2022年12月13日 公開

発祥の国英国から考える!アニマルウェルフェア(動物福祉)とは

日本においても関心が高まりつつあるアニマルウェルフェア(動物福祉)。動物愛護との考え方の違いや発祥の国といわれるイギリスで行われている主な取り組みをレポートします。

近年、日本のメディアでも少しずつ取り上げられるようになった言葉に「アニマルウェルフェア」というものがあります。みなさんは、お聞きになったことがありますか?

アニマルウェルフェア(Animal welfare)は動物福祉と訳することができます。アニマルライツ(動物の権利)/アニマルプロテクション(動物愛護)と混同されがちですが、実は考え方が異なります。

今回はその違いや、それらが子育てをする私たちの生活にどう関わるのかを踏まえながら、「動物を取り巻く環境と動物福祉」について取り上げてみたいと思います。

英国が発祥と言われる「アニマルウェルフェア」

動物愛護とアニマルウェルフェアの違いはどこにあるのでしょうか。両者の持つ言葉の定義や考えが起こったきっかけを比べてみました。

アニマルウェルフェア(動物福祉):

動物にとって何が良いのかについての考え。
動物への配慮をもった上で飼育を目指す。ペットだけでなく、家畜農家や野生動物を飼育している動物園や水族館のような場所にも深く関わる。

アニマルライツ/アニマルプロテクション(動物の権利/動物愛護):

人間の動物利用を否定し、動物を愛し守ろうという考え。
人間の目的を第一にせず、まず動物にとって最善の選択をすること。
ベジタリアンである理由の一つとして、説明されることも多い。

このように、動物愛護では「人間による動物の利用を否定」しているのに対し、アニマルウェルフェア(動物福祉)は、「動物を利用することを否定してはいないが、その際には動物の感受性を考慮し、心身共に健康的な生活が送れる飼育環境を目指す」という考えが前提にあります。

アニマルウェルフェアの考え方は、1960年代にイギリスの家畜福祉活動家ルース・ハリソンが、著書「アニマル・マシーン」の中で、「工業的な畜産の現状」について痛烈に批判したことが発端でした。

人々はこのことに関心を寄せ、世論がどんどん高まり、最終的には肉屋や農家を焼き討ちにする過激な運動にまで発展してしまいました。ついにイギリス政府は委員会を立ち上げ、「すべての家畜に、立つ、寝る、向きを変える、身づくろいをする、手足を伸ばす自由を」という基準を提唱するに至りました。

動物にとって大切な「5つの自由」とは?

イギリス政府の委員会が提唱した上記の基準をもとに、1979年には動物の福祉基準である「5つの自由」が英国政府により発表されました。現在では「5つの自由」は国際的に採用されています。

動物の5つの自由

1.「飢え、渇き及び栄養不良からの自由」

2.「恐怖及び苦悩からの自由」

3.「物理的、熱の不快さからの自由」

4.「苦痛、傷害及び疾病からの自由」

5.「通常の行動様式を発現する自由」

子どもでも分かりやすい言葉で言うと、

1.動物がお腹をすかせていたり、喉がかわいていてはいけない

2.動物が怖がっていたり、不幸せな状態ではいけない

3.不快な環境にいたり、暑すぎたり寒すぎたりしてはいけない

4.怪我をしていたり、病気の場合は獣医さんに連れて行かなければいけない

5.動いたり遊んだりするのに十分なスペースがなければいけない

ということです。

イギリスの生活とアニマルウェルフェア(動物福祉)

イギリスではアニマルウェルフェア(動物福祉)に関する法律も整備されています。(2006年アニマルウェルフェア法 – Animal Welfare Act 2006)

これは、家畜やペット、さらに野生動物を含めたすべての脊椎動物を対象に各種禁止事項を定めたもので、その中には、「ある動物に関して責任を有する者(一時的か永続的かは問わず)がその動物に適切な環境、食事などを与えていないと判断される場合、検査官は期限を定めた改善の要求を通知できる。」などが定められています。

ですので、たとえば保護犬を引き受ける場合にしても、飼い主と生活環境に関して厳しい審査が必ずありますし、犬のブリーダーになるにも出産回数や引き渡しに厳しいルールが設けられています。

動物園などの施設

さてここで、動物福祉の話を少し身近な「子育て」に関することに絞ってみましょう。

子育て&動物と言えば、動物園や見学ができるファームなどが思いつきます。イギリスでは動物園と言っても、サファリパークのような動物が自由に動き回り、人間は車の中から動物を眺めるという方式のものや、広大な敷地に動物が飼育されている動物園などがほとんどです。サファリパークでは、たとえ動物に車を壊されても、それは見学しに行った人間の責任です。

動物園やファームでも、フェンスの中の面積は広く設けられており、動物が表に出て来たいか、岩や植物の陰、巣箱や屋内で休憩したいかを決められるようにデザインされています。静かに過ごしたい気分の動物を邪魔することはできませんので、目的の動物をしっかり観察できるかどうかは運次第のようなところもあります。(逆に、動物の方が人間の方に興味を持って近づいてきてくれることもありますよ!)

