幼児の約7割が習い事をしている昨今。やらせたい習い事が多すぎて、時間捻出に苦労をされている保護者も多いそう。しかし、過密すぎるスケジュールは、子どもの心身に悪影響を及ぼすことも。「忙しいけど大丈夫?」と聞けば、「大丈夫」と答える子どもですが、その言葉の裏側を探りながら、バランスの取れたスケジュールを組んでいくのは親の役割でしょう。
幼児期の発達を踏まえた上で、どう習い事を組み込んでいけばいいか。行き過ぎた習い事の弊害を防ぐための工夫について考えてみましょう。
今どきの幼児の習い事事情
幼児にとっての学びは「あそび」です。あそびを通して、「なぜ」「どうして」という気持ちが芽生え、自ら考え、発見していきます。これが、学びの土台となる力。しっかりとした土台が、小学校以降の勉強を豊かにしていきます。
まだ、教科学習が始まらない幼児期は、非認知能力という見えない力を育む格好のチャンス。様々な調査結果より、幼児期の教育(経験)は、後の人生に好影響を与えるということが明示されていることもあり、幼児期の教育は、今まで以上に加熱しているようです。
幼児の教育といえば、習い事。幼児白書2022(学研)によれば、小学校入学前に習い事をしている子どもの割合は、平均で56.1%とのこと。半数以上の子どもが、就学前から何らかの習い事をしていることがわかります。習い事の内訳は実に多様。水泳や英会話、体操教室は引き続き人気がありつつ、通信教育や学習塾に通う幼児は、前回の調査(2019年)より増加の傾向にあるようです。
参考:https://www.gakken.jp/kyouikusouken/whitepaper/k202209/chapter7/01.html
やらせたいことがありすぎる!
発達段階からすれば、「あそぶこと」が大切とされている時期なのに、なぜこんなにも「習いごと」に人気が集まるのか。背景には、親の不安と期待があるようです。
仕事との両立により、子育てにかけられる時間が短い分、質を高めたいという願いあり。社会の変容を受け、学校教育だけには任せておけないという不安あり。加熱する受験の影響もあるかもしれません。
習い事が進化する中、親の方が「面白そう!やらせてみたい!」と願うケースもあるでしょう。主体性が重視される社会に身を置き、「得意」を早期に見つけることができれば…、という期待もありそうです。
子どもの成長に必要な余白
ただ、子どもの心は、どう感じているのでしょうか。まだ、言葉で訴えることができない心の内は、大人が探っていかなければなりません。「やらせたいこと」と「子どものキャパシティ」の双方を考え、バランスをとっていく必要があります。子どもの成長には、自分と向き合って感じて、考えて、振り返って…、前に進むだけではない、「今ここ」を味わうための余白が必要です。
大人の興味に合わせて、詰め込み過ぎてしまうことは、子どもの自由な時間や自己探求の機会を奪ってしまうことにもなりかねません。心身の成長を促すためにも、子どもがリラックスしたり、自由に創造的に過ごす時間はとても重要です。
行き過ぎた習い事の弊害を防ぐための5つの工夫
もちろん、習い事がいけないわけではありません。一芸に秀でた子どもたちを見ていると、幼児期から始めている子どもがほとんど。早期における教育の重要性も分かります。しかし、一人ひとり、受け入れられるキャパシティは異なります。「やらせること」と「自由な時間」、双方のベストバランスを見つけるためにも、子どもを見ていく姿勢が必要です。行き過ぎた習い事の弊害を防ぐための工夫を、5点ご紹介します。
1、子どもの習い事の目的を再確認する
そもそも、何のために、その習い事をさせたいのか…。習い事の目的は、明確にしておきましょう。親の不安や焦りを解消するための習い事なら、子どもにとっての利益はありません。子どもが行きしぶりをした時にも、目的が明確なら、適切な対処ができるはずです。
親の未熟さやエゴで子どもを振り回してしまった。後からこんな後悔をしないためにも、目的を明確にしておきましょう。
2、子どもが自由に過ごす時間に名前をつける
子どもが外を見ながらぼ〜っとしている。子どもが暇そうにウロウロしている。こんな光景を目の当たりにすると、ついつい「〇〇したら?」と助言をしてしまうこと、ありませんか?
子どもがぼ〜っとしていると、すかさず何かをやらせたくなってしまう親心。暇そうにしている光景を受け入れにくい場合には、子どもが自由に過ごす時間に名前をつけてみてはいかがでしょう。探求の時間、自由研究の時間等。名前をつけることで、その時間の存在意味が高まり、必要性を再認識することができそうです。子どもにとって、やることが決まっていない時間は、自由に過ごすことができる時間。大切な時間です。
3、子どもの気持ちを探る
「大丈夫?」と聞けば、「大丈夫」と子どもは答えます。ですから、こちら側から子どもの気持ちを探っていくことが大切です。例えば、朝のオンライン授業に始まり、午前、午後と習い事のはしごをする土曜日。「大丈夫」と答えた子どもなのに、なんだか集中していない様子です。
そんな時には、子どもの立場にたって、どんな気持ちなのか、どんな景色が見えているのか、推測をしていくことが大切です。子どもは全てを言語化することはできません。子どもが言った・言わない、の世界から離れ、子どもの気持ちを探っていきましょう。
4、子どものストレスサインを見逃さない
子どもはストレスがたまると、何らかのサインを出してきます。ワガママを言ってきたり、八つ当たりをしたり。食欲がなくなったり、眠りが浅くなったり。これらは、休ませる時間が必要なサインです。チック症状や頻尿といった、ストレス反応に至る前のサインも、見逃さないようにしたいものです。
しかし、親はこのサインになかなか気づきにくいもの。「このくらいなら大丈夫だろう」「過去にもそういうことがあったから大丈夫」等、正常性バイアスという認知バイアスが働いてしまうからです。
過敏になりすぎるのはNGですが、気になることがある場合には、「今日は休もうか」と、休むことを提案することも大切です。
5、親も自分の心をリラックスさせる
生まれた瞬間からずっと見てきた親の表情です。ちょっとした親の変化を、子どもは敏感に察知します。親がイライラしていれば、子どもも不安に。親子の心は連動しています。
同じ習い事をしていても、親の不安感を起点としている習い事なら、子どもにとっては負担になってしまいます。親が心から子どもの成長を楽める習い事なら、子どもにとっても楽しい習い事に。
子どものキャパシティは、年齢によって決まっているわけではありません。前向きな気持ちがあれば、多少過密なスケジュールであっても、バランスをとって楽しんでいくのかもしれません。まずは自分の心に余裕を作りましょう。
幼児期の習い事は、「やらなければいけないこと」ではなく、「やったら楽しいこと」。将来のために頑張ることではなく、「今ここ」の時間をより豊かにするためのこと。今を置き去りにすることなく、習い事という経験を楽しんでください。
■ライタープロフィール
江藤真規
東京大学大学院教育学研究科博士課程修了 博士(教育学)
株式会社サイタコーディネーション代表
クロワール幼児教室主宰
アカデミックコーチング学会理事
公益財団法人 民際センター評議員
一般社団法人 小学校受験協会理事
自身の子どもたちの中学受験を通じ、コミュニケーションの大切さを実感し、コーチングの認定資格を習得。現在、講演、執筆活動などを通して、教育の転換期における家庭での親子コミュニケーションの重要性、母親の視野拡大の必要性、学びの重要性を訴えている。著書は『勉強ができる子の育て方』『合格力コーチング』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『心の折れない子どもの育て方』(祥伝社)、『ママのイライラ言葉言い換え辞典』(扶桑社)など多数。
クロワール幼児教室
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