小学生になると気になり始める子どもの勉強。親が手とり足取り面倒を見れば、当面の成果は上がるのでしょうが、どこかで子どもに任せていかねば、子どものやる気は育ちません。子どもに任せるためには、忍耐も勇気も必要ですが、子どもが自分なりに頑張っていく様子を信じて見守りましょう。
もちろん、それは子どもを放任することとは異なります。子どもがなかなか勉強に取り掛かれない場合には、きっかけ作りの工夫が必要です。好きな科目から始めて、できる自分を感じさせる。やることを決めて、「できた」という達成感を味合わせる。親子間だけで完結しようとせずに、外部の力を借りることも助けとなるはずです。
勉強のやる気は「自分ごと化」から
小学校に入れば、勉強が始まります。幼稚園・保育園時代は自分のペースで、自分の好きなあそびをしていればよかった環境が、小学校になれば、皆で一緒に同じことを、と環境が一変します。今は、低学年からの塾等も多くあり、できる子、できない子と線引きされそうな環境に、大人は心穏やかではいられなくなってしまいます。
しかし、小学生になったからといって、子どもの気持ちが突然変わるはずもなく、子どもの勉強には何らかのサポートが必要です。小学校低学年では、大人が横についてしっかり見ていけば、どんどん進めることもできるでしょうし、分かるようにもなるでしょう。手取り足取り面倒をみれば、きっと好成績も取れるでしょう。しかし、この時期に大切なのは、子どもが勉強の習慣を身につけること。勉強を自分のことと捉え、自分で行う習慣を作るということです。
いずれ、きっと必要になる「勉強のやる気」は、自分ごと化がスタート地点です。勉強が新鮮なうちに、「勉強はお母さんのために頑張るもの」ではなく、「勉強は自分でやるものだ」という気持ちを、子どもに備えさせるよう工夫していきましょう。
任せる勇気を持とう
勉強の自分ごと化を促すためには、子どもに任せることが必要です。もちろん時間はかかるでしょうし、間違った解き方をするかもしれません。しかし、そこですぐに大人が手出しをしてしまっては、「自分でわかるようになる」という経験が不足してしまいます。大切なのは、今解けることよりも、自分なりにやってみて発見すること。片目を閉じて、子どもに任せる勇気をもってみましょう。
なかなか進まないかもしれません。しかし、しばらく待っていれば、子どもなりに手を動かし始めるかもしれません。答えが間違っているかもしれません。しかし、間違えに気づく経験は、子どもをぐんと成長させます。やりたくない、と癇癪を起こすかもしれません。それでも、やっていかないと恥ずかしいからと、気持ちの調整をして、なんとか仕上げていくかもしれません。
大人にとっては、そんな子どもを見守るには忍耐力が必要です。子どもを信じる気持ちも必要です。「今、この子は自分で成長しているんだ」と、余計な手出しを控えて、応援をしてあげましょう。
「任せたらやらない」への対応
それでも、任せていたら遊んでばかりで、勉強がなかなか始まらない、ということもあるでしょう。任せるとは放任することとは異なります。なかなか勉強がスタートしない場合には、きっかけ作りとなるサポートが必要です。勉強の自分ごと化どころか、勉強から遠ざかってしまう、嫌いになってしまう等にならないよう、子どもの勉強にかかわっていく姿勢は必要ということです。ここでは、3つの工夫をご紹介しましょう。
「好きな勉強」から始める
低学年の子どもには、まだ勉強と遊びの区別はさほどありません。勉強に向き合う子どもの様子を観察してみると、計算が好き、物語を読むのが好き、地理や生物の話が好きなど、子どもの好きが見つかるかもしれません。何をするにしても、最初の一歩を踏み出す際に、一番エネルギーがかかります。勉強の時間は好きな科目からスタートし、できる自分を感じさせてあげるとよいでしょう。
「もう、やってしまったんだ」「すごく詳しいね、お母さんにも教えてくれる」等の言葉かけがあれば、子どもはもっと「できる自分」を感じることができるでしょう。
例えば「算数が好き」が「勉強が好き」になることはよくあります。苦手な科目を克服してもらいたいと願う気持ちはわかりますが、苦手に向き合うには目標が必要です。最初の一歩を踏み出すためには、「勉強ができる」「勉強が楽しい」からスタートして、自分ならできる、と思える気持ちを育てていくことがおすすめです。
達成感を感じさせる
勉強より体を動かす方が好き、音楽を奏でる方が好き等、いわゆる教科学習にどれも興味が持てないというケースもあるでしょう。そんな時には、やることを決めて、終わったという達成感を感じさせてあげるとよいでしょう。
毎日時間を決めて学習をすすめ、終わったらシールを貼る、毎日量を決めて、解けたらシールを貼る等、「できた」「終わった」という感覚をもたせる工夫を探してみてください。
達成感は、子どもにとっても気持ちがいいもの。頑張ったらできた、終わったら好きなことができるという気持ちは、集中力にも繋がりますし、「自分は努力することができる」という、自己効力感にも繋がります。
達成感を感じさせるためには、可視化すること、そして欲張らずにできる分量にとどめておくことが大切です。「今日はやる気になっているから、もう1枚やろう」は、子どもの頑張る気持ちを台無しにしてしまいます。「頑張ったね」「今日の分はもう終わり」と、声かけをしてあげましょう。目指すは「できた」「終わった」と、子ども自身が感じることです。
外部の力を借りる
小学生になれば、子どもの社会はぐんと広がります。大切で大好きなお父さん、お母さんであっても、その言葉には新鮮味がなくなってしまうのも事実です。もちろん、言葉かけの工夫等で、子どものやる気を引き出すこともできるのですが、ゼロから1に動かす際には、外部の力を借りることもおすすめです。
例えば外部の人。子どもが「すごいな」と思う憧れの人との接点を作ってみてはどうでしょう。映画でも、テレビでも、本の中でも、もちろんリアルでもOKです。憧れの存在があれば、やる気はぐんと高まります。
外部の環境も探してみましょう。家ではなかなか進まない勉強も、他の子どもがいる環境なら、俄然やる気になるかもしれません。体験学習、探求学習ができる環境に身を置くことで、教科書の勉強が圧倒的に楽しくなることもあるでしょう。外部の教材にも、子どもが興味を持つものがあるかもしれません。
「勉強とはこうやって行うものである」という思い込みを外し、今の子どもが興味を持つ教材を見つけてみるのも良いかもしれません。
子育てに関わる人が多ければ多いほど、子どもの育ちは豊かになると感じます。親子で煮詰まってしまう場合には、ぜひ外に視点を向けてみてください。
子どもには力があります。勉強は楽しいものです。子どもがそんな勉強の楽しさを実感し、自分ならできると思える環境を、「子どもに任せていく工夫」を通して、整えていってくださいね。
■ライタープロフィール
江藤真規
東京大学大学院教育学研究科博士課程修了 博士(教育学)
株式会社サイタコーディネーション代表
クロワール幼児教室主宰
アカデミックコーチング学会理事
公益財団法人 民際センター評議員
自身の子どもたちの中学受験を通じ、コミュニケーションの大切さを実感し、コーチングの認定資格を習得。現在、講演、執筆活動などを通して、教育の転換期における家庭での親子コミュニケーションの重要性、母親の視野拡大の必要性、学びの重要性を訴えている。著書は『勉強ができる子の育て方』『合格力コーチング』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『心の折れない子どもの育て方』(祥伝社)、『ママのイライラ言葉言い換え辞典』(扶桑社)など多数。
クロワール幼児教室
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