長期休み(特に夏休み)明けに登校を渋るお子さまは多いかと思います。
勉強が面倒くさい、苦手な子(先生)と会いたくない・・・などの理由は大人から見ると、些細で、怠けているように感じるかもしれません。
しかし、学校は子どもにとって価値観や自己肯定感を左右するもの。勉強のつまずきや、人間関係の問題は大人が思う以上に深刻にとらえています。
学校に行きたがらない=お子さまの悩みにじっくり向き合うチャンス。
怠けていると一蹴せずに、親御さんが「なぜ行きたくないのか」をじっくり聞いてあげることで、お子さまの心が整理されることも多いです。
「人間関係・勉強の悩み」がクローズアップされやすい長期休み
長期休み、特に夏休み開けは「学校に行きたくない!」と感じる子が増える時期です。
宿題や習い事はあれど、自由にリラックスして過ごせる休み期間。学校生活での悩みや不満に向き合う時間があるので、「嫌な、苦手なこと(人)」を強く意識してしまいがちです。
また、長期休み期間は生活リズムが乱れたり、家庭学習習慣が途切れたりしやすいもの。ルーズな生活に慣れてしまうと、休み明けに規則正しい生活に戻ることが苦痛に感じます。
家族に囲まれ、苦手な人と接触が少なく、自由時間の多い休み・・・からの学校生活スタートは、お子さまによってはかなりのストレスを感じるでしょう。
学校生活に悩みがあるのは当たり前
社会規範や基礎学力を身につけるために通う小学校では、制約が多く、何事も個人の自由にならないのが常。また心身ともに発達段階の児童が集まっていれば、人間関係のもめごとは不可避です。多くの子どもが学校生活に何らかの不満やトラブルを抱えているのは、至極当然でしょう。
お子さまが、休み明けに「学校に行きたくない」と言い出したら、まず話を聴きましょう。「学校に行きたくない」と親御さんに伝えることは、子どもにとって勇気がいることです。甘え、怠けと決めつけて、叱るのはNG。
「学校に行きたくないんだね。何が嫌なの?」と、行きたくない気持ちを受け止めた上で、理由を聞き出しましょう。
小学校中学年以上で、自分から話したがらない場合は、「いつでも話を聞くから、話したくなったら教えて。」などと伝えて、親が気持ちを受け止める意思を見せましょう。
近年の不登校児童生徒数と不登校事由
平成24年度から9年連続の増加となっている不登校児童生徒数。
文部科学省の発表した令和3年度の小中学生の不登校人数は244,940人で、前年度の196,127人より48,813人の増加です。前年比24.8%の増加で、令和元年から令和2年の増加比8.1%と比較すると急激な増加と言えます。
コロナ禍による学級閉鎖、長期休校、行動制限によって、友人関係、生活環境学習環境に変化が生じたことも、不登校児童生徒数増加の要因でしょう。
文部科学省の令和2年度不登校児童生徒の実態調査(調査への協力が可能な学校に通う、小学6年生と中学2年生とその保護者対象)では、「最初に行きづらいと感じたきっかけ」は体調不良、先生、勉強、友達に関する回答が多かったです。
※文部科学省が定義する不登校児童とは”何らかの心理的、情緒的、身体的あるいは社会的要因・背景により登校しないあるいはしたくともできない状況にあるために年間30日以上欠席した者のうち、病気や経済的理由による者を除いたもの”です。
【小学6年生】学校に行きづらくなったきっかけ
【小学6年生】最初に行きづらいと感じ始めたきっかけ | |
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第1位 | 先 生 の こ と (先 生 と 合 わ な か った 、 先 生 が 怖 か った 、体 罰 が あ った な ど ) 29.7% |
第2位 | 身 体 の 不 調 (学 校 に 行 こ う と す る と お な か が 痛 く な った な ど ) 26.5% |
第3位 | 生 活 リ ズ ム の 乱 れ (朝 起 き ら れ な か った な ど) 25.7% |
第4位 | き っか け が 何 か 自 分 で も よ く わ か ら ない 25.5% |
第5位 | 友 達 の こ と 1(い や が ら せ や い じ め が あ った) 25.2% |
