2024年07月31日 公開

揺れ動く子育て観―子育ての軸を持ちたい人への3つの対処法

『新・家庭教育論 忙しい毎日の子育てコーチング』第36回は「子育ての軸」を持ちたい人への3つの対処法をご紹介します。子育てに対する考え方を少しだけ緩めれば、子育ての軸が見えてくるかもしれませんよ。

子どもの気持ちを尊重したい。だからガミガミ言いたくない。しかし、私が言わなければ子どもは動かない。「一体、私はどこまで関わったらいいの?」今どきの子育てには、このような答えなき悩みが多くあります。「子どもを見守ろう」「いや、私が手順よく準備しよう」。子育て観が揺れ動き、心がクタクタになってしまいます。

このような困り観から開放されるためには、セルフコーチングで自分のモヤモヤを整理すること、諦めずに子どもと話をすること、そして自分の行動に意味付けをすることが役立ちます。子育てに対する考え方を少しだけ緩めれば、子育ての軸が見えてくるかもしれません。

子育てが難しい

「私、子育てを楽しんでいます!」誰かのこんな言葉が鬱陶しく感じること、ありませんか?確かに子どもは可愛らしく、最愛の存在であったとせよ、子育ての日々にはストレスがたくさん。「楽しい」ばかりでは、すまされないのが子育ての現実です。

第6回幼児の生活アンケート 2022年(ベネッセ)によれば、子どもが将来うまく育っていくかどうか心配になること、子どものことでどうしたらいいかわからなくなること等、「子育てへの否定的な感情」は、前回の調査時(2015年)をはるかに上回る数値に。そればかりでなく、現在の生活への満足度、子どもの成長ぶりへの満足度も、前回に比べて、大幅に減少しています。子育ては、今まで以上に難しい時代に突入しているのかもしれません。

保護者の感じる困り感

そんな中、子育て中の保護者には様々な困り感(その人自身が困っていると感じること)があるようです。「時間がない」のは、大人だけではありません。今や、幼少期の子どもでさえ、忙しい日々を過ごしています。職業の半分がなくなると言われている社会です。一体どこに向かって子育てをしていけばいいのでしょう。スマホやYou Tubeにまつわる悩みは深刻です。しかし、スマホやタブレットを禁止するわけにはいきません。子育ての悩みは、「子どもの成績が上がらない」や「子どもが言うことを聞かない」等より、複雑化しているように感じます。

そんな中、筆者が見聞きする「困り感」で特に多いのが、「どこまで手出しをしていいのかわからない」というもの。子どもの気持ちを尊重したい。だからガミガミ言いたくない。しかし、私が言わなければ子どもは動かない。「一体、私はどこまで関わったらいいの?」といった悩みです。

子どもの主体性を大切にしたいし、良い成果もとってもらいたい。何も言わなくても、子どもが自ら動く光景が理想なのでしょうが、現実はその限りではありません。ですから、「子どもを見守ろう」「いや、私が手順よく準備しよう」と、心が揺れ動き、クタクタになってしまうのです。

揺れ動く子育て観への3つの対処

正解がないから悩むのです。どちらも正しいから揺れるのです。大切な子どものことだから、適当には決められないのです。それでも、悩んでいるだけでは、誰にとってもいいことはありません。対処法を考えていきましょう。

1、セルフコーチングで自分と対話する

人間には自己決定したいという欲求があります。自分で決めたことでなければ、継続が難しく、他者からの助言は壁にぶつかると、すぐに置き換えられてしまいます。ですから、子どもとどう関わっていくかは、自分で決めなければなりません。

自分で決めるために、セルフコーチングが役立ちます。セルフコーチングとは、自分に質問を投げかけ、自分の心を整理していく手法です。「私は本当はどうしたいの?」
「何が一番不安なの?」「3年後の子どもにはどうなっていてもらいたいの?」「そのためには今どうすればいいの?」等々、リラックスできる場所で、自分と対話をしてみてください。思考の交通整理ができれば、「そうだ、こうしよう」と、一を踏み出すことができるかもしれません。

2、長期的、短期的の2軸で考える

子どもに任せることも、ある程度の管理を作ることも、両方行いたいのです。しかし、それができずにモヤモヤしてしまいます。そんな時には、短期的なゴールと長期的なゴール、2軸を持ってみてはいかがでしょう。

