イギリスは犬や動物に優しい国・住みやすい国だということを聞いたことがあるでしょうか。噂程度には聞いたことがあるという方もいらっしゃるかもしれませんね。
それでは、実際にはどういった部分でそのような認識を持たれているのでしょう?イギリスへ移住した筆者が気づいた、日英間のカルチャーギャップを含めながらレポートします。
子どもの頃の犬の記憶
少し筆者の個人的な経験をお話しすると…
子ども時代は「犬」に興味があるものの、何度も犬に吠えられたり、通学路の犬に飛びかかられそうになったり、リードが外れた大型犬に追いかけられたり(逃げるのがあと数秒遅かったら、間違いなく大惨事になっていました…)と、犬に対してトラウマになるような経験をたくさんしました。
「遠くから見る分にはあんなに可愛いのに、どうして吠えるんだろう?」と、犬に対して大きな恐怖感を持っていた子ども時代でした。
イギリスに移住してからお話した日本人の方と犬の話になったときに、日本にいたときは犬が怖かったとおっしゃる方が意外と多く、似たような体験をしている方もいらっしゃいました。
恐らく今の日本では、状況が変わって来ているように感じるのですが、昭和の時代には、屋内よりも屋外に繋がれて飼われている犬やドックトレーニングを受けていない犬も多かったように記憶しています。そのため、犬と人間の関係があまり穏やかではなかったのかもしれません。
イギリスに来て変化した犬の印象
イギリスに来てから、私の「犬が怖い」という心境に変化が訪れました。その理由は、ほとんどの犬は、横をすれ違ってもこちらを全く気にすることなく通り過ぎていくため。犬同士だったり知り合いの人間ではない限り、眼中にはないという感じです。イギリスは日本に比べると中型~大型犬を飼育されているご家庭が多いようです。(ちなみに、イギリスがロックダウンになった2020年~2021年の期間から、室内でも飼える小型犬を飼育する家庭も増えました。)犬のサイズに関わらず、この「知らない人間は眼中になし」という犬たちのおかげで、イギリスで生活するうち、徐々に犬に対する恐怖心が消えました。
ところで、イギリスは動物愛護の精神が強い国だと言われているのをご存じですか?たとえば身寄りのないペットたちを保護してくれるアニマルシェルター等のチャリティー団体が、イギリスには1000以上もあります。有名なものに、ドッグ・トラストというチャリティ団体がありますが、通常のチャリティーショップのような店舗でのセカンドハンド品の販売からの利益や、企業・個人からの寄付金などで運営されており、シェルターを通して年間一万匹以上もの犬が、新しい家族に無事に引き取られているとのこと。
ドッグ・トラストだけではなく、イギリスでは他にもブルー・クロスをはじめ、多くのチャリティー団体が、行き場のなくなったペットたちへ、第二の人生のご縁をつなぐ手伝いをしています。また、ペットを引き取る際の条件も厳しく決められており、勢いだけで引き取られることがないようになっています。
他にもイギリスでは、日本のペットショップのように、店舗で犬猫の販売をすることができません。小さい箱のような空間に動物を並べて売るということが残酷であるという見解からです。
イギリスで犬を飼う場合には、先ほどご紹介したような動物のチャリティー団体で犬を引き取るか、ブリーダーさんから買うことが一般的です。また、子犬は健全な発育のために、少なくとも生後8週間になるまでは、新しい飼い主へは引き渡されません。
犬との生活に優しいシステム
イギリスで道を歩いていると、いろいろな形のごみ箱を目にします。そのほとんどは、普通のごみと犬のフンを入れたビニール袋を一緒に捨てることができるものです。犬を連れて家の近所を散歩するだけではなく、犬と遠出をしたり、旅行したり、多くの公共交通機関(バスや電車等)に乗って犬とお出かけできるイギリスでは、犬のフンを道端のごみ箱に捨てられるのはとても便利です。