第6位 | 勉 強 が 分 か ら な い (授 業 が お も し ろ く な か った 、成 績 が よ く な か った 、 テ ス ト の 点 が よ く な か った な ど ) 22.0% |
第7位 | 友 達 の こ と (1 .以 外 ) 21.7% |
第8位 | イ ン タ ー ネ ッ ト 、ゲ ー ム 、動 画 視 聴 、 S N S (LINE や ツ イ ッ タ ー な ど )な ど の 影 響 (一 度 始 め る と 止 め ら れ な か っ た 、学 校 に 行 く よ り 楽 し か った な ど 18.1% |
第9位 | な ぜ 学 校 に 行 か な く て は な ら な い の か が 理 解 で き ず 、行 か な く て も い い と 思った 13.6% |
第10位 | 1 ~ 7 以 外 の 理 由 で 学 校 生 活 と 合 わ な か った 13.3% |
【中学2年生】学校に行きづらくなったきっかけ
【中学2年生】最初に行きづらいと感じ始めたきっかけ | |
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第1位 | 身 体 の 不 調 (学 校 に 行 こ う と す る と お な か が 痛 く な った な ど ) 32.6% |
第2位 | 勉 強 が 分 か ら な い (授 業 が お も し ろ く な か った 、成 績 が よ く な か った 、 テ ス ト の 点 が よ く な か った な ど) 27.6% |
第3位 | 先 生 の こ と (先 生 と 合 わ な か った 、 先 生 が 怖 か った 、体 罰 が あ った など) 27.5% |
第4位 | 友 達 の こ と (1 .以 外 ) 25.6% |
第5位 | 友 達 の こ と1 (い や が ら せ や い じ め が あ った) 25.5% |
第5位 | 生 活 リ ズ ム の 乱 れ (朝 起 き ら れ な か ったなど) 25.5% |
第7位 | き っか け が 何 か 自 分 で も よ く わ か ら ない 22.9% |
第8位 | イ ン タ ー ネ ッ ト 、ゲ ー ム 、動 画 視 聴 、 S N S (LINE や ツ イ ッ タ ー な ど )な ど の 影 響 (一 度 始 め る と 止 め ら れ な か っ た 、学 校 に 行 く よ り 楽 し か った な ど) 17.3% |
第9位 | な ぜ 学 校 に 行 か な く て は な ら な い の か が 理 解 で き ず 、行 か な く て も い い と 思った 14.6% |
第10位 | 部 活 動 の 問 題 (部 活 動 に 合 わ な か っ た 、同 じ 部 活 の 友 達 と う ま く い か な か った 、試 合 に 出 場 で き な か った 、部 活 動 に 行 き た く な か った な ど ) 13.3% |
登校を嫌がったら「理由を聴き、受け止める」
「学校始まるの嫌だなあ。」
「なんで学校に行かなくちゃ行けないの?家で勉強してたい。」
「2学期から学校もう行かない!」
など、
長期休みの終わりが近づくにつれ、学校を嫌がる発言が増えてきたら、「学校が嫌な理由」を問いかけて、話を聴いてあげましょう。
「朝早起きするのが辛い。」
「夏休みの宿題が終わっていないから、先生に怒られるのが恐い。」
「算数の授業についていけてないのが恥ずかしい。」
「担任の○○先生から、ノートの書き方でいつも注意されるから。」
「部活の先輩が気分屋で疲れる。」
「クラス○○さんが苦手。いつも僕(私)にだけあたりがキツイ。」
など、さまざまな理由があるでしょう。
親御さんからすれば甘えや、努力不足と思える理由でも、黙って聴いて受け止めることが大切。
生活・勉強・人間関係の不満を遮らず、聴くように努めます。
親御さんが「辛い気持ち」を受け止める、寄り添うことで、お子さまは安心し、気持ちに整理がつきます。
親御さんに話した内容だけが、「学校に行きたくない理由」とは限りません。複数の理由が重なっている、言いづらいから隠している、ということもあります。
無理に聞き出すのではなく、まずは「学校に行きたくない辛い気持ち」を吐き出させてあげることが、子どもの本音に近づく第一歩です。
