大学の教職課程・保育士資格などで学ぶピアジェの思考発達段階説は、一般のパパママにも役立つ発達心理理論です。子どもの発達段階を普遍的な4順序で示した考え方を知れば、幼児期の子育ての不安・疑問を減らせるかもしれません。ピアジェが提唱する発達段階をご紹介します。
心理学者「ジャン・ピアジェ」とは
ジャン・ピアジェ(Jean Piaget)はスイスの発達心理学者・児童心理学者で、20世紀の心理学の進歩に大きく貢献しました。1896年8月9日にスイス・ヌーシャテルに生まれたピアジェ。父はヌーシャテル大学の中世文献学の教授、母は信仰に厚いプロテスタントです。早熟で研究熱心な子どもだった彼は10歳で白スズメの観察を論文にまとめ、「ヌーシャテル博物学雑誌」に発表しました。
19歳でヌーシャテル大学動物学科を卒業すると、ローザンヌ大学・チューリッヒ大学・パリ大学で心理学を学びます。その後、各地の大学で心理学・児童心理学の教鞭を取り、1980年に亡くなるまで精力的に研究を続けました。
私生活では1923年に結婚し、3人の子どもに恵まれています。ピアジェにとって、子どもたちの心身・知能の発達の観察も重要な研究材料だったようです。
ピアジェの「認知発達理論」とは
ピアジェによって提唱された「認知発達理論」(または「発生的認識論(genetic epistemology)」)は、心理学のみならず教育学・哲学・生物学の分野にも影響を与えました。認知発達理論は人の知能・心理の発達を「生物的な成長」と「成長過程の中で知識・経験を重ねたことによる成長」の両面から考察したもの。
認知発達理論では、認知力の成長を4つの段階に分けて考えます。これが認知発達段階説です。認知発達段階説において、0歳~12歳の子どもの認知力(知覚・記憶力・推理力・記憶力・言語能力など)の成長順序は、個人差はあるものの普遍的なものだとしました。
この考え方はフロイト(Sigmund Freud)の「リビドー発達段階理論」、エリクソン( Erik Homburger Erikson)の「心理社会的発達理論」と並んで3大発達段階説とされています。ピアジェの考えた4つの発達段階は「子どもによって個人差はあっても、普遍的な順序で経験していく」というもの。それぞれの発達段階を学ぶことで、子どもの成長に合わせた適切な接し方が見えてくるはずです。
人の学習段階「シェマ」について
ピアジェは人が生まれてからいろいろなものを認知し、学んでいく過程を「シェマ」「同化」「調節」の3段階に分けました。シェマ・同化・調節を「子どもに鉛筆を認知させる場合」に当てはめて考えてみましょう。
2歳児に黒鉛筆・色鉛筆・長さの違うものを組み合わせた数本の鉛筆セットを見せて、「これは鉛筆だよ」と教えます。すると子どもは色・長さが違うけれど共通点を見つけ「これらは鉛筆なのだ」と認識します。これが「シェマ」です。
次にボールペン・シャープペンシルを見せます。子どもが「これも鉛筆でしょ」と言った場合、一度見た鉛筆から得た知識から「鉛筆っぽい」と予想したわけです。このようにシェマをほかのものと見込んで考えることを「同化」と呼びます。
その後「違うよ。これはボールペン、こちらはシャープペンシルだよ」と教えることで、子どもは鉛筆・ボールペン・シャープペンシルをそれぞれ別のものとして認識します。これが「調節」です。
感覚運動期(0歳~2歳)
0歳~2歳の乳幼児期をピアジェは「感覚運動期」としました。生後1カ月くらいまでは反射的な行動(モロー反応・吸てつ反応など)を使って外界と接触を持ち、シェマの土台を持ち始めます。自分と他者の区別はありません。
成長とともに自らの体を動かし、五感の刺激を求めシェマ・同化・調節を繰り返します。周囲の人の声かけ・お世話・スキンシップで「他者と自分を区別」「ものの形・役割」「物事を予測する」ことを覚えていくのです。この時期は以下の3つの認知機能が発達します。
1.循環反応
「足・指しゃぶり」「ガラガラを振り続ける」「同じおもちゃを何度もベッドから落とす」など、同じことを繰り返し行い、自分の身体・ものの存在を確かめます。
2.対象物の永続性
生まれてすぐの赤ちゃんは、パパママが物かげに隠れると「消えてしまった」と認識して泣きます。しかし1歳を過ぎると「隠れているだけ」だと理解が可能に。人・ものが目の前から見えなくなっても、状況に応じて「存在を予測」できるようになります。
3.シンボル機能
物事を象徴的に捉え、認識できる機能です。猫のぬいぐるみと写真の猫を見て「どちらも猫だ」と分かります。
前操作期(2歳~7歳)
言語機能・運動機能ともに発達が著しい前操作期は、物事を自分のイメージを使って区別して認識できるようになります。創造力・想像力を使った「ごっこ遊び」を盛んに行う時期です。論理的思考力・共感力などは未発達な場合が多く、自己中心的な思考・行動パターンになります。この時期には3つの特徴が見られるでしょう。
1.自己中心性(中心化)
