年齢にかかわらず英語やその他の言語を習得するのは簡単なことではないですよね。子どもに合った効果的な学習法や教材を駆使したり、スクールに通ったりと、さまざまな努力が必要なのが現実だと思います。
それでは、国際結婚等で家族の中で使用言語が2つ、またはそれ以上の環境にある場合、子どもたちは自然とバイリンガルやトライリンガルになりやすいものなのでしょうか?
イギリス在住で子育てをしている筆者が、その実態と奮闘レポートをお届けします。
バイリンガルって、自然になるもの?
子どもが生まれてから今まで何度もかけていただいた言葉に「国際結婚だし、自然と子どもはバイリンガルになるよね。」というものがあります。私も実際に子育てをするまでは「そういうものなのかな?」とあまり深くは考えていませんでした。ですが、実際に子育てをして痛感したのは、それは「ただの神話だった…!」ということ。
ぜんぜん!全く!自然とバイリンガルには育ちません(涙)
子どもがプリスクール(幼稚園)に入るまでは、母親である私と過ごす時間が多く、子ども達の主な言語は日本語でした。プレスクール入園前の長女は「日本語の方がよく分かる」と言っていたほどです。幸い、プリスクールの先生方が複数言語の育児に理解のある方々で、「英語はどちらにしろ自然と伸びてくるので、今は日本語を優先してあげてください。」とおっしゃってくださったこともあり、家庭内で日本語優先を続けました。
その後4歳で小学校に入学(イギリスの小学校は4歳の9月から始まります)。ジェットコースター並みのスピードで、娘達の日本語と英語の形勢は逆転…。数年前が嘘のように、姉妹間・夫がいるときの会話は、ほぼ英語になってしまいました。
学校にいる間は100%英語でインプットし、考え、アウトプットするわけなので、英語の語彙や表現は日々伸びていきます。その一方、日本語に触れる時間と言えば、母親である私と話す時間か、日本語を意図的に生活に取り入れる時間くらいしかなく、一日の中の90%が英語、10%が日本語という割合に。
意識して取り組まないと、日本語の語彙や表現が増えることはほとんどない環境というのが現実です。
そのため放課後や週末に家庭学習として取り組んだり、週末に日本語補習校に通っているご家庭も多いです。ただし、通常の家庭学習と同じく、子どものやる気を引き出すのが、とっても難しい!心がポキッと折れそうになります。
「しっくりくる・こない」が言語習得のコツ!
そんな英語優勢の生活の中で、我が家にはルールがあります。それは、「娘達と私の会話は日本語で」という一人一言語ルール。二人が幼いときは「お母さんは英語が話せない」というキャラ設定をし、「英語が分からないから日本語で言ってほしいな~!」と日本語でもう一度言い直してもらっていました。
そのうち子ども達も成長し、「あれ?お母さん、英語話してるじゃない?」と気づいたようですが、そのときにはすでに「お母さんが自分たちに英語を話す」というのが「しっくりこない」となっていました。
娘達が私に対して、つい英語で話しかけてしまうと…
この「しっくりこない」感覚のおかげで、筆者宅では「父には英語、母には日本語」を現在も続けることができています。今まで何度も「英語で話してしまえば楽だろうな」と思う場面はありましたし、これからも壁に何度もぶつかるでしょう。ですが、この一日一日の積み重ねが将来の大きな成果につながると信じて、可能な限り続けようと心に決めています。
話す相手によって、しっくりくる言語があるというのは、親子の関係に限ったことではありません。親子の会話以外にも、ゲームやアニメなどのキャラクターが話す言語は、「最初に見た(慣れた)言語がしっくりくる」と感じるようです。
日本語で最初に見たアニメを英語版で見ると「なんか違う…。日本語に戻してほしい。」と言う娘たち。逆に日本発のアニメであっても、最初に吹き替え版で見たのが先であれば、英語で見たがってしまいます。
そういうわけで、「この人と話すときは日本語」「このアニメ・番組を見るときは日本語」という、「日本語の方がしっくりくる機会を、先手必勝で提供すること」を心がけています。
最近ではNETFLIXなどのサービスの普及で、海外にいても日本語の番組にアクセスしやすくなりました。我が家ではNETFLIXの設定を変更して、言語選択に日本語がある場合は、日本語を優先するようにしています。
今回は、海外にいながら日本語をいかに維持するかというテーマで書いていますが、「日本語」の部分を「英語」に読み替えていただいて、おうち英語の学習に役立てていただくこともできるかと思います。
子どもが幼いうちは特に親の関わりが大きい
自然に任せておくと、どうしても現地の言葉(筆者宅の場合は英語)で遊ぶ娘たち。とはいえ、それが決して悪い事なのではなく、ただ一番使いやすい言語が英語だということを受け入れたうえで、「じゃあこの年齢の子どもにとって、どうすれば楽しく日本語を遊びの中に取り入れてくれるだろうか?」という視点で見渡すようにしています。