中学校教諭・特別支援教育士・上級教育カウンセラー下島かほる監修の、不登校親子のための教科書『登校しぶり・不登校の子に親ができること』では、子どもが話しやすい状況を作ることの重要性が述べられています。
踏み込むといっても、「なにがあったか」を明らかにすることが重要なわけではありません。大切なのは、自分の気持ちを言葉で表現できるようになることです。それができれば、「学校に行かない」という方法が唯一の解決策ではなくなる可能性があります。
引用:中学校教諭・特別支援教育士・上級教育カウンセラー下島かほる監修『登校しぶり・不登校の子に親ができること』講談社,2019,P28
理由が勉強に関する場合
学校が勉強するところである以上、成績の良し悪しが自己肯定感や友達グループでの立ち位置に影響するのは避けられません。
また学年が上がるほど、苦手科目のつまずきを挽回するのは困難になってきます。何がわからないのかが、わからない状態になっているなら、親や教師による学習サポートが必須でしょう。
授業がわからない、テストで良い点とれない、など学業不振が行きたくない理由であれば、正直に打ち明けてくれたことを褒め、これから必ず挽回できることを伝えて安心させます。
親も学校の先生も、味方であり、必要であればいつでもサポートすることを教えます。学習意欲を失わせないために「できない不安、恥ずかしさ」を軽減しましょう。
小学校中学年までは家庭内でのサポートが有効
小学校中学年までであれば、親御さんがどの教科のどの単元(どんな所)が苦手なのかを聞き出して、一緒に補習することで解決できます。必要であれば下の学年に戻って学び直します。
親御さんの時間があまりない場合は、市販の参考書、ドリル、無料学習サイトの該当箇所を自習してもらって、採点や解説を親御さんが行います。
家庭でのサポートが難しい場合は、個別指導塾や家庭教師に任せるのも良いでしょう。
苦手な箇所がよくわからない場合は、新学期がはじまってから担任の先生に相談しましょう。普段の授業の様子、テスト成績から弱点を教えてもらうことで、何を学習すべきかが明確になります。
小学校高学年以降は親以外のサポートが◎
小学校高学以降になると、プライドが高くなることと、反抗期が相まって親御さんが勉強を教えることが難しくなります。
親が心配し、口を出し過ぎると、子どもに「期待や失望」が伝わり、学習意欲を下げてしまうことも。
小学校、中学校の担任の先生に相談し、新学期から習熟度別授業のクラスを変えてもらう、補習授業に参加させてもらうなどの「学校と連携した」対策をとりましょう。
また塾、家庭教師、オンライン家庭教師などのプロ講師からの指導で、積極的に勉強するようになることもあります。個別指導の補習専門スクールや、補習講座を設けている塾、家庭教師、オンライン家庭教師なら、お子さまのペースで勉強のやり直しができます。
できない苦しさに共感し、頑張りを認めよう
親から見ると、「なぜこんなこともわからないのか?」と苛立ちを感じるかもしれませんが、決して、子どもを貶めるようなことを言わないようにします。
わからないことで悔しく、恥ずかしい思いを感じているのは子ども本人です。
わからない状態で、他の子と一緒に授業を受けてきた不安、焦りを共感してあげましょう。
「今まで不安だったね、よく頑張ったね!」などと、認める一言をかけてあげたいですね。
長期休み明けに登校渋りになる子は、その子なりに親や周囲の期待に応えようと、学校生活を頑張ってきています。大人から見て、良い子や勉強のできる子、友達が多い明るい子であっても、登校渋りになることは珍しくありません。
親御さんが「学校に行きたくない」と言うお子さまのSOSを受け止め、「良い子、優秀な子でなくても、大丈夫!あなたそのものを認めて、愛している。」という言葉や態度を表すことが、子どもの心を前向きにします。
登校を渋る理由が生活リズムに関する場合
「学校が始まると早起きが辛い」
「朝ご飯を食べたくない(それよりも寝ていたい)」
「登下校がだるい。」
など、休み明けに学校に行きたくない理由が、「学校がある日の生活リズムに戻すのが辛い」であるなら、対策は簡単です。
「起床時間を一定に保つこと」と、「最低限のやるべきことをやる」を心がければ、大きく生活リズムが狂うことはありません。
起床時間を固定する技
