2016年12月27日 公開

中村安希さんインタビュー『N女の研究』: 働き方や生き方、社会問題との関わり方まで、子どもの未来のためにできること

家事・育児の孤独化や結婚や育児で左右される女性の働き方など身近な問題から、貧困、雇用、震災、難民支援まで、さまざまな現代の社会問題に自分なりにどう向き合い、関わればいいのか、Chiik!読者にもぜひ参考にしてほしい、これからの女性の生き方や行動のヒントを『N女の研究』を上梓したノンフィクション作家の中村安希さんにお伺いしました。

特に3.11の東日本大震災後、浮き彫りになっているさまざまな社会問題があります。雇用や家族のありかたも多様化し、個別の課題に応じたきめ細やかな解決が求められる中で、従来の民間と行政だけでは対応できない社会問題への取り組みに必要性が叫ばれています。

そんな中、大企業のバリキャリ路線を離れ、給料が半分になっても、NPO法人などの社会貢献事業で働く女性が現れ始めています。彼女たちがなぜその道を選んだのか、背景や目的、業界事情を取材し、現代の職業選びや働き方を見つめ直し、社会実情までを考察した『N女の研究』(フィルムアート社)を上梓した中村安希さんにインタビューしました。

中村安希さんは、2009年のデビュー作『インパラの朝』(集英社)が、開高健ノンフィクション賞を受賞。世界各地を取材し、訪れた国は約90カ国、現在は香港在住。著作に『Beフラット』(亜紀書房)、『食べる。』『愛と憎しみの豚』(共に集英社)『リオとタケル』(集英社インターナショナル)があります。
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バリキャリでも専業主婦でもない道で働く女性たち

——どうしてNPOで働く女性を取材しようと思ったのですか?

中村さん:3年前頃から、周囲の友人で、非営利業界へ転職する女性が目立つことに気づきました。外資系IT企業を渡り歩いていたのに、東北の復興支援を手がける非営利団体への転職を30代半ばで決めた友人の存在がきっかけです。給料は半分以下、でも勤務地は六本木ヒルズと聞いて、今までになかったタイプの働き方が出現していると感じました。

非営利団体というと、各々が手弁当で運営する市民運動のイメージでしたが、最近は収支報告書も整い、運営がしっかりした団体もあります。新卒で就職する人もいるほどです。

有力企業に入社できたらそのまま勤め続けるか、結婚・出産を機に辞めて主婦になるかの選択肢しかなかった時代から、社会貢献などのやりがいのある付加価値を求めて非営利団体で働いている女性に興味を持ち、これからの生き方や姿勢に学ぶべきヒントが見つかるのではないかと思いました。

出産・育児…女性のライフイベントにあわせた柔軟な働き方

——子育てと仕事の両立に悩み、働き方や生き方に悩みを抱える人も多いですが、どのような選択肢があるのでしょうか。

中村さん:復職後、育児との両立の大変さに退職し、病児保育のNPO法人で「週3日の通勤と、在宅で働けて本当に良かった。理想の働き方です」という方が印象的でした。

バリキャリのスーパーママだけがクローズアップされると、自分は真似できないと思ってしまいます。

難民支援のNPO法人を辞め「難民の人生も大事だけど、自分の道も大事」だと、違う道をポジティブに探した方の言葉も救いになりました。「自分の道を犠牲にして人のためにだけ頑張っている」という方ばかりでは、まわりの人も「幸せになっちゃいけないのかな」と思いがち。「あの人は社会貢献のために頑張っているのに、私は何をしているのだろう」とか、「私はその間楽しい思いしちゃって申し訳なかったな」などと思ってしまい、プレッシャーをかけあう社会になってしまいますよね。

問題を自己犠牲や不満で終わらせない

——「目の前の課題を自己犠牲で解決しない」という姿勢は素晴らしいですね。家事・育児や仕事の役割分担でも参考になりそうです。

中村さん:子育ても仕事も、自己犠牲を礼賛する日本独特の風潮がありますよね。まずは残業「自慢」を辞めることが重要です。取材した女性たちは「つらい、大変だ」という、愚痴を言いませんでした。置かれている状況をきついと騒がず、冷静かつ前向きに「解決する方法を一緒に探しましょう」という姿勢です。

理不尽さや課題をひとりで抱え込まずに、辛さだけを訴えない強さは、私も見習いたいなと思いました。

問題を人々に伝わる言葉に置き換え、社会を変える具体的な行動に

——個人の問題も社会化し、自分とは立場の違う人たちのためにも利害を超えて一緒に戦っている、どうしたらどんなことができるのでしょうか。

中村さん:長時間労働の残業の辛さや育児の孤独感も、その苦しさや不満を訴えるだけでは、他の人に対する圧力になる時があります。「自分はコレだけやっているけれど、あなたは何をやっているの?」というプレッシャーに変わることも。

忙しい「自慢」をせざるをえない社会ではなく、忙しさに苦しんでいる人がいたら、「その環境最悪だね、早くなんとかした方がいいよ」と改善する方向にエネルギーを使うべきだと思います。

取材した女性たちは、個人が直面している問題も人々に伝わる言葉に置き換え、社会を変えるような行動にしています。きれいごとは言わず、具体的な解決方法を示してくれているので、それだったら自分も真似できそうだなと思えますよ。

人は自分とは違うという事実を受け止めること

——他の人に自分と同じ頑張りを期待しない、異なる生き方を受け入れあう「比較をしない姿勢」も学ぶべきところがありそうですね。

中村さん:日本は画一化された、単一的な価値観を押し付けられている気がします。5年半ほど住んでいたアメリカでは、自分と人をあまり比べる習慣がなかったですが、「人はみんな違うもの、差があるのも当たり前」と社会の根本から自覚できれば、比較なんてしなくなります。比較するのは、一番無駄なエネルギーの使い方だと思いますよ。

人口も減っている中、そんなことに力を使っている場合じゃない。自分は自分だと思って、自分と違う生き方をしている人は陰で見守りながら、でも分裂しないで、利害を超えて一緒に戦っていくしかないと思いますよ。

——ありがとうございました。
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最後に

育児や働き方をめぐる壁、貧困から待機児童などさまざまな社会問題がある中で、「自分の大変さをわかってもらえない」という不満や孤独感の矛先を夫や同じ女性など周囲に向けるだけではなく、これからの未来を生きる子どもたちのためにも、問題を「じぶんごと」化して、具体的な行動を通して解決に向かっている等身大の女性たちの姿勢には、学ぶことが多いのではないでしょうか。もっと知りたくなった方はぜひ『N女の研究』を最後まで読んでみてくださいね。
この記事は執筆時点のものですので、最新情報は公式サイト等でご確認ください。

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WRITER

志田実恵 志田実恵  エディター/ライター。札幌出身。北海道教育大学卒業(美術工芸)。中高の美術教員免許所持。出版社でモバイル雑誌の編集を経て、様々な媒体で執筆活動後、2007年スペイン留学、2008〜2012年メキシコで旅行情報と日本文化を紹介する雑誌で編集長。帰国後はガイドブック等。2014年6月に娘を出産。現在は東京で子育てしながらバスクなど世界の料理本の編集のほか、webを中心に活動中です。