イギリスの幼稚園と小学校の先生方が採用している子どもへの対応には、家庭のしつけにも取り入れられそうな考え方・メソッドがいっぱい。ネガティブなことよりポジティブなことに重点を置くイギリス式育児を現地からご紹介します!
イギリスの幼稚園では、どんな方法をとっている?
マナーが重要視されるイギリスの学校の教育方法として有名なのが、「Time Out(タイムアウト)」や「Naughty corner(ノーティー・コーナー)」。
タイムアウトは5分間など時間を決めて、その場を離れさせて他の場所に行かせる罰則のこと。
ノーティー・コーナー(いたずらっ子・コーナー)は”Thinking chair”や”Naughty chair”とも呼ばれ、反省スポットや反省椅子を意味し、注意に従わないと、そこに連れて行くと予告。ルールを守らなければそこで一定時間を過ごさせる方法です。
でも、今回お話を伺った幼稚園ではこのような方法はとっていません。その代わりに、何か好ましくない行動やできごとが起こったら、そういうときにはどんな対応をすべきなのかを先生が「お手本」になって例を見せるようにしています。
子ども同士の物の取り合いや喧嘩の対処は?
例えば子ども2人が物を取り合って喧嘩をしていて、そのうちの1人(A)が、もう1人(B)を叩いたとします。先生は、声をかけて喧嘩を一時停止させ、2人の間に中腰になって座ります。目線を子どもの高さに合わせて、圧迫感を感じさせないようにするためです。
そして先生は、まず最初に叩かれた子ども(B)の方を向き、「痛かったね」「叩いてごめんね」など声をかけます。こうやって、叩いたAがすべき(だった)行動のお手本を見せるのです。
このとき、叩いた子ども(A)に「ごめんねは?」「謝りなさい」などは言いません。仮にここで「謝りなさい」と強制的に言わせても、どうして謝らないといけないかという理由より、「ごめん」と言う行動をしなければならないということに意識がいってしまうのだそうです。
それよりも、相手の気持ちを考え、「痛かったね。ごめんね」と先生が対応しているのを「見て」、本当は自分がどうするべきだったのかを客観的に学ぶことを目的としています。
この方法は、未就学の年齢までのお子さんがいるご家庭でも、比較的取り入れやすいのではないでしょうか。
なかには大人の気を引きたくて問題行動をする子どもも
友人を叩いてしまった子ども(A)に、先に注意をしたり話しかけたりしない点にも理由があります。
Aが叩いた原因は、もしかしたら思わず手が出てしまったというだけかもしれません。ですが、園では先生の数より子どもの数のほうが圧倒的に多いので、寂しい気持ちから先生の注意を引きたくて、いたずらや暴力的な行動をとってしまう子もいます。
幼い子どもの中には、年齢的に良い行動・悪い行動がまだよく理解できず、どんな形でも先生に関わってもらうと「先生にかまってもらえた」ということに満足してしまうケースもあるのだとか。
こういったネガティブ・アテンション(好ましくない行動で得た注目)を避けるために、AよりもBに先に声をかけるのだそうです。
「あ、あぶないっ!」危険な行動に有効な声かけは?
高いところ・不安定な場所に登ろうとしている、尖ったものをもって走り回っているなど、危険な行為をしている子どもを見つけたら、「NO!」(ダメ)の代わりに「STOP!」(止まって)と具体的な言葉をかけて、一旦その行動を止めさせます。
そして安全を確保してから、短くわかりやすい言葉で説明します。例えば「机の上に立ったらあぶないよ。降りようね」などです。
その1回では理解できないかもしれません。何度か同じことを繰り返す子どももいます。ですが「怒られたのが怖くて降りる」では、「不安定な場所に登ると危ない」という本来の意味が伝わりません。
反対にびっくりして、落ちて怪我をするという事故を起こさないためにも、一度その行動をストップさせて落ち着いてから、理由を繰り返し教える方法が有効だということです。
「どうしてかな?」子ども自身に考えさせよう
行動をしてはいけない理由を教えるのに効果的な方法が他にも。それは「子どもに質問をして、自分で考えさせる」ことです。
例えば危険な場所に登っている子どもに、「高いところに登っちゃだめよ!」と一方的に注意するのではなく、
先生「ここに登ったら危ないよ。どうしてかな?」(必要であればヒントを出しながら)
子ども「ぐらぐらしてる」
先生「そうだね。ぐらぐらしてるね。落ちたらどうなるかな?」
子ども「落ちたら痛いから、登らない!」
先生「そうだね」
といったやり取りで自分で考えさせ、理解させる方法です。
室内で走り回って危険なときは、
先生「ここで走り回るとあぶないよ。どうしてかな?」
子ども「みんなにぶつかっちゃう」
先生「うん。ぶつかるかもしれないね。他には何がこまるかな?」(状況を想像する練習をさせる)
子ども「おもちゃを踏んじゃうかも」
先生「おもちゃが壊れたら悲しいね。じゃあ、どこでなら走っていいかな?」
子ども「お外で走ってもいいよ」
ポイントは、子どもにどんな危険の可能性があったか、どうして困るのかを想像させることです。過去に注意したことを思い出しつつ、その解決策を見つけるトレーニングを繰り返すことで、子どもが次回から自分自身で気をつけられることを目指します。
ゴールデン・ルールを決めよう!
