2023年01月01日 公開

イギリスの引っ越し事情に驚いた話・後編【英国すくすくレポ】

日本とは大きな違いがあるイギリスの引越し事情について語るシリーズの後半!引っ越し直前までハラハラしっぱなしの実体験をレポートします。いしこがわ家は、無事に引越しできたのか…!?

前回の『イギリスの引っ越し事情に驚いた話・前編』がChiik!で公開になったのは昨夏2022年7月のこと。その時点ではまだ引越しのために奮闘している最中で、イギリスの複雑なシステムのこともあり、最終的にちゃんと引越しができるのかどうか完全には分からない状態でした。

それから時間が経つこと数か月…。いしこがわ家、無事に引っ越せたのか…?

イギリスの引っ越し事情に驚いた話・前編はこちらから

結果からお話しすると、どうにかこうにか無事に引越しができました!

…とはいえ、引越しが完了したのは9月中旬過ぎ。家を売ったのが3月末で新居を見つけたのは4月頭。全体で約6か月もかかりました。家を新築したわけでもなく、すでに建っている家(つまり中古物件)に引っ越すだけなのに、日本と比べるとなかなかの長期戦だったと思います。どうして、家購入&引越しに、こんなに時間がかかるのでしょうか。

そこには、イギリスの不思議なシステムが関係しています。

なぜ英国の引越しは予定が読めない?

6か月も何をしてたの?

チェーン(※1)は短いと聞いていたので、うまくいけば意外とスムーズに引越しができるかもしれないと淡い期待を抱いていた私。しかし、前編にて夫が言った「イギリスの家購入で引越しができるのは、早くても平均6週間から14週間くらいかかるらしいよ」という言葉が全く冗談じゃなかったことを痛感することになりました…。

(※1:チェーンとは、各家の売り手と買い手がそれぞれ売買する家を所有していることによって発生する、引越しに関わる家屋の連鎖のこと)

さて、6ヶ月も何をしていたのかというと、ほとんどの期間は、書類集めとローンの申請以外の後は、ただただ待っていました。何を待っていたかというと、

1.チェーンに関わっている全ての家の売り手と買い手が、それぞれの引越し先を見つけるのを首を長くして待っていた。

2.全ての買い手のモーゲージ(住宅ローン)の審査が通るのを待っていた。
(住宅ローン審査が銀行によっては1か月以上かかった)

3.住宅売買の公的書類を取り仕切るソリシター(弁護士)の仕事が、高額の割には遅めである。

4.引越し手続き中でも長期の旅行に出かける人が多く、その間さまざまな手続きが一時中断となったり、引越し日が延期になってしまった。他、

このような理由で日本なら早く終わるような手続きにも非常に時間がかかり、結果的に半年かかってしまったのです。特に1.の「チェーン問題」は、常に家を売買する人の頭を悩ませる問題で、知り合いには1年引越しを待っているという方もいます。

また、「さすがイギリスだなぁ~」と思ったのは、4.の「長期旅行に出かけて手続きが中断してしまう、引越しが延期してしまう」というのも夏休みやクリスマスの時期をはじめ、週単位の長い有給休暇が取りやすいイギリスではよくある話です。私たちのチェーンでも、買い手さん2家族が長期旅行へ出てしまい、書類提出などが滞ったり、引越し予定日が2回も変更になりました(涙)これはもう文化の違いとしか言いようがありません。待つ側にできるのは、「早くホリデーから帰ってきて~!」と心の中で祈ることのみです。

そんな「まだ(引越しは)待て!」の状態が約5ヶ月続き、6か月を目前にして、担当のエステートエージェント(不動産屋さん)から電話がありました。

「もしもし、全員分の必要書類が揃ったのと、チェーンの中の一家族が『仮住まい先の契約が切れそうだから急いでほしい』と言っているので、あと5日で引越しできますか?」

え、なんだって!?…あと5日で??
約6か月待たされたかと思ったら、急に動き出してびっくりです。

引越しは同じ日にしなければならない

引越しが全くもっていつになるか分からないイギリスでは、下手をすると予想よりもさらに数か月先ということさえあります。先が見えない状態では荷造りをすると、日常生活は大変不便。絶対にこの先半年は使わなくても生きていけるというものだけは荷造りしていましたが、まだ日常生活のものはほとんど箱に入れていない状態。

