国語力は「教科としての国語」の学力だけを意味するものではありません。読む・書く・読み取る能力はもちろん、考える・感じる・想像する能力も含まれます。国語力はすべての教科の基礎となる「総合的な学び力」。幼児の国語力を伸ばすトレーニング法をご紹介します。
国語力とは?
【国語力を構成する4つの力】
・論理的思考力(考える力)
論理的思考力とは「物事を筋道立てて考える、複雑な事柄も抽象化して分かりやすく考える・説明できる」能力のこと。「考える力」としても知られています。論理的思考力には分析力(経験・知識を生かして物事を分類、精査する)・論理構築力(かりやすい整理された文章が作れる、状況に応じた発言ができる)などが含まれます。
・感じる力
他者の気持ちを思いやり、立場を置き換えて考えられる、芸術・文学・自然などに感動することのできる感性を持っていること。「共感力」「情緒力」とも言えます。
・想像力
知識・経験を活かして、実際には経験していない、あるいは存在していない物事を「想像して」考えることのできる能力です。特徴・共通点などをまとめて抽象化して考えられる「抽象的思考力」もこれに含まれます。
・表現力
自分の考えを相手に分かりやすく言葉・文章で表現する能力(表情・動作も含む)です。
子どもの国語力が低下している
他者と会話することはコミュニケーション能力のトレーニングであり、論理的思考力・共感力・想像力・表現力を向上させます。特に幼児にたくさんの「言葉のシャワー」を浴びることは国語力の発達に大変有効です。しかし現代社会では、少子高齢化・核家族化・ソーシャルメディアの普及などによって家族間の会話量は減少傾向にあります。
かつては親・祖父母から自然と受けていた言語教育の量・質が低下したことが、国語力低下の大きな要因でしょう。家族間のコミュニケーションで自然と身につけていた「一般常識・礼儀」教育の欠如によって、共感力・情緒力が育たないことも国語力低下に拍車をかけています。
国語力はなぜ大切なのか
なぜ今、幼児への「国語力強化」が叫ばれているのでしょうか。主な理由な2つあります。
【国語力は地頭の良さに直結するため】
国語力は勉強・スポーツ・芸術・人間関係・社会生活すべてにおいて必要となる能力です。効率的に物事を考えて、最善の結果が出るように行動できる、そんなオールマイティな地頭の良さを目指すなら幼児期の国語力の養成が近道でしょう。
国語力を構成する「論理的思考力・感じる力・想像力・表現力」は、効率的に物事を処理したり、交渉・試合を自分に有利に運んだりといった場面には不可欠。成功者と呼ばれる多くの著名人・有識者・スポーツ選手は、国語力ないし国語力を構成する一部の力に長けています。
【国際社会を生き抜く力になるため】
国際化が進むなか、外国語教育の重要性はますます高まっています。今の子どもたちはパパママ世代よりも、国内外で外国人と交流する機会が増えているのです。外国人と親交を深め、対等な立場でつき合うには「通じる外国語」の習得が必須と言えるでしょう。このため以下のような高いレベルの国語力が必要になります。
・正しい日本語で自分の考えを論理的にまとめて、分かりやすく伝える(論理的思考力・表現力)
・日本語の豊富な語彙力
・日本語から外国語に変換する際の抽象的思考力
国語力はあらゆる勉強の基礎
国語の読解問題はもちろん、算数・理科・社会の文章問題を解く場合、論理的思考力と抽象的思考力を使って題意を読みとらなくてはなりません。たとえば以下の算数の文章問題を例に考えてみましょう。
【ルール】
ピンク・赤・黄色の3色の花を花壇に置きます。花壇は正方形が縦2列・横4列に並んだもの。一区画に一鉢ずつ置きます。
1.はじめはピンクを左上の区画に置きます。
2.ピンク・赤・黄色・ピンク・赤・黄色……の順番で置いていきます。置くときは必ず前の花の区画と隣り合う形です。
3.すべての区画に花を置きます。
【問題】
左上段にピンク・赤・黄色と置かれているときの、ほかの区画の色を答えなさい。
【答え】
上段一番右がピンク、下段一番右が赤。そこから左方向に黄色・ピンク・赤となります。
花がどんな花なのかはさておき、抽象的思考力を使い色のみのイメージで考えます。論理的思考力で「ピンク・赤・黄色の順番」「必ず前の花の区画と隣り合うように置く」という規則を守り、四角いマス目に置いていきましょう。そして答えは、抽象的思考と表現力を使って「具体的に分かりやすく」文章化しなくてはなりません。
つまりこの問題を解くためには「論理的思考力・想像力・表現力」の国語力が必要となります。
その他、理科・社会・数学・地理・世界史・日本史など、すべての教科の学習内容の理解には国語力が必須。学年が上がり学習内容が複雑化するほど、国語力は必要不可欠になります。受験・就職試験で勝つポイントは、語彙力・読み書き・計算能力・知識力プラス応用力があること。国語力があることで応用力もつきやすくなります。
「サピックスブックス きらめき算数脳 小学2・3年生」主婦と生活社
幼児期から国語力を伸ばす方法
3歳までに脳の発達の8割、6歳頃には9割が完成すると言われています。この時期の視覚・聴覚・触角・嗅覚・味覚への刺激と、愛情のこもった親の声掛け・スキンシップは健全な脳の発育に欠かせません。
言語能力・認知能力が目覚ましく成長する小学校入学前の0歳~6歳。親のさまざまな働きかけが語彙力・コミュニケーション能力、そして国語力の発達を促します。
