2019年6月17日 公開

書籍レビュー:「考える力」を伸ばす AI時代に活きる幼児教育

幼児期に大事なのは読み書き計算より、自分で答えを導き出す「思考力」!遊び教育でも詰め込み教育でもない、幼児のための基礎教育とは?気になる育児書や教育本を紹介する連載【話題の育児書】5回目は、久野泰可さんの『「考える力」を伸ばす AI時代に活きる幼児教育』です。

「幼児教育」で大切なのは何か

paulaphoto / Shutterstock.com

日本でも幼児教育の重要性が叫ばれて久しいですが、具体的には何が大事で何をしたら良いのでしょうか。

実際に、教育熱心な親はどうしているかというと、結局先取りの早期教育を行う方が目立つ印象です。

「2歳でひらがなが読め、絵本も自分で読む」「3歳で大体ひらがなとカタカナが書け、漢字もいくつか」「くもんで小学校3年生レベルの算数をやっています」など。そこには、「読み書き計算」を先取りして、小学校前にできるだけ早く進めておくのが大事!という主張があります。

そのゴールは有名大学への入学です。そのために、有名な小中高を目指し、どこかで受験。もし小学校受験をするなら、自分の身長と同じ高さになる量のペーパーワークが必須。

一方で、子どもは遊びが大事だからと全ての”教育”を否定する主張も見られます。「勉強は小学校からでいい。幼児はのびのび遊んで身体を鍛えるのが大事」という昔ながらの考え方です。

要するに「幼児に教育なんて不必要。とにかくのびのび遊べばいい」か「人より早くできることを増やす。そのためにはお金もかける」という2極論になっているのかもしれません。

今回紹介する『「考える力」を伸ばす AI時代に活きる幼児教育』は、そのどちらでもない、「まっとうな基礎教育」を探っています。目指すのは、来たるAI時代にも通用する、知識偏重型ではない思考力重視の教育です。

「考える力」を伸ばす AI時代に活きる幼児教育

タイトル:「考える力」を伸ばす AI時代に活きる幼児教育
著者:久野 泰可
出版社:集英社(集英社新書)

本書の著者は幼稚園・小学校受験で実績の高い幼児教室の運営や知育教材・教具の開発を行う「こぐま会」代表の久野泰可さん。今回ご紹介するのは2019年1月17日に発売された新書です(デジタル版は2019年2月15日に発売)。

こちらでは、モンテッソーリ教育から非認知能力など、最近の幼児教育で話題のテーマを網羅。また、ヘックマン教授の幼児教育の重要性からインド式かけ算、インターナショナルスクール人気まで、メディアでも取り上げられる事柄でも、それぞれの問題点や知っておくべきこと、久野さんの解釈をまとめているのが、とても参考になります。

その上で導き出される「思考力」重視の幼児教育の必要性が丁寧に説明されていて、家庭でもどうやって考える力を育てていけばいいのか、関わり方とやっていいこと悪いことが具体的でわかりやすいです。

新書でコンパクトですが、読み応え十分です。

「遊び保育」だけでも「教え込み教育」だけでもダメ

ANURAK PONGPATIMET / Shutterstock.com

世界の多くの国では、幼小接続を意識し、計画的に練られた幼児教育を施す方向へ向かっている中、日本の幼稚園や保育園は未だに「遊び保育」が中心だと久野さんが指摘しています。

ただし、久野さんは幼児の「遊び」そのものを否定しているわけではありません。遊びは大事としつつも、遊ばせっぱなしのままで自然に思考力が育つわけではないという問題提起です。

子どもが遊びや生活の中で体験したことを抽象化し、概念化して思考力へ橋渡しすることが必要で、それこそが「知育」の役割だとしています。

また、英語教育や漢字教育、算数教室を取り入れている園もありますが、こちらは一見「知育」重視のようでも、毎日の生活や遊びに根ざした教育でないために知識先行の先取り教育となってしまい、結局定着しないことも問題だとしています。

大人の関わりなしにただ遊んでいるだけでも、知識の詰め込みだけでも考える力は育ちにくいというのです。

日本で「知育」が軽んじられてきた……?

