子どもの将来にはなるべく多くの選択肢を広げてあげたいのが親心。今や日本語だけでなく英語の習得は必須。英語で情報を集め、英語でビジネスができるのがスタンダードになりつつあります。
「英語学習はいつから始めたらいいの?」
「英語より日本語を優先させなくて大丈夫?」
ママの悩みはつきないですね。
では、英語学習を始めるのは何歳からが適切なのでしょうか? セブの語学学校の運営に長く携わった、元校長にお話をうかがいました。
近藤英恵さんプロフィール
ハナサカデミアCEO。小5と高1の二児の母。セブ島へ4年間の教育移住中に語学学校の校長を務める。帰国後は業界初0歳からの親子留学事業を立ち上げるなど、これまでの留学サポートはのべ3,000人以上。現在はフリーランスの留学カウンセラーとして独立起業し、ママ限定コミュニティや国内留学事業も展開中。
日本は国際競争において行かれている
ーー最近は英語学習の必要性と共に、日本の国際競争力の低下が語られるようになりました。日本で生活しているとそんなに実感が湧かないのですが、それほどに深刻なのでしょうか。
近藤さん:世界中の企業の時価総額ランキング(参考:DIAMOND online)を見るとよくわかります。平成元年の時点では、トップ30を日本企業が三分の二を占めていました。しかし、30年後のランキングではその順位がガラリと変わっています。
ーー平成の間に上位国が入れ替わっているのですね。トップはほぼアメリカ企業が占めていますね。
さらに注目していただきたいのは日本企業のランクが落ちた反面、中国企業や韓国企業の順位が上がっています。中国は2001年、韓国は1997年といち早く小学校に英語教育を導入しているんです。
もちろんさまざまな要素があっての結果ですが、やはり言葉が通じないとビジネスは難しいですよね。「英語力の壁」は日本の競争力低下に少なからず影響があるでしょう。
英語を習得しやすい時期は限られている
ーーでは本題に入っていきたいと思います。子どもの英語教育は何歳ごろから始めるのがベストなのでしょうか。
近藤さん:「早ければ早いほどいい」と言われています。全ての子どもは7歳になるまでは語学の天才なのだそうです。そして7歳以降能力が落ちていくという研究結果が出ています。
脳科学者のパトリシア・クールさんが、言語習得の臨界期についてプレゼンテーションをした動画が公開されていますので、ぜひご覧ください。
TEDトーク:パトリシア・クール 「赤ちゃんは語学の天才」(日本語字幕でご覧になれます)
この動画では以下のことが説明されています。
- 日本語と英語では周波数が異なる
- 赤ちゃんは周波数の異なる言語を自然に聞き分けている
- 言語の習得には臨界期がある。
- 言語習得はコミュニケーションとセットである
私からも少し説明していきますね。
日本語と英語は周波数が違う
近藤さん:まず、このグラフを見てください。これは各言語の周波数の違いをグラフにしたものです。
近藤さん:発せられる言葉を聞くとき、人は頭の中で聞いている言葉を統計処理しています。パトリシアさんの行った実験によると、日本語と英語の間では周波数の統計が全く異なっているとわかりました。特にLとRを使った言語での違いがくっきりと出ています。
日本人は母音の多い言語を低い周波数で話すのに対し、英語圏では短い子音を強く発音する高い周波数で話すんです。周波数の溝が大きいため、日本語話者が聴き取りにくい英単語や発音が多くなります。
言語習得力には臨界期がある
(画像引用元:Semantic Scholar)
近藤さん:こちらは年齢ごとの言語習得力のグラフです。横軸は年齢、グラフの中の線は第二言語を習得する能力を表しています。7歳までの赤ん坊や子どもは天才的ですが、その後少しつづ能力が低下し思春期になると圏外です。
これを言語習得力の臨界期と定義づけられています。
私たち大人の脳は、もはやこうした周波数の違いを全く認識しませんが、小さい子どもは統計の違いがわかるんですね。
ーー近藤さんの身近に、言語習得の臨界期を感じるようなエピソードはありますか?
