2024年07月01日 公開

子どものことを叱れない―私ってダメな親? 正しい伝え方とは

子どもの気持ちを尊重すればするほど難しく感じる「叱ること」。「叱る」を「伝える」に置き換えれば、子どもの気持ちを尊重しつつ、大切なことを伝えることができるようになるはずです。しかし、その「伝える」が難しいのですよね。今回の『新・家庭教育論 忙しい毎日の子育てコーチング』第35回は伝え上手になるための5つの工夫をご紹介します。

子どもの人生にレールを敷くのは違うと思う。子どもにガミガミ言うのも違うと思う。子どもの気持ちを尊重した子育てを願えば願うほど、もしかもすると「叱ること」が難しくなってしまうかもしれません。しかし、これって子どもの言いなりになっているということ?

「叱る」を「伝える」に置き換えれば、子どもの気持ちを尊重しつつ、大切なことを伝えることができるようになるはずです。しかし、その「伝える」が難しいのです。アイメッセージを利用する、決めつけない、語順を変える等の工夫を凝らし、上手な伝え手を目指していきましょう。

子どもの気持ちを大切にしたい!

「あ〜〜〜、可愛い」、「もう、〇〇ができるようになった」。乳児期の子育てには、睡眠不足はありつつも、子どもの成長を楽しめる機会が多いかもしれません。しかし、子どもの成長とともに、「可愛い」だけではすまない場面も出てきます。「やらせなければならないこと」、「時間に追われるようになること」が、子どもと社会との接点が増えるとともに増加、それらが子育てを難しくしていきます。

子どものことを叱れない―これって子どもの言いなり?

公共の場での子どもへの眼差しは、親としての自分への評価に感じてしまいます。例えば、公共交通機関での移動中、他人の目が気になるが故に、子どもの「〇〇が欲しい」を「今日だけね」と受け入れてしまうこと、ありますよね。しかし、「今日だけ」なんて、通用するわけもなく、子どもの要求は更に大きくなっていってしまいます。

子どもにはいつも笑顔でいてもらいたい。嫌な気持ちにはさせたくない。このような思いが強く出てしまうと、子どもの大泣きに屈してしまうこともありますよね。すると子どもは願いを叶えるために、「泣く」という最強のツールをさらに使いこなし、親困らせを加速させます。

こういった子どもの成長を見ながら、親は複雑な気持ちになってしまいます。これって、子どもの言いなりになっているということ?叱れない私って、ダメな親?

褒めることと叱ること。子どもを育むプロセスにおいては、いずれももちろん大切な行為ですが、子どもの気持ちやら、子ども主体やら考えていると、「叱ること」はとても難しい行為に感じてしまいます。

伝え上手になるための5つの工夫

このような難しさを感じている方は、「叱る」を「伝える」に置き換えてみてはどうでしょう。人生の基盤づくりでもある幼児期には、伝えてあげなければならないことが、沢山あります。社会のルールはもちろん、他者との関わり方や、自分の感情表現の仕方も、最初からできるわけではなく、気づかせてもらってできるようになるのです。人間は、社会的生き物です。子どものためにも、よくない行動をとったときには、「伝えてあげる」ことが必要です。

しかし、この「伝える」が、なかなか難しいのです。子どもの気持ちを尊重しつつ、伝えたいことを伝える。そのために役立つ5つのコツを紹介します。伝えたいメッセージが、より子どもに届きやすくなるはずです。

1、伝えたいことはIメッセージで

「静かにしなさい!どうして静かにできないの!」これらはYouを主語としたYouメッセージです。しかし、「どうしてって言われても…、できなかったからできなかったんだよ…」子どもの中には、こんな思いしか残らないかもしれません。

そこで役立つのが自分を主語としたIメッセージです。「お母さんは、あの場では静かにしていてもらいたかったんだ。なぜならね…」。すぐに静かにできるかどうかはさておき、静かにして欲しかったという親の気持ちは、理由とともに伝わります。子どもは自分なりに何かを考えることができるでしょう。その後に、対話が続くかもしれません。

2、伝えたいことは許可をとってから

「サボってないで、早くしなさい。寝るのが遅くなるでしょう!」。早く寝かせたいという親心はわかりますが、この言葉を受け取った子どもは、きっと嫌な気持ちになるはずです。なぜなら「サボっている」と決めつけられてしまったからです。

楽しい遊びに集中していたのかもしれません。疲れていたので休んでいたのかもしれません。一つの行為には、何か意味があるのです。それを親目線で「〇〇しているに違いない」と決めつけてしまうと、「もう聞きたくない」となってしまいます。
「疲れているのかな。それもわかるんだけど、お母さんの意見を言ってもいいかな?」
相手(子ども)に許可をとってから、自分の意見を伝えてみてはいかがでしょう。子どもの様子をよくみて、共感的な言葉を添えると、伝わり方は更に高まります。