娘たちだけでバービー人形やボードゲームで遊ぶときは英語だけれど、「お母さんも一緒に遊びたいから、日本語でお願いできるかな?」とヘルプを求めるような言葉がけにしてみたり、日本の伝統的なおもちゃを取り入れてみたり、子どもたちが気に入ったアニメの原作漫画を一緒に読んで、日本の文字に触れる機会を増やしたり…毎日が試行錯誤です。
今は幸いにもまだ「ママと遊びたい」と言ってくれる年齢なので、家事や仕事の合間に子どもたちと遊ぶことは、娘たちにとっても特別で嬉しいことのようです。そのためだったら日本語を使う!頑張る!というモチベーションを持っているように感じます。
この先、ティーンエイジャーの年齢になってくれば状況はきっと変わってしまうけれど、それまではこの作戦で進めるつもりです。子ども達だけでは、どうしても英語オンリーになってしまうから、「親子で一緒に」が今は効果的のようです。
ちなみに、日本語維持に役立ったアイテムをいくつかご紹介すると…
ひらがな表、カタカナ表
ひらがな・カタカナ表は数種類用意し、家のあらゆるところに貼りました。市販のものはカタカナ表記が小さいものが多いので、知育プリントサイト等で、カタカナが大きく表になったものも併用しました。
ひらがなフラッシュカードやかるた
カード形式のものは、持ち運びもしやすく、今日は5枚頑張ろう!など目標が立てやすいので、空き時間などで学習がしやすかったです。かるたは、文字を覚えている途中では取り札を探すことがメインとなりますが、文字が読めるようになった頃から、読み札の方を子どもに担当してもらって、ゲームを仕切っている感を出しつつ、モチベーションアップにつなげています。
アプリやゲームの活用
あえて日本語を読まないと先に進めないようなゲームを利用しています。たとえば、「寝る」「トイレ」「お昼ご飯を作る」など、ひらがな・カタカナと漢字の一部さえ暗記して認識できるようになればプレイすることができるものは、あらかじめ出てくる単語をリストにして、ゲームとセットで覚えるようにしました。簡単なRPGゲームも便利です。
他にも、日本の昔懐かしい駄菓子屋で売っていたようなおもちゃ(紙風船や子ども銀行のお金)、けん玉や折り紙など、日本文化にも親しめるアイテムを里帰り毎に購入して持ち帰ったり、日本から送ってもらったりして、言語だけではなく、日本という国に愛着を持ってもらえるように工夫しています。
家庭によって、どこまでの日本語を目指すかは違うと思いますが、我が家は今のところ「日本語で問題なくコミュニケーションができる」「漢字はあまり書けなくても読むことはできる」が目標です。スマートフォンが普及している現在、漢字はいざとなれば文字入力のところで確認することができます。(どの漢字が正しいのかさえ認識できれば、乗り切れる!)また、自分で日本語を読むことができれば、大きくなってから読書を通して語彙を増やしたり知識を吸収することが可能です。
これは親のエゴなのか?
バイリンガル教育と言っても、会話も読み書きも不自由のないレベルを目指すのか、それともある程度の会話ができれば目標達成とするのか、そのゴール設定はご家庭によって違うでしょう。どこを目指すかによっても、学習時間や子どもと言語教育の取り組みに割く時間は変わってきますが、子どもの成長に伴って、反抗期があったり現地の学習を優先させなければいけなかったりと、悩みは尽きません。
長女は私と一対一で話す時間が多かったため、日本語を自由に使えることもあって、日本語での会話を面倒くさがることはほとんどありません。
一方、次女は小学校に上がったころから、長女と学校の休み時間も遊ぶようになり、その延長線で家庭での遊びも英語に変わってしまいました。その結果、日本語にどっぷり浸かっていた時間が長女に比べて少なく、日本語では何と言っていいか分からないときもあるようす。ときどき日本語で伝えるのを面倒くさがります。
学校であったできごとや、今感じている気持ちを思いっきり母親に伝えたいのに、日本語じゃないと聞いてもらえないとなると、きっとフラストレーションを感じることでしょう。そんなとき、この一人一言語のルールや日本語を話せるようになってほしいという目標は、ただの親のエゴなのではないだろうか?かわいそうなことをしているのではないか?と心が揺れることが正直あります。
けれど、「これが正解」という答えがないことだからこそ、親が子どものようすをみながら、一番ベストだと信じるゴールに向かって(時には方向転換も視野に入れつつ)家族で協力していくしかないと思うのです。
いけるところまで進むのみ!
おそらくこれは、言語習得だけに限らず、習い事や進学についても、似たようなことが言えるのではないでしょうか。各家庭で、これがこの子にとって最善だという道を信じて、進学先や教育方針、習い事を決めたりすることに似ています。
将来の可能性を広げるツールのひとつとして、また子ども自身のルーツに親近感を持ってもらう方法として、日本語を使った子育てを続けています。子どもたちがいつか「日本語をやっていて良かった」と思ってくれる日が来たら、そのときがきっと本当の目標達成なのかもしれません。そう思いながら今日も、イギリスの空の下で試行錯誤中の我が家です。
■いしこがわ理恵さんのイギリス漫画レポートの記事はこちら↓↓↓