近藤さん:私自身、当時7歳の息子と2歳の娘を連れてセブ島に教育移住したのですが、2歳の娘の方が適応力が高かったのを覚えています。言語の概念が確立していないから、英語もするすると吸収していきました。
対して息子は英語の習得に苦労していましたね。7歳はギリギリ臨界期内でしたが、すでに日本語を話し、日本語で考える習慣がしみついています。彼はフォニックスをマスターするまでは「みんなが何を話しているかわからない」と泣いて帰ってくる毎日だったんです。
しかし子供の適応力は素晴らしく、3ヶ月もすれば二人とも寝言が英語になっていたんですよ(笑)
ーーうらやましい適応力ですね!
言語習得はコミュニケーションとセットである
近藤さん:パトリシアさんは言語学習における人間の役割も研究しています。彼女たちは「音声のみ」「動画のみ」「母親が話しかける」の3パターンで赤ちゃんの脳波を調査し、何をきっかけに言語を習得しているのか調べました。結果が非常に興味深いのですが、音声だけを聞いたり、動画を眺めたりするだけでは脳の反応が薄かったんです。逆に母親が話しかけている時には脳が活発に反応していました。
音声や映像をただ流すだけでは脳が言語の統計処理をしないんですね。「言語の学習にはコミュニケーションがセットで必要である」ことがわかります。
私は音声や動画で英語学習するのが無意味とは思いません。しかし、言語の学習には人とのコミュニケーションが大きな役割を果たすことは間違い無いと考えています。
赤ちゃんの英語教育はいつからはじめる?人気の教材6選も紹介!
英語の早期教育は日本語の発達に悪影響?
ーー「日本語すら覚えていないうちに外国語を学ぶと、日本語の発達に支障が出る」という話を聞きます。こうした意見に関してはどうお考えですか?
近藤さん:「バイリンガルだと日本語が劣勢になる」という話はよく論じられますね。ただ、これに関しては必ずしも当てはまらないというのが私の考えです。バイリンガルの子どもを何人も存じていますが、複数言語を流暢に使い分けていて決して日本語で劣っているということはありません。
バイリンガルな人は、脳の中に二つの統計を保持していて、相手の話す言語によりセットを切り替えて話すことができるんです。バイリンガルの脳は思考が複雑になり、作業の切り替えも早くなると言われています。
海外の研究ではモノリンガルの子どもに比べて、バイリンガルは一般的に認知の柔軟性が高く、問題解決能力、思考力のいずれも高いというデータが出ているんです。
臨界期を過ぎたら英語の習得は難しい?
ーー先ほど、「7歳までが英語習得の臨界期」とおっしゃっていましたが、これを過ぎると学習は困難でしょうか?
近藤さん:「年齢が低い方が吸収率が高い」という説は間違いないと思います。もちろん7歳以上の子でも英語は習得できますが、年齢が上がるにつれ適切な学習方法が変わってきます。
まだ母国語もおぼつないような頃は、周りの会話を聞くだけで自然と英語を習得していきます。まさに感覚で覚える、という感じなので本人も言語学習をしているという感覚はほとんどないでしょうね。
年齢が上がるにつれ、感覚で言語を習得するなんて出来なくなります。そうなると、文法をある程度理解した上で進めて行くほうがうまくいきますね。
2歳で渡航した娘は覚えるのも早いけれど抜けるのも早かったんです。母国語と同じように感覚で言語を習得してしまっているので、しばらく話していないと単語が出てこないのだそうです。逆に苦労して習得した息子は、帰国後も英語が抜けづらかったですね。
おうち英語のおすすめ勉強法は?英語が苦手なママはどうすればいい?
ーー義務教育で英語学習が始まるのは小学3年生からです。それまでは習い事か各家庭での教育になりますが、自宅で英語を教える場合は何から始めたらいいでしょうか?
