2019年8月16日 公開

『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』で読解力を考える

日本の子ども達の読解力低下やAI化が進む未来を警告し、話題となった書籍『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』。多くの中高生は教科書が読めていない、という調査結果が衝撃を与えました。では、読解力を高めるにはどうすればいいのでしょうか?気になる育児や教育関連本を紹介する連載【話題の育児書】8回目です。

話題の『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』

タイトル:AI vs. 教科書が読めない子どもたち
著者:新井紀子
出版社:東洋経済新報社
AI(人工知能)論議が盛んになされ、関連書籍が溢れている昨今。中でもこちらの『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』は2018年2月に発売されてから各種メディアで大きく取り上げられて話題になり、2019年春には28万部を突破。教育関係者や子どもを持つ親はもちろん、ビジネスパーソンの間でも注目されている書籍です。

「ビジネス書大賞2019」大賞をはじめ、数多くの賞も受賞していて、非常に評価の高い書籍ですが、さまざまなシーンで感想を口にする人も多く、最近の育児書や教育関連書籍でも、この本の内容がよく紹介されています。「育児書」ではないものの、子を持つ親として本を手に取る方も多いので、この連載で紹介させていただくことにしました。
気鋭の数学者である著者の新井紀子さんは、2011年から2016年まで、人工知能プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトディレクターを務め、2016年より読解力を診断する「リーディングスキルテスト」の研究開発を主導されています。

『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』では、この”東ロボくん”とリーディングスキルテストの研究と調査結果を元に導き出された、AI化が進む未来予想図。2030年をより幸せに迎えるために、私たちが知るべきこと、考えること、実行すべきことを提案しています。

ロボットは東大に入れる?既にMARCHには合格レベル

cdrw / Shutterstock.com

AIロボを東大に合格させるプロジェクト「ロボットは東大に入れるか」。さまざまな分野の研究者が協力し、東大合格を目指して、人工知能ロボット=東ロボくんを育てるプロジェクトです。

東ロボくんは、年々偏差値を上げ、東大に合格するレベルには到達しなかったものの、2016年にはセンター試験模試で、英国数と理(物理)・社(世界史)の5教科で全て平均点を上回り、総合偏差値は57.1に。つまり、MARCH(明治、青山学院、立教、中央、法政)や関関同立(関西、関西学院、同志社、 立命館)という、首難関私立大学の一部の学科、複数の国公立大学に合格できるレベルには達したのです。

そして、この東ロボくんプロジェクトの本当の目的は、AIはどこまで可能か、AIにどうしてもできないことは何かを解明することでした。そうすれば、来たるAI時代に、AIに仕事を奪われないためにはどんな能力が必要か明らかになると考えられたのです。

この「東ロボくん」プロジェクトを通して、AIには、人間を凌駕する計算力と暗記力があり、問題文を計算式に解析できれば、簡単に答えを出せることがはっきりしています。

ただし、そもそも問題文が理解できなければ、解答もできません。英語は150億文という膨大な例文を暗記させましたが、常識的な理解ができないので簡単な文章でも読み違えてしまうというミスが起こりました。つまり、AIには読解力が足りないことが指摘されたのです。

3人に1人が簡単な文章が読めない?読解力調査の結果は……

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しかし、AIより常識も読解力があってしかるべき高校生の8割が東ロボくんの成績に及ばないのはなぜでしょうか。東ロボくんの実験と同時に行なわれた、全国2万5000人を対象にした読解力調査「リーディングスキルテスト(RST)」。これにより、日本の中高生の3人に1人は中学校の教科書の文章を正確に理解できていないという、恐るべき実態が判明しています。本書に掲載されている例題を見て、こんな4択でも間違うのか、と驚く方も多いかも知れません。

2割が、教科書の文章の主語と目的語が何かという基礎的読解ができず、約5割は教科書の内容を読み取れていないという結果に。詰め込み教育で、英単語や歴史年表は覚えていても、試験問題の意図はわかっていないというのです。日本の中高生は、AIが得意とする領域では勝てず、AIの苦手領域も同じように苦手だということ。

