2019年7月22日 公開

バイリンガルを育てるカナダのイマージョン教育【翻訳家ママのバイリンガル教育 第7回】

バイリンガル教育で成果を上げているイマージョン教育。この教育方法の発祥の地は、フランス語と英語のバイリンガルが多く住む街、カナダ・モントリオールです。翻訳家ママのバイリンガル教育第7回では、モントリオール在住の筆者が、カナダ・ケベック州のイマージョン教育についてご紹介します。

イマージョン教育とは?

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イマージョン教育は、学校で行われるバイリンガル教育の方法の1つです。たとえば、日本で英語のイマージョン教育を受けるなら、日本語を母国語とする子どもたちが、授業の一部またはすべてを英語で受けるというもの。家庭で使う言葉と学校で使う言葉をわけることで、複数言語を身につけた人材を育成します。

日本語を母国語とする子どもが、英語圏で、英語がわからない状態で現地の子どもたちと一緒に授業を受けることは、イマージョン教育とはいいません。イマージョン教育では、ほぼすべての子どもたちが英語がわからない状態から、幼稚園や小学校の授業を英語で受けることになります。つまり、友だちとの会話は日本語です。

バイリンガル教育の有効な方法として、現在は世界各地で取り入れられているイマージョン教育は、カナダで生まれたものです。そこで、筆者が住むカナダ・モントリオールのイマージョン教育の実情をご紹介します。

カナダでイマージョン教育が誕生した理由

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カナダのイマージョン教育は、家庭で英語を話す子どもが、幼稚園や小学校の授業のすべてまたは一部をフランス語で受けるというものです。フランス語の授業を受けるだけではなく、フランス語で授業を受けます。このような教育方法が誕生したのには、モントリオールがあるケベック州の言語事情が関係しています。

ケベック州の公用語はフランス語ですが、学校教育はフランス語と英語で提供されています。公立の英語系の幼稚園、小学校、セカンダリー(日本の中学と高校を合わせたような学校。5年制)に通えるのは、親や親せきがカナダで英語の小学校やセカンダリーを卒業した場合のみと法律で決まっているのです(外国人は例外あり)。そのため、英語系の学校に集まる子どもたちのほとんどは、母語が英語です。ただ、ケベック州で英語しか話せないのは不便ですし、就職にも不利になる場合があります。

このような事情から、モントリオールに住む、英語が母語のイギリス系カナダ人の「子どもたちに生活のためのフランス語を身につけてほしい」という思いが専門家と教育機関を動かし、1965年にイマ―ジョン教育がはじまったのです。

(参考)『完全改訂版 バイリンガル教育の方法』(中島和子著/アルク)

ケベック州のイマージョン教育の種類

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ケベック州の公立学校で行われているイマージョン教育には、いくつかの種類があります。そのひとつである早期イマージョン教育は、キンダー(日本の幼稚園の年長)から小学校低学年の間は、ほぼすべての授業を第二言語であるフランス語で行い、学年が上がるにつれて英語の割合を増やしていくという教育方法です。この場合でも、低学年のうちのフランス語の割合が100%の学校もあれば、最初から少し英語で授業を行っている学校もあります。この他、キンダーから小学校卒業まで、完全にバイリンガル(英語50%、フランス語50%)で授業を行う学校もあります。

イマージョン教育の小学校に通うお子様の実例

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モントリオールのイマージョン教育の実情を知るために、早期フランス語イマージョンの小学校に3人のお子さまを通わせている日本人ママMさんに話を聞きました。

イマージョン教育の種類:早期フレンチイマージョン
キンダーから小学2年生までは、ほとんどの授業(全体の85%)がフランス語で行われます。小学3年生から6年生までは、以下のようにフランス語と英語で授業が行われます。
【フランス語で行われる授業】
・フランス語
・科学、テクノロジー
・社会
・倫理、宗教、文化

【英語で行われる授業】
・英語
・算数
・体育
・芸術
・音楽

毎日、教科ごとにフランス語と英語で授業が行われるのではなく、基本的に1日はフランス語、次の日は英語での授業とわけられています。

実際、英語とフランス語はどのくらい身についた?