動物園やファームによっては、特定の動物との触れ合いの時間を設けてある場合もありますが、動物の負担にならないように、時間をきっちりと決めてあったり交代制だったり、動物が人間と距離をとりたいと感じたときに離れることができるスペースを確保するなど、動物に配慮した運営となっています。

動物と触れ合うことで「癒し」を求めるのが目的というよりも、動物という命・存在を尊重し、生き物に対する関心や興味、科学的な学びの機会を、子どもたちが見学や触れ合いを通して持てるように考えられています。

ペット

例えばイギリスで犬を飼うとき、子犬を譲り受けることができる生後の数週が法律で決められています。また、ブリーダーさん側で獣医による健康チェックとマイクロチップ装着が済ませてあります。犬の引き渡し時には、母親やきょうだい犬と一緒に使っていたブランケットやおもちゃ、食べ慣れているドッグフードを子犬が新しい家に持って行けるように用意されていることがほとんどで、母犬と離れなければならない子犬の不安な気持ちに配慮されています。

話を日本に戻すと、2022年6月に日本で義務化が始まった犬や猫などのペットへのマイクロチップ装着も、アニマルウェルフェア(動物福祉)に繋がると言われています。その理由として、迷子になったペットは保健所で一時保護された後、飼い主が引き取りに来なければ殺処分されてしまうことがあるからです。しかし、マイクロチップがあれば飼い主や販売店の情報がすぐに判明するので、殺処分のような悲しい結末を防ぐことができます。
また、飼い主情報がすぐわかることにより、心無い飼い主がペットを簡単に捨てることも減ると考えられています。

畜産動物

人間が生きていくために、そして子どもたちが成長するためには、食べ物が必要ですよね。私たちが日々食べている食品と畜産には深い関係があり、そこにもアニマルウェルフェアは繋がります。

イギリスをはじめヨーロッパ、オーストラリアやアメリカでは、畜産動物の飼育方法にも厳しいルールがあります。例えば「バタリーケージ」と呼ばれる小さなケージに鶏を飼育することが禁止されていたり、牛や豚の飼育に関しても先述の「5つの自由」を守らなければなりません。

人間が動物を飼育する際に扱いやすいからという理由で行っていた身勝手な扱いを改め、動物が心身共に健康的な生活を送れる飼育環境を目指すことが大切です。人間がストレスで免疫力が落ちたり、心身の不調をきたすように、動物も悪い環境で飼育されれば元気に育つことはできません。アニマルウェルフェアを考慮し、動物の事を考えた飼育をすれば、結果的に食の安全にも繋がるのです。

日本におけるアニマルウェルフェア(動物福祉)

日本は諸外国に比べて動物福祉(アニマルウェルフェア)の取り組みが遅れていると言われていました。しかし徐々にではありますが、日本国内でも動物福祉に関心を持つ人が増え、認知度が高まりつつあります。

アニマルウェルフェア認証マークがついた牛乳などの畜産物も販売され始め、消費者にも選択肢が増えているのは嬉しい変化です。しかしながら、まだ劣悪な環境での飼育が大半を占めているのが現状。たとえばイギリスで禁止されている鶏の「バタリーケージ」を採用している養鶏場の割合は、日本では92%と非常に高くなっています。その理由は、平飼いをするとケージ飼育に比べて卵の値段が跳ね上がってしまう懸念があるからなのです。

これに対しイギリスは、価格が上がるかもしれない可能性を前にしても、二の足を踏みませんでした。ケージフリーの卵の割合は現在年々増加傾向にあります。また、英国主要スーパーマーケットはすべての卵に対しケージフリーを目指す取り組みを発表しています。

未来に繋げていきたいアニマルウェルフェアの取り組み

私たち親世代、そしてこれからの未来を担う子どもたちにできることは、まずアニマルウェルフェア(動物福祉)という考えの存在を知ることです。知ることで、できる行動があります。アニマルウェルフェア認証マークのついた商品を選ぶこともそうですし、そういった商品を増やしてほしいと要望を出すことだってできます。

また、動物だからと命を軽く見るのではなく、人間と同じように命がある存在として動物を尊重する心を、子どものうちから育むことはとても大切です。そうすることで、動物たちが本来あるべき自然の中の生き方や習性、生態への興味も広がり、できうる限り守っていくことに喜びを感じられる、あたたかい心を持った人間へと成長できるのではないでしょうか。

 

イギリスの子育て・教育現場の動物との関わりに関する記事は、ぜひこちらもご参照ください。


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この記事のライター

いしこがわ理恵
いしこがわ理恵

在英16年目の2児の母。現在は日本語教育に携わる仕事とライター・イラストレーターとして活動中。興味の範囲が幅広いので、常にいろいろな方向にアンテナをはりつつ情報収集が日課です。ハッピー子育てに役立つ情報をみなさまにお届けできれば嬉しいです。Instagram 無料プリント @uk_warakado プライベート @rie_emily2023