あと5日で家族4人分の荷物を箱に詰めて、引越し業者さんも手配できるのか!?考えるだけで、冷や汗ものでした…。

引越しの見積もりは、数週間前にすでに5件お願いしていたものの、「引越し日が確定しないと予約できないんです。」とすべての業者に言われ保留になっていました。結局、再度連絡をとったときには、全業者さんに空きがないと言われ、夫も私も真っ青になりました。3階建て一軒家の家具と荷物を、自分たちで運ぶなんて…さすがに腰痛の予感しかありません。

イギリスでは、チェーン全員の引越しの日を原則同じ日にします。引越し業者が見つからなかったので、うちだけ翌日に…というのができないという、なんとも厳しいシステムなのです。これはローン・銀行の関係でそう決まっているんだそう。住んでいる家を契約の日時までに荷物を運び出し、掃除をしてから、買い手さんへ明け渡さなければならないルールとなっています。

最終的にやっと引越し業者さんが1件みつかり、荷造りもなんとか引越し前日の夜中に終わって、ギリギリで事なきを得ました!!

エクスチェンジ(売買契約)をするまでは不確定

イギリスの家購入&引越しは本当にストレスがかかります。

Exchange of Contract(売買契約、通称エクスチェンジ)が行われるまでは、家の売買を取りやめることが可能なのも、ストレスの原因の一つです。
買いたい家が見つかり、ちゃんと不動産屋さんを通して売り手と買い手が売買に同意しても、それは何の効力も持ちません。
イギリスの家購入&引越しは何か月もかかる大きな出来事なので、その間に家庭の事情や気が変わって、家の売買をやめてしまうケースも少なくないのです。

我が家(引越し前の家)に来た家屋検査士の方が世間話で教えてくれたのですが、最近でも似たケースがあったそう。検査士さんが買い手に依頼されて、購入予定先の家を検査しに行ったところ、持ち主が「あれ?聞いてない?家を売るのをやめたのよ。」と言われ、寝耳に水で困ってしまったとか。引越しを楽しみにしていた買い手さんはそのことを知らず、戻ってきた家屋検査士さんから聞いてショックで泣いてしまったそうです。

家売買のチェーンでは、このように一人でも誰かの状況が変わると、チェーン内のすべての売り手と買い手に影響が出ます。売買が振り出しに戻ってしまったら、他の物件が見つかるまで、さらに何か月も待たなければいけない状態もここでは珍しくありません。

他にも、夫の親友家族のケースでは、買い手と不動産を通して売買に同意をしたものの、数日後「さらに高く買うという人が現れたから」という理由で白紙に戻ってしまいました。もちろん売主すべてが非情な人ばかりではありません。約束をちゃんと守ってくれる人もいます。ただ、そういうケースも珍しくないのです。この親友夫婦の場合は、その後「もっと高く買う」と言った買主の気が変わり、その家が再び売りに出たので、その家を最終的に購入・引越しすることができました!

引っ越してからも、やることがたくさん!

そんなこんなで、ストレスフルの数か月を経て、ついに引越しができたときには、どっと肩の荷が下りたという言葉がぴったりでした。イギリスでは引越しをすると友達や周りの方から引越し祝いやカードをもらいます。また、ハウスウォーミング・パーティーをする家庭もあります。先が見えないと感じていた長いプロセスが終わって、「ついにやったぞ!」と祝わずにはいられない、それがイギリスの家購入・引越しなのです。

しかしながら、引越しが完了したら生活が落ち着くかというとそういうわけではなく、しばらくは以前の持ち主が住んでいた痕跡とのバトルが待っている場合が多々あります。引越しごとにそんな調子ですから、この国に住んでいる人のDIYスキル、ガーデニングスキルが高い事にも納得です。
もちろん業者さんに頼んでもいいのですが、なかなか費用が高いのが現実。どうしても自分たちでは無理というところをプロの業者さんにお願いして、自分たちで何とかできそうな部分はDIYでという声もよく聞きます。

