学問と武道、両方にすぐれた能力があるという意味の「文武両道」。文武両道に秀でることは、日本においては良いこととされていますが、日本以外の国ではどうなのでしょうか。イギリスの教育、社会の価値観と共に、考えてみたいと思います。
イギリスにも文武両道の考えがある?
実のところ、イギリス人はあまり「文武両道である/になる」ということを、特に気に留めていないようなのです。それは、なぜでしょうか。
これは、意識の違いにあるようです。まず「文武両道という考えや、それを目指すことを理想とする考えがイギリスにはありますか?」と多くのイギリス人に質問しても、ほとんどの人が「特にそういった考えはない」と答えます。
続いて「だって、勉強ができる人ってスポーツも両方できる人が多いでしょう?目指すというよりも、なんというか……それがすでにスタンダードなんです」といった答えも……。
つまり、文武両道であるようにと、特段取り立て意識して取り組むというよりは、勉学もスポーツも、どちらも取り組むことがすでに基本としてあり、意識や生活に根づいているという感覚なのです。
では、イギリスで勉強ができる人は、必ずスポーツも上手にでき、どちらも良い成績を残せるのでしょうか。
よくよくイギリス人に話を聞くと、良い成績を残せたということが「できる人」という認識ではないようなのです。もちろん、文武どちらの成績も良いに越したことはありませんが、それよりも、どちらもバランスよく「取り組む」ことが良しとされるようです。それが先に述べた、勉強もスポーツも「どちらも両方できる」こととして、認識・評価につながります。
部活がないってほんと?スポーツは推奨しないの?
そのスポーツクラブと日本の部活との違いは、日本の部活のように、一つのスポーツ・競技に集中して、毎日・何年も練習をするというスタイルではないという点です。
曜日ごとに違うスポーツが行われていて、興味があるものに申し込んで参加します。ですから希望であれば、月曜日はフットボール、火曜日はジムナスティック(体操)、水曜日はテニス、木曜日は何もなし(帰宅)、金曜日はラグビーというような、いろいろな活動をこなすことも可能なのです。さらに行われるスポーツは、季節や学期によっても変わります。
つまり、日本の部活とは違ったシステムで、イギリスの学校にも放課後のスポーツ活動があり、それを通して生徒たちがさまざまなスポーツを経験をできるように、放課後のスポーツ活動を推奨しているといえます。
スポーツができると進学や就職に有利?
GCSEやAレベルと呼ばれる特定の年齢で受ける、全国統一の学力証明試験の結果が非常に重要であり、どんなにスポーツの成績が良くても、学力が備わっていなければ進学することはできないのです。
とはいえ、「スポーツは何の得にもならないのか?」といえば、そういうわけではなく、大会の成績、保持するレベルによっては、UCASポイントというものがもらえます。
そのポイントが高いほど、大学の入試に有利になるので、学校以外で活動して得たスポーツの成績なども、ここで活かすことができます(UCASポイントはスポーツだけでなく、音楽関連の成績やレベル、特技やボランティア活動、その他資格でも加算されます)。
普段の成績に加えて、スポーツを頑張っておくということは進学に有利につながります。また就職の際、CV(履歴書)には、自分の頑張ったことや特技をどんどん書いてアピールするのがイギリス流。
スポーツの成績のみならず、そこから学んだ忍耐力やチームワークなど、アピールポイントとして書くことができますから、就職にもプラスになります。
人気のスポーツ関連の習いごとは?
赤ちゃんの頃からミュージックグループに通ったり、3歳以下で親子スイミングというのも珍しくありません。幼稚園~小学校くらいの年齢で人気があるスポーツ系の習い事は、男女ともにスイミングが圧倒的。
男女別では、女の子はバレエやジムナスティック、男の子はサッカー、空手などが人気です。年齢が上がると、乗馬、カヌー・カヤック、ラグビーなど、イギリスらしい、なかなかユニークな習い事も増えてきます。
たとえば、上流階級がポロや乗馬等、中産階級以上がクリケット、ラグビー、テニス等、労働者階級がフットボール(サッカー)という感じです。
きっちり分かれていて、他の階級に属するスポーツをしてはいけないというわけではありませんが、やはり階級が上の方のスポーツだと、費用が多めにかかることが多く、継続させるには親の経済力が関係してくることは否めません。
イギリスで一番多いのは中産階級ですが、中産階級といっても幅が広いので、その中でも裕福な家庭とそうでない家庭では、習い事やその通わせ方、親の熱心さも変わってきます。
また、親のバックグラウンドが高いほど、その親自身も成長過程でしっかりとした高い教育を受け、かつ習い事などの経験も豊富であることが多いので、その子どもにも同じような環境を与えようとする傾向があるようです。
子どものやる気と親のサポートで左右されます
子どもが得意だったり、好きと思える学習科目・スポーツをそれぞれ伸ばして、子どもの可能性を広げていこうとする考えは、文化は違えど日本もイギリスも共通しているといえるのではないでしょうか。