしま てつを(絵)
出版社:株式会社KADOKAWA
このシリーズの作者である風木一人さんは、文章専門の絵本作家さん。最近は、絵と文章両方を担当される作家さんが多い中で、珍しい「文章専門家」です。
どんな風に作品が生まれるのか、絵本にどんな工夫がされているのか、お話を伺ってみました。
たくさんある中で1つだけ違うものがあると……
シリーズ1作目である『とりがいるよ』は、どんな風に生まれたのでしょうか?
風木 いつも絵本を作るときは、「これは面白いな!」というひらめきからはじまります。『とりがいるよ』は、「たくさんある中でひとつだけ違うものがあるとすごく目立つ」という習性からひらめいた絵本です。
ほん 違うものが混ざっていると、「あれ、これはなんだろう?」と見てしまうことは大人でもありますものね。
風木 「違うものに目が行く」というのは、きっと「本能」なんです。大人にも子どもにも赤ちゃんにも共通することだし、もしかすると犬や猫など動物もそうかもしれません。それがおもしろいなと思って、ではこれをどう絵本にするか?と考えていきました。
また、この絵本は、制作過程で赤ちゃんやママたちの意見を聴きながら改良したとお聞きしました。
風木 はい。「えほんの会」という絵本の勉強会を主宰している二瓶保さんが園長をされている保育園で、まだ完成前のものを園児の前で読んでもらいました。
ほん 風木さんが読まれたのですか?
風木 いえ、二瓶先生が読んでくださったんです。
それも、0歳児クラスから5歳児クラスまで、保育園の全クラスで読んでくれて、僕と、絵を担当してくださったたかしまてつをさんと、KADOKAWAの担当編集者さんの3人は、部屋のすみっこでひっそりと反応を見ていました(笑)
ほん 各年齢の全クラスで! それは、とても貴重な機会ですね!
実際に子どもたちの前で読んでみて、絵本を作っているときに考えていた反応と違うところはありましたか?
風木 大きな部分では違いはなかったのですが、とても参考になったところがあります。
ひとつは、最後のシーンです。実はこのページが、絵も文章も一番時間をかけて考えたんです。
ほん いろんなとりたちが飛び立つシーンですね。
ほん 3パターンそれぞれ読んでいただいたのでしょうか?
風木 そうなんです。単純に一番反応が良かったものを選んだわけではないのですが、このときの感触を参考にしつつ最終的に「わあ とんだ」になりました。
ほん このページの前までは、一貫して「あかい とりが いるよ」「おおきな とりが いるよ」というふうに「よ」がついていますよね。
風木 おっしゃる通り、全体として「よ」がポイントなんです。「あかい とりが いる」「おおきな とりが いる」だと、クールな感じですよね。事実を淡々と伝えているような。
ほん 「よ」があるとないとでは、印象が随分変わります!
風木 「よ」がつく言葉は、誰かが誰かに伝えている言葉です。 つまり、絵本の読み聞かせの場合は、絵本を通してママやパパなどの読み手が子どもに伝えている言葉になります。
ほん ただの「事実報告」ではなく「コミュニケーション」になるんですね!
風木 赤ちゃんは自分で絵本を読むことができないので、赤ちゃん絵本は必ず「大人が子どもに伝えてあげるもの」だと僕は考えています。絵本から直接赤ちゃんに届くのではなく、一旦大人を経由してから赤ちゃんに届く。 こうした赤ちゃん絵本の特徴が、文章の最後に「よ」をつけることで明確になっていきます。
風木 それまでのページを引き継いで、最後も「わあ とんだよ」にしたい、という気持ちもありました。
一方で、ページをめくったときの驚きや迫力も大切にしたかったんです。この2つのせめぎあいで、「『よ』をつけるのかつけないのか」「『わあ』を入れるのか入れないのか」をかなり悩みました。
ほん 確かに、「とんだよ」だと、絵本を読んでいる人自身の「びっくり感」はあまりないかもしれませんね。「とんだ」ということを、赤ちゃんに伝えているという感じになるので。
「わあ とんだ」なら、読んでいる人もびっくりしていることが赤ちゃんに伝わります。読んであげているパパやママと読んでもらっている赤ちゃんとの間に、「びっくりの共感」が生まれるような気がします。
風木 そんなふうに言っていただけて嬉しいです。
これより前のページでは落ち着いてとりたちの様子を伝えていたのが、最後では「わあ とんだ」と興奮しているので、読んでいる方にも読んでもらっている方にもよりダイレクトに驚きが伝わる。僕が表現したかったことはまさにそういうところです。
ほん 赤ちゃんは、身近な人の表情や感情の変化をよく見ていて、そこから自分も感情を学んで発達していくのだそうです。 こういうときってびっくりするんだ、感動するんだという赤ちゃんの学びになっているのかもしれません!
それにしても、こんなに細かいところまでこだわって考えられているのですね。
風木 ほんとに細かいことなのですが、絵本の中でも言葉数の少ない赤ちゃん絵本では、特にこういうところが大事になってきます。
保育園児の反応からわかったこと
風木 「メイン」と「おまけ」のバランスですね。
ほん 絵本の中に「メイン」と「おまけ」があるのですか?