この幼稚園では子どもたちが守るべき「5つのゴールデン・ルール」を決めています。
1.シェアをする(順番を守って、みんなで仲良く使う)
2.親切にする
3.人の話を聞く
4.室内では歩く
5.お片付けをする
この5つをモデルに、各家庭の方針に合わせたルールをお子さまと一緒に考えて決めてもいいですね。数も5つが多すぎるならば3つなど、思い出しやすく守りやすい数で構いません。逆に多すぎると、ルールに意識を向けるのが大変になるので、幼稚園生ぐらいの年齢なら5つまでがおすすめです。
イギリスの小学校では「ロケット&スター」を採用!
次に、小学校の先生に話を伺いました。この小学校では「褒める・叱る」に加えて、その原因となった行動を子どもたちが視覚的に理解できるように、低学年には「ロケット&スター」という表を採用しています。
ポスター大の紙に、真ん中にロケット、その上に複数のスター(星)、ロケットの下には雲の絵を描きます。クラス全員の顔写真を証明写真程の大きさに切って、まずはロケットの上に貼ります(貼ったりはがしたりできるように、裏にマグネットシートや粘着シールなどがついています)。
みんなのお手本になるような善い行いをした子どもがいれば、その場で「みんな注目!」と声をかけ、意識を向けさせてから、クラス全員の前でその子どもを褒めます。そして、その子どもは自分の顔写真を、ロケットからスターの上に移動させます。スターにはそれぞれ「親切だった」「頑張った」などの意味があるので、褒められた理由のところに貼ります。
逆に、何か好ましくない行動をした場合は、ロケットの下にある雲の上へ、顔写真を移動しなければなりません。
注目すべきは、ポジティブな行いをした子ども!
ただし、ネガティブな態度を取る子どもに目を向けて注意をするのではなく、なるべくポジティブで善い行いをした子どもたちに注目をして、クラス全体のモチベーションをあげるような言葉がけを心がけているとのこと。
たとえば、クラス全体がザワザワと騒がしくなって、話を聞かなくなってきたら「静かに!」「話を聞きなさい!」と言いません。ちゃんと前を見て話を聞いている子をピックアップし、「おっ!みんな見て、〇〇はえらいね。ちゃんと静かに話を聞いてるわ!」と褒めると、不思議と他の子どもも真似して静かに話を聞く姿勢に戻るそうです。
小学校中学年以降は「ごめんの手紙」で今後の解決策を考える訓練を
子ども同士が喧嘩をした場合の対処方法を聞いたところ、話を聞いた小学校の中学年以降では、”Sorry Letter”(ごめんねの手紙)を書かせるそうです。
どちらかが明らかに原因であれば、原因となった子から手紙を。もし両者ともに非があればお互いに手紙を書いて交換します。
この手紙は単に「ごめんね」といった謝罪文ではなく、「どうして、そうしてしまったのか(例:叩いた理由)」「どんな気持ちだったのか」「どうすれば良かったのか(例:叩かずに、気持ちを口で伝える)」という内容を含みます。
こうすることで、喧嘩の原因や怒りの気持ちを客観的に分析して、次回の解決策を考えるトレーニングになるそうです。
幼稚園・小学校教育で社会性や理解する力を育む
幼稚園・小学校の年齢といえば、まだまだ感情をコントロールするのが難しいお年頃。今回お話を伺ったどちらの教育施設でも「冷静になって、相手の気持ちを理解する力」を育み、次回からどういった行動をとればいいのかという、「社会生活の中の1人として責任ある行動をとれる訓練」を幼少期から行っている印象を受けました。
今回はイギリスの幼稚園と小学校で行われている方法をご紹介しましたが、家庭でも試せそうな内容です。言葉がけや家族間の人間関係の築き方などに、ぜひ取り入れてみてくださいね。
在英13年目の2時の母、ライター兼イラストレーター。武蔵野美大卒。現在は英国で日本語教育・日本語子ども会活動にも従事。海外生活・育児経験を活かした記事を執筆中。