親も子も忙しい現代社会においては、前を見るばかりでなく、立ち止まり振り返り姿勢が大切です。振り返りとは、反省とは異なり、良かったことも悪かったことも含めた「経験」を客観的に見つめ直す行為のこと。事実を確認し、なぜそうなったのかを考える。そして、次はどうしたいか、子どもの気持ちを聞いてみる。こうすることで、子どもの視点は未来に動きます。
子育ての軸を持つために、一つの経験の価値を高めるために、振り返りを習慣化してみてはいかがでしょう。振り返りを日常に取り入れることで、やらねばならないことに縛られる人生が、納得感あるものに変わるはずです。
変化する子どもを取り巻く環境
子どもたちが育つ社会は大きく変わりました。子ども同士が公園で群れて遊ぶ光景など、ほとんど見られなくなりました。複数人の子ども達が集まっていても、各々が異なるゲームをやっていて、そこには子ども同士の関わりはありません。一緒に何かをするのではなく、「場を共有する」ことが今どきの子供の「一緒に遊ぶ」の定義のように感じます。
家族のあり方も変わりました。家族団らんの時間を確保できている家庭は、一体どのくらいあるでしょう。食事が終わったら、後片付け、お風呂に入って歯ブラシをして、明日の朝起きられるように、一刻も早く寝かせないと・・・ と、最近の子育て家庭はやらねばならないことで一日が埋め尽くされている様子です。親子共々、とても忙しい日々を過ごしているのが、現代の子育ての特徴です。
客観的視点を持つことの大切さ
多忙すぎる環境下では、人の思考は、「早くタスクを終えること」に向かっていってしまいます。深く考える経験も、一つの経験を味わう時間もなく、ただ、やらねばならないことだけに縛られてしまいます。自分がどこにいるのかの現在地も、どこに進むかの目的地さえ見えなくなり、ただ機械的に動かされているだけ。これでは子どもの心が育たなくなってしまいます。「頑張れ」という掛け声だけでは、やる気が出るはずもありません。
忙しい日々だからこそ、時に立ち止まり、振り返る姿勢は大切です。振り返りとは、自分自身を客観的に振り返ること。立ち止まり、自分の経験を外側から見つめ直し、どうだったのかを考える、理想とのギャップがあるなら改善策を考え、新たな行動へとつなげる行為が「振り返り」です。
客観的な視点を持つことで、目先のことだけに囚われていた視野は広がり、他者の立場になって考えることができるようになるでしょう。自分の感情のコントロールもできるようになるはずです。何より自分のことを知ることで、未来に向かって自分らしく、納得しながら進んでいくことができるようになるはずです。
「子どもと一緒に振り返り」をする3つのコツ
子育ての日常に、振り返る時間を組み込めば、ぶれない軸をもった子育てができるようになるでしょう。子どもと振り返りの習慣を持つのは、子どもの情緒的な安定・成長のために重要です。ここでは、子どもと一緒に「振り返り」をする3つのコツについてご紹介しましょう。
事実を確認する
「振り返り」と「反省」は同義ではありません。反省の主な目的が、「誤り」を正すことであるのに対し、振り返りとは、事実を確認することを意味します。過
去を振り返る際にありがちなのが「反省」ですが、上手くいった経験も、うまく行かなかった経験も振り返ること、つまり事実を確認することが大切です。
例えば夜寝る前に、
「今日は一日どうだった?一番楽しかったことを教えてくれる?」
こんな問いがあれば、よかったことを振り返ることができます。
上手く行かなかった経験は、幼少期の子ども相手なら、その場で振り返ることがおすすめです。
「難しいね、頑張っているけどうまくいかないね」という具合です。
私たちは事実に解釈を加えながら生きています。振り返りの時間とは、解釈を取り払い、事実を客観的に見つめる時間ということです。
環境要因に目を向ける
上手くいった経験にも、うまくいかなかった経験にも、背景となる環境があります。その環境要因に目を向けることで、上手に振り返りができるようになります。
