頭と体を同時に使う「マット運動」は運動能力の向上のみならず、知育効果も期待できる全身運動です。マット運動は小学校の体育で指導される器械運動の一種。低学年で行うウマ歩き・ゆりかご・背支持倒立などは幼児にもおすすめです。運動能力を高めるマット運動のご紹介です。
マット運動とは?
マット運動はマットを使って行う運動全般をさします。
マット運動は鉄棒、飛び箱、平均台などの器械を使って行う「器械運動」のひとつです。前転、後転、開脚前転などのマット運動は、多くの方が小学校の体育で経験したことがあるでしょう。マット運動を通して「安全で効率的な体の使い方」を学び、運動能力の向上を目指します。
小学校で学ぶマット運動
小学校の授業では、「ウマ歩き」や「ゆりかご」などマットの上を歩く・寝転がるといった簡単な「マット運動遊び」から体を慣らします。そして高学年になる頃には、開脚前転や側転のような調整力・柔軟性・巧緻性を必要とする「マット運動」が指導されるように。
体を支えつつ、衝撃を吸収するマットを使うことで、腹這いや逆立ち、回転など普段できない動きに子どもが挑戦できます。
マット運動で得られる効果
四肢を大きく使って、決められた動きをイメージしながら行うマット運動。適度な柔かさのあるマットを使うことで、固い床の上ではできない動きができるようになります。回転・速さへの恐怖心も和らぐので、心身の動きがダイナミックかつ自由に。幼児期に行うことで、脳・脊髄神経と関節・筋肉の連携をスムーズにする効果が期待できるでしょう。
両手・腹筋・背筋でバランスを取って、両手だけで体を瞬間的に支える「かえるの足打ち」、手首・頸椎を柔軟に使ってマットを押しながら回る「前転・後転」……
幼児期に安全に「運動する楽しさ」を実感するにはマット運動がぴったりです。体操教室にあるような本格的なマットがなくてもOK。市販の家庭用体操マット、厚手のヨガマットがあれば、ご自宅でマット運動をはじめられます。適度な固さのある布団でマット運動を行っているご家庭もあります。
調整力
頭・両ひじで体を支えて行う「背支持倒立」のようなマット運動には調整力が必要です。調整力とは、倒立や回転などのようにバランス感覚を必要とする運動の途中で「姿勢の調整」を行う能力のこと。平衡感覚や空間認識力も調整力に含まれます。
調整力の高い人は体の傾きや力の偏りを瞬間的に察知し、修正することができます。その結果、意図した通りの運動を成功させることができるのです。
マット運動を幼児期に行うことで、脳・神経・筋肉の連携が素早く正確になるでしょう。
柔軟性
「開けるところまでしっかり開脚」「伸ばす時は指先・つま先まで」「頭をしっかりマットにつけて回転」など、動き・姿勢に曖昧なところのないマット運動は、楽しみながら柔軟性を高めるのにも最適です。
柔軟性は「筋肉と腱が伸びる力」と「関節の可動域の広さ」で決まります。マット運動で筋肉と腱をしっかり伸ばすことで、さまざまな動きに対応できるしなやかな筋肉・腱を作るのに役立つでしょう。普通の運動や遊びでは動かしづらい股関節・肩甲骨の関節も、マット運動なら限界までしっかり動かせます。
機敏性
マット運動の多くは運動しながら「次の動作」へ向かうための体勢を作らなくてはなりません。たとえば開脚前転・後転は、起き上がる直前に開脚して腰を浮かした状態で制止します。
「機敏性」とは、今行っている動きから、違う動きへ素早く正確に切り替える能力です。敏捷性とも言われ、運動能力テストでは「反復横跳び」でテストされます。
バスケットボールやサッカー、野球……ほとんどのスポーツで必要とされる機敏性は、簡単なマット運動で十分培うことができます。
巧緻性
手先が器用と言う意味で使われることの多い「巧緻性」。運動における巧緻性とは、状況に応じて意図した通りの動きができる、身体の器用さを表します。マットと体だけで行うマット運動は、巧緻性を鍛える効果が非常に高いです。
たとえば仰向けに寝て、体を丸くして前後に転がる「ゆりかご」。腹筋を使って体を丸めながら平衡感覚を保つ動作には、巧緻性が求められます。簡単な運動ながら全身の神経・筋肉を刺激できるでしょう。