P.D.T.N.C / Shutterstock.com

明治時代、教育の基本は「知育・徳育・体育」の三育だといわれていたそうです。この教育三育の考え方が日本に定着したのは、イギリスの哲学者・社会学者ハーバート・スペンサーの『教育論-知育,徳育,体育』の影響が大きいとか。

ただし、この三育の優先順位が論争に。極端な欧化政策の反動で儒教教育が重視されるようになり、教育勅語で徳育重視が明確化された経緯があるそうです。

久野さんは、明治時代初期の事情が現在でも知育が軽んじられていることの遠因なら、早急に改める必要があると述べています。

また、幼児期の知育が軽んじられることの理由として、日本の教育全体に「予備校化」意識があることも指摘しています。そのため学校で何を学ぶのかという視点が欠落し、有名な学校に入りさえすれば完了。その意識が、幼児期の知育を小学校受験のための「教え込み教育」にしてしまっていること、そして、幼児期の基礎教育が将来の学習の基礎を作るという考え方もできていないということを指摘しています。

さらに、2017年に改定された、幼稚園教育要領、保育所保育指針、幼保連携型認定こども園教育・保育要領の中でも「知育」が曖昧すぎるので、先生の力量に任されてしまい、実践内容が曖昧で、現場は変わらないのでは、という問題もあります。
明治の教育の「三育」と食育

本書の中でも参照されていたノンフィクションライター黒岩比佐子さんの連載です。

読み書き計算よりも大事にしたいのは「聴く・話す」力

kai keisuke / Shutterstock.com
久野さんは幼児期の言語教育を考える上で、幼児期の早い段階から子どもが自分で本を読むことを勧めていません。

その理由は「聴く力」を育てるのは幼児期が最も適しているから。早くから字を読ませ、絵本も自分で読んでしまうと、聴いてイメージを広げ、考える能力を摘み取ってしまうからだそう。近年の小学校受験でも、「話の内容理解」を重視している傾向があることからも、絵本の読み聞かせは親が行うことを推奨しています。読んでもらう物語によって想像を膨らませ、聴く集中力を高める時期なのです。

また、話す力は非認知能力でも大切なコミュニケーション力や共同力につながります。

考えていることや感じていることを言葉で表現する経験が少なければ読解力も作文力も高まりません。話しているうちに考えが整理され、答えが導き出されることも多々あります。

そして、計算が早くても数概念は育たないこと。算数は論理的思考力が求められるので、まず考える力を身につけることの重要性を説いています。

久野さんは、読み書き計算を軽んじている訳ではないのですが、先取りしてその訓練をするよりも、まずは聴くこと、話すことを重視してください、と伝えています。

子どもの「考える力」を伸ばすためにできること

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久野さんが長年の研究と経験から編み出した「KUNOメソッド」は、教科前基礎教育、事物教育、対話教育の3つの基本理念に支えられています。

事物に触れ、働きかけてこそ本当の知識が身につくとし、実際に自分で手に取って実感し、集団での対話を通して、自分の言葉で考えや感情を言葉にして説明する。この繰り返しで考える習慣が身につき、思考力の基礎ができていくのです。

試行錯誤し、自分で解決の糸口を見つけ出すことが大切で、そのために教える側が「待つ」ことの重要性も説いています。

ペーパーワークは一番最後。回答後も、なぜその答えを選んだかを問うこと、会話することを勧めています。

教え込み教育からの脱却

必要な知識をなるべくたくさん正確に覚えること。計算はできるだけ早くこなすこと。テストは考えずに反射的に答えを判断し、ミスをせずに満点を取ること。

私たち親世代はこのような「教え込み教育」を受けてきた方も多いのではないでしょうか。

本書でも、受験は多くの過去問に挑戦することが大事で、紙に印刷された問題で満点を取ることを喜びとする、古い教育観に縛られた保護者の問題が指摘されています。そういった親は、子どもが正解しないとがっかりして失望感を感じるのです。まずはここから脱却する必要があります。

そして、子どもの考える力を育てるには、親の忍耐力が必要です。他人と比べず、その子自身の成長を認めながら、本人の力で解決するまで待つこと。生活や遊びの中での基礎教育のチャンスを見逃さず、対話しながら学びのチャンスを意識すること。

本書の最後には「家庭教育のあり方」を5つのメッセージにまとめて伝えてくれています。耳が痛いと感じる点も多々ありますが、学びがとても大きいのでオススメです。
この記事は執筆時点のものですので、最新情報は公式サイト等でご確認ください。

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WRITER

志田実恵 志田実恵  エディター/ライター。札幌出身。北海道教育大学卒業(美術工芸)。中高の美術教員免許所持。出版社でモバイル雑誌の編集を経て、様々な媒体で執筆活動後、2007年スペイン留学、2008〜2012年メキシコで旅行情報と日本文化を紹介する雑誌で編集長。帰国後は旅行ガイドブック等。2014年6月に娘を出産。現在は東京で子育てしながらメキシコ・バスクの料理本の編集のほか、食、世界の子育てなどをテーマにwebを中心に活動中です。