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Mさんの長女と長男は小学1年生から、次女はキンダーからイマージョン教育を受けています。家庭での言語は日本語です。フランス語は、キンダーからイマージョン教育を受けている次女のほうが、上の2人よりも吸収が早かったそうです。ただ、友だちとの会話が英語なので、3人ともスピーキングでは圧倒的に英語のほうが伸びたとMさんは言います。

学校だけでフランス語を使っている子どもは、英語のほうが強く、フランス語での自然な会話は難しいという場合も。やはり、家庭でもフランス語を使っている、ならいごとなど学校以外の場所でもフランス語を使っているという子どものほうが、しっかりと生きたフランス語が身についているそうです。

イマ―ジョン教育で読解力がアップする?!

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とはいえ、フランス語の早期イマージョン教育を受けた子どもたちのフランス語のレベルは、聞く力と読む力は、フランス語だけで教育を受けた子どもたちとほぼ同じぐらいになります。話す力は、正確さに足りないところはあるものの、小学6年生ぐらいでネイティブ・スピーカーに近づきます。

イマージョン教育で心配されるのが母語の遅れです。例えば、フレンチイマージョンの学校に通うことで、母語である英語の発達が、英語だけで教育を受けているネイティブ・スピーカーより劣ってしまうのではないか?という心配です。

確かに、英語の授業がほぼない低学年の間に限っていえば、英語の読み書きの能力は英語のみで教育を受けている子どもよりも遅れてしまいます。しかし高学年になると、イマージョン教育を受けた子どもの読解力のほうが、英語だけで教育を受けた子どもよりも高かったという研究結果もあります。2つの言語を並行して使うことで、ベースとなる言語能力が磨かれるのかもしれません。

(参考)『完全改訂版 バイリンガル教育の方法』(中島和子著/アルク)

イマージョン教育の効果を高めるためには

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イマージョン教育の問題点は、Mさんが話していたように、授業以外の時間に英語だけで会話をしていると、フランス語で読み書きはできても、話す力が伸びないということです。また、イマージョン教育終了後にフランス語を使う機会がなければ、せっかく学んだフランス語を忘れてしまいます。

いくらイマージョン教育を行う学校であっても、学校に任せていればすべて安心というわけではありません。卒業後も含めて、学校以外の場でどれだけその言語を使う環境を整えられるかが重要です。

日本でイマージョン教育を受けるなら

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英語教育の重要性が高まる中、日本でもイマージョン教育を取り入れる学校が増えています。そうした学校を選び、小さいうちからお子さまの教育に英語のイマージョン教育を取り入れるというのは、バイリンガルの子どもを育てるための一つの有効な手段といえるでしょう。

ただ、イマージョン教育を行う学校への入学を検討されている方は、学校外での英語の取り組みや、卒業後に英語を継続する方法まで事前に考えておくことをおすすめします。

バイリンガル教育の選択肢として

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モントリオールのイマージョン教育は、その歴史の中で一定の効果をあげてきました。実際には、学校の場所や費用、その他の教育方針なども関係してくると思いますが、バイリンガル教育の一つの選択肢として認識しておくとよさそうですね。
この記事は執筆時点のものですので、最新情報は公式サイト等でご確認ください。

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LOA

WRITER

LOA LOA  カナダ在住のフリーライター。Web媒体で子育てや語学学習についての記事を多数執筆。8歳の息子が0歳のときからはじめた絵本の読み聞かせは、今では私たちの生活になくてはならないものになっています。これまでに息子と読んだ絵本や児童書は、日本語、英語、フランス語を合わせて数千冊。息子が笑顔になる絵本を見つけるのが喜びです。