「世界の中心は私!」という自己中心的な考え方は幼児・児童に多いもの。自分から見た視点でしか物事を考えられず、他者の気持ちを思いやることが難しい時期です。自分の行動・言動を振り返り、反省することができません。
2.保存性の未発達
論理的思考ができないため「ものの形状が変化しても、量・性質は変わらないこと」の理解も困難です。たとえば、子どもの前におはじきを2列に等間隔に並べます。1列は10個にして、その際にどちらの列も10個おはじきがあることを確認させたとしましょう。
そのまま片方のおはじきの間隔を広げて、列が長くなるようにします。このとき「2列のおはじきの数は同じ?それともどっちかが多い?」と質問すると、前操作期前期の子どもの場合「間隔を広げた列のおはじきが多い」と答えるケースが多いようです。
3.アミニズム的嗜好
もの・事柄に命・意思があるように擬人化する傾向のことです。ぬいぐるみはもちろん、食器・家具・食べ物に話しかけたり、それを使ってひとり芝居をする様子が見られます。
具体的操作期(7~11歳)
論理的思考力が発達し、相手の気持ちを考えて発言・行動できるようになります。数的概念が理解できるようになり、重さ・長さ・距離など比較も可能になるでしょう。もの・事柄の擬人化は徐々に減っていきます。この時期の特徴は以下の2つです。
1.保存性の習得
前操作期はおはじきの例のように、「物事の本質」を論理的に考えることができませんでした。しかし具体的操作期になると、見た目に惑わされることはなくなります。「おはじきの列の間隔を空けても、数は変わらない」「5リットルの水はどんな形の容器に入れても5リットル。3本の瓶に分けて入れても総量は5リットル」などと認識できるようになります。
2.脱自己中心性
自己中心的な考え方から脱却し始めます。コミュニケーション能力が発達し、共感力が育つことで他人の立場に立ったものの考え方ができるようになるでしょう。
脱自己中心性の発達度を測るテストに「3つの山の問題」があります。特徴の違う3つの山の模型を見せ、それぞれ違う位置に立った場合の景色の見え方を問うテストです。これは「子どもの空間認知能力の発達」を確認するもので、ピアジェと発達心理学者インヘルダーが考案しました。
形式的操作期(11歳〜)
物事に筋道を立て、予測しながら考える論理的思考のほかに、抽象的思考ができるようになります。抽象的思考とは、具体的な事象・時間の流れに捉われずに「物事を広い視点で考える」ことです。自分で実際に体験したものではなくても、説明・映像などから具体的なイメージを描くことができます。
今までの知識・経験を応用して仮説を立て、結果を予測して行動・発言することも増えるでしょう。
ピアジェの発達段階を学んで子どもの成長を見守ろう
ピアジェの4つの発達段階を見ると、子どもへの接し方・しつけ方のポイントは各時期によってまったく違うことが分かります。0歳~2歳の感覚運動期は、「周囲の人からの働きかけ」が非常に重要だとわかるはず。数字・文字などを暗記させて知識を増やすよりも、以下のようなことが心身の発達を促します。
・自由に運動させること
・声掛け・スキンシップ
またこの時期は反省ができない時期でもあるので、繰り返しいたずら・失敗をします。長々と叱ることはせず、その都度短く「良い・悪い」だけを教えたほうが良いでしょう。
前操作期にあたる2歳~7歳は、幼児から小学生に成長する時期です。言語能力も発達し、親が叱ると口答えすることも増えるかもしれません。自己中心性が強く、兄弟・友達とのけんかも起きやすくなります。つい感情的に怒りたくなりますが、努めて静かに「子どもの言い分」を聞くことからはじめましょう。その後に悪かった点を伝え、必要な場合は謝罪をさせます。
このように過ちを整理して認識させることが、具体的操作期(7~11歳)と形式的操作期(11歳〜)の論理的思考・抽象的思考を育みます。
さらにピアジェの理論を学びたい方へ
さらにピアジェ理論を学びたい方はぜひ読んでみてください。
「できないこと」を知り余裕を持った育児を
乳幼児期に読み・書き・計算の学習を行い、小学校入学前に基礎学力を固めておきたいパパママは多いでしょう。その際は「その子の発達段階に合った学習内容」で行います。保存性の未発達な前操作期(2歳~7歳)は数・量の大小・多少を「見た目でのみ」判断しがちです。
小学校の先取り学習の算数ドリルには、先に述べた「2列のおはじき」のような問題もありますが、分からなくても大丈夫。たとえほかの子が理解できていても、焦る必要はありません。発達段階とは、子どもによって個人差はあっても普遍的な順序で経験していくものなのです。
お子さまが生まれたばかりの頃は「立った」「歩いた」など、「できたこと」に対して喜び感じていたのではないでしょうか。それが年齢を追うごとに、ほかの子と比べて「できないこと」を見つけるようになってしまうのは悲しいことです。その子の成長段階に合わせた向き合い方で、余裕を持った子育てを楽しんでみてください。
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