また、イギリスのパブや宿泊施設では犬が一緒に利用できるところが多くあります。学校の送り迎えにも犬を連れているご家庭が多く、学校の校門の近くには、犬が並んで飼い主さんたちが出てくるのを待っているのを毎日目にします。何度も同じ犬に会うたびに、名前を覚えたり撫でさせてもらったりと、スキンシップをとりやすく、自然と仲良くなれます。ほとんどの犬が良くトレーニングされているので、子どもたちに吠えたり飛びかかったりすることはありません。しっぽを振って辛抱強く、でもとても嬉しそうに、学校帰りの子ども達に撫でられているようすは、イギリスならではだと感じます。
犬に優しい環境と言えば、イギリスには犬を遊ばせられる公園も多いです。イギリスにはプレイグラウンドとパークの2種類の公園があって、プレイグラウンドは通常子ども用の遊具がある場所。一方、パークというと大きな芝生スペースでピクニックをしたり、ボール遊びをしたり、犬を思いっきり遊ばせてあげられるような場所です。多くの場合、この2つは同じエリア内に併設されています。
筆者の娘達は、ある日遊びに行ったプレイグランドの柵のところに、ボールを投げ込んでくる犬に出会いました。(隙間からそっとボールを子どもがいる方に入れてくるのです。)この犬の名前はブーラちゃん、ボーダーコリーのメスです。どうやら子どもと遊ぶのが大好きなようで、子どもたちがそのボールを投げ返してくれるチャンスを待っているようでした。何回か柵のこちら側と向こう側とで、その犬とコミュニケーションをとるうちに、娘達も犬も打ち解けたようで、そのうちに飼い主さんと仲良くなり、一緒に走り回って遊ぶように。今では、名前を呼ぶと喜んで駆け寄ってきて、毎回1時間半ほど遊ぶ間柄になりました。実は、このブーラちゃんに出会うまでは、娘たちはあまり犬とのスキンシップ方を知りませんでした。(犬と触れ合うチャンスが無かったのです。)ブーラちゃんのおかげで、犬と過ごす時間がとても楽しいということを経験することができ、とても感謝しています。
▼イギリスの公園
ペットを取り巻く、近年の悲しい現状
このように、犬を飼うにあたって、いろいろな面で恵まれているイギリスですが、問題もあります。例えばイギリスがロックダウンに入った2020年以降、「家で過ごす時間が増えたから」や「鬱状態になるのを防ぐため」などの理由でイギリスにペットブームが起こりました。ペット業界は売り上げが上がり、シェルターから引き取られたペット数が増え、良い面があった一方で、「実際に飼ってみたら大変だった」「生活環境の変化で、もう飼えなくなってしまった」と、ペットを手放す家庭も増えてしまったのです。
これは社会問題にもなり、テレビでも報道されました。ある番組では、チャリティー団体と提携して番組中に里親を募集するなどの企画も放送されました。また犬の価格はどんどん上がり、そういった状況を悪用する業者や、ペット泥棒も増えました。
多くのイギリスに住む人々は、動物愛護の精神があり、責任感もあり、素晴らしい国だと感じていますが、一部でそういった行動をとる人がいるのは残念でなりません。悲しい生活を強いられるペットたちが一匹でも減ることを願うばかりです。
犬やペットに優しい世界
今回の英国すくすくレポでは、イギリスが犬にとって過ごしやすい国と言われる理由と、実際に生活していて感じたことを体験談を踏まえてご紹介しました。
犬と生活するにあたって、便利だと思うことも、安心・安全だと思えることも多く、そういった面がこの国だけにとどまらず、他の国にもその優しい世界が広がってほしいと心から思います。
我が家も現在、犬をお迎えしたいという長年の夢を叶えるべく、運命の一匹を探しています。ついにお迎えができるそのチャンスが来た時には、しっかり責任をもってお世話をし、イギリスに住む犬らしく、幸せな人生ならぬ犬生を送らせてあげられるような家族になりたいと強く心に決めています。
■いしこがわ理恵さんのイギリス漫画レポートの記事はこちら↓↓↓