近藤さん:まずは英語を聞き取れる「英語耳」を作ってあげたいですね。言語学習の臨界期の間に英語の周波数が聞き分けられるようにしておけば、かなりアドバンテージができると思います。
たかが発音、されど発音
ーーよく「英語はコミュニケーションの手段なので、完璧な発音じゃなくても伝われば良い」という考え方があります。しかし実は発音が大事ということなんですね。
近藤さん:はい。たかが発音、されど発音です! どんなに語彙力や文法力があっても、発音が悪ければ言いたいことが伝わりづらいんですよね。
発音の大切さを痛感した出来事があります。セブのレストランで「Can I have a fork?(フォークを持ってきていただけますか)」と店員さんにお願いしたら、Coke(コーラ)が出てきたことがあります。どうやらフォークの「R」の音をしっかり発音できていなかったため、フォークをコークに聞き間違えられてしまったようです。
その時「さっきママが言ったfork(フォーク)に Rの音が入ってなかったよ。Rをちゃんと発音しないと伝わらないよ」と息子に指摘されてしまいました。早い時期からフォニックスを学び発音を身につけていた息子には、違いがはっきりとわかっていたんですね。
ーーおすすめ発音学習法を教えてください。
やはり英語にたくさん触れる環境に身を置くのが一番効果です。事情が許すなら海外留学をして、積極的に英語を話す、聞くのがいいでしょう。短期であっても、英語へ興味を持つきっかけ作りには十分です。
おうちで学習する時は、フォニックスから初めるのがいいですね。フォニックスを理解しているかどうかで、英語の聞こえ方が全然変わってきます。フォニックスをテーマにした歌や動画が沢山ありますので、お子さんと一緒に歌ったり踊ったりしましょう。楽しんで発音を覚えられますよ。
英語が苦手なママはどうしたらいいの?
ーー英語学習は小さい頃から始めるのが大切、というのはわかりました。しかし自分の英語力に自信がないママはどのように教育するといいでしょうか?
近藤さん:大丈夫です! 逆にママの英語力もあげるチャンスと考えて、お子さんと同じレベルからスタートしていきましょう。別に急にオンライン英会話を始めたり、TOIECの勉強を始めたりなんてしなくていいんです。フォニックスの動画をみて一緒に発音する、絵本を一緒に読む、そんなことで十分です。
ーーママが英語の発音に自信がない場合は、洋書の読み聞かせはハードルが高いかもしれません。何かいい代用方法はありますか?
近藤さん:洋書の読み聞かせが難しい場合、アプリや電子書籍の力を借りるのもいいですね。今はわからない単語をタッチすれば、その単語の読みや意味を教えてくれるアプリがあります。ただし、その場合でもただかけ流すだけでなく、一緒に発音して練習するようにしましょう。
とにかく、親が一緒に挑戦しよう!楽しもう!という姿勢が大事だと思います。
ーー英語の学習はすぐに結果が出るものでもないので、今の学習法で本当に大丈夫かご不安なママも多いと思います。何かアドバイスをいただけますか?
英語の習得って、単に英語力が上がるだけではなく「新しいスキルを学ぶ」という過程に、とても価値があります。学ぶ習慣づけもできますし、何かをできるようになることで、成功体験の積み重ねになりますよね。
お子さんによって、向いている学習法はそれぞれ違うし、結果が出るのは何年も先なので、迷ったり、嫌になったりすることもあるでしょう。「もしかしたら、これって無駄なことなんじゃないかしら?」と思うこともあるかもしれません。
でも無駄かなと思うことでも、絶対無駄ではないんですよ。他のところでお子さんにプラスになっているところもありますよ。
学びの喜びを覚えるためにも英語教育は早く始めた方がいい
ーー最後に、Chiik!をご覧のママたちにメッセージをお願いします。
近藤さん:英語学習をいつから始めるかお悩みのママは多いと思います。
諸説ありますが、早い時期に英語と接すれば子どもが「学習している」という意識なく、英語を吸収していけるのは確かです。そうするうちに、英語がわかる、英語が楽しい、という自信につながります。
もし迷われているなら、まずは可能な限り子どもが英語に触れる環境を作るところから初めてはいかがでしょう。環境は子どもが生まれ持った才能に左右されるというわけでなく、親が準備するだけで子どもに与えらえる要素です。
今回ご紹介した通り、英語を聞き取りやすい耳を養うには臨界期があります。始めるなら早いうちがいいでしょう。でも無理をしすぎず、ママもお子さんも楽しんで英語学習できたらいいですね。
ーー近藤さん、本日はありがとうございました!!