短い期間にパフォーマンスをあげるためには、親の手助けもありとする。短期的なゴールです。一方、長期的なゴールを意識する文脈では、多少の不安には目をつむって、子どもに任せてみます。
子どもへの関わり方に納得感が出てくれば、きっと悩みは軽減されることでしょう。子どもへの関わり方に、「なぜ、そう関わるのか」の、自分なりの理由を持ってみましょう。そのためには、長短2軸のゴールがあると便利です。

3、子どもの話を聞く

私たちは、思い込みの世界で生きています。子どものことに関しても、実際そうであるかどうかは別として、「こうに決まっている」と、思いこんでいることが多々あります。「この子にはこんなこと無理」「この子は〇〇があっているに違いない」「この子は〇〇という性格だから」などと、無意識に決めつけていませんか。

「子どもに任せてみたらやらなかった」、これも親の思い込みかもしれません。もしかすると、「任せたらやらなかった」のではなく、「今は他にやりたいことがあって、やらなかった」だけかもしれません。「この子は私が言わないとやらない」と決めつける前に、子どもの話を聞いてみてはどうでしょう。「約束の時間になったけど、まだ始めていないみたいだね。この後、どうしようと思っている?」「ゲームを中断するのは大変だよね。どうしたら、宿題に気持ちをもっていけそうかな」と、質問をはさみながら、対話をしてみてください。

子どもとの対話で事実を知ることで、不要な思い込みから離れることができるかもしれません。それだけでも、心の揺れは少し軽減されそうです。

子育ての軸を太くしよう

子育ての軸がない。もしも、こんな悩みを持ってしまうのならば、その軸をもっともっと太くしてみましょう。「こうでなければダメだ」「こうしなければいけない」、こんな考え方をしている以上、思うようにならない場面で、心はグラグラと揺れてしまいます。軸がブレるということです。

子どもとの日常は、思うようにならないことの連続です。そして、親も子もどんどん変化していきます。「ねばならない」という考え方を緩め、「まあ、いいか」という気持ちを増やしましょう。細い軸を「まあ、いいか」で太くすれば、多少のことは許せるようになってくるはず。軸が太くなれば、ブレることも少なくなりそうです。その先には「子育てが楽しい」という気持ちが待っているかもしれません。

■ライタープロフィール
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江藤真規
東京大学大学院教育学研究科博士課程修了 博士(教育学)
株式会社サイタコーディネーション代表
クロワール幼児教室主宰
アカデミックコーチング学会理事
公益財団法人 民際センター評議員
一般社団法人 小学校受験協会理事

自身の子どもたちの中学受験を通じ、コミュニケーションの大切さを実感し、コーチングの認定資格を習得。現在、講演、執筆活動などを通して、教育の転換期における家庭での親子コミュニケーションの重要性、母親の視野拡大の必要性、学びの重要性を訴えている。著書は『勉強ができる子の育て方』『合格力コーチング』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『心の折れない子どもの育て方』(祥伝社)、『ママのイライラ言葉言い換え辞典』(扶桑社)など多数。
クロワール幼児教室

■江藤さんへのインタビュー記事はこちら↓
イヤイヤ期の言葉がけはタイプ別に!江藤コーチの子育てアドバイス①
子どもをやる気にさせるほめ術は?江藤コーチの子育てアドバイス②
学力向上ために6歳までにやるべき6つのこと。江藤コーチの子育てアドバイス③

■江藤さんの著書紹介

\ 手軽な親子のふれあい時間を提案中 /

この記事のライター

江藤真規
江藤真規

サイタコーディネーション代表。サイタコーチングスクール、クロワール幼児教室主宰。一般社団法人 小学校受験協会理事。東京大学大学院教育学研究科博士課程修了 博士(教育学)。皆が「子育ち」を楽しめる社会を目指して、保護者さまのエンパワメントを行っています。社会が大きく変化する中、幼児期の子育てにも新しい視点が求められます。子育ての軸をしっかりと築き、主体的な子育てに向かうためにお役立ちとなる情報を、コーチングの考え方を基軸に配信いたします。HP:https://croire-youjikyousitu.com/