ちなみに今まで、周りの引っ越し経験者から聞いた&自分が経験したトラブルは、以下のような感じです。

引っ越した後に起こった問題やトラブル

→暖房やボイラーのつけかたが不明(買った家を説明してくれる人はいない)
→謎の配線や配管が多い
→壁の棚や飾りを外した後の穴がたくさん残されていた
→謎の釘が、家じゅうの至る所に刺さっていた
→水まわりの腐った部分を一時的に塞いであったため、キッチンの取り換えが必要だった
→庭が果てしなくボウボウの腰までジャングル状態
→多種類の木が大量に植えられ、好みに合わないうえ、庭の面積が狭くなっている
→なぜかガラスの破片が庭に散乱していて、庭を使えない

など、引越し後も「前の持ち主さんの性格や住み方」に、引き続き影響されることがあります。

もちろん、状態が良く、間取りも内装も理想に近いものが見つかれば言うことはありませんが、「引っ越したいエリア」に「希望する時期」に「理想に近い家」を見つけるのは、かなり至難の業。いや…もうこれは、頑張ってどうにかなるというものではなく、ただ運を天に任せるしかないようなところもあるような…。

住宅購入・引っ越しに関わる英語、なんて言う?

ここで、家購入・引越しに関わる英語をご紹介します。

引越し業者
removal company

見積り/5社に見積もりを頼んだ。
quote /I asked for quotes from 5 different companies.

荷造り/荷ほどき
packing / unpacking

引越し業者を予約する
booking a removal company

「その日は予約でいっぱい。」
It’s fully booked on the day.

「荷造りは始めた?」
Have you started packing yet?

「荷ほどき終わった?」
Have you finished unpacking?

「(新しい家に)もう慣れた?」
Have you settled in yet?

「ただいま」を言うたびに、My homeになっていく

最初の1か月は、荷解きが終わっても、Air Bnbに仮住まいしているような、誰かの家にいるような気がしてなんとなく落ち着かない日々を過ごしていました。でも、自分たちでペンキを塗るなど手を加えたり、掃除をしたり、外出先から「ただいま」と帰ってくるたびに、少しずつ『My home』になってきていると感じます。

ところで、英語で「家」というと、houseとhomeの2つを思い浮かべると思いますが、その違いを知っていますか?houseというと「建物」としての家を指します。日本語で例えば家屋という感覚です。ではhomeの方はというと、「人が住む空間・建物」としての意味合いが強いです。感覚的には家庭としての家です。

日本よりも、前の持ち主さんの個性が強めなイギリスの家購入・引越しですが、住めば都とはよく言ったもので、みなさんそれぞれ年月をかけて少しずつ自分スタイルにアレンジしていくのを拝見すると、イギリスの家事情の面白さを発見したりも。

とはいえ、精神的にとても大変な半年間だったので、もうしばらくは引越しはしなくていいかな…(苦笑)という気持ちが正直なところでしょうか。
この先は楽しみながら、この家をさらに住みよい我が家にしていくべく、手を加えたり工夫していきたいと思っている今日この頃です。

イギリスの引っ越し事情に驚いた話・前編はこちらから

■いしこがわ理恵さんのイギリス漫画レポートの記事はこちら↓↓↓

\ 手軽な親子のふれあい時間を提案中 /

この記事のライター

いしこがわ理恵
いしこがわ理恵

在英12年目ハンドメイド好きの2児の母。武蔵野美術大学卒業。現在は教育に携わる仕事の他に、日本にルーツのある子どもたちを対象とした日本語子ども会活動・児童文庫活動も行っています。興味の範囲が幅広いので、常にいろいろな方向にアンテナをはりつつ情報収集が日課です。ハッピー子育てに役立つ情報をみなさまにお届けできれば嬉しいです。Instagram @rie.ishikogawa