起床時間は、休日も学校に行く日と同じが望ましいです。休日の場合、遅くとも+1時間までの寝坊に留めましょう。起床時間を決めることで、就寝時間も定まってくるはず。
朝起きるのが苦手であれば、まずはカーテンを開けて日光を部屋に入れましょう。起き抜けに日光を浴びることで、体内時計がリセットされ、睡眠サイクルが整います。体内時計が正常に働けば、起床から14~16時間後に脳の松果体から睡眠ホルモン「メラトニン」が分泌され、自然と眠りにつくようになります。
また脳内で神経伝達物質セロトニンが分泌されるので、自律神経と精神が安定し、集中力や記憶力が向上します。
「やるべきこと」を毎日継続することが生活リズムを整える
宿題、塾の宿題、家庭学習、習い事、家のお手伝い等の「毎日やるべきこと」を、親子で相談して決めます。開始時間や取り組む順番は、お子さまに任せます。
やるべきことが終わったら、自由に過ごして良いことにすると、勉強や作業へのモチベーションが高まり、集中力もアップ。
毎日の「やるべきことをやった」達成感は、自己肯定感と目標達成力を育みます。
避けたいのは、早く勉強やお手伝いが終わったからと言って、「追加」をすることです。ゴールが見えるからこそ、集中して頑張れていたのに、
「余裕がありそうだから、計算プリントもう1枚やって。」
「じゃあ、玄関の掃除もお願いね。」
などと、追加してしまうと、モチベーションが下がります。
理由が友達や先生の場合
登校を渋る理由が、学校の友達つきあいや先生との関係である場合は、子どもの言いたいことをすべて吐き出させてあげましょう。
その上で、「親御さんがサポートするので、1人で抱え込まなくて良い」ことを伝えます。
親からすると、
「それはちょっと、あなた(我が子)が自分勝手なのでは?」
「そりゃ先生も怒りたくなるよ~」
という内容であっても、いったん受け止めます。話を聴いてもらうだけで、心が軽くなり「悩み」ではなくなることも多いです。
学校に行きたくない理由が、友達からの暴力や脅迫などの深刻ないじめと思える場合は、まずは担任の先生に相談します。我が子の話だけを聞いて、相手の親御さんに直接連絡をとるのは避けましょう。
担任の先生が事実確認をして、必要であれば子ども同士、親同士の話し合いの場を設けてくれるはずです。
先生が原因であれば、当該先生以外に相談すると良いでしょう。担任の先生とのトラブルであれば、可能であれば直接先生と話し合います。
今後、お子さまが穏やかな学校生活を送るためにも、冷静な話し合いをします。「こんな話を子どもから聞きました。本人がとても悩んでいるのですが、学校での様子はいかがでしょうか…」のような感じで、感情を抑えて事実確認をしましょう。
筆者も娘が小学1年生の頃、給食の問題で担任の先生と話し合ったことがあります。娘はかなりの小食だったので、給食をかなり減らしても食べきれませんでした。先生は娘を心配して、一定以上の量を食べるまで見守ってくださっていました。それが娘のプレッシャーになり、給食を食べられなくなってしまい、学校に行くのも嫌がるようになりました。これでは食べること自体が嫌になってしまいそうだと感じたので、担任の先生と面談をして以下のことを伝えました。
・娘が給食に苦手意識を持ってしまい、情緒不安定になっている。
・家庭でしっかり食べさせて栄養を摂れるようにするので、給食は本人の食べきれる量でかまわない。
・先生もお忙しいと思うので、娘の食べる量は気にしすぎないで欲しい。
先生が気分を害さないように、低姿勢でお願いしました。先生の見守りがなくなったことで、娘の食べる量も少しずつ増えていきました。ほとんど先生は生徒のために熱心に指導されていますが、子どもに適さない指導ですと、心身に悪影響が見られることもあります。その場合は、遠慮せずに先生に面談を申し込みましょう。
登校渋りも成長の証
「登校渋り=落ちこぼれ、怠けもの」ではありません。
怒られること覚悟で「学校に行きたくない!」と声をあげられることは、精神的に成長し、自我が確立している証拠です。
友達、先生とのトラブル、勉強からのプレッシャーから逃げたい気持ちを、親に打ち明けられることは、「弱さをさらけ出す強さ」でもあります。ストレスを1人で抱え込まずに、相談できたことを大いに褒めてあげましょう。いつでも、話を聴き、受け止めてくれる親御さんがいることが、お子さまを精神的に支えます。