子どもの安全を守るには、いろいろな面からのアプローチが必要だと思いますが、交通安全もその一つではないでしょうか。
イギリスは都市部など一部の場所を除けば、多くのエリアで車が必須の車社会となっています。日本ほど交通網が便利ではないところも多く、通勤・通学に車を使うという世帯は日本より多いかもしれません。特に、日本では徒歩と指定されるような距離の校区内であっても、学校への送り迎えを自家用車でする家庭が多いのが現状です。
こういった理由もあり、学校周辺/通学路の交通量が多い場所には通称「ロリポップレディ」と呼ばれる交通安全指導員が配置されています。
今回はこのロリポップレディのお仕事と、通学路の安全、子育てとの関わりについて考察します。
授業を抜けて?送迎は必須!イギリスの習い事体験談【英国すくすくレポ】
ロリポップレディと呼ばれる由来は?
どうしてイギリスの交通安全指導員はロリポップレディ(男性の場合はロリポップマン)と呼ばれるのでしょうか?
その理由は、その業務中に手に持つ大きな丸いプラカードのような交通安全の標識がついた棒に由来します。遠くから見ると、大きな円とそこからのびる長い棒はまるでロリポップ(棒キャンディー)のようなのです。
ケンブリッジ辞書で調べると、
A woman who helps children to cross the road near a school by standing in the middle of the road and holding up a stick with a round sign on it that means that the traffic must stop.
(車に止まるよう書かれた棒つきの丸い標識を持って、道路の真ん中に立ち、学校の近くで子どもたちの横断を助ける女性)
と、書かれています。
ロリポップレディの制服は地域によって多少バリエーションがあるようですが、基本は蛍光イエローを基調とする上着にシルバーの反射材がついています。筆者が住むエリアのロリポップレディは、さらに赤の配色も施してあります。手に持つ標識も同じように赤と黄色でデザインされており、真ん中に黒でSTOPと通学路のマーク(子どもたちの歩くシルエット)が描かれています。遠くからでも目に留まりやすい配色とデザインなので、特に日照時間が短い冬の時期や天気の悪い日でも安全に仕事を遂行できるように工夫されています。
余談ですが、ロリポップ型の標識は、持ち手の棒の部分を引っ張って離し、二つ折りにして持ち運びやすくすることもできます。通勤時に持ち歩きやすかったり、車のトランクに入れやすいように工夫されているようです。
ちなみに、カタカナで「ロリポップレディ」と記載をしますが、実際の英語の発音はレディの部分がレィディに近いです。
どんなお仕事?
このロリポップレディ(マン)の役割に似たものとしては、日本の「緑のおばさん」やPTAの旗当番が当てはまるかもしれません。これらは、地域のボランティアという位置づけが多いようですが、イギリスのロリポップレディはボランティアではなくお給料が出るパートタイムのお仕事として募集されます。
勤務時間は登校時間(朝8時20分前後~8時55分前後)と下校時間(午後3時10分前後~3時40分前後)の1日2回で、月曜から金曜までの週5日勤務です。子ども達の登下校だけではなく、子どもを送り迎えする保護者の横断の安全も守ってくれるので、本当にありがたいです。
イギリスでこのお仕事をされている方については、年齢や背景など、さまざまいらっしゃると思いますが、筆者の住むエリアでの歴代ロリポップレディさん方は、この地域に住むお母さんが多いようです。イギリスは子どもが小学生のうちまで、親も一緒に登下校に付き添わなければならないルールがあります。そういった理由もあり、この仕事をする方は、すでにお子さんがセカンダリスクール以上に成長された方が多いようです。顔見知りの方だったり、連日挨拶したり会話をするうちに仲良くなることもあり、地域の連帯感が高まるきっかけにもなってくださっています。
毎日どんな天気のときも午前午後の2回、傘も差さずに屋外に立ち続けるので、決して楽ではない仕事です。しかし、横断するたびに笑顔で声かけをしてくださる姿勢に、すべてのロリポップレディさん方には頭が下がる思いです。
交通安全以外でも子育てに貢献してくれている
先ほども述べたように、このお仕事は決して楽な就業条件ではありません。道路の真ん中に立ち、車を止めるのは物理的にも危険と隣り合わせですし、暑い日も寒い日も、雨の日も風の日も、帽子と制服の上着(コートも兼ねる)だけで外に立ち続けて、登下校をする親子の安全を守ってくれるロリポップレディ。「この方々のおかげで、安心して学校へ行くことができるんだよ。前を通るときには、必ず笑顔で挨拶をしようね!/ありがとうって言おうね!」と声かけをするようにしているご家庭も多いようです。
挨拶をするって気持ちが良いね、感謝を表すってお互いに嬉しいねという情操教育にも繋がるように感じます。そこにいるのが当たり前ではなく、誰かの働きのおかげで回っている安全な生活があるということを、少しずつ実感していくきっかけにもなります。また、挨拶の習慣づけにもなりますね。
今までに何度か歴代のロリポップレディが仕事を辞めて、次の方が決まるまで間が空いた時期がありました。その間、生徒が交通事故に遭ってしまったことが1回、私自身もヒヤリとするできごとに遭遇したこともあり、ますますロリポップレディの活躍には「ありがとうございます!」を毎日伝えようと思いました。
学校の生徒さん・保護者のほとんどの方も、朝から笑顔で「Thank you! 」「Have a nice day!」「 See you later!」と感謝や挨拶の言葉をかけて渡っていくので、とても気持ちの良い空間となっています。クリスマスや学年末になると、チョコレートやちょっとしたプレゼントをロリポップレディに渡す家庭も多く、道の脇にプレゼントの山ができているのを見かけると、イギリスらしいなぁ!と思います。
イギリスの交通標識とイギリスならではの事故
ロリポップレディが立つ学校周辺には、いろいろな種類の交通標識が設置されています。その中でも頻繁に見かけるのが、赤い三角形に子どものシルエットの絵&Schoolと書かれた「スクールサイン」(学校が近くにある・通学路付近を示す)、Schoolの代わりにPatrolと書かれたものは、「注意!この先にロリポップレディが立っています。」という意味です。
他にも、かわいいブルーのカタツムリが描かれた「20 is plenty」、これは「20マイルで十分です」という訳になり、「ここではスピードを時速20マイルに落としてください」という意味になります。
他にも、速度測定器がついている黒い電光サインなどもあります。通過時のスピードを瞬時に測定し表示し、速度オーバーしていると「Slow Down」とメッセージが出るものや、赤い怒った顔マークが表示されるもの、逆にスピードを守って通過すると、緑のスマイルマークが表示されるものも。(子どもウケが良い道路標識です。)
このように、大人向けのデザインだけではなく、子どもたちの交通安全に対する認識や理解を高めてくれるデザインも採用されているのが良いなと感じます。
イギリスの交通量が多い道路では、悲しいことに野生リスが交通事故に巻き込まれている場面にもたびたび遭遇します。リスが車の前に飛び出して轢かれてしまうケースが多いのです。このように、道路に飛び出すと大変なことになるのを目の当たりにして、交通ルールを守ることの大切さを親子で痛感しています。
ロリポップレディや旗当番の方ように「地域の安全を守るお仕事」をしてくださっている方への感謝を忘れないこと、一人一人が交通ルールを守って安全な生活ができるように心がけることは、どこの国に住んでいても大切なこと。成長に合わせて、親子で折を見て話し合っていきたいですね。
■いしこがわ理恵さんのイギリス漫画レポートの記事はこちら↓↓↓