筋力・筋持久力
「筋力」は筋肉が収縮する際に発揮する力。1回の収縮で持ち上げられる重量で測られます。「筋持久力」というのはどれだけ長い時間、筋肉が繰り返し収縮できるかという能力です。
背支持倒立やマット上での押し相撲など、「一気に筋肉に負荷をかける」ことと「筋肉に負荷をかけ続ける」ことを同時に行うマット運動は筋力・筋持久力アップにも効果が期待できます。
「筋力」は筋肉が収縮する際に発揮する力。1回の収縮で持ち上げられる重量で測られます。「筋持久力」というのはどれだけ長い時間、筋肉が繰り返し収縮できるかという能力です。
背支持倒立やマット上での押し相撲など、「一気に筋肉に負荷をかける」ことと「筋肉に負荷をかけ続ける」ことを同時に行うマット運動は筋力・筋持久力アップにも効果が期待できます。
瞬発力
「瞬発力」は瞬間的に発揮される筋力のこと。運動能力テストの「垂直跳び」で測られます。瞬発力は陸上競技や球技、水泳などほぼすべてのスポーツで必要な能力です。
マット運動の倒立、回転、側転などは「マットを適切なタイミングで押しながら瞬時に起き上がる」という瞬発力を要する動きが含まれています。体が柔らかく、恐怖心の少ない幼児期にマット運動を行うことで、楽しみながら瞬発力が高められるでしょう。
幼児でもできるマットを使った運動
子どもが運動神経の良い子に育つには、できるだけ早い時期に全身を使った運動を行うことが有効とされます。プレゴールデンエイジ(3歳~8歳)と呼ばれる時期は、脳の成長が90%以上に達する、頭と体が急激に成長する時期。さまざまな運動を経験して「走る」「跳ぶ」「投げる」などの基本動作を安定させましょう。
そしてゴールデンエイジ(9歳~11歳)は、プレゴールデンエイジに培った基礎運動能力を応用して高度な運動・スポーツにつなげていく時期。幼児期に多種多様な動きを行うマット運動を行うことで、未来の運動能力がぐっと底上げされるはずです。
ゆりかご
ゆりかごと呼ばれるマット運動は、その名の通り、体をゆりかごのようにゆらゆら揺らす反復運動。前転や後転につながる基本の動作です。
【やり方】
1.膝を抱えて座り、あごと引いて背中をまるめます。
2.そのまま背中でゆらゆらとマットの上を転がります。
前転
でんぐり返しとも言われる前転。腕で体を支える感覚(腕支持感覚)と平衡感覚、回転感覚を習得できます。正しくきれいに回る方法は以下の通り。
【やり方】
1.ひざを曲げた状態でマットに手を着きます。
2.マットを勢いよく蹴って回転します。この時、足は伸ばすことで遠心力が働き回転に勢いがつきます。
3.着地する直前に再びひざを曲げて足を着きます。ひざを曲げることで安定した着地ができます。
開脚前転
前転の発展形が開脚前転。起き上がるとき、脚を大きく開いて立ち上がります。
【やり方】
1.しゃがんでつま先のそばに両手を置きます。
2.あごを引いて、後頭部をマットに着けるようにして勢いよく前転します。
3.足がマットに着く直前に、足をできるだけ素早く広く広げます。
4.なるべく遠くに両手を着くようにしてマットをグッと押します。この時、頭も前方に倒します。
5.ひざを曲げないように立ち上がります。
後転
前転ができたら後ろ向きに転がる後転にも挑戦してみましょう。
【やり方】
1.両手を耳の横にしてひざを曲げます。
2.おへそを見るようにあごを引きます。
3.体を丸くして勢いよく後ろに回ります。同時にひざは伸ばします。
4.お尻が上に上がったら、勢い良く両手でマットを押し返します。
5.そのままひざを曲げて着地し、起き上がります。
丸太転がり
ゆりかごと同じくごく基本的なマット運動です。これが発展すると横転がり、側転になります。
【やり方】
1.マットの上に横になり、腕を真っ直ぐ腕に上げて指先・つま先をしっかり伸ばします。
2.体を真っ直ぐに伸ばして丸太のようになり、左右に転がりましょう。
背支持倒立
背支持倒立は首倒立とも呼ばれます。腹筋・背筋などでバランスとりながら、首で体全体を支えます。
【やり方】
1.仰向けに寝ます。
