子どもの主体性を大切にしたい。とは言え、子どもの「〇〇しない」を許容するのはなかなか難しいもの…。「〇〇は大切なことだから」と説得してもなかなか響かず、「だめ」と高圧的になっては、事態は更に悪化するばかり。途方にくれてしまいます。
そんな時には、「〇〇しない」の背景にある子どもの気持ちを汲み取り、適切な対応を考えていきましょう。子どもの気持ちを尊重すること、小さな塊に分けて「できた!」を経験させること、「楽しい!」を実感させること等、一工夫をしてみることが大切です。
また、親が行動見本を見せ続ける姿勢も忘れたくないですね。
成長とともに、子どもは自分の気持ちを主張するようになります。「〇〇したい」というポジティブな表現なら、可能な限りその環境を整えてあげようと、親側も前向きな気持ちになりますが、「〇〇しない」には、どう対応したらよいのでしょうか。
子どもの心を探りながら、対応策を考えていきましょう。
「〇〇しない」の2つの背景
子どもの言葉はシンプルです。「〇〇しない」と一言で自分の気持ちを伝えてきますが、その言葉の背景には、沢山の感情が潜んでいるはずです。
「〇〇しない」という言葉は、言うなら氷山の一角のようなもの。水面下にある子どもの気持ちを推測してみると、「〇〇しない」には、以下の2つの背景があることがわかります。
拒否という主張
まずは、「私は〇〇をしません」という、子どもの拒否という主張です。
子どもの拒否に関しては、恐らく多くの親御さんが、2歳前後に表れるイヤイヤ期に、「イヤ」という言葉とともに経験済みでしょうが、イヤイヤ期の「イヤ」は、自分ができないことに対するイライラ感情の表出とも言えるもの。
対して、「〇〇しない」は自分の意志の表明です。子どもの主張であり、イライラ感情を表す「イヤ」とは少し質が異なります。「そのうち終わるから」とうやむやにせず、コミュニケーションをとっていく姿勢が必要です。
「できないからやらない」という主張
もう一つ、「できないからやらない」という主張もあります。諦めてしまうということです。
今どきの子どもたちは、幼少期から多くの期待を寄せられ、評価が伴う機会も多々あります。子どもなりに、「やらなければならない」とわかっていても、失敗するのが嫌だから、できそうもないから…と、諦めてしまうこともあるようです。
失敗を恐れずしてチャレンジできる文脈を整えていきたいものです。
各々の背景で、どのような関わり方が良いのか、対応策をみていきましょう。
子どもの「拒否」への対応
ここでは、「子どもの拒否」への対応を3つのポイントで説明していきます。
1、「〇〇しない」の背景を聴く
親には子どもへの期待があります。こうなって欲しいという姿があるため、子どもが拒否してくれば不安になってしまいます。なんとか動かさなければと焦り、説得しようとしてしまいます。
しかし、大切なのは、子どもの心の内側を聴くことです。
まずは、子どもの主張を一旦受け止めた上で、「〇〇しない」背景にある気持ちを、丁寧に聴いていきましょう。
「そうか、〇〇したくないのね。もう少し詳しく聞かせてもらえるかな」
「そうか、わかった。じゃあおやつでも食べようか」
その場で、子どもが話さなくても、焦る必要はありません。子どもが話したくなる機会を待ちましょう。おやつなど食べてご機嫌になったら、「あのね…」と、子どもの方から話してくることもよくあります。
子どもが話してきた時には、相槌をうちながら、オウム返しをしながら、こちらの意見を挟まずに最後まで聴くことが大切です。
子どもの心をしっかり理解することができれば、子どものために、どう対応していけばいいか、対応策が見えてくるでしょう。また、子どもの気持ちは、その時の気分で変化することも…。話しをしながら気持ちが変わることもあるかもしれません。
2、「〇〇しない」という気持ちも尊重する
親の願いと子どもの気持ちは、時として異なります。子どもは子どもの社会に生き、子どもには親とは異なる感情があるのです。気持ちを無理やり変えることはできません。
子どもの気持ちを尊重し、「〇〇しない」を受け入れることも必要です。
「今は〇〇したくないのね、わかった」
お母さんがわかってくれたということで、子どもの心は満たされます。満たされ安心できれば、「やってみようかな」という気持ちが起きてくるかもしれません。
子どもには、まだ善悪の判断がつかないこともありますので、もちろん子どもの気持ち通りには動いていけないこともあるでしょうが、まずは子どもの「今の気持ち」を尊重し、子どものことをわかってあげることが大切です。
3、自分の不安な気持ちの背景を探る