「〇〇ちゃんと喧嘩になってしまったのはどんな理由からだろう」
喧嘩とは、ちょっとしたコミュニケーションの掛け違いで起きてしまうもの。その背景に気づくことで、人間関係を回復させることができるはずです。
うまくいった経験も、環境要因に目を向けて振り返ってみましょう。「今日は早くお布団に入れたね、何を頑張ったのかな」という具合です。環境に目を向けること、今後どのように行動をしていけばいいかが分かり、再現することができるようになります。
自分はどうしたいかを考える
振り返りの際に、次はどうしたいか、子どもの気持ちをセットで聞いてみるのもおすすめです。
「次はどうしようか」
客観視が終わったら、子どもの気持ちを聞いてみましょう。ここで自分の気持ちや意志を言語化できれば、次なる行動が始まるはずです。
「明日〇〇ちゃんに会ったら何て言おうか」
「明日の夜は何時に寝ようか」
目的があれば、人は前に進めます。しかし、幼少期の子どもは、未来の目標を考えることができません。ですから、今の客観視からスタートして、どうしたいかを考える。未来志向型マインドを持つために有効です。
振り返りから得られる成果
最後に、振り返りから得られる3つの成果をまとめます。
自分で気づく
「気づきが得られた」「気づきを与えられた」等、よく使われる「気づき」という言葉。誰かから教えてもらうのではなく、自分で気づく行為のことを意味します。自分と向き合う経験の中で、人は「気づき」を得ていきます。誰かからの指示命令より、前向きな気持ちを生み出します。行動をおこすためには、とても重要な経験です。
経験の意味づけができる
ためになった、楽しかった 、私たちは「経験」に対して、自分なりに意味付けを…しています。自分の経験を振り返り、そこに言葉を付すいとなみは、言うなら一つの経験に「意味づけ」をしているということ。良かった、緊張した、頑張った、残念だった、悲しい気持ちになった等、振り返りは経験の意味づけに繋がります。…
意味づけされた経験には、再現性が伴います。同じ場面に立った時に、「あの時はこう切り抜けたから今回もそうしよう」「あの時はこうして、周囲に喜んでもらったから次もそうしよう」等、思考しながら自分の行動を決めていくことができるということです。
未来志向になる
視点が未来に移り、未来志向になるも、振り返りの大きな成果です。振り返ること、つまり過去を見る行為は、これからのあり方へと視点を動かします。「将来はどうしたいの」「どんな夢を持っているの」と無理やり未来のことを聞いても、子どもはイメージすることはできません。しかし、一つの経験を振り返り、次はどうしてみたいか、と子どもの気持ちを聴くことは、未来に目を向けるきっかけとなるはずです。
振り返りは習慣化することがおすすめです。ご自身の日常の振り返りなら、お風呂に
入った時、夜寝る前等がよいでしょう。節目節目で、ノートとペンを用意して振り返りをするのもおすすめです。お子さんとの振り返りは、是非楽しみながら行ってみてくださいね。今を知ることが、きっと未来につながるはずです。
■ライタープロフィール
江藤真規
東京大学大学院教育学研究科博士課程修了 博士(教育学)
株式会社サイタコーディネーション代表
クロワール幼児教室主宰
アカデミックコーチング学会理事
公益財団法人 民際センター評議員
自身の子どもたちの中学受験を通じ、コミュニケーションの大切さを実感し、コーチングの認定資格を習得。現在、講演、執筆活動などを通して、教育の転換期における家庭での親子コミュニケーションの重要性、母親の視野拡大の必要性、学びの重要性を訴えている。著書は『勉強ができる子の育て方』『合格力コーチング』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『心の折れない子どもの育て方』(祥伝社)、『ママのイライラ言葉言い換え辞典』(扶桑社)など多数。
クロワール幼児教室
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