2.足を伸ばしたまま上方に振り上げ、腰を手でサポートします。
3.マットに肘をつき、首・肩・肘でバランスを保ちながらアンテナのように足を真っ直ぐ天井に向かって伸ばしましょう。目線はつま先にすることで倒立が安定します。
背支持倒立は首倒立とも呼ばれます。腹筋・背筋などでバランスをとりながら、首で体全体を支えます。
【やり方】
1.仰向けに寝ます。
2.足を伸ばしたまま上方に振り上げ、腰を手でサポートします。
3.マットに肘をつき、首・肩・肘でバランスを保ちながらアンテナのように足を真っ直ぐ天井に向かって伸ばしましょう。目線はつま先にすることで倒立が安定します。
側転
丸太転がりから始め、できるようになったら側転にも挑戦してみましょう。
【やり方】
1.マットに対して体を横に構えます。両手・両足は肩幅より少し広いくらいに広げましょう。
2.腕を広げた状態でマットに手をつき、同時に足で勢いよく床を蹴ります。ひざは曲げないように。
※マットについた両腕を結んだ線を底辺とした三角形をイメージし、その頂点を見つめるようにすると回転しやすいはずです。
3.両手がマットに付いている時は背中・腰が伸びた倒立(足は開いていてOK)のようになります。
4.素早く両手でマットを押して、下りてくる足の反動を使って起き上がります。
丸太転がりから始め、できるようになったら側転にも挑戦してみましょう。
【やり方】
1.マットに対して体を横に構えます。両手・両足は肩幅より少し広いくらいに広げましょう。
2.腕を広げた状態でマットに手をつき、同時に足で勢いよく床を蹴ります。ひざは曲げないように。
※マットについた両腕を結んだ線を底辺とした三角形をイメージし、その頂点を見つめるようにすると回転しやすいはずです。
3.両手がマットに付いている時は背中・腰が伸びた倒立(足は開いていてOK)のようになります。
4.素早く両手でマットを押して、下りてくる足の反動を使って起き上がります。
まずは動物歩きなど遊びながらやってみよう
クマさん歩き
1.マットで四つん這いになり、ひざを伸ばして手・足だけで体を支えます。
腰はできるだけ高く保ち、手の平でしっかりと地面を押して歩きます。
2.ひざ・ひじは使わず「クマさんのように」手・足を使って移動します。
視線は落とさず、前方を見ましょう。
腕支持感覚と筋力・筋持久力の向上に効果が期待できる運動です。
かえるの足打ち
1.両手を肩幅くらいに広げてマットに着けてしゃがみます。
2.両足でマットを蹴り、体を手だけで支える体勢になります。この瞬間に両足をできる回数だけ打ち鳴らしましょう。
体がマットから離れている時間が長いほど、足打ちがしやすくなります。腰を高く上げて「倒立に近い姿勢」になることを目指してください。
犬歩き
1.マットの上に四つん這いになります。
2.そのままの状態(ひざがついていてOK)で犬のように歩きましょう。
赤ちゃんのはいはいと同じ動きとなります。クマさん歩きよりも筋肉・関節への負担が少ないので、乳幼児からできる運動です。
ウサギ跳び
1.両手を肩幅より少し広げてマットに勢いよく着きながら、両足でマットを蹴ります。
2.両手だけマットについている状態から、素早くひざを胸に引きつけます。
3.両手の位置よりも前に足が着くように着地してください。足の着地と同時に手でマットを押して、再び前方に両手を着きます。
小学校低学年体育~05マットを使った運動遊び:文部科学省
運動能力を総合的にアップさせるマット運動
マット運動は、安全なマットの上で、それぞれの子どものペースに合わせできるのがポイント。調整力・柔軟性・巧緻性・瞬発力などを総合的にバランスよく伸ばせます。激しい運動や、つらい反復練習なしで遊びの一環として行えるので、小さな子どもでも継続しやすいでしょう。
しゃがむ、転がる、逆さになる、回転する……とさまざまな視点での運動が体験できるため、幼いうちにマット運動に親しむことは平衡感覚を育て、回転や速さへの恐怖心を減らします。
いろいろな運動に興味を持ち、運動やスポーツの経験値を高めるためにも、小さなうちからマット運動をする機会を作ってみてはいかがでしょうか。