読解力崩壊の危機は教育にあるのでは、という警告です。

また、東ロボくんでAIの限界が示された一方で、実はどこの大学に入学できるかは、論理的な読解力と推論力があるかどうか、それもできれば中学校の段階で決まっているのでは無いかとしています。

将来AIに仕事を奪われないようにするためには読解力を向上させる

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今までの歴史を振り返っても、発明や新技術が人々の仕事を奪ってきました。ただし、今後はその速度が違います。10〜20年間で、全世界で働く人々の半数が職を奪われるかもしれないと予想されています。著者の新井さんは2010年に『コンピューターが仕事を奪う』(日本経済新聞出版社)で、この予測をいち早く世に出していますが、真に受けられず、なんと本屋さんのSFコーナーに本が置かれていたほどだとか。

しかし、既に2016年時点で、AIにはMARCHや関関同立に合格できる能力があるのです。このままでは、近い将来、AIに仕事を取られてしまう人は多いのは間違い無いでしょう。「AI世界恐慌」が訪れる最悪なシナリオも本書で語られています。

ただし、AIは万能ではなく、簡単な文章も読めません。でも最近の子どもたちも読解力が無いのです。

暗記力でも計算力で勝てず、読解力も無いとしたら……。このショッキングな内容が多くの親や教育者も震撼させ、影響を与えました。

では読解力があればAIに仕事を奪われないのでしょうか…?そうとは言い切れないかもしれません。ただ、暗記力と計算力では確実に勝てないとしたら、AIが苦手で、人間にしかできないことはもっと大事にして、鍛えておくべき力でしょう。

教科書が読めるような読解力を高めるにはどうすればいい?

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新井さんは、「読解力の向上にはダイエットのような簡単な処方箋はない」としています。

何が読解力を決定するのか?基礎読解力を身に付ける為の良い方法はあるのでしょうか?それを探るために新井さんらは、かなり網羅的なアンケートをしましたが、読書習慣も学習習慣も、習い事も、得意科目もスマホ利用も、性別にも目立つ相関関係は全く見られなかったそうです。

ただ、唯一の希望の光として、実験校で、先生たちが子どもたちがきちんと教科書が読めるためにはどうしたらいいか、研究して実践することで改善した事例を挙げています。

また、この本の発売後、「読解力向上にはどうしたら良いか」という具体策がさまざまな教育関連書籍で触れられています。

例えば、【話題の育児書】5回目で紹介した、こぐま会代表久野泰可さんの『「考える力」を伸ばす AI時代に活きる幼児教育』もこちらの本に触れつつ、未就学児の頃に聞く力と話す力を鍛えておくことが、その後の読解力向上につながるとしています。

早く識字教育をし、自分で読む量を増やせば良いのか、というとそう勧めるものはあまり無いような気がします。

絵本の読み聞かせや親子の会話を通して、読んだこと、聞いたことを本当に理解しているのか、さまざまな状況や内容で、その都度確認し、掘り下げていくことが大事かも知れません。物事をしっかり考え、人の話を理解すること。また、小学校入学後、プリントの宿題に取り組むような時には、まず、問題を読め、理解しているかどうかに重点を置いておくことなどが挙げられるかもしれませんね。
この記事は執筆時点のものですので、最新情報は公式サイト等でご確認ください。

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WRITER

志田実恵 志田実恵  エディター/ライター。札幌出身。北海道教育大学卒業(美術工芸)。中高の美術教員免許所持。出版社でモバイル雑誌の編集を経て、様々な媒体で執筆活動後、2007年スペイン留学、2008〜2012年メキシコで旅行情報と日本文化を紹介する雑誌で編集長。帰国後は旅行ガイドブック等。2014年6月に娘を出産。現在は東京で子育てしながらメキシコ・バスクの料理本の編集のほか、食、世界の子育てなどをテーマにwebを中心に活動中です。