3、言葉の順番を工夫する

「すごく頑張っているね。でも、もう少し丁寧にやって欲しいのよ」こう言われると、「もう少し丁寧にやってほしい」、つまり「まだまだだ」という意味が心に残りませんか?同じ内容ですが、次に語順を変えてみましょう。

「もう少し丁寧にできるかな。すごく頑張っているよね!」こうするとどうでしょう。前後を入れ替えただけですが、「頑張っているね」というメッセージが、心に残るのではないでしょうか。

人の心には、最後に言われた言葉が残るとか。最後にダメ出しの言葉を持ってくるのではなく、励ましの言葉や承認の言葉で終えてみると、受け取る側に伝えたいメッセージがより届きやすくなるはずです。

4、理解しているか確認しながら進める

セミナーや勉強会に出ている時、たまに意識がその場から離れていってしまうことがあります。知らない言葉が出てきた時、自分の理解が追いつかない時に、こんな気持ちになってしまいます。

わからないことが、わからないまま進んでいってしまうと、人の興味は薄れてしまいます。子どもに何かを伝える際には、理解できているか、確認を取りながら進めましょう。

くどくどとお説教を続けても、子どもの理解は追いつきません。伝えたいことは、できるだけシンプルにまとめます。そして、「〇〇ちゃんに伝わったことを教えてくれる?」等の質問を挟むと、共通理解をしながら、対話を進めていくことができるかもしれません。

5、例えを上手に利用

エピソードは人の心に刺さります。映像が思い浮かぶ様に話をすれば、更に伝わる力は大きくなります。
なかなか片付けをしない子どもに、「ちゃんと片付けなさい」と言ったところで、あまり効果はありませんよね。右から左へと、親の言葉は流れていってしまいます。例えを使ってみましょう。
「ある街でね、昔とっても犯罪が多かったらしいの。その街は、ゴミだらけで汚い街だったんだって。でもね、その街の市長さんが、皆で街を綺麗にしましょう!という提案をしたらしいの。そしたらね、街が綺麗になっただけでなく、犯罪も減ったらしいんだ。綺麗にするって大事なことだね」。子どもの心には、きっと何かが伝わるのではないでしょうか。

ご自分の経験してきたこと、本に書いてあったこと等、例えを利用してみると、伝わる力はぐんと増すはずです。

子どもを叱ることが大事なわけではありません。しかし、物事の良し悪しをまだ知らない子どもに「伝えてあげる」ことは、とても重要です。伝え方の工夫を取り入れ、「子どもの気持ちを尊重する」と「大切なことを伝える」の両立に向かっていきましょう。

■ライタープロフィール
江藤プロフィール写真
江藤真規
東京大学大学院教育学研究科博士課程修了 博士(教育学)
株式会社サイタコーディネーション代表
クロワール幼児教室主宰
アカデミックコーチング学会理事
公益財団法人 民際センター評議員
一般社団法人 小学校受験協会理事

自身の子どもたちの中学受験を通じ、コミュニケーションの大切さを実感し、コーチングの認定資格を習得。現在、講演、執筆活動などを通して、教育の転換期における家庭での親子コミュニケーションの重要性、母親の視野拡大の必要性、学びの重要性を訴えている。著書は『勉強ができる子の育て方』『合格力コーチング』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『心の折れない子どもの育て方』(祥伝社)、『ママのイライラ言葉言い換え辞典』(扶桑社)など多数。
クロワール幼児教室

■江藤さんへのインタビュー記事はこちら↓
イヤイヤ期の言葉がけはタイプ別に!江藤コーチの子育てアドバイス①
子どもをやる気にさせるほめ術は?江藤コーチの子育てアドバイス②
学力向上ために6歳までにやるべき6つのこと。江藤コーチの子育てアドバイス③

■江藤さんの著書紹介

\ 手軽な親子のふれあい時間を提案中 /

この記事のライター

江藤真規
江藤真規

サイタコーディネーション代表。サイタコーチングスクール、クロワール幼児教室主宰。一般社団法人 小学校受験協会理事。東京大学大学院教育学研究科博士課程修了 博士(教育学)。皆が「子育ち」を楽しめる社会を目指して、保護者さまのエンパワメントを行っています。社会が大きく変化する中、幼児期の子育てにも新しい視点が求められます。子育ての軸をしっかりと築き、主体的な子育てに向かうためにお役立ちとなる情報を、コーチングの考え方を基軸に配信いたします。HP:https://croire-youjikyousitu.com/