自分の気持ちも探ってみると良いでしょう。
「なぜ私は子どもにそれをやらせたいのか」
「私は何に焦っているのか」
子育てに使命感を持てば持つほど、「べき」という捉え方が膨らんできます。「子どもはこうあるべき」「親である私はこうすべき」という具合です。これらに支配されてしまうと、現実が見えづらくなってしまいます。自分と向き合い、自分の心と対話をしてみれば、焦る気もちが落ち着いてくるのではないでしょうか。
そして、自分の心が安定すれば、子どもの心も安定するはず。イヤだと思っていたことに対しても、チャレンジする勇気が湧いてくるかもしれません。
「できないからやらない」への対応
チャレンジ精神旺盛に生きていってもらいたい。「できないからやらない」は、できるだけ排除していきたい。親なら誰しもが望むことでしょう。とはいえ無理強いすれば、「できないから嫌い」となってしまい兼ねません。
ここでは「できないからやらない」への対応を3つのポイントで見ていきましょう。
1、一緒にやってみる
子どもの「できない」と感じている気持ちには、「難しいよね」「はじめてだもんね」等、共感的に関わっていくのがおすすめです。その上で、「一緒にやってみる」のはいかがでしょう。
「できない」
「そんなこと言ってないでやりなさい!」
このやり取りからは何も生まれませんが、子どもの気持ちに共感した上で、
「難しいから一緒にチャレンジしよう」
「難しいからこの部分だけ手伝うね」
このように関わってみれば、子どもは「やってみよう」という気持ちになれるかもしれません。
2、スモールステップで進む
ピアノのお稽古にしても、(お受験をされる場合の)プリント学習にしても、コツコツ継続していくことが大切です。しかし、途中で子どもが苦手意識をもってしまい、「できないからやらない!」となることも多々あります。
そんな時には、スモールステップで進むことがおすすめです。ピアノの練習なら、毎朝5分だけの練習に切り替える。プリント学習なら、簡単なものに変えてみる。子どもに「できた!」と感じる経験をさせてあげましょう。
「できた!」という経験は、「もっとできる!」という気持ちを引き起こします。ほんの少しでも前進できたなら、その後はスムースに進んでいくはずです。
3、楽しい!を体感させる
子どもは楽しいことが大好きです。「楽しい」と感じる経験ができれば、「できない」気持ちは「やってみよう」に変わります。
例えば、ボールが苦手で「ボール遊びはしない」なら、「柔らかいボールを使ってみる」「ボーリング遊びをしてみる」等、工夫をしてみてはいかがでしょう。
「ふわふわボール楽しかったね。また遊ぼうね」
「ボーリング楽しかったね。次はお友達を誘ってみようか」
苦手意識はちょっとした工夫で取り除くことができます。子どもは楽しくなれば、自ら行動していきます。
どうしてもしなければならないことへの対応
「〇〇をしない」でも、例えば挨拶をしない、お礼を言わない等、しつけの意味で、どうしても見過ごせない場合もありますよね。子どもを育てるのは親の責任。「やりたくないのね」では、当然すまされないということです。
しかし、この場合にも、罰を与える方法や、「挨拶をしない子は悪い子だ」と決めつけてしまうのは得策ではありません。もっと動きづらくなってしまうからです。常に「挨拶は大切であること」を伝え、「なぜ大切なのか」その理由も伝え続けるのが良いでしょう。更には、親が見本となり、気持ちよく挨拶している姿を見せ続けることも大切です。行動見本を見せ続けるということです。
そして、小さな挨拶ができた時には、「挨拶できたね」と承認してあげましょう。
■ライタープロフィール
江藤真規
東京大学大学院教育学研究科博士課程修了 博士(教育学)
株式会社サイタコーディネーション代表
クロワール幼児教室主宰
アカデミックコーチング学会理事
公益財団法人 民際センター評議員
自身の子どもたちの中学受験を通じ、コミュニケーションの大切さを実感し、コーチングの認定資格を習得。現在、講演、執筆活動などを通して、教育の転換期における家庭での親子コミュニケーションの重要性、母親の視野拡大の必要性、学びの重要性を訴えている。著書は『勉強ができる子の育て方』『合格力コーチング』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『心の折れない子どもの育て方』(祥伝社)、『ママのイライラ言葉言い換え辞典』(扶桑社)など多数。
クロワール幼児教室
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