風木 それぞれのページで、文章で触れている「メインのとり」の他にも、ちょこちょこっと「何かしているとり」を入れているんです。僕たちはこれを「おまけのとり」と呼んでいます。
ページをめくったらまず「あ!」って「メインのとり」に気づいてもらいたい。その反応に対して、文章にあるように「おおきなとりがいるよ」と声をかけるわけです。
その後で、「転んでる子もいる!」と、「おまけのとり」にも気づいて、絵本をより楽しんでもらいたいと思っているのですが、「メイン」と「おまけ」のバランスがむずかしい。
ほん どの程度「おまけ」を目立たせるか、のさじ加減ですよね。あまり地味すぎて気づかなくても悲しいし……。
ほん 「メインのとり」よりも先に目が行ってしまったのですね。
風木 喜んでくれるのは嬉しいのですが、たまごで気持ちが盛り上がっているときに「まあるいとりもいるよ」と言われても、子どもたちはピンときません。
子どもとしては「たまごに注目してほしい!」となる。
ですので、大人気のおまけだったのですが差し替えました。
「メイン」と「おまけ」の関係がちゃんと成り立っているかを確認するために、子どもたちの反応は本当に役に立ちました。
ほん この記事を読んでいる読者のパパママには、「まあるいとり」のページの「おまけ」が何になったのかも、注目してほしいところですね!
2作目は、子どもたちが大喜びする楽しい「参加型絵本」
風木 はい。子どもたちがたまご大好きなのに、1作目では使わなかった。第2作を考えていたときそのことが頭にあったからこのアイデアが浮かんだのだと思います。
著者:風木 一人(作)、たかしま てつを(絵)
出版社:株式会社KADOKAWA
こちらは、1冊を通して「たまごからとりが生まれる」いう絵本ですね。 「たまごから何かが生まれる」という絵本はこれまでもありましたが、全編を通して生まれるのが「とりだけ」という絵本は、珍しいと思いました。
風木 そうかもしれません。 「とりだけ」でも飽きさせないように、さまざまな工夫をしています。
ほん この絵本の一番の特徴はやはり「参加型」というところですね!
風木 以前からずっと「参加型の絵本」を作ってみたいと思っていて、『たまごがあるよ』でようやく実現することができました。
ほん たまごがあって、「とんとんとんって たたいてみて」と呼びかけて、ページをめくるととりが生まれる、という構成ですね。
風木 僕は、この絵本の読み聞かせなどを行うとき、必ず実際にたたいてもらうようにしています。子どもはもちろんのこと、大人向けの講演会でもそうしているんです。
風木 実は、この「誘いかけ」の文章にも工夫があります。
まずは「たたいてみて」からはじまります。
これは、たたくとどういうことが起こるか知らない読者への問いかけです。
ほん それが2回続きますね。
風木 はい。 2回繰り返すと、「どうやら、たたいたら生まれるな」ということがわかります。
それがわかった読者に対してはちょっと変えて、次からは「たたいてみる?」になります。
ほん 読者はすでに「たたいたら生まれること」がわかっているので、安心してたたけるんですね。
風木 はい。またこれを2回繰り返したら、次は「なでてみる?」に変わります。 「なでる」は「たたく」よりも親近感を持って接することになります。
こんな風に、読者とたまごの中にいる誰かとの距離を、少しずつ詰めているんです。
風木 小さいとり、大きいとり、カラフルなとり……といろんなとりが出てくるのはすぐにわかる工夫ですが、徐々に語りかけを変えて無意識のうちに親近感を育てていくのは、隠し味のような気づきにくい工夫かもしれませんね。
ほん ページをめくるのが楽しくなる、やってみたくなる、というのは本を読んでわかったのですが、その理由がわかりました。自分でも気づきませんでした!
これを知っていると、子どもに読みながら「この子、親しみを持って接しているんだな」と思えて、ほっこりとした気持ちになりながら読めそうです。
風木 ぜひ、そうしてもらえたら嬉しいです。
より子どもが興味を持ってくれるように
風木 このカラフルなたまごのところで……当初は、赤、オレンジ、黄色、緑、青、紫と藍色という、「虹の構成色」と同じにしていたんです。
それで、二瓶先生が子どもたちに「これ何色~?」とか聞きながら楽しく読んでくださっていたのですが、藍色だけ、子どもたちが知らなかったんです。
ほん 確かに保育園児には藍色は難易度が高いですね。
ほん ピンクは人気色で好きな子も多いので、大成功ではないでしょうか!? 「この中で、どの色が一番好き~!? この色がすきなひと―!」などと呼びかけながら読むと、大盛り上がりしそうですね。
本当に楽しい「参加型絵本」なので、お話し会での「導入絵本」にもよさそうです。ぜひ、大型絵本版も出してほしいなぁ~。
風木 確かに、大人数の前で読むにはこのサイズは小さいですよね。
ほん 大型絵本化、KADOKAWAさんの方にお願いしていただけますでしょうか!?
風木 わかりました(笑)。
最後に……絵本は赤ちゃんがはじめて触れる言葉の世界
赤ちゃんがはじめて触れる言葉の世界が、こんなにも丁寧に作られていると思うと、親としてとても心強く思います。
ここまで、『とりがいるよ』シリーズ3部作のうち、1作目の『とりがいるよ』と2作目の『たまごがあるよ』についてお話をお聞きしました。 インタビューの後編では、3作目の『いっしょにするよ』についてと、風木流「絵本はお友だち」のお話をお届けします。