読み聞かせ
幼児期の読み聞かせは、能力・才能を育てる「最高の知育」と言えるでしょう。読み聞かせには集中力・国語力を養う効果があります。また大好きなパパママが自分のために本を読んでくれることは、情緒安定をもたらし自己肯定感を育てるでしょう。
読み聞かせは0歳からはじめられます。ゆっくり言葉の響きを味わいながら、丁寧に読むのがコツ。日本語の発音・抑揚を覚え、語彙力がつきます。途中で遊び始めてしまう、ページ順番通りに読みたがらないなど、読み聞かせが中断してしまっても、あきらめず毎日続けることが大切です。幼児期の読み聞かせ量が多いと、読書習慣がつき「生涯の読書量」も多くなります。
最近の小学生には「長文が読めない(集中力がなく、筋道を追うことができない)」「音読ができない」「何より本が嫌い」のような、集中力・読解力・言語能力の低い子どもも少なくありません。テレビ・ゲーム・動画サイトなどの娯楽が読書、活字へ触れる機会を減らしている原因のひとつです。幼児期の読み聞かせで「本を読む楽しさ」「本から知識を得る喜び」を実感させてあげてください。
文章を書く習慣をつける
文章を書く習慣をつけるには、子どもが自発的に文章を書く環境作りが必要です。作文はまだ難しいので、短文を写すことからスタートしましょう。おすすめは運筆練習ができる2歳~3歳からはじめる、パパママを模倣しながら書く「1行交換日記」。子どもが気に入った日記帳で行うとより効果的です。
【方法】
1.パパママが、子どもに今日はどんな日だったかインタビューします。
2.それを聞いてパパママが今日の1日をすべてひらがなで箇条書きにしましょう。
(例)
・はれ
・なわとび たのしかった。
・いぬがかわいかった。
このなかから子どもに1文選んでもらい、それを真似して書かせます。パパママは書けたことを褒めたあと、返事をすべてひらがなで書き「日記を見せながら」音読しましょう。インタビューは論理的思考力・プレゼンテーション能力の良いトレーニングに。文字を模倣して書くことで運筆力・語彙力が高められます。
字を上手に書くことよりも、感情を言語化して「自分の考えを文章にする」行為に慣れることが大切です。
親子でたくさん会話しよう
幼児期は好奇心・探究心が旺盛です。「なぜ?どうして?」の質問ばかりで、パパママは答えるのが大変かもしれません。面倒でも「子どもの話をしっかり聞いて、その都度質問に答える」ことの繰り返しが国語力を育てます。また子どもが語彙を増やし、正しい文法を覚えるには「言葉を省略しないできちんとした文章で話す」ことが大切です。
質問や疑問があるということは、物事に興味を持ち分析し、経験・知識と比較してわからない点を見つけたということ。さらに質問をパパママにするなかで、自分の考えを整理して伝えることもできています。これだけでも十分な国語力のトレーニングです。
子どもから質問を受けたら、まずは共感・感心します。そして「なぜ疑問を感じたのか?」などパパママの方からも質問しましょう。一問一答で会話を終わらせるよりも、相槌・質問などを加えることで会話量が増えます。
また、子どもを叱る場合も、怒りをぶつけるのではなく「冷静に悪い点を指摘」することで、子どもに論理的に考える癖をつけると良いでしょう。
語彙を増やす
素晴らしいもの・優れているものを見て「ヤバい」、危険なもの・不快なものを見ても「ヤバい」。「すごい」「かわいい」「ヤバい」ばかりを多用する語彙の少なさは、若者だけに見られるわけでありません。30代、40代の大人でも語彙の少ない人は増えています。
語彙力と学力は密接な関係にあるもの。中学生以降も良い成績を取り続ける子の多くは、語彙力が高い傾向があります。語彙を増やすには、幼児期にできるだけ多くの言葉に触れることです。以下の点に気をつけて語彙力アップを目指しましょう。
・子どもが分からないかもしれない単語も、とりあえず使って会話する
わからない場合は、あとから情報を補足して意味を教えましょう。たとえば最初からわかりやすく「今日から雨ばかりの日が続くよ」と伝えるのではなく、「今日から梅雨入りしたよ」と話したあと、梅雨の明確な意味を教えてあげます。
・省略語・俗語・命令系の言い方は避ける
正しい日本語を覚える意味でも、感じる力を育てる意味でも省略語・俗語・命令系の「造語・短文」は幼児期には不適切です。
・親の話は短く簡潔に、子どもの話を聞く時間を長くとる
幼児の集中力持続時間は5分程度。叱る・説明するときは短く論理的に伝えます。また、子どもの話はゆっくりたくさん聞くように心がけましょう。脈絡のない話、脱線してしまう内容でもOK。話し続けることで語彙力・論理的思考力が育まれます。
子どもの「国語力」を決める親との関わり
国語力を高めるため、特別な家庭学習・幼児教室での指導は必ずしも必要ではありません。漢字を無理に覚える、小学生向けの国語読解問題を行うなど詰め込み勉強法は、国語に苦手意識を持つ原因になることも。国語力を伸ばすには、読み・書きの要素を楽しむことも重要です。
そのためには、日常生活のなかで子どもと言葉を交わす時間を積極的にとれば十分。「子どもに話しかけ、子どもの話をたくさん聞く」ことに加えて、読み聞かせ・言葉遊び(しりとり・回文作り・なぞなぞなど)・運筆練習を行うとさらに効果的です。