今では想像もできませんが、実は数百年前までは西欧には「子ども」という概念は存在せず、子どもは「小さな大人」と捉えられていたようです。子どもという存在が意識される前後に注目し、子どもの扱われ方がどのように変化したのか解説します。
私たちの「当たり前」は?
・かわいい
・小さい
・守るべき存在、大人から守られるべき存在
・大人とは違う
・遊びや勉強が仕事
おそらく、こんな連想をする方が多いことでしょう。現代においては、この感覚はとても自然なことですよね。
昔、西欧では子どもは「小さな大人」という認識だった
もちろん、身体は小さいし、能力は未完成。だから子どもは、未熟で役に立たない「小さな人間」と考えられていたようです。
そして、身の周りのことが一通りできる7歳くらいになると、すぐさま大人と同じとみなされ、労働や大人の遊びの世界へと連れ込まれていったとか。
7歳というと、今ならまだ小学校1年生です。幼い年齢の子どもたちが、大人と同じように仕事をして過ごしているなんて、現代の様子とはかなりかけ離れているように感じますよね。
すべてが大人中心の世界
子ども用の絵本、子ども用のかわいらしいお洋服、子どもたちが通う学校……。今でいう「当たり前」のものや施設は、存在すらしなかったようです。
絵画の中にも「子ども」はいなかった!?
中世・近世までの絵画を見ると、子どもはまるで大人のミニチュアのように描かれているものが多いことがわかります。背丈は小さいのですが、顔立ちも佇まいも着ているものも、すべてがまるで大人のように見えます。
下の絵、ジョットという画家が描いた「荘厳の聖母」に描かれた子ども(イエス)も、顔つきや表情はまるで成人男性のようです。
そもそも子どもの概念がない当時の人々は、子どもと大人の容姿の違いすら意識していなかったのかもしれませんね。
人生には「子ども時代」があると認識されたのは18、19世紀頃
フランスの思想家アリエスやルソーは、「これまで、人間の一生には”子ども時代”というものが存在しなかった」と発言しています。
そして、次のような思想を説いたのです。
「子どもには、大人の世界とは違った特有の世界がある。大人は子どもを無理に自分たちに近づけようとするのではなく、彼らの成長のスピードに沿った手助けをするべきである」
これ以降、ヨーロッパでは徐々に子どもの概念が広がっていったようです。人々は、大人と子どもとを分けて考えるようになりました。そして子どもは、仕事よりも、遊びや学校に時間を使えるようになっていったのです。
半ズボンやワンピースなどの子どものための動きやすい服装、児童文学といった子どものための文化も、以降どんどん発達していきました。
子どもは、”労働力”から”守り育てる存在”に変わっていったということですね。
子どもが子どものペースで成長できることの素晴らしさ
昔は生まれても3歳まで生きられない子も大勢いましたし、成長してもすぐに大人たちと一緒の労働に飲み込まれていく子ばかりだった時代もあります。
西欧における「子ども」の概念の発見は、当時の大人たちに、今では誰もが知っている「子どもが子どもらしく過ごすことの大切さ」を教えてくれたと言えそうです。
そして、「昔は子どもは子どもとして存在しなかった」という歴史を知ることで、今の私たちは、子どもを改めて愛おしく、守るべき存在として感じることができ、子ども時代の大切さに気付かされるのではないでしょうか。
以下参考文献をご案内します。興味のある方は是非参考にしてみてくださいね。
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著者:木村 元 (一橋大学教授),小玉 重夫 (東京大学教授),船橋 一男 (埼玉大学教授)
出版社:有斐閣